最終章 ~未来へ向かって~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
四人はタクシーを降りた道まで戻り、地図を頼りに進む。坂道を上った先に教会の屋根と、その上に聳える十字架が見えた。
教会の入口には『深水(みすい)教会』と書かれている。四人は敷地の中へと足を踏み入れた。
「おや、珍しい。観光の方ですか?」
礼拝堂の入口付近まで来た時、突然声をかけられた。
四人が振り向くと男性が一人、掃除道具を持って立っていた。年齢は六十歳前後だろうか。白髪をキレイに整え、背筋をピンと伸ばしている。
「え、ええ。ちょっとお尋ねしたいことがありまして。この辺りで『深水の名水』以外にも水が湧くところはありますか?」
昴が男性に訊ねた。
「いいえ、水が湧くのはそこの名水だけです。百年ほど前までは他でも湧いていたようですが、大きな地震の後はパッタリ出なくなってしまったとか。青茉区全体でも、水が湧くのはここだけですよ」
昴の質問に答えた男性は《水無瀬 淳(みなせ じゅん)》と名乗り、この教会の牧師をしているのだという。
水無瀬は「寒いですから良かったらどうぞ」と言って、敷地の中へ案内してくれた。
教会の隣には小さなイングリッシュガーデンがあり、カワイイ小物がたくさん並べられている。
「妻の趣味でね。春になるとキレイな花がたくさん咲きますよ」
手入れの行き届いた庭を通り過ぎ、離れのサンルームへ。
「今の時期なら、ここでお茶をするのが一番温かい。すぐご用意しますから、皆さんどうぞ座って下さい」
大きな丸テーブルを囲み、中へと通された四人は席に着く。日差しが降り注ぐサンルームはとても温かい。りおたちは着ていたコートを脱いだ。
やがて、夫人が五人分のお茶を用意してサンルームに顔を出す。
「ようこそ、いらっしゃいました。この時期に観光なんて珍しいですね。寒かったでしょう?
温かい紅茶をご用意しました。そこの名水で淹れたものです」
夫人はそう言ってソーサーに載った紅茶を一人一人にサーブしてくれた。
りおの前にも紅茶を置こうとした時、夫人が突然息を詰める。
「ッ!!」
りおの胸元を凝視する夫人を見て、四人は不思議そうに顔を見合わせた。
「あ、あの……どうかされました?」
動きを止めた夫人に、りおが問いかけた。
「あ、いいえ。ご、ごめんなさいね」
その場を取り繕うように謝罪をして、夫人はティーカップをりおの前に置く。
そして「あなた……」と水無瀬の顔を見た。
「ん? どうしたんだい?」
狼狽した夫人の様子に、水無瀬が問いかける。そして同じようにりおの方を見て「あ」と声を上げた。
「そうか……。あなた方は観光に来たわけでは無いのですね」
「ッ!?」
水無瀬の問いかけに、四人は警戒心を抱く。
「あなた方は……謎を解きに来たのではないですか?」
「ど、どうしてそれを!」
驚いたりおは、思わずペンダントを握りしめた。昴達も驚きを隠せず、ただただあっけにとられている。
「ああ、申し訳ない。突然こんなことを言ったら驚かれますよね?」
ニッコリと微笑んだ水無瀬は、夫人に何かを耳打ちする。夫人は小さくうなずくとその場を離れた。
「あの……どうして私達が観光客では無いと? まして『謎解きをしに来た』と思われたのですか?」
昴がやや厳しい顔を向け、水無瀬に問いかけた。
「そうですね。それにお答えする前に……あなた方のお名前をお聞きしても良いですか?」
水無瀬は昴の質問に大きくうなずきながら、四人に問いかけた。訳が分からぬまま、四人は順番に名前を名乗る。
「なるほど。良く分かりました。では……全てをお話ししましょうか」
水無瀬はそれまでの笑顔が消え、スッと固い表情を見せる。
「私は二十年間あなたを待っていましたよ。広瀬りおさん?」
「え?」
突然名を呼ばれ、りおが目を丸くする。なぜなら、先ほどは偽名である『星川さくら』を名乗ったからだ。
「ふふふ。驚くのも無理ないね。でも、偽名を使ってもすぐに分かりましたよ。そのアンバーの瞳……お母さんにそっくりだ」
「ッ! 母を知っているのですか⁉」
「ああ、知っているとも。君のお父さんも知っているよ。何しろ、お二人が結婚式を挙げた時、私が立ち会ったのだから」
「「「えぇッ⁉」」」
夫妻が結婚式を挙げたと聞いて、冴島もそしてジェームズも驚きの声を上げた。
「もう三十年くらい前になるかな。突然若いカップルがやって来てね。事情があって結婚式を挙げてないって言うんだ。じゃあウチでどうだい? って提案したんだよ」
水無瀬は懐かしそうに当時を振り返った。
「二人はとても驚いていたけど……。何とか説得して、二人だけの結婚式をしたんだ。とても喜んでくれた。
その後は年に一度、必ず顔を見せに来てくれたんだ。式の翌年には娘さんも一緒だった。母親と同じ、アンバーの瞳を持った赤ちゃんだったよ」
「そ、それって……」
「うむ……りおくんだろう」
冴島もジェームズも知らなかった事実。一真とルナは密かに結婚式を挙げていた。しかも年に一度、世話になった牧師に会いに来ていた。
広瀬夫妻にとって、唯一『普通の家族』として過ごす大切なイベントだったのだろう。
「そして六年目を迎えたある日、夫妻は一つのケースを私に手渡してきたんだ。『預かって欲しい』といってね。
それを預かってからというもの、彼らとは不定期に何度も会うようになった。
会う度にそのケースを彼らに渡し、決まって最後は『また頼む』といってケースを託される——。
そんな日々が四年ほど続いたよ」
そこまで話すと、水無瀬は悲しげに視線を落とす。
「彼らと最後に会ったのは二十年前。酷く慌てていた。いつものように私はケースを手渡した。彼らは中に何か入れると、再び私に預けたんだ。
そして『このケースを取りに来る人物が現れるかもしれない』と言ったんだ」
その時に『誰が来るのか』と聞いておいたんだよ、と水無瀬は冴島たちの顔を見た。
「なるほど。それでさっき、名前を確認したのか」
水無瀬の行動に納得した冴島は小さくうなずいた。
「それで……夫妻があなたに託したケースは?」
昴が水無瀬に問いかけた。
「こちらです」
先ほど席をはずした水無瀬夫人が、手に銀色の小さなジュラルミンケースを持って立っていた。
夫人は四人の前にケースを置くと「どうぞ」と声をかけた。
ケースを前に四人が息を飲む。
「りお、お前が開けなさい」
冴島がりおに向かって声をかけた。
「……はい……」
小さく返事をしたりおは、震える手でケースに手を伸ばす。
カチャッ……カチャッ……
静かなサンルームに、留め金を外す音が響いた。
「あ、開けます」
りおはごくりと喉を鳴らし、そっとケースを開けた。
「「「「ッ‼」」」」
中を見ると、情報が入っていると思われるCD-Rが数枚。
数枚の写真。
そしてメッセージカードと、りおのペンダントと全く同じルーペが一つ入っていた。
「CD-R…! この中に彼らの集めた情報が!」
冴島とジェームズの表情が険しくなる。二人は顔を見合わせうなずき合った。