最終章 ~未来へ向かって~
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2日後、深夜零時——。
組織の研究室がある孤島は、西側に連絡船が着く小さな埠頭と研究施設、そして施設の目の前にはヘリポートがある。
反対の東側は断崖絶壁が広がり、自然が手付かずのまま残っていた。なだらかで平坦な地が広がる西側とは対極的で、険しい岩場と吹き曝しの海岸。海から岩場を上がればすぐに絶壁がそびえる。
そんな島の東側に、二つの影が海面から現れた。岩場を上がり、絶壁の影に身を潜ませる。
「予想通り、こちら側には警備はいないな」
シュノーケルと酸素ボンベを外した赤井が濡れた髪をかき上げた。
「ええ。連絡船以外に船が用意できたのは助かったわ。園城寺さんに感謝しないと」
同じくボンベを外し、ウェットスーツを脱いだりおが答えた。
濡れないようにしっかり密封した荷物から黒いパーカーと帽子、黒のボトムを出す。インナーの上にサッと着替えた。
「これでよしっと。秀一さんも用意は良い?」
パーカーのジッパーを上げたりおが赤井を見る。
「ああ、準備万端だよ」
黒いジップアップのジャンパーと同じく黒いボトム、黒のキャップをかぶった赤井が答える。今回の《道具》が入った黒いリュックを背負った。
「じゃあ行くか」
「ええ」
二人は海岸線を西に向かって歩き、やや緩くなった傾斜を上って島の林の中へと身を潜り込ませた。
林の中をしばらく歩くと、天然の洞窟が口を開けていた。ライトを照らし中に入る。
洞窟と言っても五、六メートルほど入ると行き止まりになっており、中には何も無い。
「ちょうどいい。ここで焚火をして体を温めよう。施設からも死角になっているし、夜だから煙で見つかることも無い」
赤井とりおは周辺から枯れ木を集め、洞窟の中で火を焚いた。
焚火で体を温めつつ、赤井はリュックから島の地図と資料を取り出した。
「これがアメリカの偵察衛星が捉えた島の様子だ。西側の沿岸部に大きな施設がある。どうやら施設の北側が研究施設、南側が居住スペースらしい」
偵察衛星の赤外線カメラが映し出した写真を指さし、赤井が説明した。
「じゃあ、爆破するのは北側の研究施設ってことね?」
りおが赤井を見て問いかける。ここで一つの不安を口にした。
「大学にある島谷教授の実験室を調べたら《SBA》に関するものは全て運び出されていたわ。おそらく、そうなることを見越してあらかじめ実験に必要なものは運び出していたみたい。
ということは、この島の施設には試作の《SBAウイルス》があると見て間違いない。ここで施設を爆破したら、それこそウイルスをまき散らすことにならないかしら?
施設には教授以外に複数の護衛もいるはず。彼らに感染したら……」
ウイルスに感染した深田の事を思い出し、りおの表情が曇った。
「それなら心配ない。教授が作ったウイルスはまだ未完成。感染力は強くない。
フォートデトリックの研究者にも問い合わせたが、《SBAウイルス》は熱に弱いそうだ。爆弾をウイルスの近くで爆破させて火災を起こせば、空気中に散布する前に死滅すると言われたよ」
赤井はそう言うと、フォートデトリックから送られてきた資料をりおに見せた。
「それを聞いて安心したわ。孤島でアメリカの『恐竜映画』や『ゾンビ映画』みたいになったらどうしようかと思った」
りおは冗談っぽく肩をすくめて笑った。それを聞いて赤井が笑う。
「ははははは、そりゃいい。お前となら映画さながらに、アクションにも熱が入りそうだ」
「やめてよ~! 私、パニック映画もホラー映画も苦手なんだから! 物陰から『わ~っ!』とかホントダメ……」
仕事柄気配には敏感だ。しかし映画となれば周囲の気配を感じることが出来ない。突然物陰から敵キャラが現れれば、登場人物と同様に驚くしかない。
「ほ~ぉ…。またりおの意外な一面を知れたな」
赤井はまるでいたずらっ子のような笑みを見せる。
「じゃあ、無事に帰ったら秀一さんに『ジャパニーズホラー映画』を観せてあげるわ」
日本のホラー映画怖いのよ~、とりおも負けじと意地悪な顔を向ける。
「ああ、ぜひ観せてもらおうか。もちろん、お前も一緒に観るんだぞ」
「あ……あぁ~……やっぱやめとく」
風向きが怪しくなって、りおは目を泳がせた。ホラー映画は洋画だろうが邦画だろうが苦手だ。おそらく画面を直視出来ず、赤井に笑われるのがオチである。
「フフフ。まあいい。いずれにしても無事に帰って、面白い映画を一緒に観よう」
必ず二人で——。
そう心に念じながら赤井は微笑んだ。
深夜2時20分——。
外で警備をしていた傭兵の一人が仲間に声をかけた。
「なあ、こんな孤島にわざわざ乗り込んでくる敵なんて居ると思うか?」
「……さあな。でも今回の仕事、わりと報酬が良いからなぁ」
声をかけられたもう一人も施設周辺を見回しながら答えた。
今回、孤島での警備ということもあって依頼主から破格の報酬をもらっている。
警備を交代した後に酒を飲んだり女と遊んだりする場所は無いが、ひと月ほどガマンすれば別の隊と交代になる。金を貯めるにはちょうどいい。
「しっかし、こんな孤島でいったい何を作ってるんだ? でけー施設だよなぁ……」
夜の警護は施設の周りを周回するが、一周するのにかなりの時間がかかる。
「どうせヤバいもん作ってんだろ? ほら、バトルゲームによくあるじゃん。普通の人間がどんどんゾンビになって、そいつらと戦うゲーム。あんなのだったらどうしよう」
男がふざけてゾンビのフリをした。隣の男がアハハと笑う。
「そんなもん、この自動小銃で木っ端みじんに撃ち殺してやるよ」
問いかけられた方も肩にかけた銃を構えて笑った。
(それに近いもの、作ってるんだけどね)
警備の者達が去ってすぐ、木陰に隠れていたりおは小さくため息をついた。
「特段、狙ってくる相手はいないと知っているんだろう。奴らに緊張感は無いな」
男たちの様子を伺っていた赤井が小さな声で言った。
「うん、そうだね。で、どうやって中に忍び込むの?」
男達に緊張感はなく、周辺を確認した限りでは人数も多くはない。警備は『薄い』印象だ。しかし、防犯カメラなどのセキュリティーシステムもあるはず。簡単には忍び込めないだろう。
「居住スペースから侵入しよう。本来なら島谷がこの島に生活基盤をうつす時期はもっと後だったはずだ。
研究施設のセキュリティーは万全でも、居住スペースの方までは、まだ完全ではない可能性が高い」
赤井の見解にりおがうなずく。二人は夜警に回る男達の動きを観察しながら、南側の居住スペースへと移動した。
建物から少し距離を取り、暗視機能付き双眼鏡で施設を観察する。
「秀一さんが言う通り、居住スペースのセキュリティーは不完全みたいね。
首を振らないと死角が出来る位置にカメラが仕掛けられているのに、ニ台とも全く動かないわ。録画云々の前に、そもそも電源が入っていないかも」
りおがセキュリティーチェックをしながらつぶやく。赤井もタブレットを取り出し、島の状況を調べた。
「電気は普通に来ているようだから、電力不足で動かない訳ではなさそうだ。単純にセキュリティーシステムの運用が間に合っていないのだろう。こちらには好都合だな」
セキュリティーシステムが不完全であれば、りおや赤井の正体がバレる可能性が格段に減る。
この施設を爆破後も、りおは『ラスティー』として、赤井は『沖矢昴』として潜入・潜伏が可能になる。
「よし。夜警が行った後、裏口から侵入するぞ。島谷の寝室を探し、眠っているヤツに麻酔針を打つ。そうすればヤツはしばらく起きてこない」
赤井がそう言って今回の作戦を説明した。
島谷に麻酔針を打った後、施設のセキュリティー管理室に忍び込み、施設内の防犯カメラをチェック。必要ならばカメラなどをストップさせる。
その後は研究スペース内で試作の《SBAウイルス》を探し出し、その周辺に爆弾を仕掛けて施設を出る、というものだ。
「眠らせた教授はどうするの?」
ひと通り説明を聞いたりおが赤井に問いかけた。
「居住スペースまでは爆破しない。あくまで研究スペースのみだ。《SBAウイルス》とその研究設備さえ爆破出来れば、それ以外は壊さなくてもいい。もちろん万全を期して、警備をしている連中や教授には避難してもらうことにはなるがな」
赤井はニヤリと笑う。そのために阿笠博士から発明品をいくつか借りたらしい。
「セキュリティー管理室の方をお前に任せていいか?」
「了解。その代わり、爆破の前に必ず合流させて。一緒に研究スペースに行くわ」
「もちろんだ」
二人は顔を見合わせうなずき合った。
「しッ! さっきの見回りだ」
そうこうしているうちに、先ほどの夜警二人組が居住スペースまでやってきた。
赤井とりおは気配を消し、二人が通り過ぎるのを待つ。
「……」
「……」
やがて二人は談笑しながらその場を去っていった。
「行くぞ」
「ええ」
赤井の合図で二人は居住スペースの裏口に向かって静かに走り出した。
組織の研究室がある孤島は、西側に連絡船が着く小さな埠頭と研究施設、そして施設の目の前にはヘリポートがある。
反対の東側は断崖絶壁が広がり、自然が手付かずのまま残っていた。なだらかで平坦な地が広がる西側とは対極的で、険しい岩場と吹き曝しの海岸。海から岩場を上がればすぐに絶壁がそびえる。
そんな島の東側に、二つの影が海面から現れた。岩場を上がり、絶壁の影に身を潜ませる。
「予想通り、こちら側には警備はいないな」
シュノーケルと酸素ボンベを外した赤井が濡れた髪をかき上げた。
「ええ。連絡船以外に船が用意できたのは助かったわ。園城寺さんに感謝しないと」
同じくボンベを外し、ウェットスーツを脱いだりおが答えた。
濡れないようにしっかり密封した荷物から黒いパーカーと帽子、黒のボトムを出す。インナーの上にサッと着替えた。
「これでよしっと。秀一さんも用意は良い?」
パーカーのジッパーを上げたりおが赤井を見る。
「ああ、準備万端だよ」
黒いジップアップのジャンパーと同じく黒いボトム、黒のキャップをかぶった赤井が答える。今回の《道具》が入った黒いリュックを背負った。
「じゃあ行くか」
「ええ」
二人は海岸線を西に向かって歩き、やや緩くなった傾斜を上って島の林の中へと身を潜り込ませた。
林の中をしばらく歩くと、天然の洞窟が口を開けていた。ライトを照らし中に入る。
洞窟と言っても五、六メートルほど入ると行き止まりになっており、中には何も無い。
「ちょうどいい。ここで焚火をして体を温めよう。施設からも死角になっているし、夜だから煙で見つかることも無い」
赤井とりおは周辺から枯れ木を集め、洞窟の中で火を焚いた。
焚火で体を温めつつ、赤井はリュックから島の地図と資料を取り出した。
「これがアメリカの偵察衛星が捉えた島の様子だ。西側の沿岸部に大きな施設がある。どうやら施設の北側が研究施設、南側が居住スペースらしい」
偵察衛星の赤外線カメラが映し出した写真を指さし、赤井が説明した。
「じゃあ、爆破するのは北側の研究施設ってことね?」
りおが赤井を見て問いかける。ここで一つの不安を口にした。
「大学にある島谷教授の実験室を調べたら《SBA》に関するものは全て運び出されていたわ。おそらく、そうなることを見越してあらかじめ実験に必要なものは運び出していたみたい。
ということは、この島の施設には試作の《SBAウイルス》があると見て間違いない。ここで施設を爆破したら、それこそウイルスをまき散らすことにならないかしら?
施設には教授以外に複数の護衛もいるはず。彼らに感染したら……」
ウイルスに感染した深田の事を思い出し、りおの表情が曇った。
「それなら心配ない。教授が作ったウイルスはまだ未完成。感染力は強くない。
フォートデトリックの研究者にも問い合わせたが、《SBAウイルス》は熱に弱いそうだ。爆弾をウイルスの近くで爆破させて火災を起こせば、空気中に散布する前に死滅すると言われたよ」
赤井はそう言うと、フォートデトリックから送られてきた資料をりおに見せた。
「それを聞いて安心したわ。孤島でアメリカの『恐竜映画』や『ゾンビ映画』みたいになったらどうしようかと思った」
りおは冗談っぽく肩をすくめて笑った。それを聞いて赤井が笑う。
「ははははは、そりゃいい。お前となら映画さながらに、アクションにも熱が入りそうだ」
「やめてよ~! 私、パニック映画もホラー映画も苦手なんだから! 物陰から『わ~っ!』とかホントダメ……」
仕事柄気配には敏感だ。しかし映画となれば周囲の気配を感じることが出来ない。突然物陰から敵キャラが現れれば、登場人物と同様に驚くしかない。
「ほ~ぉ…。またりおの意外な一面を知れたな」
赤井はまるでいたずらっ子のような笑みを見せる。
「じゃあ、無事に帰ったら秀一さんに『ジャパニーズホラー映画』を観せてあげるわ」
日本のホラー映画怖いのよ~、とりおも負けじと意地悪な顔を向ける。
「ああ、ぜひ観せてもらおうか。もちろん、お前も一緒に観るんだぞ」
「あ……あぁ~……やっぱやめとく」
風向きが怪しくなって、りおは目を泳がせた。ホラー映画は洋画だろうが邦画だろうが苦手だ。おそらく画面を直視出来ず、赤井に笑われるのがオチである。
「フフフ。まあいい。いずれにしても無事に帰って、面白い映画を一緒に観よう」
必ず二人で——。
そう心に念じながら赤井は微笑んだ。
深夜2時20分——。
外で警備をしていた傭兵の一人が仲間に声をかけた。
「なあ、こんな孤島にわざわざ乗り込んでくる敵なんて居ると思うか?」
「……さあな。でも今回の仕事、わりと報酬が良いからなぁ」
声をかけられたもう一人も施設周辺を見回しながら答えた。
今回、孤島での警備ということもあって依頼主から破格の報酬をもらっている。
警備を交代した後に酒を飲んだり女と遊んだりする場所は無いが、ひと月ほどガマンすれば別の隊と交代になる。金を貯めるにはちょうどいい。
「しっかし、こんな孤島でいったい何を作ってるんだ? でけー施設だよなぁ……」
夜の警護は施設の周りを周回するが、一周するのにかなりの時間がかかる。
「どうせヤバいもん作ってんだろ? ほら、バトルゲームによくあるじゃん。普通の人間がどんどんゾンビになって、そいつらと戦うゲーム。あんなのだったらどうしよう」
男がふざけてゾンビのフリをした。隣の男がアハハと笑う。
「そんなもん、この自動小銃で木っ端みじんに撃ち殺してやるよ」
問いかけられた方も肩にかけた銃を構えて笑った。
(それに近いもの、作ってるんだけどね)
警備の者達が去ってすぐ、木陰に隠れていたりおは小さくため息をついた。
「特段、狙ってくる相手はいないと知っているんだろう。奴らに緊張感は無いな」
男たちの様子を伺っていた赤井が小さな声で言った。
「うん、そうだね。で、どうやって中に忍び込むの?」
男達に緊張感はなく、周辺を確認した限りでは人数も多くはない。警備は『薄い』印象だ。しかし、防犯カメラなどのセキュリティーシステムもあるはず。簡単には忍び込めないだろう。
「居住スペースから侵入しよう。本来なら島谷がこの島に生活基盤をうつす時期はもっと後だったはずだ。
研究施設のセキュリティーは万全でも、居住スペースの方までは、まだ完全ではない可能性が高い」
赤井の見解にりおがうなずく。二人は夜警に回る男達の動きを観察しながら、南側の居住スペースへと移動した。
建物から少し距離を取り、暗視機能付き双眼鏡で施設を観察する。
「秀一さんが言う通り、居住スペースのセキュリティーは不完全みたいね。
首を振らないと死角が出来る位置にカメラが仕掛けられているのに、ニ台とも全く動かないわ。録画云々の前に、そもそも電源が入っていないかも」
りおがセキュリティーチェックをしながらつぶやく。赤井もタブレットを取り出し、島の状況を調べた。
「電気は普通に来ているようだから、電力不足で動かない訳ではなさそうだ。単純にセキュリティーシステムの運用が間に合っていないのだろう。こちらには好都合だな」
セキュリティーシステムが不完全であれば、りおや赤井の正体がバレる可能性が格段に減る。
この施設を爆破後も、りおは『ラスティー』として、赤井は『沖矢昴』として潜入・潜伏が可能になる。
「よし。夜警が行った後、裏口から侵入するぞ。島谷の寝室を探し、眠っているヤツに麻酔針を打つ。そうすればヤツはしばらく起きてこない」
赤井がそう言って今回の作戦を説明した。
島谷に麻酔針を打った後、施設のセキュリティー管理室に忍び込み、施設内の防犯カメラをチェック。必要ならばカメラなどをストップさせる。
その後は研究スペース内で試作の《SBAウイルス》を探し出し、その周辺に爆弾を仕掛けて施設を出る、というものだ。
「眠らせた教授はどうするの?」
ひと通り説明を聞いたりおが赤井に問いかけた。
「居住スペースまでは爆破しない。あくまで研究スペースのみだ。《SBAウイルス》とその研究設備さえ爆破出来れば、それ以外は壊さなくてもいい。もちろん万全を期して、警備をしている連中や教授には避難してもらうことにはなるがな」
赤井はニヤリと笑う。そのために阿笠博士から発明品をいくつか借りたらしい。
「セキュリティー管理室の方をお前に任せていいか?」
「了解。その代わり、爆破の前に必ず合流させて。一緒に研究スペースに行くわ」
「もちろんだ」
二人は顔を見合わせうなずき合った。
「しッ! さっきの見回りだ」
そうこうしているうちに、先ほどの夜警二人組が居住スペースまでやってきた。
赤井とりおは気配を消し、二人が通り過ぎるのを待つ。
「……」
「……」
やがて二人は談笑しながらその場を去っていった。
「行くぞ」
「ええ」
赤井の合図で二人は居住スペースの裏口に向かって静かに走り出した。