最終章 ~未来へ向かって~
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暗い研究スペースの廊下を進み、ペンライトを照らしながら部屋を確認していく。
「あったぞ。ここだ」
赤井が照らす先には『培養室』と書かれたプレート。二人は扉に近づく。
「ロックがかかっているわ。カギが必要ね」
りおはジャラジャラと音がするカギの束を取り出し、形状を確認して一つずつ試す。
二つ目のカギで部屋のロックは解除された。
二人が中に入ると、さほど広くないスペースにクリーンベンチやCO2インキュベーター、顕微鏡などが置かれていた。
「培養中のウィルスはこの中よ」
りおがCO2インキュベーター(温度を一定に保つ装置)に近づく。
一見、小型の冷蔵庫のようにも見えるこの装置にもロックがかかっていた。
再びカギの束から合うものを探す。
カチャ……
中に恐ろしいウイルスが入っているとは思えないほど、簡単に扉のロックが開いた。
「これが《SBAウイルス》……」
装置の中を覗くと、透明な細胞培養プレートが整然と並んでいる。
プレートにはクリアレッドの培養液が満たされており、中には数えきれないほどの《SBAウィルス》が増殖しているのだろう。
りおはインキュベーターの中を見て身震いした。
感染力の弱い、今はまだ未完成のウィルス。しかしこれが完全な形で生み出せるようになれば、国家一つくらいわけなく消せる。
(ジンがその気になれば、C国なんて簡単に……)
目に見えない小さなウィルスが、大きな国家を滅ぼす——。
バイオテロの恐ろしさにりおは唇を噛んだ。
「りお、感傷に浸っている時間はないぞ。このインキュベーターを中心に爆薬を仕掛ける。手伝ってくれ」
「分かったわ」
りおはそう返事をして、赤井からリュックを受け取った。
「まずはこれね」
りおがリュックから起爆装置とプラスチック爆弾《C-4》を取り出し、赤井に手渡した。
赤井は包装されたC-4を包みから出すと、拳大にちぎってインキュベーターの中に貼り付ける。
残りのC-4も近くの機材やパソコン付近に設置した。
「あとは信管を挿入して時限装置を取り付ければOKだ」
赤井は持って来た装置を手際よく繋いだ。
「秀一さん、実験室のパソコンにもデータが残っているはずよ」
「ああ、そっちの部屋にも仕掛けよう」
爆破装置が出来上がると、二人は隣の実験室へと移動した。
実験室でも同様に爆弾を仕掛け、あとは脱出するのみ。
「これで仕掛けはOKだ。あとは護衛たちと島谷教授を外に誘導するだけだな」
「ええ。そこで阿笠博士の発明品の登場ね」
そう言ってリュックから取り出したのは『蝶ネクタイ型変声機』だった。
ここに来る前に外には花火の打ち上げ装置を、島谷の部屋には小型スピーカーを仕掛けてきている。
「そいつを打ち上げて護衛たちの注意を引きつけ、その変声機で島谷を外へ誘導だ」
赤井は笑みを浮かべてりおを見た。こういう時の赤井は本当に楽しそうな顔をする。りおもつられて笑顔になった。
「そろそろ教授の麻酔も切れる頃だし、騒ぎを起こして建物の中にいる人たちを避難させないとね」
「ああ。護衛たちが外へ出たら俺たちは居住スペースまで移動して、その直後に爆破する。この爆弾量なら研究スペースは爆破出来るが、あっち(居住スペース)までは影響ないだろう。一番近くで悪魔のウイルスの最期を見届けるぞ」
「うん!」
りおはパーカーのポケットからリモコンスイッチを取り出す。安全装置をはずしてボタンに親指をかけた。
「じゃあ、派手に花火を打ちあげますか!」
ピッ! という小さな電子音がして数秒後。
ドン!! という発射音が外に響いた。
ヒュ~~……ドド~ン!!
間髪入れず、夜空に大輪の花が咲く。
「な、なんだ⁉︎」
「敵襲か⁉︎」
「応戦するぞ! 全員外へ出ろ!」
花火の音に驚いた男たちは次々と外に飛び出す。
気絶していた者も騒ぎで目を覚まし、仲間の声を聞いて「俺たちも行くぞ」と慌てて外へと出ていった。
「う…ん…何だ? 騒がしいな…」
外の騒ぎで目を覚ました島谷は、眠い目を擦りながらしばらくボンヤリしていた。
すると部屋の隅から女性の声が聞こえる。
「島谷教授、居住スペースで爆発が起きたわ。ここも危ないからすぐに外に避難してください」
「べ、ベルモット⁉︎ どうして君がここに……」
なぜこんな時間に彼女がここに居るのか。寝ぼけた頭ではすぐに状況を理解できない。思考停止状態で「早く! 早く!」とせかされれば、体は言われるがまま避難の準備を始める。
島谷はイスに掛けてあったカーディガンを手に取ると、寝間着のまま外へ飛び出した。
「秀一さん、教授が外に出たわ!」
チョーカー型変声機でベルモットを演じていたりおが、赤井に声をかける。
「よし、花火の音で護衛も外に行ったはずだ。俺たちも行くぞ」
赤井が起爆装置のカウントをスタートさせる。二人は居住スペースに向かって走り出した。
爆弾のカウントは30秒。
二人が研究スペースを抜けて居住スペースの物陰に隠れた時、残り時間は「5」を示す。
4,3,2,1、0
ピー…
カウンターがゼロを示し、デジタル表示が点滅する。
ドゥオオオォォンンンンッ!!
爆弾が一気に炸裂した。
建物が大きく揺れ、培養室と実験室が炎に包まれる。
「な、何事だ⁉︎」
島谷が建物の方へ振り返った。その瞬間、研究スペースから大きな火の手が上がった。
「火事だ!」
「爆発音がしたぞ!」
「敵はどこだ⁉︎」
「ガス爆発かもしれん!」
辺りは騒然となり、護衛のリーダーが部下達に消火活動を命じる。
「お、おいッ! 火の手は研究室の方じゃないか⁉︎ 私のウィルスたちは……」
ハッと我に返った島谷が、火の手が上がる研究スペースを見て叫んだ。慌てた様子で建物へ向かって走り出す。
「教授、ここは危ない。もっと建物から離れてください」
リーダーの男が教授の肩を掴み、行く手を阻んだ。
「は、放してくれ! 私の…! 私のウイルスたちが……ッ!!」
取り乱す教授を、リーダーは羽交い絞めにしたまま、建物から距離を取る。
轟々と燃える建物に向かって叫びながら、島谷は引きずられるようにその場を後にした。