最終章 ~未来へ向かって~
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コンコン
「どうぞ」
「失礼します」
相手からの返事を聞いて、昴とさくらはドアを開ける。
中にいた森教授が笑顔で立ち上がった。
「おお! 星川くんじゃないか! 元気そうで何よりだ。さあ、中へどうぞ」
「ありがとうございます」
二人は中へ入るとドアを閉め、教授の元へと歩みを進めた。
研究生たちはみな実験の為、実験室に詰めている。部屋にいるのは森教授と昴、さくらの三人だけだった。
「急に来るって言うから驚いたよ。どうしたんだい?」
応接セットに移動した森は、二人にソファーへ座るように促した。
一人がけに森が座り、二人掛けに昴とさくらが座る。
「実は教授にお訊きしたいことがありまして……」
さくらは視線を落とし表情を曇らせた。
「僕に訊きたいこと?」
対照的に森はニコニコと笑顔を向ける。
「教授は……ご存じだったんですね。組織の【ビジネス】を」
再び教授を見たアンバーの瞳が鋭く光る。森は笑顔を崩さず、それをジッと見つめた。
***
「くっ! 次から次へと…ッ!」
アメリカの《フォートデトリック》へのハッキングを始めて丸一日。アロンは次から次へと行く手を阻むセキュリティーシステムに業を煮やしていた。
作業開始当初は順調だったのだがここに来て全く進まない。一つクリアすればまた一つセキュリティーシステムが作動し、それを解除するためにファイルのダウンロードを余儀なくされる。
「おかしいな。もう少しテンポよく進んでも良いんだが……」
下調べは十分行っていた。アメリカのセキュリティ突破は今までにもいくつか経験してる。
アメリカでは屈指のセキュリティを誇る、会社のHP改ざんも難なくこなした。
日本のとある企業の機密情報も、来日した当日にわずか数十分で手に入れている。
確かにアメリカでトップクラスの機密を頂くのだから、多少の困難は想定済み。しかしこんなに手を焼くとは思っていなかった。
「もしかして……気付かれた…か?」
アロンの顔がとたんに険しくなる。
「いや、そんなはずはない。全て計画通りだった。今回のアタックを知る者は、組織の中でも限られている。
FBIも日本の公安も《フォートデトリック》へのサイバー攻撃は知らないはずだ」
アロンは画面に表示されたプログレスバーを見つめた。ダウンロードの進捗状況がパーセント形式で表示されている。その数値はなかなか進まない。
「アメリカ企業へのアタックが今回のセキュリティ強化につながったか……」
最近は国家を上げたサイバーテロが頻発しているのも原因の一つだろう。
「『果報は寝て待て』ってことかな」
日本人は良いこと言うね~、と最近覚えた日本を口にして、アロンはソファーに寝ころんだ。
***
「組織の【ビジネス】? 何のことだい?」
森は笑顔のままさくらに問いかける。
「では質問を変えます。森教授、最近カジノに出入りしていませんでしたか?」
「ッ!」
《カジノ》と聞いて、森の顔から笑顔が消えた。
「あなたは尾沼さんが亡くなったと聞いた時、何か思うところがあったのではないですか? しかし当時、私が尾沼さんの事件を追っていたので下手に動くことが出来なかった。
その後、私がカジノの捜査から離れたと知って、ご自身で動き出した」
アンバーの瞳はジッと森を見据えている。表情は無く、何を考えているのか分からない。それが余計に森の心をかき乱す。
「ぼ、僕が尾沼くんのことを? まさか!
カジノに行ったのは出来心さ。研究ばかりじゃ煮詰まるから、息抜きをしようと思って……」
「だったらなぜ、アロン・モーリスの店なのですか? カジノは他にいくらでもある。尾沼さんがトラブルに巻き込まれた——イカサマをするカジノだと知っていたのに、なぜあえてその店に行く必要があるんです?」
「それは……」
言い訳できない状況に追い込まれ、森は言い淀んだ。
「もう隠し事はやめましょう、森教授」
さくらの瞳は真っすぐに森を射抜く。森は唇を噛んだ。
「星川さんと教授、何を話しているのかしらね」
実験の手順を確認しながら研究生の清水が問いかけた。
「ま、まさか星川さん……ここ辞めるとかじゃないよな⁉︎」
大石が心配そうに隣の研究生に問いかける。
「でもそれ、ありえるかもね。ここのところ体調不良で休職続いているし、テロでのケガもまだ完全に治ってないって」
「ああ~…、だから今日も彼氏さんが付き添っていたのか」
研究生たちが口々に話すのを遠巻きに聞いていた深田は、ギリリと奥歯を噛みしめた。
(星川さんがここを辞めるわけないだろう! そんなはずない!
けがも体調不良も、あの彼氏がしっかりしていれば防げたはずだ! 全部アイツのせいだろう⁉︎)
深田の手がブルブルと震える。頭の中がぐちゃぐちゃになって、実験が手につかない。
いや実験どころか、心の中に湧き出る憎悪がどんどんと大きくなる。
ドロドロとした黒いものが、感情の全てを飲み込んでいく。
(あの男が…悪いんだ……アイツさえいなければ……星川さんは俺のもの……)
先ほど理学部の受付で見た昴の顔が、憎悪に拍車をかける。深田の精神が負の感情に食いつくされようとしていた。