最終章 ~未来へ向かって~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
警視庁のヘリに乗り、やや遅れて現地入りした降谷は瓦礫の山と化した研究施設で二人の捜索に参加していた。
爆発で生じた火災は海風にあおられて勢いを増し、鎮火する気配は無い。
(どこかへ脱出していれば良いが……)
建物崩壊前に脱出していれば問題ない。しかし、想定外の連鎖崩落。先ほどから何度スマホに連絡しても、電源が入っていないとアナウンスが流れるだけ。降谷のこめかみから嫌な汗が流れる。
(頼む。生きていてくれ!)
祈るような気持ちで、降谷は二人の名を叫び続けた。
ガオォォン!
「⁉︎」
かすかに聞こえた銃声。その音は紛れもなく瓦礫の下から聞こえた。
「確かに銃声が聞こえた。この近くにいる!」
降谷は周辺に散っていた救助隊を呼びよせ、銃声が聞こえた周辺をくまなく探した。そうしている間にも火の手がどんどん近づいてくる。
「赤井ーッ! 広瀬ーッ! どこだーッ!」
手作業で瓦礫を動かしながら降谷は叫んだ。
「ここ…だ! 降、谷……くん」
やや苦しげな赤井の声が、瓦礫の隙間から聞こえた。
「ここか!」
降谷は救助隊たちと、立ち塞がる瓦礫を次々と撤去する。
ガラガラガラ……
救助用の工具を使い、大きなコンクリート片を取り除くと周囲の瓦礫が大きく崩れた。その先は空洞になっている。懐中電灯を手にして中を覗き込んだ。
「赤井ッ! 広瀬ッ!」
そこには崩れた瓦礫に寄りかかって、ぐったりとしている赤井とりおがいた。
狭い空間に一気に酸素が流れ込み、赤井の体がビクリと揺れる。
「はっ! はぁ、はぁ、はぁ……」
呼吸が楽になって足りない酸素を取り込んだ。
「赤井ッ! 大丈夫か?」
降谷の問いかけにはしばらく間があったものの、赤井はゆっくりと体を起こす。
「あ、ああ……大丈夫…だ…」
少しずつ頭がクリアになり、赤井は隣にいるりおに声をかけた。
「りお、りお……」
何度か声を掛け体をゆする。しかし、りおは反応しない。
赤井は慌ててりおの首元に指を当てた。なにも感じない。まさかと思いながら胸に耳をつけた。
「ッ!?」
どんなに耳をそばだてても、聞こえるはずの鼓動が聞こえない。呼吸も止まっている。
「りお! おいっ!」
血相を変えた赤井が体勢を変え、左手一本で心臓マッサージを始めた。マッサージの振動が痛めた右肩に響く。が、赤井はかまわず続けた。
三十回の心臓マッサージ後、りおの口に自身の口を密着させて息を吹き込む。
長く二回吹き込んで、さらにマッサージを続けた。
「りおっ! 頼む! 目を開けろ! 開けてくれッ!」
赤井の只事ではない様子に、降谷は息を飲んだ。りおの命の灯が消えようとしている。それだけは理解できた。
(ウソ…だろ……広…瀬…)
言葉を失い、赤井の心臓マッサージをただ見つめる。
「死ぬな! りお、死ぬんじゃないぞ! 二人で生きてここを出ると約束しただろう? 俺は約束を守ったぞ! だからお前も生きろ!」
赤井の汗が心臓マッサージのたびに飛び散る。瓦礫の外では救助隊の「AEDを持ってこい!」「担架もだ!」という、慌ただしい声が飛び交っていた。
「…………ッ」
「りお!?」
何度目かのマッサージの時、りおの表情がわずかに変わった。赤井はマッサージをやめ、りおの口元に耳を近づける。
は……は……、という弱い息づかいが聞こえた。
「りお! 俺が……俺が分かるか?」
顔を寄せ、声を詰まらせた赤井が問いかける。
やがて固く閉じられていたまぶたがゆっくり開くと、アンバーの瞳に赤井の顔が映り込んだ。
「しゅ……ち……さ…」
ひどく掠れた声で、りおは赤井を呼んだ。赤井は「俺はここにいるよ」と涙ながらに答える。
二人の様子を見守っていた降谷をはじめ、救助隊員たちが歓声を上げた。
「二人とも動けそうか?」
りおの呼吸が落ち着いたのを見計らい、降谷が問いかけた。
「俺はなんとか動けそうだが、りおはまだムリだ」
わずかに受け答えは出来るが、意識レベルはまだ低い。ケガの状況も鑑みれば、自力での脱出は不可能だろう。
「分かった。広瀬の救出は救助隊に任せる。お前は自力で出られるか?」
「俺も右肩を負傷しててね。まあ、やってみよう」
赤井は左腕一本でりおを抱き寄せ、少しずつ脱出口向かって体をずらす。降谷たちはその間にも瓦礫を動かし、脱出口を広くした。
光がさすところまで移動すると、赤井はりおの額にキスを落とす。
「俺がここに残っていると救助隊員が入れない。先に出て待ってるよ」
まだ朦朧としているりおに声をかけ、赤井はわずかな脱出口から外へと這い出る。右腕が固定されているためうまく出られず、降谷が手を伸ばして引っ張り上げ、なんとか外へ這い出ることが出来た。
それと入れ違いに救助隊が中に入る。
災害救助用のストレッチャーに載せられたりおが無事に救助されたのは、赤井が瓦礫を出てから10分後。
二人はすぐさまヘリに乗せられ、警察病院へと搬送された。
二人を乗せたヘリを見送った降谷の元に、風見が駆け寄る。
「降谷さん!」
「風見! 君も島に着いてたんだな。早朝からご苦労だった。赤井と広瀬は今、病院に向かったところだ。それで? 島谷教授の身柄は確保できたか?」
降谷はやや安堵の表情を浮かべ、風見に問いかける。一方の風見は浮かない顔をしていた。
「は、はい。身柄の確保は出来たのですが……その…見て頂いた方が早いと思います。こちらに来ていただけますか?」
言葉を濁す風見の様子に降谷は眉根をよせる。
「一体どうしたというんだ?」
怪訝そうな顔をして、降谷は風見の後をついていった。
崩落現場から少し場所を移すと、数台のヘリの近くでは、手錠をはめられた護衛たちの姿が見えた。いくら雇い主を守るのが仕事とはいえ、日本国内で銃やナイフを所持すれば罪になる。彼らは銃刀法違反で現行犯逮捕された。
彼らを本島へと輸送するため、公安警察官が指揮をとり、男たちをヘリに乗せる作業がすでに始まっている。
しかし、そのすぐそばで誰かのわめき声が聞こえた。
「暴れているのは…島谷教授か?」
降谷が風見に問いかけた。
「は、はい。ただ……暴れているというか、支離滅裂なことを叫んでいます。こちらの問いかけにも答えず、会話が成立しません」
「なに?」
風見の報告を受けて、降谷は足早に声のする方へと向かう。
取り巻く警察官の人垣をかき分け、人の輪の中心に入ると、そこには地面に座り込んで笑ったり泣いたり叫んだりしている島谷の姿があった。
「見ての通りです。心血を注いで研究していたウィルスがこのような形で焼失してしまい、おそらく気が触れてしまったのではないかと……」
風見は表情を曇らせる。
パジャマ姿のまま、憔悴した顔で意味不明なことを口走る島谷の姿は、誰の目から見ても正常ではない。
「わかった。検察に連絡して精神鑑定を依頼しろ」
「はッ!」
降谷の命令を受け、風見はスマホを取り出す。その間に、降谷は別の者に島谷の連行を促した。
「鑑定をしなければ何とも言えないが、島谷の事情聴取は難しいかもしれない。しかし、組織に命を狙われる可能性は十分ある。移送の際は注意しろ」
「「「はッ!」」」
数人の警察官に体を支えられた島谷は、引きずられるようにヘリへと乗せられた。
バラバラバラバラ——
土煙を上げ、ヘリはゆっくり上昇する。機体を旋回すると本土へと向け、飛び去っていった。
護衛として追随するヘリも上昇し、島谷を乗せたヘリを追う。遠ざかる二つの点を、降谷は海風に髪をなびかせながら、ただ見つめていた。そして、大きく息を吐くと空に向かって笑顔を見せる。
「とりあえず……終わったな」