最終章 ~未来へ向かって~
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ガチャ……
国際電話でFBI本部と連絡を取ったジェームズが、部屋の受話器を置く。
「どうでしたか? ボス」
ルークが険しい表情で問いかけた。
「ああ、今FBIのサイバー対策部が必死に食い止めているよ。時間稼ぎの為に完全封鎖しないで、尚且つ《フォートデトリック》の中には入らせぬよう、次々と新しいセキュリティーを送り込んでいる」
ジェームズはポケットからハンカチを出し、額の汗を拭った。
「日本警察もサイバー犯罪対策センターが協力してくれて、アロンの根城を追っている。あと数日もあれば特定できると連絡があった」
アメリカと日本で協力体制を敷き、今全力でアロンの居場所を探しているのだ。
「こちらの動きがバレないことを祈るばかりです」
今自分たちに出来ることは何もない。ルークは重いため息をつく。
「うむ。後は彼らがビジネスの拠点にしようとしている場所を押さえられれば良いのだが…」
「それは……いずれ《SBA》を大量生産するための研究施設、ということですか?」
ルークは険しい顔のまま問いかけた。
「ああ、そうだとも。そして未完成の《SBA》を完璧なものにする場所、だね。おそらく研究中のウィルスもそこにある。データを含め、それらを全て処分出来れば——我々の勝ちだ」
この日本のどこかに恐ろしい《ウイルス》を作る研究施設がある。
「シュウ……頼んだぞ」
赤井から連絡を受けていたルークは、心の内に広がる不安や焦りを感じつつ、祈るように元相棒の名を口にした。
赤井とりおがリビングへと入ると、安室が部屋の隅で電話をしていた。
二人の姿に気付き、「また連絡する」と言って通話を終えた。
「さくらさん、体は大丈夫ですか?」
「ええ……ご心配をおかけしました」
三人はソファーへと腰を下ろした。
「先ほどの電話……風見さん、ですか?」
さくらが安室に問いかけた。
「ええ。FBIから捜査協力の依頼が来て、日本とアメリカで連携を取りました。
風見にはいつでも現場に駆け付けられるよう、待機しているようにと伝えました」
切迫した状況だというのに安室は冷静だ。アロンのハッキング技術は目を見張るものがあるが、こちらも日米が誇るサイバーテロ対策の精鋭がことに当たっている。それだけ信頼しているのだろう。
「それで……島谷の潜伏場所ですが…本当にあの場所に?」
安室が赤井に問いかけた。
「ああ。ほぼ間違いないだろう」
赤井は自信ありげに答えた。隣に座るりおにも「そうだろう?」と投げかける。
「ええ。おそらく、ベルモットが教授と合流して連れて行くんだと思います。
組織と教授とのつなぎ役は、ずっと彼女がやっていたようですし。島谷教授も彼女を信頼しているはずです」
りおも先ほどとは違う、凛とした表情で安室を見た。
「安室さん……いえ、降谷さん。そこへの潜入……私に任せてもらえませんか?」
「ッ⁉︎」
突然の申し出に安室は目を見開いた。
「潜入⁉︎ ちょっと待ってください。組織の研究施設ですよ? ジンやウォッカたちが居るかもしれない。そこへあなたが潜入して姿を見られれば、NOCだとバレて——」
「それも覚悟の上です」
りおの表情は変わらず、強い光がアンバーの瞳に宿る。赤井は黙って聞いていた。
「現状、私は潜入捜査官として仕事がほとんどできていません。NOCだとバレても、バレなくても何も変わらない。
今の私が出来ることは、今まで培った知識を使ってその研究施設に潜入することくらい……」
「し、しかし……ッ!」
研究施設への潜入はただでさえ危険な上に、ジンにバレれば命はない。安室は許可するのをためらった。
「なに、彼女一人では行かせんよ。俺も一緒に行く」
赤井はわずかに口角を持ち上げ、楽し気に言った。
「なっ⁉︎ お前まで何をバカなことを言い出すんだ! 赤井秀一の生存がバレればそれこそ——」
赤井の申し出に安室はさらに声を荒げた。
「一応、キールと俺の家族の安全は確保しておいてくれ。
まあ、でも。そんなドジは踏まんよ。もちろん、りおもNOCだとバレさせはしない」
赤井はりおの顔を見ながら微笑む。りおも赤井を見て笑った。
「二人とも……本気、なんですね」
「ええ」
「ああ」
りおと赤井の淀み無い返答に、安室は大きなため息をついた。思わず目を閉じ頭を抱える。しばらくそうして考えを巡らせると、顔を上げた。その目は『安室』ではなく『降谷』になっていた。
「わかった。この国の、いや全世界の未来を、君たちに託したぞ」
バラバラバラバラ……——
ヘリのローターがけたたましい音を立てる。
ベルモットは長い髪を押さえ、ヘリを降りた。それに島谷も続く。
「教授、こちらです」
「H」と大きく書かれたヘリの離発着場からすぐのところに、大きな建物がある。強い風に煽られながら二人は建物の中へと入った。
バタンッ!
勢いよく扉が閉まると島谷は「ふぅ」と息を吐く。乱れた髪や服を整えた。
「ヘリだとあっという間だね」
島谷はそう言いながら窓の外に視線を移す。ここからさほど離れていない場所にある、船着き場が見えた。
「以前、大学の研究室の荷物を運んでもらった時には船だったそうだね。一時間半くらいかかったと聞いていたが……ヘリだと10分か」
便利なもんだね、と島谷は自分たちが乗ってきたヘリを見る。
「海に囲まれた孤島ですから人の目を気にする必要もないですし、実験も必要とあらばいくらでも出来ます。 また、外からの往来は1日1回の連絡船のみですから外部の侵入も難しい。教授のお気に召しましたか?」
同じく身なりを整えたベルモットが得意げな表情で島谷に微笑んだ。
二人が降り立ったのは、烏丸グループが半世紀ほど前に極秘の研究施設用に手に入れた無人島。島谷が言うように東都からもほど良い距離があり、船だと一時間半、ヘリであれば10分で着く。
ずいぶん昔にバイオテロの計画が持ち上がった際、その主要研究施設の候補に挙がった島だった。
結局バイオテロ計画が頓挫したため建設の途中で放置されていたこの島を、今回島谷の研究施設としてリニューアルしたのだ。
「ああ、とても素晴らしいよ。私の希望もふんだんに取り入れてもらってありがたい。これで不自由も遠慮も無く、研究に没頭できるわけだ」
よほど嬉しいのか島谷の顔がパッと明るくなった。
「早速ですが、ザッと施設内をご案内しますね。
まず、教授がメインでお使いになる研究室と実験室。こちらに先日お預かりした大学の荷物を置いています。
そして隣が、助手の方の詰め所になります。そして——」
ベルモットは次々と施設内を案内していった。
「そして、こちらが生活スペースになります。
すでに電気も水道も完備されています。但し、ここの稼働はまだひと月ほど先だと思っていたので、セキュリティーが完全ではありません。
くれぐれもネットを繋ぐときはご用心を。日本警察が教授を追っているはず。足が付かないよう願います」
「ああ、わかった」
ベルモットの注意を聞いて、さすがの島谷も素直にうなずいた。
大学での事件は大事になっていて、テレビでも大きく報道されている。あの場に居た森の証言により、警察はウィルスの存在を知っただろう。だが、それを知ったところで奴らはそのウイルスの正体など知る由もない。
そうなれば、島谷が深田を殺したという証拠はない。直接手を下していないのだから、逮捕する決め手もない。いずれほとぼりが冷めれば疑いも晴れるだろう。
島谷は事件よりも、むしろ今後の研究三昧の日々に心躍らせていた。
「あと、施設内の防犯カメラもエントランスと研究室への出入口しか作動していません。まあ、外からの侵入は無いと思いますが、一応お伝えしておきます」
「了解した」
淡々と業務連絡のように説明が進む。
一通り説明が終わったところで、ベルモットが「質問はありますか?」と訊ねた。
「いや、とても分かりやすかった。大丈夫だ」
島谷は特に質問することなく、施設内の案内が終わった。
「では、私はこれで東都に戻ります。食料などは十分確保してありますが、何か他に必要なものがあればご連絡ください」
それでは、といってベルモットが先ほど入ってきたドアへと向かう。ドアノブに手を伸ばした時、何かを思い出したように振り向いた。
「ああ、それから、僅かですが護衛の者たちを置いて行きます。彼らは組織の人間ではなく、お金で雇った傭兵部隊。戦闘以外に興味はありませんから教授の『研究』にさし触るようなことも致しません。その方が安心できるでしょう?
但し、彼らを『実験台』にする事だけはおやめください」
物騒な言葉とは裏腹に、ベルモットは笑みを浮かべた。そのまま踵を返し建物から出る。やがてけたたましい音を立ててヘリが急上昇し、飛び去って行った。