最終章 ~未来へ向かって~
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「ルーペ……? これと全く同じ……」
りおはルーペに手を伸ばす。
「ふふふ。そのルーペのカラクリはご存じでしょう? 手に取って光をあててごらんなさい」
水無瀬に言われて、りおはサンルームに降り注ぐ太陽の光をルーペにあて、レンズを通った光をサンルームのテーブルに当てた。
そこに映し出されたのは——。
「あ……ッ!」
「こ、これは…」
目の前に現れたのはハートのマーク。
冬の太陽が映し出した『光のハート』は、クロスの上で優しく輝く。
昴が中にあったメッセージカードを手に取ると、声を出して読み上げた。
『ここにたどり着いた娘へ愛をこめて
導いてくれた友に感謝を
冴島 ジェームズ あとは頼んだぞ』
両親が遺したメッセージを聞き、りおの目から涙が零れる。冴島とジェームズも思わずうつむいた。
「一つは謎解きのヒントとして。もう一つは娘であるあなたへのプレゼントですよ」
四人を見守っていた水無瀬が優しく微笑んだ。
ルーペは水無瀬の友人の手作りだという。
この友人、阿笠博士のように発明好きで毎日試行錯誤を繰り返しては色んなもの(多くはガラクタ)を作っている。
ルーペはその友人の自信作らしい。
「偶然、その友人が『魔鏡と同じ原理なんだ。隠し事にはピッタリだろ?』なんて話をしている時に、ご家族が訪ねてみえたんですよ。その時、君は三〜四歳くらいだったかな。
『娘にも内緒のメッセージを残そう』とご夫妻で盛り上がって。その場で友人に制作を頼んでいました。数年後には『謎解き用』も追加でね」
「そうか……だからペンダントの紐にはカニカンが付いていたんだ……」
革紐に取り付けられていたカニカン。
謎解きのルーペとプレゼントのルーペがいずれ付け替えられるように、という配慮だったのだ。
「お二人からお預かりしたもの、確かにお渡ししましたよ」
ルーペを握りしめ涙するりおに、水無瀬は優しく声をかけた。
「はい……。長く、お待たせして…申し訳…ありませんでした」
涙のせいで、しゃくりあげるように答えるりおの肩を、水無瀬は優しくさする。
「いいえ……あなたにも事情があったのでしょう?」
そう言ってりおを見る水無瀬の目は、とても優しい。
「あなたのご両親も事情があって、たった二人だけの結婚式をしました。そして——最後に彼らと会ってから二十年の歳月が流れました。あの時の様子から、お二人の身に何かあったのだと思いました」
とたんに表情を曇らせ、水無瀬は目を閉じた。
「あの……ひとつだけ、お伺いしてもよろしいですか?」
これまでのやり取りを黙って聞いていた昴が声を発した。
「広瀬夫妻はあなたに絶大な信用を置いていた。牧師というお立場と、あなた方ご夫婦のお人柄を見ればそれも頷けます。
ですが……なぜ、広瀬夫妻は東都から離れた縁もゆかりもないこの地に来たのでしょうか? たまたま情報収集の際に立ち寄っただけかもしれませんが、それでは少々腑に落ちなくて」
真剣な面持ちで昴は水無瀬を見る。水無瀬はフッと口元を緩め、観念したように微笑んだ。
「あなたもなかなか頭が切れるようだ。そうですね。縁もゆかりもない土地の、たまたま知り合った牧師に、彼らが大事な物を託すわけがない。そう思うのも当然です。
実は、彼らがここに来たのは偶然ではありません」
水無瀬はそう言うと、夫人の方を見る。
「私の妻の旧姓は『藍田』と言います」
「えっ⁉」
その名を聞いて冴島が息を飲む。
「妻の弟は警察官をしていました。三十二年前、新婚旅行先のアメリカで亡くなるまでは」
「あ、藍田の……お姉さん……!!」
かつての同期の名を聞き冴島は絶句する。
全ては藍田が新婚旅行中、船の爆破事件に巻き込まれ、亡くなったことから始まったのだ。
水無瀬夫人は静かにうなずく。
「最初は広瀬さん、私に謝罪をするためにここを訪れたのですよ。
『藍田の事件も解決していないのに、自分ばかりが幸せになって申し訳ない。今日はざんげをしに来たんだ』っておっしゃっていました。
私は、広瀬さんのせいで弟が亡くなったなんて微塵も思っていません。だから『気にしないで、あなたはあなたの幸せを』と言ったんです。
そしたら主人が『ざんげなんかより、せっかく来たのだからお二人の結婚式をしませんか』と提案して……お二人はとても驚いた顔をしていました」
水無瀬夫人は当時を思い出し、口元に手を当てて懐かしそうに笑った。
水無瀬が夫人の肩に手を置くと、彼はりおを見る。
「あなたもきっとご両親と同じように、言葉では言い表せないほどの悲しみや苦しみを経験されたのだと思います。それを乗り越えて、今日こうして無事にお渡しできた。私たちとしても感無量です」
たくさんの出会いと別れを繰り返し、時に絶望的な状況に追い込まれながらも、りおたちはここにたどり着いたのだ。
そうして、長い時間閉ざされていたケースの中には、たくさんの愛が詰まっていた。
子を想う親の愛、心通わせた友への友情。
それらは二十年経っても色あせることなく、彼らの心を震わせたのだった。
翌日——。
案の定、青茉区から帰ったりおは、朝から熱を出した。
「ほらみろ。やっぱり熱が出たじゃないか」
りおが差し出した体温計を見て、赤井がため息をつく。
「ご、ごめんなさい……。でも秀一さんだって鼻声じゃない」
寒風吹きすさぶ中、何時間も外で過ごしたため、さすがの赤井も少々風邪気味だ。
「教官とジェームズさんは大丈夫だったかな」
額に冷却シートを貼り付けたりおが、心配げにつぶやく。
「今朝メールで聞いたら二人ともピンピンしてたよ。あの年になると一通り風邪もひき尽くして、それなりに免疫があるんだろう……」
あの中で風邪一つ引かないなんて、ある意味特技だな、と赤井は呆れたように言う。
「もう……年寄り扱いしちゃダメだよ。そういう事に敏感なお年頃です」
「アラサーのりおのように?」
「秀一さん、一言余計」
「なんだ、ホントに気にしてるのか」
「フンだ!」
どうやら軽口を叩けるくらいには、元気があるらしい。
「フッ。じゃあ俺はそろそろ変装をしてくるから、お前はおとなしく寝てろよ」
「うん……。あ、そうだ。教会から持って来た物は?」
部屋を出て行こうとする赤井に、りおは声をかける。
「ああ、CD-Rは無事警察庁に引き渡された。どうやら暗号で入力されているらしいから、その解析に少々時間がかかりそうだ。
その他のものは一応鑑識のチェックを受けて、今日にも風見くんがこちらに届けてくれると聞いている」
「そう……」
無事に届いたと聞いてりおは安堵する。
「じゃ、くれぐれもゆっくり休むこと! いいな」
「はぁ~い……」
「なんだ、その気の抜けた返事は」
「赤井捜査官、了解です!」
「うむ、よろしい」
あはは、と笑いながら赤井が部屋を出て行く。
残されたりおは「はぁ~」と熱い息を吐いた。
(だるい……。でも…やらなきゃいけない事は山ほどある。今は寝て、早く捜査に戻らなきゃ……)
まぶたを閉じると、昨日見た光のハートが目に浮かぶ。
「パパ……ママ……」
焦りは多少あるものの、ずっと引っかかっていた心のモヤが晴れたりおは、穏やかな気持ちで眠りについた。
りおはルーペに手を伸ばす。
「ふふふ。そのルーペのカラクリはご存じでしょう? 手に取って光をあててごらんなさい」
水無瀬に言われて、りおはサンルームに降り注ぐ太陽の光をルーペにあて、レンズを通った光をサンルームのテーブルに当てた。
そこに映し出されたのは——。
「あ……ッ!」
「こ、これは…」
目の前に現れたのはハートのマーク。
冬の太陽が映し出した『光のハート』は、クロスの上で優しく輝く。
昴が中にあったメッセージカードを手に取ると、声を出して読み上げた。
『ここにたどり着いた娘へ愛をこめて
導いてくれた友に感謝を
冴島 ジェームズ あとは頼んだぞ』
両親が遺したメッセージを聞き、りおの目から涙が零れる。冴島とジェームズも思わずうつむいた。
「一つは謎解きのヒントとして。もう一つは娘であるあなたへのプレゼントですよ」
四人を見守っていた水無瀬が優しく微笑んだ。
ルーペは水無瀬の友人の手作りだという。
この友人、阿笠博士のように発明好きで毎日試行錯誤を繰り返しては色んなもの(多くはガラクタ)を作っている。
ルーペはその友人の自信作らしい。
「偶然、その友人が『魔鏡と同じ原理なんだ。隠し事にはピッタリだろ?』なんて話をしている時に、ご家族が訪ねてみえたんですよ。その時、君は三〜四歳くらいだったかな。
『娘にも内緒のメッセージを残そう』とご夫妻で盛り上がって。その場で友人に制作を頼んでいました。数年後には『謎解き用』も追加でね」
「そうか……だからペンダントの紐にはカニカンが付いていたんだ……」
革紐に取り付けられていたカニカン。
謎解きのルーペとプレゼントのルーペがいずれ付け替えられるように、という配慮だったのだ。
「お二人からお預かりしたもの、確かにお渡ししましたよ」
ルーペを握りしめ涙するりおに、水無瀬は優しく声をかけた。
「はい……。長く、お待たせして…申し訳…ありませんでした」
涙のせいで、しゃくりあげるように答えるりおの肩を、水無瀬は優しくさする。
「いいえ……あなたにも事情があったのでしょう?」
そう言ってりおを見る水無瀬の目は、とても優しい。
「あなたのご両親も事情があって、たった二人だけの結婚式をしました。そして——最後に彼らと会ってから二十年の歳月が流れました。あの時の様子から、お二人の身に何かあったのだと思いました」
とたんに表情を曇らせ、水無瀬は目を閉じた。
「あの……ひとつだけ、お伺いしてもよろしいですか?」
これまでのやり取りを黙って聞いていた昴が声を発した。
「広瀬夫妻はあなたに絶大な信用を置いていた。牧師というお立場と、あなた方ご夫婦のお人柄を見ればそれも頷けます。
ですが……なぜ、広瀬夫妻は東都から離れた縁もゆかりもないこの地に来たのでしょうか? たまたま情報収集の際に立ち寄っただけかもしれませんが、それでは少々腑に落ちなくて」
真剣な面持ちで昴は水無瀬を見る。水無瀬はフッと口元を緩め、観念したように微笑んだ。
「あなたもなかなか頭が切れるようだ。そうですね。縁もゆかりもない土地の、たまたま知り合った牧師に、彼らが大事な物を託すわけがない。そう思うのも当然です。
実は、彼らがここに来たのは偶然ではありません」
水無瀬はそう言うと、夫人の方を見る。
「私の妻の旧姓は『藍田』と言います」
「えっ⁉」
その名を聞いて冴島が息を飲む。
「妻の弟は警察官をしていました。三十二年前、新婚旅行先のアメリカで亡くなるまでは」
「あ、藍田の……お姉さん……!!」
かつての同期の名を聞き冴島は絶句する。
全ては藍田が新婚旅行中、船の爆破事件に巻き込まれ、亡くなったことから始まったのだ。
水無瀬夫人は静かにうなずく。
「最初は広瀬さん、私に謝罪をするためにここを訪れたのですよ。
『藍田の事件も解決していないのに、自分ばかりが幸せになって申し訳ない。今日はざんげをしに来たんだ』っておっしゃっていました。
私は、広瀬さんのせいで弟が亡くなったなんて微塵も思っていません。だから『気にしないで、あなたはあなたの幸せを』と言ったんです。
そしたら主人が『ざんげなんかより、せっかく来たのだからお二人の結婚式をしませんか』と提案して……お二人はとても驚いた顔をしていました」
水無瀬夫人は当時を思い出し、口元に手を当てて懐かしそうに笑った。
水無瀬が夫人の肩に手を置くと、彼はりおを見る。
「あなたもきっとご両親と同じように、言葉では言い表せないほどの悲しみや苦しみを経験されたのだと思います。それを乗り越えて、今日こうして無事にお渡しできた。私たちとしても感無量です」
たくさんの出会いと別れを繰り返し、時に絶望的な状況に追い込まれながらも、りおたちはここにたどり着いたのだ。
そうして、長い時間閉ざされていたケースの中には、たくさんの愛が詰まっていた。
子を想う親の愛、心通わせた友への友情。
それらは二十年経っても色あせることなく、彼らの心を震わせたのだった。
翌日——。
案の定、青茉区から帰ったりおは、朝から熱を出した。
「ほらみろ。やっぱり熱が出たじゃないか」
りおが差し出した体温計を見て、赤井がため息をつく。
「ご、ごめんなさい……。でも秀一さんだって鼻声じゃない」
寒風吹きすさぶ中、何時間も外で過ごしたため、さすがの赤井も少々風邪気味だ。
「教官とジェームズさんは大丈夫だったかな」
額に冷却シートを貼り付けたりおが、心配げにつぶやく。
「今朝メールで聞いたら二人ともピンピンしてたよ。あの年になると一通り風邪もひき尽くして、それなりに免疫があるんだろう……」
あの中で風邪一つ引かないなんて、ある意味特技だな、と赤井は呆れたように言う。
「もう……年寄り扱いしちゃダメだよ。そういう事に敏感なお年頃です」
「アラサーのりおのように?」
「秀一さん、一言余計」
「なんだ、ホントに気にしてるのか」
「フンだ!」
どうやら軽口を叩けるくらいには、元気があるらしい。
「フッ。じゃあ俺はそろそろ変装をしてくるから、お前はおとなしく寝てろよ」
「うん……。あ、そうだ。教会から持って来た物は?」
部屋を出て行こうとする赤井に、りおは声をかける。
「ああ、CD-Rは無事警察庁に引き渡された。どうやら暗号で入力されているらしいから、その解析に少々時間がかかりそうだ。
その他のものは一応鑑識のチェックを受けて、今日にも風見くんがこちらに届けてくれると聞いている」
「そう……」
無事に届いたと聞いてりおは安堵する。
「じゃ、くれぐれもゆっくり休むこと! いいな」
「はぁ~い……」
「なんだ、その気の抜けた返事は」
「赤井捜査官、了解です!」
「うむ、よろしい」
あはは、と笑いながら赤井が部屋を出て行く。
残されたりおは「はぁ~」と熱い息を吐いた。
(だるい……。でも…やらなきゃいけない事は山ほどある。今は寝て、早く捜査に戻らなきゃ……)
まぶたを閉じると、昨日見た光のハートが目に浮かぶ。
「パパ……ママ……」
焦りは多少あるものの、ずっと引っかかっていた心のモヤが晴れたりおは、穏やかな気持ちで眠りについた。