最終章 ~未来へ向かって~
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***
「さて、そろそろ始めようか」
アロンはそう言うとパソコンの前にあるチェアに腰を下ろした。
アロンが根城としているホテルの一室。部屋はタバコの煙が充満していた。
「ああ、そうだな。で? どれくらい時間が必要だ?」
タバコを咥えたジンが応接セットに座り足を組む。
「さぁ……今は何とも。普通なら丸一日もあれば可能だけど、今回はそう簡単にはいかないところだし。必要に応じてDLをすればそれだけで一日潰れることもある。
内部侵入までに最低三日……、任務完了までだと、長く見積もって一週間って感じかな」
「分かった。そっちはお前に任せた。ウォッカはヘッドハンティングの方をメインに動いている。俺は例の稼働に向けて資金集めだ」
「了解。何かあれば連絡するよ」
「ああ、頼んだぞ」
タバコを灰皿に押し付けジンが立ち上がる。
アロンはパソコンに向き直った。
「さて、どんな強敵が待っているやら……」
長い戦いになりそうだ、とアロンは覚悟を決める。マウスを掴むとカチッとクリックした。
同日夕方——。
熱も下がり、リビングで昴と過ごしていたりおの元に降谷から連絡が入る。
「もしもし?」
『広瀬、資料の件ご苦労だった』
電話口の降谷の声はやや硬い。
「いえ、ようやく両親が遺したものを上に報告出来て良かったです。父も母も喜んでいると思います」
二十年もかかったが、両親が命がけで集めた証拠が上へと報告されたことは喜ばしい。
とはいえ、どれも証拠不十分で報告できずにいた物ばかり。どこまで役立つかは未知数である。
『それについてなんだが……』
そこまで言って降谷が一瞬黙り込む。
『……現在も暗号解読が進められているが、当時公安だった冴島校長のお力も借りて一部解読が済んだものもあるんだ。
その事で話がある。この後沖矢さんと一緒に公安のセーフハウスで落ち合えるか?』
「え、ええ。分かりました」
時間と場所を確認して電話を切った。
「どうした?」
隣でりおの様子を伺っていた昴が声をかけた。
「降谷さんから、この後セーフハウスで話をしたいって。昴さんも一緒に来て欲しいそうよ」
「暗号の解読が出来たのか?」
「うん。一部だけ、みたいだけど……」
「そうか」
昴はそう答えると、読んでいた本をテーブルに置き立ち上がる。
「何か取り急ぎ伝えねばならない事があるのだろう。いくぞ」
「うん」
りおもまた、真剣な面持ちでソファーから立ち上がった。
それから一時間後。
警視庁近くのセーフハウス——。
りおと昴が到着すると、そこには降谷、冴島、風見、そしてジェームズとルークが顔を揃えていた。
「全員揃ったな」
降谷はそこにいた者たちに声をかけると長机の上に持っていた資料を広げた。
「広瀬夫妻の遺した情報については現在解析中だ。全容解明までにはもう少し時間が必要らしい。
但し、当時としても緊急性の高い情報に関しては、発見してすぐに読めるよう冴島校長が解読できる暗号を使っていたんだ」
降谷は冴島と目を合わせてうなずき合い、資料の中から一番上にあった紙を皆に見えるように置いた。
「冴島校長が解読できた情報は二つ。一つはエンジェルダストに関するものだった」
「エンジェルダスト?」
「ああ」
降谷が示した資料には、極秘の研究として麻薬を使ったマインドコントロールができないか、というものだった。
広瀬夫妻が情報を入手した当時、まだ麻薬には『エンジェルダスト』という名は付けられていない。
また、その研究に新たに加わったメンバーについて『年若い優秀な研究者がいる』と記録されていた。
「おそらくこの『研究者』は《ギムレット》のことだろう。ヤツは飛び級で海外の大学を卒業している。年齢的にも矛盾はない」
降谷が資料を片手に説明した。
つまり二十年も前に広瀬夫妻は、組織が『エンジェルダスト』の元になる研究を始めたことを突き止めていたのだ。
「私がもっと早く、両親の証拠を見つけていれば……」
りおは唇を噛む。もし二十年前にその情報が伝えられていたら、エンジェルダストの生成そのものを阻止できたかもしれないのだ。
「いや、広瀬。そうとも言い切れない。彼らの残した情報からは『そんな動きが確認出来る』という程度だ。証拠が弱すぎる。だからこそ、彼らも上に報告できなかったんだろう」
降谷の意見に冴島もうなずく。
「そうだとも。今この資料を見れば、それが『エンジェルダスト』だったと分かるが、当時の俺がこれを見ても、上に報告するかどうかは微妙だ。証拠が乏し過ぎるんだよ。
潜入捜査官が掴む情報というのは、それくらい取捨選択が難しいんだよ」
だから気にするな、と優しく微笑む冴島にりおもうなずいた。
「それで? もっと重要な事がわかったから、私たちをここへ呼んだのでしょう?」
昴が降谷に問いかけた。
「……ああ…」
珍しく緊張した顔で降谷は昴を見る。
「実はそれが二つ目の情報。この『エンジェルダスト』は、ある計画の『代替え』だったことが分かったんだ」
「ある計画の『代替え』? つまり、その計画が上手くいかなかったから、代わりに『エンジェルダスト』の開発が進んだ、ということか?」
昴は険しい顔で訊き返した。
「ああ」
「では、その『エンジェルダスト』以前の計画とは?」
確信を突く質問に、降谷は一瞬押し黙った。
「降谷くん?」
硬い表情のまま動かない降谷に、昴は再度問いかける。
「バイオ……テロ、だ」
「な、なに⁉︎」
「ば、バイオテロ⁉︎」
その場にいた全員の顔色がサッと変わった。
「夫妻は組織内でバイオテロ——つまり、細菌やウイルスを使ったテロの計画が進められていた、という情報を掴んでいた。
そしてその計画が、ある事件を境に頓挫したということも」
「ある事件?」
「大型旅客船の爆破事件だ」
「‼」
降谷の口から伝わる全ての事柄が、想像の遥か上を行く。
「えっ⁉︎ どういうこと⁉︎」
りおは口元を押さえた。
解読の際に内容を確認していた冴島も、ことの重大さに表情を歪ませる。
セーフハウスの中は騒然とした。
「さて、そろそろ始めようか」
アロンはそう言うとパソコンの前にあるチェアに腰を下ろした。
アロンが根城としているホテルの一室。部屋はタバコの煙が充満していた。
「ああ、そうだな。で? どれくらい時間が必要だ?」
タバコを咥えたジンが応接セットに座り足を組む。
「さぁ……今は何とも。普通なら丸一日もあれば可能だけど、今回はそう簡単にはいかないところだし。必要に応じてDLをすればそれだけで一日潰れることもある。
内部侵入までに最低三日……、任務完了までだと、長く見積もって一週間って感じかな」
「分かった。そっちはお前に任せた。ウォッカはヘッドハンティングの方をメインに動いている。俺は例の稼働に向けて資金集めだ」
「了解。何かあれば連絡するよ」
「ああ、頼んだぞ」
タバコを灰皿に押し付けジンが立ち上がる。
アロンはパソコンに向き直った。
「さて、どんな強敵が待っているやら……」
長い戦いになりそうだ、とアロンは覚悟を決める。マウスを掴むとカチッとクリックした。
同日夕方——。
熱も下がり、リビングで昴と過ごしていたりおの元に降谷から連絡が入る。
「もしもし?」
『広瀬、資料の件ご苦労だった』
電話口の降谷の声はやや硬い。
「いえ、ようやく両親が遺したものを上に報告出来て良かったです。父も母も喜んでいると思います」
二十年もかかったが、両親が命がけで集めた証拠が上へと報告されたことは喜ばしい。
とはいえ、どれも証拠不十分で報告できずにいた物ばかり。どこまで役立つかは未知数である。
『それについてなんだが……』
そこまで言って降谷が一瞬黙り込む。
『……現在も暗号解読が進められているが、当時公安だった冴島校長のお力も借りて一部解読が済んだものもあるんだ。
その事で話がある。この後沖矢さんと一緒に公安のセーフハウスで落ち合えるか?』
「え、ええ。分かりました」
時間と場所を確認して電話を切った。
「どうした?」
隣でりおの様子を伺っていた昴が声をかけた。
「降谷さんから、この後セーフハウスで話をしたいって。昴さんも一緒に来て欲しいそうよ」
「暗号の解読が出来たのか?」
「うん。一部だけ、みたいだけど……」
「そうか」
昴はそう答えると、読んでいた本をテーブルに置き立ち上がる。
「何か取り急ぎ伝えねばならない事があるのだろう。いくぞ」
「うん」
りおもまた、真剣な面持ちでソファーから立ち上がった。
それから一時間後。
警視庁近くのセーフハウス——。
りおと昴が到着すると、そこには降谷、冴島、風見、そしてジェームズとルークが顔を揃えていた。
「全員揃ったな」
降谷はそこにいた者たちに声をかけると長机の上に持っていた資料を広げた。
「広瀬夫妻の遺した情報については現在解析中だ。全容解明までにはもう少し時間が必要らしい。
但し、当時としても緊急性の高い情報に関しては、発見してすぐに読めるよう冴島校長が解読できる暗号を使っていたんだ」
降谷は冴島と目を合わせてうなずき合い、資料の中から一番上にあった紙を皆に見えるように置いた。
「冴島校長が解読できた情報は二つ。一つはエンジェルダストに関するものだった」
「エンジェルダスト?」
「ああ」
降谷が示した資料には、極秘の研究として麻薬を使ったマインドコントロールができないか、というものだった。
広瀬夫妻が情報を入手した当時、まだ麻薬には『エンジェルダスト』という名は付けられていない。
また、その研究に新たに加わったメンバーについて『年若い優秀な研究者がいる』と記録されていた。
「おそらくこの『研究者』は《ギムレット》のことだろう。ヤツは飛び級で海外の大学を卒業している。年齢的にも矛盾はない」
降谷が資料を片手に説明した。
つまり二十年も前に広瀬夫妻は、組織が『エンジェルダスト』の元になる研究を始めたことを突き止めていたのだ。
「私がもっと早く、両親の証拠を見つけていれば……」
りおは唇を噛む。もし二十年前にその情報が伝えられていたら、エンジェルダストの生成そのものを阻止できたかもしれないのだ。
「いや、広瀬。そうとも言い切れない。彼らの残した情報からは『そんな動きが確認出来る』という程度だ。証拠が弱すぎる。だからこそ、彼らも上に報告できなかったんだろう」
降谷の意見に冴島もうなずく。
「そうだとも。今この資料を見れば、それが『エンジェルダスト』だったと分かるが、当時の俺がこれを見ても、上に報告するかどうかは微妙だ。証拠が乏し過ぎるんだよ。
潜入捜査官が掴む情報というのは、それくらい取捨選択が難しいんだよ」
だから気にするな、と優しく微笑む冴島にりおもうなずいた。
「それで? もっと重要な事がわかったから、私たちをここへ呼んだのでしょう?」
昴が降谷に問いかけた。
「……ああ…」
珍しく緊張した顔で降谷は昴を見る。
「実はそれが二つ目の情報。この『エンジェルダスト』は、ある計画の『代替え』だったことが分かったんだ」
「ある計画の『代替え』? つまり、その計画が上手くいかなかったから、代わりに『エンジェルダスト』の開発が進んだ、ということか?」
昴は険しい顔で訊き返した。
「ああ」
「では、その『エンジェルダスト』以前の計画とは?」
確信を突く質問に、降谷は一瞬押し黙った。
「降谷くん?」
硬い表情のまま動かない降谷に、昴は再度問いかける。
「バイオ……テロ、だ」
「な、なに⁉︎」
「ば、バイオテロ⁉︎」
その場にいた全員の顔色がサッと変わった。
「夫妻は組織内でバイオテロ——つまり、細菌やウイルスを使ったテロの計画が進められていた、という情報を掴んでいた。
そしてその計画が、ある事件を境に頓挫したということも」
「ある事件?」
「大型旅客船の爆破事件だ」
「‼」
降谷の口から伝わる全ての事柄が、想像の遥か上を行く。
「えっ⁉︎ どういうこと⁉︎」
りおは口元を押さえた。
解読の際に内容を確認していた冴島も、ことの重大さに表情を歪ませる。
セーフハウスの中は騒然とした。