最終章 ~未来へ向かって~
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「そろそろ様子を見てきます」
話も一段落したところで、昴がそう切り出した。
「あれから一時間か……いつもこれくらいで目を覚ますのですか?」
安室の問いかけに昴は「ええ」と返事をした。
「しかし、またしてもさくらさんの身近な人間があんなことになって……心配ですね」
安室は大学での騒ぎを思い出し唇を噛む。
正直なところ、さくらの——いや、りおの心身の状態は良いとは言えない。
カフェのテロ、スンホの自爆事件で受けたケガは、まだ完全には治りきっていない。
その上過去の凄惨な記憶を思い出し、PTSDの症状は再び重くなってしまった。それに加えて尾沼の死や森の疑惑、深田の凶行——。
心への負荷は相当なものだろう。
「ジェームズや冴島さんからは日本を離れ、PTSDの治療に専念してはどうかと提案されました。しかし、さくら自身がそれを拒んだ。こうなることは彼女自身も承知の上です」
強い口調とは裏腹に、昴の顔は暗く沈む。
「私はただ……それを見守ることしか出来ない。歯がゆいですよ」
そう言いながら席を立つ。リビングを出ようとする昴の左手はグッと強く握られており、わずかに包帯の色が変わっている。
安室は何も言わず、うっすらと赤くなった包帯を横目に彼を見送った。
ガチャ……
昴は部屋のドアを静かに開け、様子を伺う。
りおはまだベッドで眠っていた。覚醒が近いのか時々表情を歪ませている。
チョーカー型変声機の電源をOFFにし、昴はベッドに近づくと声をかけた。
「りお……りお? 気分はどうだ?」
「う……ん……」
赤井の声に反応したりおが、ゆっくり目を開ける。周りを見回し、ここが自分の部屋だと分かるとホッと息を吐いた。
「ん……大丈夫……」
赤井と視線を合わせ、わずかに微笑む。
「リビングに安室くんもいる。起きて来れそうか?」
「うん、大丈夫。一緒に行くわ」
りおはゆっくりと体を起こし、立ち上がった。その肩を赤井がそっと抱き寄せ、転ばないように支える。
「ねえ、一つ訊いても良い?」
部屋を出ようとした時、りおが赤井に問いかけた。
「うん? どうした?」
返事をしながら赤井はドアノブに手をかける。
「……深田くん……どうなったの?」
「ッ!」
ドアノブに置いた赤井の手がピクリと反応した。
深田が3階の窓から転落し、ストレッチャーで運ばれるところまでは見た。その後どうなったのか——。眠っていたりおはまだ知らない。
「……病院で……死亡が確認された」
わずかな沈黙の後、赤井が静かに答えた。
「……そう……」
りおは涙声で返事をする。ポタリと涙の雫が落ちた。
「実は……森教授に会う前……。彼に……その深田くんに、理学部の受付で『アンタは彼氏失格だ』と言われたんだ」
「えっ⁉」
突然話し出した赤井を、りおは涙の伝った顔で見上げた。赤井は構うことなく話を続ける。
「『なぜ彼女を守れなかったのか』とずいぶん責められたよ。スンホと共に海に落ちていくお前を思い出して胸が痛かった」
りおの肩を抱く赤井の手に力がこもる。りおは心配そうに赤井の顔を見つめた。
「彼は『自分だったら彼女を幸せにできる』と言っていた。しかしお前を守るどころか、彼は命を落としてしまった。結局お前を悲しませ、苦しませる結果となった」
赤井はりおの正面に立つ。ウィッグとメガネを外して視線を合わせ、その細い両肩を掴むと涙を流すアンバーの瞳を見つめた。
「お前を守るということは、お前だけでなく俺自身の命も守らなけらばならないということ。
俺はお前の前から居なくなったりしない。お前を悲しませることは絶対にしない!」
自分たちの仕事に『絶対』など無いことくらい、赤井もりおも分かっている。
しかし、そう言葉に出して言うことに意味がある。
『絶対』は二人にとって最上級の愛の言葉だから。
「うん……うん……ありがとう秀一さん。私もあなたの前から居なくならない。もう二度と悲しませないわ」
りおが赤井に手を伸ばす。二人は強く抱き合った。
「絶対だぞ」
「ええ、絶対よ」
温かな赤井の抱擁は、傷ついたりおの心をゆっくりと癒したのだった。
東都の一等地にある高級ホテルの最上階。
パソコン画面に表示されたプログレスバーの数値は相変わらず亀の歩みで《フォートデトリック》へのアタックは進んでいない。
さすがはアメリカの超重要機密を守るセキュリティー。簡単には突破できないようだ。
「アタックがバレていれば、ロック解除はおろかすぐに《フォートデトリック》へのアクセスも出来なくなるはず。それが無いということは、アタックそのものがバレているわけでは無いな……」
まだハッキングを始めて丸一日しか経っていない。アロンは画面を眺め、ボソリとつぶやいた。
ブー、ブー、ブー、ブー
デスクにおいたスマホが突然震えた。通話をタップし耳に当てる。
「Hello?」
『俺だ。そっちはどうだ?』
アロンが電話に出ると、ジンの低い声が聞こえてきた。
「ん~…、さすがは超重要機密を扱う施設だよ。そう簡単には中へは入れてもらえないみたい」
先ほどとパーセンテージはほとんど変わらない。今行っているダウンロードが済んだところで、まだ突破するゲートは山ほどある。
『フン。まあ粗方予想通りといったところか』
特に機嫌が悪くなるでもなく、ジンは状況を受け入れたようだった。
『それよりも一つ予定が変わった。《教授》を今日の夕方にも例の場所へ移送する』
「はぁ? あそこはまだ稼働していない。 それに、協力してくれる研究者もまだ全然揃っていないだろう!」
ヘッドハンティングとデータ略奪を最優先にしていた為、例の場所の準備はほとんど出来ていない。にもかかわらず、そこへ教授を移送するなど「青天の霹靂」もいいところだ。
『仕方ねぇだろ。《教授》がハデな実験をカマしたお陰でサツが介入した。おそらくヤツは指名手配される。匿うにはあの場所が最適さ』
遅かれ早かれ、島谷はあの場所に移る予定だった。ほんの少し予定が早まっただけだ、とジンはさほど気にしていない。
「しかし……あそこを使うのはまだ先だと思っていたから、セキュリティーシステムは一部しか動いていない。万が一場所を特定されれば守りようがないぞ」
『あんなへき地、そう簡単にはバレねぇさ。心配ない』
ジンはピシャリとアロンの抗議を遮る。
どうなっても知らねえよ、とアロンは心の中で文句を言いながら、先ほどと数値の変わらないPC画面を見つめた。
話も一段落したところで、昴がそう切り出した。
「あれから一時間か……いつもこれくらいで目を覚ますのですか?」
安室の問いかけに昴は「ええ」と返事をした。
「しかし、またしてもさくらさんの身近な人間があんなことになって……心配ですね」
安室は大学での騒ぎを思い出し唇を噛む。
正直なところ、さくらの——いや、りおの心身の状態は良いとは言えない。
カフェのテロ、スンホの自爆事件で受けたケガは、まだ完全には治りきっていない。
その上過去の凄惨な記憶を思い出し、PTSDの症状は再び重くなってしまった。それに加えて尾沼の死や森の疑惑、深田の凶行——。
心への負荷は相当なものだろう。
「ジェームズや冴島さんからは日本を離れ、PTSDの治療に専念してはどうかと提案されました。しかし、さくら自身がそれを拒んだ。こうなることは彼女自身も承知の上です」
強い口調とは裏腹に、昴の顔は暗く沈む。
「私はただ……それを見守ることしか出来ない。歯がゆいですよ」
そう言いながら席を立つ。リビングを出ようとする昴の左手はグッと強く握られており、わずかに包帯の色が変わっている。
安室は何も言わず、うっすらと赤くなった包帯を横目に彼を見送った。
ガチャ……
昴は部屋のドアを静かに開け、様子を伺う。
りおはまだベッドで眠っていた。覚醒が近いのか時々表情を歪ませている。
チョーカー型変声機の電源をOFFにし、昴はベッドに近づくと声をかけた。
「りお……りお? 気分はどうだ?」
「う……ん……」
赤井の声に反応したりおが、ゆっくり目を開ける。周りを見回し、ここが自分の部屋だと分かるとホッと息を吐いた。
「ん……大丈夫……」
赤井と視線を合わせ、わずかに微笑む。
「リビングに安室くんもいる。起きて来れそうか?」
「うん、大丈夫。一緒に行くわ」
りおはゆっくりと体を起こし、立ち上がった。その肩を赤井がそっと抱き寄せ、転ばないように支える。
「ねえ、一つ訊いても良い?」
部屋を出ようとした時、りおが赤井に問いかけた。
「うん? どうした?」
返事をしながら赤井はドアノブに手をかける。
「……深田くん……どうなったの?」
「ッ!」
ドアノブに置いた赤井の手がピクリと反応した。
深田が3階の窓から転落し、ストレッチャーで運ばれるところまでは見た。その後どうなったのか——。眠っていたりおはまだ知らない。
「……病院で……死亡が確認された」
わずかな沈黙の後、赤井が静かに答えた。
「……そう……」
りおは涙声で返事をする。ポタリと涙の雫が落ちた。
「実は……森教授に会う前……。彼に……その深田くんに、理学部の受付で『アンタは彼氏失格だ』と言われたんだ」
「えっ⁉」
突然話し出した赤井を、りおは涙の伝った顔で見上げた。赤井は構うことなく話を続ける。
「『なぜ彼女を守れなかったのか』とずいぶん責められたよ。スンホと共に海に落ちていくお前を思い出して胸が痛かった」
りおの肩を抱く赤井の手に力がこもる。りおは心配そうに赤井の顔を見つめた。
「彼は『自分だったら彼女を幸せにできる』と言っていた。しかしお前を守るどころか、彼は命を落としてしまった。結局お前を悲しませ、苦しませる結果となった」
赤井はりおの正面に立つ。ウィッグとメガネを外して視線を合わせ、その細い両肩を掴むと涙を流すアンバーの瞳を見つめた。
「お前を守るということは、お前だけでなく俺自身の命も守らなけらばならないということ。
俺はお前の前から居なくなったりしない。お前を悲しませることは絶対にしない!」
自分たちの仕事に『絶対』など無いことくらい、赤井もりおも分かっている。
しかし、そう言葉に出して言うことに意味がある。
『絶対』は二人にとって最上級の愛の言葉だから。
「うん……うん……ありがとう秀一さん。私もあなたの前から居なくならない。もう二度と悲しませないわ」
りおが赤井に手を伸ばす。二人は強く抱き合った。
「絶対だぞ」
「ええ、絶対よ」
温かな赤井の抱擁は、傷ついたりおの心をゆっくりと癒したのだった。
東都の一等地にある高級ホテルの最上階。
パソコン画面に表示されたプログレスバーの数値は相変わらず亀の歩みで《フォートデトリック》へのアタックは進んでいない。
さすがはアメリカの超重要機密を守るセキュリティー。簡単には突破できないようだ。
「アタックがバレていれば、ロック解除はおろかすぐに《フォートデトリック》へのアクセスも出来なくなるはず。それが無いということは、アタックそのものがバレているわけでは無いな……」
まだハッキングを始めて丸一日しか経っていない。アロンは画面を眺め、ボソリとつぶやいた。
ブー、ブー、ブー、ブー
デスクにおいたスマホが突然震えた。通話をタップし耳に当てる。
「Hello?」
『俺だ。そっちはどうだ?』
アロンが電話に出ると、ジンの低い声が聞こえてきた。
「ん~…、さすがは超重要機密を扱う施設だよ。そう簡単には中へは入れてもらえないみたい」
先ほどとパーセンテージはほとんど変わらない。今行っているダウンロードが済んだところで、まだ突破するゲートは山ほどある。
『フン。まあ粗方予想通りといったところか』
特に機嫌が悪くなるでもなく、ジンは状況を受け入れたようだった。
『それよりも一つ予定が変わった。《教授》を今日の夕方にも例の場所へ移送する』
「はぁ? あそこはまだ稼働していない。 それに、協力してくれる研究者もまだ全然揃っていないだろう!」
ヘッドハンティングとデータ略奪を最優先にしていた為、例の場所の準備はほとんど出来ていない。にもかかわらず、そこへ教授を移送するなど「青天の霹靂」もいいところだ。
『仕方ねぇだろ。《教授》がハデな実験をカマしたお陰でサツが介入した。おそらくヤツは指名手配される。匿うにはあの場所が最適さ』
遅かれ早かれ、島谷はあの場所に移る予定だった。ほんの少し予定が早まっただけだ、とジンはさほど気にしていない。
「しかし……あそこを使うのはまだ先だと思っていたから、セキュリティーシステムは一部しか動いていない。万が一場所を特定されれば守りようがないぞ」
『あんなへき地、そう簡単にはバレねぇさ。心配ない』
ジンはピシャリとアロンの抗議を遮る。
どうなっても知らねえよ、とアロンは心の中で文句を言いながら、先ほどと数値の変わらないPC画面を見つめた。