最終章 ~未来へ向かって~
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その頃、研究施設の瓦礫の下——
「りお! りお! しっかりしろ! おい!」
赤井が懸命にりおに声をかけていた。
「…ぅ……ッ」
肩を揺り動かされたりおが目を開ける。
「気がついたか……」
安堵した声で赤井がつぶやいた。
「私たち……生きて…る?」
りおは体をわずかに動かし、小さなペンライトに照らされた周囲を見回した。二人は住居スペースの崩落に巻き込まれ、コンクリート片の下にいた。
幸いにも先に崩落していた大きな鉄筋コンクリートの柱が支(つか)えになって、わずかなすき間が出来た為、二人は下敷きにならずに済んだ。
「コイツがまともに落ちていたら、命は無かったな」
赤井は頭上のコンクリートの塊を見上げ、ニヤリと笑う。
「相変わらず強運よね、私たち」
りおもつられて笑った。
すき間といっても、上半身を上げる程度しか高さがない。しかもかなりの大きさの瓦礫があるため、自力での脱出は不可能だ。
「間もなく公安も島に上陸するだろう。ここで救助を待つしかないな」
周囲の確認を済ませていた赤井は、まるで迎えの車でも待つかのように瓦礫に背中を預け脱力する。
「ッ!」
その瞬間、わずかに表情が歪んだことをりおは見逃さなかった。
「秀一さん、どこかケガしているでしょ? 見せて」
「いや、たいしたことは……」
「たいしたことが無いなら見せられるでしょ?」
「……ッ」
りおの鋭いツッコミに何も言い返せない。
赤井は仕方なく「右肩が……」とだけつぶやいた。
「右肩? ちょっと触るよ」
限られたスペースでりおは体をずらし、赤井の右肩に触れる。
「ぅッ!」
激痛が走ったのか、赤井の表情が歪んだ。
「秀一さん、右肩……脱臼しかけているわ。幸い完全に脱臼しているわけではないから、このまま固定出来れば良いんだけど……」
りおは背負ってきたリュックを手に取り、中から防水用に持っていたポリ袋を取り出す。それを小型のナイフで器用に切り広げた。
「三角巾があれば良いんだけど、都合よく持って来てないし……これで固定するわ。腕を90°に曲げて体にぴったりつけて」
りおは手際よく赤井の右腕を袋で覆い、腕を釣る形で固定すると首の後ろに袋のはしを掛けて縛った。
「これで良いわ。出来るだけ動かさないでね」
余った袋の端をうまく処理をして、りおは満足げに微笑んだ。
「お前は大丈夫か? ケガ、してないか?」
応急処置を終えると、今度は赤井がりおに声をかける。
「私? 私は大丈夫よ。左足がちょっと痛いけど……」
りおはそう言いながら違和感がある左足を見た。ライトの光が届かないため、腰から下は良く見えない。
「どれ、俺に見せてみろ」
赤井が左手でペンライトを持つと、りおの左足を照らす。
「お、おい…おま…え…」
ケガの状態を見た赤井が息を飲む。
光に照らされたりおの左ももには、細い鉄の棒が突き刺さっていた。
「何が大丈夫だ! かなり深く刺さっているじゃないか!」
固定された右手にライトを持ち替え、自由になった左手でりおの左ももに触れる。
鉄の棒が刺さった部分からかなり出血をしていた。
「あ……こんなことになってたんだ…。でも不思議…そんなに痛くないの……」
りおはまるで他人事のように自分の足を見ている。まだ気を張っているせいか、本当に痛みを感じていないようだった。
「これだけ出血していた痛みを感じないのはアドレナリンが出ているせいだろう。応急処置をするには鉄の棒が邪魔だが、かといって引き抜いてしまえばさらに出血してしまう。今はこのままにして、傷のすぐ上を何かで縛ろう」
そう言って赤井がリュックをあさると、中からバンダナが一枚出てきた。
「ああ、それ。一枚あると何かと便利だからいつも入れてあるの。さすがに腕を釣れるほど大きくはないから、秀一さんには使えなかったけど」
「お前の止血にはちょうどいいだろう。俺は右手が使えないから自分で出来るか?」
赤井が問いかけると、りおは静かにうなずきバンダナを広げた。傷の少し上をきつめに縛り止血処理を施す。
「これで救助を待つしかないな」
「そう…ね…」
今出来ることはやった。二人は並んで瓦礫に背を預けた。
ライトを消せば真っ暗な世界。建物崩落からいったいどれだけの時間が過ぎたのか、それすらも見当がつかない。
「見つけてもらえるかしら?」
りおは空を見つめたまま、右手で隣にいる赤井の左手を握った。
「大丈夫だ。お前の仲間が必ず探し出してくれる」
赤井はそう言ってりおの手を握り返す。
「ふふふ……そうね」
赤井の体温を感じてりおは笑った。
そうしている間にも、りおの左足からは出血が続いていた。
「なあ、りお……」
自分より体温の低いりおの手を握りながら、赤井が声をかけた。
「ん……? なあに?」
名を呼ばれ、りおは赤井の顔を見上げる。
「生きてここから脱出できたら……俺はお前に、一つ提案があるんだが……」
いつになく真面目な顔で、赤井はりおの顔を見た。
「生きてここからって……そんな死亡フラグ立つ言い方やめてよ……」
りおは半分呆れたように、そして半分悲しそうに言うと、赤井の左肩に寄りかかる。
「ああ、すまない。もちろん、ここで死ぬつもりはない。ただ俺にとってこの提案は一大決心なんだ。その決心が揺るがないように逃げ道を塞いだだけだよ」
「逃げ……道?」
赤井の一大決心とは何だろう。りおは首をひねる。
「ああ。そうしないとまた、ズルズルと後回しにしてしまうだろうからな」
口元に笑みを浮かべ、赤井は優しい目をりおに向けた。
「うん? 一代決心の、提案ね? 了解……帰ったら……聞かせて…ね」
やや目がうつろになったりおが、ゆっくりと数回うなずく。
「俺もお前も生きてここから出るんだ。二人一緒に、な」
いつもより冷たいりおの手を赤井は強く握る。少しだけ自分の体を動かして、もたれかかるりおの額にキスを一つ落とした。視線を動かしりおの左足を見る。
止血のために巻かれたバンダナは、血で真っ赤に染まっていた。
「う……ん……生き、て…帰ら…な、きゃ…」
薄っすらと微笑んだりおの呼吸は浅い。顔は蒼白で意識レベルが下がり始めていた。出血が主な原因だがそれだけではない。
(クソッ! 研究スペースの火災、まだ鎮火していないのか……)
周辺から煙の臭いが立ち込める。二人がいるスペースは瓦礫で密閉状態に等しい。爆発で生じた炎が近づくにつれて、空気がどんどん奪われていた。
赤井も息苦しさを感じ、体をかがめる。
(このままでは……二人とも…窒息死だ…)
何とかしなければ……しかしどうやって?
赤井は焦りの色を濃くする。
二人ともケガで動けない。上に覆いかぶさる瓦礫は、ゆうに数トンを超える。今の自分たちでは自力で脱出することなど不可能だ。
(考えろ! まだ諦めるな!)
酸欠で散漫になる思考を、赤井はフル稼働させた。
(脱出できるほど大きくなくても、酸素を確保するための空気口さえ開けられれば……)
ライトをかざし、僅かなスペースをくまなく観察する。僅かでもいい。隙間さえあればそこをこじ開けて——
しかし赤井の思惑とは裏腹に、事態は刻一刻と悪化していく。
呼吸が苦しい
目が霞む
ペンライトのわずかな光の中でぐったりしているりおの姿も、瓦礫の山もゆらゆらと揺れる。頭を振って意識を保とうとするが焦点が定まらず、まぶたが重い。
(このまま……ここで…死ぬ…わけ、には……)
朦朧とする意識の中で赤井は脱出の糸口を懸命に探した。
その時——
かすかに聞こえた物音を赤井は聞き逃さなかった。
『おーい!』
『誰かいるかー!』
『広瀬——ッ』
『赤井——ッ』
『いたら返事してくれ——!』
降谷と救助隊の声が聞こえる。彼らは自分たちを探しているようだ。
(降谷くんの、声……しかし、大声を出す……余力は、ない……一か八か……)
赤井はジャケットのポケットに左手を入れ、小型拳銃を取り出す。
足元にある瓦礫の隙間に銃口を向け、引き金を引いた。
「りお! りお! しっかりしろ! おい!」
赤井が懸命にりおに声をかけていた。
「…ぅ……ッ」
肩を揺り動かされたりおが目を開ける。
「気がついたか……」
安堵した声で赤井がつぶやいた。
「私たち……生きて…る?」
りおは体をわずかに動かし、小さなペンライトに照らされた周囲を見回した。二人は住居スペースの崩落に巻き込まれ、コンクリート片の下にいた。
幸いにも先に崩落していた大きな鉄筋コンクリートの柱が支(つか)えになって、わずかなすき間が出来た為、二人は下敷きにならずに済んだ。
「コイツがまともに落ちていたら、命は無かったな」
赤井は頭上のコンクリートの塊を見上げ、ニヤリと笑う。
「相変わらず強運よね、私たち」
りおもつられて笑った。
すき間といっても、上半身を上げる程度しか高さがない。しかもかなりの大きさの瓦礫があるため、自力での脱出は不可能だ。
「間もなく公安も島に上陸するだろう。ここで救助を待つしかないな」
周囲の確認を済ませていた赤井は、まるで迎えの車でも待つかのように瓦礫に背中を預け脱力する。
「ッ!」
その瞬間、わずかに表情が歪んだことをりおは見逃さなかった。
「秀一さん、どこかケガしているでしょ? 見せて」
「いや、たいしたことは……」
「たいしたことが無いなら見せられるでしょ?」
「……ッ」
りおの鋭いツッコミに何も言い返せない。
赤井は仕方なく「右肩が……」とだけつぶやいた。
「右肩? ちょっと触るよ」
限られたスペースでりおは体をずらし、赤井の右肩に触れる。
「ぅッ!」
激痛が走ったのか、赤井の表情が歪んだ。
「秀一さん、右肩……脱臼しかけているわ。幸い完全に脱臼しているわけではないから、このまま固定出来れば良いんだけど……」
りおは背負ってきたリュックを手に取り、中から防水用に持っていたポリ袋を取り出す。それを小型のナイフで器用に切り広げた。
「三角巾があれば良いんだけど、都合よく持って来てないし……これで固定するわ。腕を90°に曲げて体にぴったりつけて」
りおは手際よく赤井の右腕を袋で覆い、腕を釣る形で固定すると首の後ろに袋のはしを掛けて縛った。
「これで良いわ。出来るだけ動かさないでね」
余った袋の端をうまく処理をして、りおは満足げに微笑んだ。
「お前は大丈夫か? ケガ、してないか?」
応急処置を終えると、今度は赤井がりおに声をかける。
「私? 私は大丈夫よ。左足がちょっと痛いけど……」
りおはそう言いながら違和感がある左足を見た。ライトの光が届かないため、腰から下は良く見えない。
「どれ、俺に見せてみろ」
赤井が左手でペンライトを持つと、りおの左足を照らす。
「お、おい…おま…え…」
ケガの状態を見た赤井が息を飲む。
光に照らされたりおの左ももには、細い鉄の棒が突き刺さっていた。
「何が大丈夫だ! かなり深く刺さっているじゃないか!」
固定された右手にライトを持ち替え、自由になった左手でりおの左ももに触れる。
鉄の棒が刺さった部分からかなり出血をしていた。
「あ……こんなことになってたんだ…。でも不思議…そんなに痛くないの……」
りおはまるで他人事のように自分の足を見ている。まだ気を張っているせいか、本当に痛みを感じていないようだった。
「これだけ出血していた痛みを感じないのはアドレナリンが出ているせいだろう。応急処置をするには鉄の棒が邪魔だが、かといって引き抜いてしまえばさらに出血してしまう。今はこのままにして、傷のすぐ上を何かで縛ろう」
そう言って赤井がリュックをあさると、中からバンダナが一枚出てきた。
「ああ、それ。一枚あると何かと便利だからいつも入れてあるの。さすがに腕を釣れるほど大きくはないから、秀一さんには使えなかったけど」
「お前の止血にはちょうどいいだろう。俺は右手が使えないから自分で出来るか?」
赤井が問いかけると、りおは静かにうなずきバンダナを広げた。傷の少し上をきつめに縛り止血処理を施す。
「これで救助を待つしかないな」
「そう…ね…」
今出来ることはやった。二人は並んで瓦礫に背を預けた。
ライトを消せば真っ暗な世界。建物崩落からいったいどれだけの時間が過ぎたのか、それすらも見当がつかない。
「見つけてもらえるかしら?」
りおは空を見つめたまま、右手で隣にいる赤井の左手を握った。
「大丈夫だ。お前の仲間が必ず探し出してくれる」
赤井はそう言ってりおの手を握り返す。
「ふふふ……そうね」
赤井の体温を感じてりおは笑った。
そうしている間にも、りおの左足からは出血が続いていた。
「なあ、りお……」
自分より体温の低いりおの手を握りながら、赤井が声をかけた。
「ん……? なあに?」
名を呼ばれ、りおは赤井の顔を見上げる。
「生きてここから脱出できたら……俺はお前に、一つ提案があるんだが……」
いつになく真面目な顔で、赤井はりおの顔を見た。
「生きてここからって……そんな死亡フラグ立つ言い方やめてよ……」
りおは半分呆れたように、そして半分悲しそうに言うと、赤井の左肩に寄りかかる。
「ああ、すまない。もちろん、ここで死ぬつもりはない。ただ俺にとってこの提案は一大決心なんだ。その決心が揺るがないように逃げ道を塞いだだけだよ」
「逃げ……道?」
赤井の一大決心とは何だろう。りおは首をひねる。
「ああ。そうしないとまた、ズルズルと後回しにしてしまうだろうからな」
口元に笑みを浮かべ、赤井は優しい目をりおに向けた。
「うん? 一代決心の、提案ね? 了解……帰ったら……聞かせて…ね」
やや目がうつろになったりおが、ゆっくりと数回うなずく。
「俺もお前も生きてここから出るんだ。二人一緒に、な」
いつもより冷たいりおの手を赤井は強く握る。少しだけ自分の体を動かして、もたれかかるりおの額にキスを一つ落とした。視線を動かしりおの左足を見る。
止血のために巻かれたバンダナは、血で真っ赤に染まっていた。
「う……ん……生き、て…帰ら…な、きゃ…」
薄っすらと微笑んだりおの呼吸は浅い。顔は蒼白で意識レベルが下がり始めていた。出血が主な原因だがそれだけではない。
(クソッ! 研究スペースの火災、まだ鎮火していないのか……)
周辺から煙の臭いが立ち込める。二人がいるスペースは瓦礫で密閉状態に等しい。爆発で生じた炎が近づくにつれて、空気がどんどん奪われていた。
赤井も息苦しさを感じ、体をかがめる。
(このままでは……二人とも…窒息死だ…)
何とかしなければ……しかしどうやって?
赤井は焦りの色を濃くする。
二人ともケガで動けない。上に覆いかぶさる瓦礫は、ゆうに数トンを超える。今の自分たちでは自力で脱出することなど不可能だ。
(考えろ! まだ諦めるな!)
酸欠で散漫になる思考を、赤井はフル稼働させた。
(脱出できるほど大きくなくても、酸素を確保するための空気口さえ開けられれば……)
ライトをかざし、僅かなスペースをくまなく観察する。僅かでもいい。隙間さえあればそこをこじ開けて——
しかし赤井の思惑とは裏腹に、事態は刻一刻と悪化していく。
呼吸が苦しい
目が霞む
ペンライトのわずかな光の中でぐったりしているりおの姿も、瓦礫の山もゆらゆらと揺れる。頭を振って意識を保とうとするが焦点が定まらず、まぶたが重い。
(このまま……ここで…死ぬ…わけ、には……)
朦朧とする意識の中で赤井は脱出の糸口を懸命に探した。
その時——
かすかに聞こえた物音を赤井は聞き逃さなかった。
『おーい!』
『誰かいるかー!』
『広瀬——ッ』
『赤井——ッ』
『いたら返事してくれ——!』
降谷と救助隊の声が聞こえる。彼らは自分たちを探しているようだ。
(降谷くんの、声……しかし、大声を出す……余力は、ない……一か八か……)
赤井はジャケットのポケットに左手を入れ、小型拳銃を取り出す。
足元にある瓦礫の隙間に銃口を向け、引き金を引いた。