最終章 ~未来へ向かって~
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けたたましいサイレンの音が東都大学に響き、理学部の建物にパトカーや救急車が近づいてきていた。
その音にハッとして、森は昴とさくらの元に駆け寄った。
「ここは僕に任せて二人は裏口から逃げなさい」
「えっ!? で、でもそれでは……」
事態が事態なだけに事件に関わった自分たちが現場から姿を消せば、警察は森に不信感を抱き疑いの目を向ける可能性がある。
「大丈夫だよ。不都合が生じれば風見くんに相談するから。それよりも、今回のことは大きな事件として扱われるだろうから、すぐに報道関係者も押し寄せる。
君は潜入捜査官。不特定多数の人間に目撃されるのは避けた方が無難だ。一瞬の映り込みですら、それがどう解釈されるかなんて分からない。
ましてや、ノブの研究は組織のビジネスとつながっているのだろう? 君はこの事件に関わらない方が良い」
こんな時でも冷静な判断をする森にさくらは項垂れた。
「教授…申し訳ありません……。いつもご迷惑ばかり……」
「迷惑だなんてそんな……っただろう? 君を娘のように思っていると。さあ、沖矢くん! 彼女を連れて早く!」
「分かりました」
昴は森に頭を下げると、さくらの肩を抱いて立ち上がった。
森の機転によって、二人は入口とは真逆にある非常階段を下り、駆けつけた警察と鉢合わせすることなく裏口から外へと出た。
建物を出て生垣の中へと身を潜らせる直前、さくらは建物の方へ振り返る。
ちょうど、担架に載せられた深田が運ばれていくところだった。
「…ッ…」
嗚咽が漏れそうになり、慌てて口元を手で押さえる。昴はさくらの肩を強く抱きしめ、その場を後にした。
***
ブー、ブー、ブー、ブッ
「はい」
『もしもし、ベルモットかい? 私だ。島谷だ』
アジトの一室でウォッカとヘッドハンティングの打ち合わせをしてたベルモットの元に、島谷から電話がかかってきた。
「教授? どうしたのです?」
わずかに息を弾ませ、いつもより嬉しそうな声色で話す様子に、ベルモットは不思議そうに訊ねた。
『なかなか興味深いデータが取れたんだよ。大収穫さ。ただ、実験台が派手に暴れたせいで職場にバレてしまってね。今逃げてきたところなんだ』
「なんですって⁉︎」
組織内でもトップシークレットの【ビジネス】に関わる研究が、幹部クラスに伝える前に職場にバレた⁉︎
ベルモットは驚きのあまり言葉を失う。
『嫉妬などの精神状態もウイルスに多少影響するようなんだ。実験台に深田くんを選んだのは、なかなかいい選択だったよ。
あとは戦闘能力が無い者は、殺しには向かないみたいだ。大量殺戮を目的とするなら、訓練を受けた者に感染させた方が良いようだよ。
今回は二つのことが分かって、なかなか有意義だった』
よほど嬉しいのだろう。誰かに結果を報告したくてうずうずしている。
そんな島谷に、ベルモットは厳しい口調で訊ねた。
「教授! もう少し行動を慎んでもらわないと……。しかも《深田》って…まさか森教授のところの研究生では?」
ベルモットは電話口に手を当て、ウォッカに聞かれないよう小声で訊ねる。
かつて森に忠告をしようと東都大に忍び込んだ際、誰に変装しようか悩み、森の周辺にいる人物を調べたことがある。
その中に確か《深田》という研究生がいた。
『うん、そうだよ。私の旧友のゼミに所属する研究生さ。ケンチの助手に熱を上げていて、その彼氏に絶賛嫉妬中だったんだよね。
心理的要因も感染に影響あるのか調べるのに、ちょうどいい実験台だったんだ』
「まさかとは思いますが……今日その場に、その森教授の助手は居たのですか?」
ベルモットは悪い予感がして低い声で問いかけた。
『ああ、いたよ。星川くんっていう子でね。美人さんなんだよね~。最近ずっと休んでたんだけどね。まあ、運が悪いというか、旧友に休職の相談でもしてたのかな。現場に居合わせちゃって。深田くんの様子を見て過呼吸を起こして、震えていたよ』
「ッ!」
島谷の返答を聞いてベルモットは頭を抱えた。思わず声を荒げそうになるが、この研究バカに何を言ってもムダだろう。
「教授、状況は分かりました。すぐに迎えに行きます。予定より少し早いですが……例の場所へご案内します」
怒りを抑えてベルモットはそう言うと、落ち合う場所と時間を決めた。
電話を切って一度大きく息を吐き出す。
「どうした? ベルモット」
注視していたPCから目を離し、ウォッカが問いかける。
「教授の実験が警察にバレたわ。本人は今、警察の目をかいくぐって大学からは逃げたみたい。彼を回収して例の場所へ連れて行くわ」
「なにッ!? おいおい、大丈夫なのか? 今計画がバレたら……」
ウォッカが声を潜め焦り出す。
「大丈夫よ。彼が何の研究をしているかなんて、誰も分かりはしないわ。
それにあの場所だって、その存在を知っているのは私たちとジン、それからあの方とラム、そしてアロンだけ。誰も教授を見つけることはできない。
後はアロンがフォートデトリックからデータを奪いさえすれば……すべて計画通りよ」
ベルモットはわずかに笑みを見せ、アジトから出て行った。
さくらと昴が部屋を出た後、一人になった森は周りを見渡した。デスクがあちこちに向きを変え、イスは無惨な姿を晒している。デスクの上にあった資料が床に散乱し、入口のドアが壊れ、窓ガラスは粉々に砕け散っていた。
まるで強盗にでも入られたかのように無残な姿を晒す森の研究室——。
森はゆっくりと立ち上がると、白衣についたホコリを払い襟を正した。
そこに捜査一課の面々が到着する。
駆けつけた目暮警部とその部下たちは、現場の惨状を見て目を見開いた。
佐藤、高木、千葉たちが手分けして実験室に居合わせた研究生や助手、そして森教授への事情聴取を開始した。
「それで? この部屋にはどなたが?」
目暮警部が森に向かって訊ねた。
「最初、星川くんと院生の沖矢くんが挨拶に来ていました。体調がまだ安定しないから、もう少し休職したいと相談に来たんです。
休職に関しては了承して、二人はすぐに帰りました。
その直後、深田くんが突然部屋に来て……」
「ということは、深田さんがこの部屋に乗り込んできた時には、教授お一人だったということですね」
「はい」
「では、部屋に入って来た時の深田さんの様子ですが——」
各部屋で行われた事情聴取は粛々と行われ、刑事たちが一様にメモを取る。
一通りの聴取が終わると、一課の刑事たちは顔を揃えた。
「警部。研究生たちの聴取は終わりました。
実験室にいた深田さんが、突然暴れて出ていったそうです。友人の大石さんが後を追いましたが、突き飛ばされてケガをしたため、その後は学生たちがその場の片付けと大石さんの介抱をしていたので、森教授の部屋には誰も行けなかったそうです。全員に話を聞きましたが、特に不審な点はありません」
「うむ…」
高木からの報告に、目暮は何度かうなずいた。
「森教授からも話は聞いた。教授お一人で若い深田くんの相手をした、というのが少々腑に落ちないが、おおむね事件の概要は理解した」
目暮警部はグルリと現場となった部屋を見回す。
「ん?」
何かに気付いた目暮が、割れたガラス窓に近づいた。
「教授、この血痕は……」
窓枠についたわずかな血痕を指さした。
「……」
それを見て森が考え込む。
その血痕は間違いなくカッターでケガをした昴のものだ。
よく見れば、二人がもみ合った場所にもわずかな血痕がある。この後鑑識が入れば間違いなく見つかるだろう。
昴たちは深田が乗り込んでくる前に帰ったことになっている。血痕が昴のものだと分かれば厄介だ。
「教授?」
黙り込んだ森に対して、目暮が訝し気に声をかけた。
「あ…ああ。それは……」
さて、どうやって誤魔化そう……。森が声を発した時だった。
「失礼します」
部屋の入口から突然男の声がした。
「き、君は……!」
声の方へ視線を向けた目暮は声の主を見てあっけにとられている。その場にいた高木や佐藤、千葉たちも目を丸くした。
「警視庁公安部所属、風見裕也です。目暮警部、東都水族館の件以来ですね。その節はお世話になりました」
わずかに笑顔を見せた風見が、目暮に向かって右手を差し出す。目暮は少々気後れしたままその手を取り、二人は握手を交わした。
「実は深田研究生に最近、海外のテロリストと接触があったという疑惑がもち上がったため、こちらの現場も臨場させていただきました」
「!!」
突然降って湧いたような疑惑に、捜査一課の刑事たちが騒然となった。
「えっ⁉︎ 深田さんに、ですか?」
「そんな話、捜査一課には下りてきてないですよね!?」
不満げに目暮警部を見る佐藤に対し、風見は「ええ」と柔らかさを残して返事をした。
「これはまだタレコミの段階ですので、その真偽はこれからですが……。聞けば、彼はここ最近様子がおかしかったとか。何かに取り憑かれたようだったという目撃談もあります。
もしかすると、テロリストから手に入れた薬が関係しているかもしれません。私達も現場検証に立ち会わせていただきます」
「え、ええ。それは構いませんが……」
「ご協力感謝します」
気後れする目暮に、風見はニッコリと微笑みかける。
「では急ではありますが、薬の特定も急がなくてはならない為、その方面に詳しい鑑識を連れてきました。すぐに現場検証に入らせていただきます。もちろん、全ての情報は一課と共有しますのでご心配なく」
じゃ、始めてくれ。と、目暮たちの返答を聞く間もなく、風見は連れてきた鑑識官たちに声をかけた。
「しょ、承知した……」
あまりの手際の良さに、目暮はそう返事をするほかなかった。
その音にハッとして、森は昴とさくらの元に駆け寄った。
「ここは僕に任せて二人は裏口から逃げなさい」
「えっ!? で、でもそれでは……」
事態が事態なだけに事件に関わった自分たちが現場から姿を消せば、警察は森に不信感を抱き疑いの目を向ける可能性がある。
「大丈夫だよ。不都合が生じれば風見くんに相談するから。それよりも、今回のことは大きな事件として扱われるだろうから、すぐに報道関係者も押し寄せる。
君は潜入捜査官。不特定多数の人間に目撃されるのは避けた方が無難だ。一瞬の映り込みですら、それがどう解釈されるかなんて分からない。
ましてや、ノブの研究は組織のビジネスとつながっているのだろう? 君はこの事件に関わらない方が良い」
こんな時でも冷静な判断をする森にさくらは項垂れた。
「教授…申し訳ありません……。いつもご迷惑ばかり……」
「迷惑だなんてそんな……っただろう? 君を娘のように思っていると。さあ、沖矢くん! 彼女を連れて早く!」
「分かりました」
昴は森に頭を下げると、さくらの肩を抱いて立ち上がった。
森の機転によって、二人は入口とは真逆にある非常階段を下り、駆けつけた警察と鉢合わせすることなく裏口から外へと出た。
建物を出て生垣の中へと身を潜らせる直前、さくらは建物の方へ振り返る。
ちょうど、担架に載せられた深田が運ばれていくところだった。
「…ッ…」
嗚咽が漏れそうになり、慌てて口元を手で押さえる。昴はさくらの肩を強く抱きしめ、その場を後にした。
***
ブー、ブー、ブー、ブッ
「はい」
『もしもし、ベルモットかい? 私だ。島谷だ』
アジトの一室でウォッカとヘッドハンティングの打ち合わせをしてたベルモットの元に、島谷から電話がかかってきた。
「教授? どうしたのです?」
わずかに息を弾ませ、いつもより嬉しそうな声色で話す様子に、ベルモットは不思議そうに訊ねた。
『なかなか興味深いデータが取れたんだよ。大収穫さ。ただ、実験台が派手に暴れたせいで職場にバレてしまってね。今逃げてきたところなんだ』
「なんですって⁉︎」
組織内でもトップシークレットの【ビジネス】に関わる研究が、幹部クラスに伝える前に職場にバレた⁉︎
ベルモットは驚きのあまり言葉を失う。
『嫉妬などの精神状態もウイルスに多少影響するようなんだ。実験台に深田くんを選んだのは、なかなかいい選択だったよ。
あとは戦闘能力が無い者は、殺しには向かないみたいだ。大量殺戮を目的とするなら、訓練を受けた者に感染させた方が良いようだよ。
今回は二つのことが分かって、なかなか有意義だった』
よほど嬉しいのだろう。誰かに結果を報告したくてうずうずしている。
そんな島谷に、ベルモットは厳しい口調で訊ねた。
「教授! もう少し行動を慎んでもらわないと……。しかも《深田》って…まさか森教授のところの研究生では?」
ベルモットは電話口に手を当て、ウォッカに聞かれないよう小声で訊ねる。
かつて森に忠告をしようと東都大に忍び込んだ際、誰に変装しようか悩み、森の周辺にいる人物を調べたことがある。
その中に確か《深田》という研究生がいた。
『うん、そうだよ。私の旧友のゼミに所属する研究生さ。ケンチの助手に熱を上げていて、その彼氏に絶賛嫉妬中だったんだよね。
心理的要因も感染に影響あるのか調べるのに、ちょうどいい実験台だったんだ』
「まさかとは思いますが……今日その場に、その森教授の助手は居たのですか?」
ベルモットは悪い予感がして低い声で問いかけた。
『ああ、いたよ。星川くんっていう子でね。美人さんなんだよね~。最近ずっと休んでたんだけどね。まあ、運が悪いというか、旧友に休職の相談でもしてたのかな。現場に居合わせちゃって。深田くんの様子を見て過呼吸を起こして、震えていたよ』
「ッ!」
島谷の返答を聞いてベルモットは頭を抱えた。思わず声を荒げそうになるが、この研究バカに何を言ってもムダだろう。
「教授、状況は分かりました。すぐに迎えに行きます。予定より少し早いですが……例の場所へご案内します」
怒りを抑えてベルモットはそう言うと、落ち合う場所と時間を決めた。
電話を切って一度大きく息を吐き出す。
「どうした? ベルモット」
注視していたPCから目を離し、ウォッカが問いかける。
「教授の実験が警察にバレたわ。本人は今、警察の目をかいくぐって大学からは逃げたみたい。彼を回収して例の場所へ連れて行くわ」
「なにッ!? おいおい、大丈夫なのか? 今計画がバレたら……」
ウォッカが声を潜め焦り出す。
「大丈夫よ。彼が何の研究をしているかなんて、誰も分かりはしないわ。
それにあの場所だって、その存在を知っているのは私たちとジン、それからあの方とラム、そしてアロンだけ。誰も教授を見つけることはできない。
後はアロンがフォートデトリックからデータを奪いさえすれば……すべて計画通りよ」
ベルモットはわずかに笑みを見せ、アジトから出て行った。
さくらと昴が部屋を出た後、一人になった森は周りを見渡した。デスクがあちこちに向きを変え、イスは無惨な姿を晒している。デスクの上にあった資料が床に散乱し、入口のドアが壊れ、窓ガラスは粉々に砕け散っていた。
まるで強盗にでも入られたかのように無残な姿を晒す森の研究室——。
森はゆっくりと立ち上がると、白衣についたホコリを払い襟を正した。
そこに捜査一課の面々が到着する。
駆けつけた目暮警部とその部下たちは、現場の惨状を見て目を見開いた。
佐藤、高木、千葉たちが手分けして実験室に居合わせた研究生や助手、そして森教授への事情聴取を開始した。
「それで? この部屋にはどなたが?」
目暮警部が森に向かって訊ねた。
「最初、星川くんと院生の沖矢くんが挨拶に来ていました。体調がまだ安定しないから、もう少し休職したいと相談に来たんです。
休職に関しては了承して、二人はすぐに帰りました。
その直後、深田くんが突然部屋に来て……」
「ということは、深田さんがこの部屋に乗り込んできた時には、教授お一人だったということですね」
「はい」
「では、部屋に入って来た時の深田さんの様子ですが——」
各部屋で行われた事情聴取は粛々と行われ、刑事たちが一様にメモを取る。
一通りの聴取が終わると、一課の刑事たちは顔を揃えた。
「警部。研究生たちの聴取は終わりました。
実験室にいた深田さんが、突然暴れて出ていったそうです。友人の大石さんが後を追いましたが、突き飛ばされてケガをしたため、その後は学生たちがその場の片付けと大石さんの介抱をしていたので、森教授の部屋には誰も行けなかったそうです。全員に話を聞きましたが、特に不審な点はありません」
「うむ…」
高木からの報告に、目暮は何度かうなずいた。
「森教授からも話は聞いた。教授お一人で若い深田くんの相手をした、というのが少々腑に落ちないが、おおむね事件の概要は理解した」
目暮警部はグルリと現場となった部屋を見回す。
「ん?」
何かに気付いた目暮が、割れたガラス窓に近づいた。
「教授、この血痕は……」
窓枠についたわずかな血痕を指さした。
「……」
それを見て森が考え込む。
その血痕は間違いなくカッターでケガをした昴のものだ。
よく見れば、二人がもみ合った場所にもわずかな血痕がある。この後鑑識が入れば間違いなく見つかるだろう。
昴たちは深田が乗り込んでくる前に帰ったことになっている。血痕が昴のものだと分かれば厄介だ。
「教授?」
黙り込んだ森に対して、目暮が訝し気に声をかけた。
「あ…ああ。それは……」
さて、どうやって誤魔化そう……。森が声を発した時だった。
「失礼します」
部屋の入口から突然男の声がした。
「き、君は……!」
声の方へ視線を向けた目暮は声の主を見てあっけにとられている。その場にいた高木や佐藤、千葉たちも目を丸くした。
「警視庁公安部所属、風見裕也です。目暮警部、東都水族館の件以来ですね。その節はお世話になりました」
わずかに笑顔を見せた風見が、目暮に向かって右手を差し出す。目暮は少々気後れしたままその手を取り、二人は握手を交わした。
「実は深田研究生に最近、海外のテロリストと接触があったという疑惑がもち上がったため、こちらの現場も臨場させていただきました」
「!!」
突然降って湧いたような疑惑に、捜査一課の刑事たちが騒然となった。
「えっ⁉︎ 深田さんに、ですか?」
「そんな話、捜査一課には下りてきてないですよね!?」
不満げに目暮警部を見る佐藤に対し、風見は「ええ」と柔らかさを残して返事をした。
「これはまだタレコミの段階ですので、その真偽はこれからですが……。聞けば、彼はここ最近様子がおかしかったとか。何かに取り憑かれたようだったという目撃談もあります。
もしかすると、テロリストから手に入れた薬が関係しているかもしれません。私達も現場検証に立ち会わせていただきます」
「え、ええ。それは構いませんが……」
「ご協力感謝します」
気後れする目暮に、風見はニッコリと微笑みかける。
「では急ではありますが、薬の特定も急がなくてはならない為、その方面に詳しい鑑識を連れてきました。すぐに現場検証に入らせていただきます。もちろん、全ての情報は一課と共有しますのでご心配なく」
じゃ、始めてくれ。と、目暮たちの返答を聞く間もなく、風見は連れてきた鑑識官たちに声をかけた。
「しょ、承知した……」
あまりの手際の良さに、目暮はそう返事をするほかなかった。