最終章 ~未来へ向かって~
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数日後——。
昴、りお、冴島、ジェームズの四人は神奈川県横浜市青茉(あおま)区の風力発電所に来ていた。海風が絶えず吹き、大きな発電用の風車がゆっくりと回っている。
発電所といっても建物があるわけでは無く、小高い丘の上に風車が何機も連なっているだけ。
風車の回転により生み出されたエネルギーは、近くの変圧器から送電線を通って電力会社に集められ、各家庭へと送られる仕組みになっている。
「しかしまあ……風車以外本当に何も無いな」
コートの襟を立てた冴島が肩をすくめた。
「そうですね。もっと建物らしいものがあるのかと思いましたけど……」
昴も周りを見回しため息をつく。右を見ても左を見ても、あるのは風車。
海の方へ目をやれば埋立地に横付けされた大型タンカーと大きな工場が見える。
「りお、寒いのでしょう? 大丈夫ですか?」
強風が吹きつける風車の下で、りおは震えていた。昴が心配げにりおの顔を覗き込む。
「う、うん。大、丈夫……」
言葉とは裏腹にりおの顔は蒼白で、唇にも色がない。
「これは早めに答えを探して移動した方が良いようだ」
グレーヘアを風にたなびかせながら、ジェームズは心配そうにりおの顔を覗き込む。
冴島も「そうだな」と小さくうなずいた。
「で、俺たちが持ってるヒントは『一真の創作話』だけだ。ここに何かヒントが?」
冴島は昴に問いかけた。
「はい。登場人物の【風】には『僕の家から丘が見える。その丘を越えると畑があるんだ』というセリフがあります。
風の家、つまりこの風力発電の周辺だと思ったのですが……」
昴はそう言って辺りを見回した。
「しかし風車は何機も連なっているし、風車以外の建物も無い。【風】が言う『僕の家』とはいったい……」
冴島たちも顔を上げ、遠くを見つめた。が、特に該当するようなものは見受けられない。
地図を広げてみたものの、結果は同じだった。
「ゴホッ…ゴホ……ゴホッ……!」
りおが苦しそうに咳をした。退院から日は経つが体はまだまだ完全ではない。昴が心配そうに背中をさすった。
「ここでは吹き曝しだな。ちょっと陰になっているところを探そう。りおの体も心配だ」
冴島が提案すると「そうだな」とジェームズも同意した。四人は風車がある高台から少し下り、風の吹き込まない場所を探す。
海が見えない位置まで下ると、僅かばかり風の穏やかな場所に出る。
「ここなら幾分マシだろう」
さらに風上に冴島とジェームズが立ち、昴は自分の首からマフラーを取ると、りおの首にかけた。
「ありがとう…ございます」
りおは申し訳なさそうに礼を言った。
「しかし、ずっとココに居る訳にもいかんな。どうする?」
冴島が昴に問いかけた。
「そうですね……」
昴も考え込んだ。ここに来れば何かヒントがあると思っていただけに、これといった妙案は出てこない。
「出直すか」
「そうですね」
気温も低く、りおの体調も良くない。謎解きのヒントも無い。
こういう時は一度引いてみるのも手だ。
冴島と昴がそう話をしていた時、ジェームズがあるものに気付いた。
「ちょっと待ってくれ。あれはなんだ?」
「「え?」」
ジェームズが指さしたところには、小さな看板がある。
木で出来たそれは、大きさがA4サイズほどで高さはほとんどない。別の風車に続く細い道と、今下りてきた道との分岐にひっそりと立っていた。
四人は顔を見合わせ、看板に近づく。
『風の丘 この先400M』
年季の入った看板にはそう記されていた。
「風の丘?」
冴島が首をひねる。
「何だろうね」
ジェームズも不思議そうに看板を見た。
「もしかすると……ですが、そこにモニュメントか何かがあるのではないでしょうか。風車を建設した際の記念に、記念碑とか記念像とか。日本は建設記念にセレモニーをすることが多いので……」
「「「ッ!」」」
りおが外国人であるジェームズにも分かるように説明すると、三人が反応した。
「ってことはそこに何か……」
「え……あ!」
寒さでイマイチ頭が回っていないりおも、冴島の言葉でハッとする。
「行ってみましょう!」
昴の言葉に全員がうなずいた。
再び坂道を上って別の風車の近くまで来ると、先ほどより広い場所に記念碑と小さな東屋が建っていた。
「あれのようです」
四人が近づく。
「この記念碑が建てられたのは……今から三十四年前、のようです。広瀬夫妻が組織を追っていた時にはすでにあった事になりますね」
記念碑に刻まれた日付を見て昴が考え込む。
「ああ、そうだな。それにこれは……風の環かな」
冴島が記念碑を見上げる。ブロンズで出来た記念碑は風がうねる様子を見事に表現していた。
【風】が環を描き、大きな渦を成しているように見える。
「風のモニュメントと東屋。ここが【風】の家ってことになるのかい?」
ジェームズが昴の方へ視線をよこした。
「他に該当しそうなものは無いですし、今は仮にここを《風の家》としましょう。物語の中では『僕の家から丘が見える』と【風】は言っています。ここから見えるものは……」
そう言って昴は海を背にしてモニュメントの前に立ち、周りを見た。
そこには見渡す限りの丘、丘、丘。
これでは【風】が言う丘がどれのことなのか全く分からない。
「お話の中には、太陽が光でその丘を指し示すシーンがあったはずよ」
りおがそのシーンを思い出しながら、物語の一部分をもう一度話してみせた。
「『僕の家から丘が見える。その丘を越えると畑があるんだ』
風がそう言って太陽を見ました。
太陽は小さくうなずいて、光で指し示します。
『ほら、この方角だよ』」
「確かにそんなシーンがありましたね」
昴が振り返り、記念碑を見た。ふと記念碑の台座に何か説明書きがされている事に気付く。
「こ、これは!!」
説明書きを読んだ昴が叫んだ。
「どうしたんだい?」
冴島とジェームズが昴に問いかける。
「謎が解けましたよ」
「「「えっ!!」」」
ニッコリ微笑む昴を見て、三人は不思議そうに顔を見合わせた。
「この記念碑は、環の中に太陽の光がすっぽり入り込む造りになっているようです。それも年に二回だけ」
昴の説明を聞いたりおがハッと顔を上げた。
「それ、もしかして春分の日と秋分の日なんじゃ……」
「ご名答」
りおの言葉に昴がうなずいた。
「春分の日と秋分の日、太陽は真東から昇って真西に沈みます。つまり太陽が海から昇ればその光はこの環を通ります。そして指し示す方角は……」
「ここから真西の方向!」
「そういうことです」
二人のやり取りを聞いていた冴島は、驚いて声も出ない。
「なんとも粋な謎解きじゃないか」
ジェームズは感嘆の声を上げた。
「そうと分かればここに長居は無用です。りおの顔色も悪い。一度温かい場所に退避しましょう」
昴の提案に二人はうなずいた。
昴、りお、冴島、ジェームズの四人は神奈川県横浜市青茉(あおま)区の風力発電所に来ていた。海風が絶えず吹き、大きな発電用の風車がゆっくりと回っている。
発電所といっても建物があるわけでは無く、小高い丘の上に風車が何機も連なっているだけ。
風車の回転により生み出されたエネルギーは、近くの変圧器から送電線を通って電力会社に集められ、各家庭へと送られる仕組みになっている。
「しかしまあ……風車以外本当に何も無いな」
コートの襟を立てた冴島が肩をすくめた。
「そうですね。もっと建物らしいものがあるのかと思いましたけど……」
昴も周りを見回しため息をつく。右を見ても左を見ても、あるのは風車。
海の方へ目をやれば埋立地に横付けされた大型タンカーと大きな工場が見える。
「りお、寒いのでしょう? 大丈夫ですか?」
強風が吹きつける風車の下で、りおは震えていた。昴が心配げにりおの顔を覗き込む。
「う、うん。大、丈夫……」
言葉とは裏腹にりおの顔は蒼白で、唇にも色がない。
「これは早めに答えを探して移動した方が良いようだ」
グレーヘアを風にたなびかせながら、ジェームズは心配そうにりおの顔を覗き込む。
冴島も「そうだな」と小さくうなずいた。
「で、俺たちが持ってるヒントは『一真の創作話』だけだ。ここに何かヒントが?」
冴島は昴に問いかけた。
「はい。登場人物の【風】には『僕の家から丘が見える。その丘を越えると畑があるんだ』というセリフがあります。
風の家、つまりこの風力発電の周辺だと思ったのですが……」
昴はそう言って辺りを見回した。
「しかし風車は何機も連なっているし、風車以外の建物も無い。【風】が言う『僕の家』とはいったい……」
冴島たちも顔を上げ、遠くを見つめた。が、特に該当するようなものは見受けられない。
地図を広げてみたものの、結果は同じだった。
「ゴホッ…ゴホ……ゴホッ……!」
りおが苦しそうに咳をした。退院から日は経つが体はまだまだ完全ではない。昴が心配そうに背中をさすった。
「ここでは吹き曝しだな。ちょっと陰になっているところを探そう。りおの体も心配だ」
冴島が提案すると「そうだな」とジェームズも同意した。四人は風車がある高台から少し下り、風の吹き込まない場所を探す。
海が見えない位置まで下ると、僅かばかり風の穏やかな場所に出る。
「ここなら幾分マシだろう」
さらに風上に冴島とジェームズが立ち、昴は自分の首からマフラーを取ると、りおの首にかけた。
「ありがとう…ございます」
りおは申し訳なさそうに礼を言った。
「しかし、ずっとココに居る訳にもいかんな。どうする?」
冴島が昴に問いかけた。
「そうですね……」
昴も考え込んだ。ここに来れば何かヒントがあると思っていただけに、これといった妙案は出てこない。
「出直すか」
「そうですね」
気温も低く、りおの体調も良くない。謎解きのヒントも無い。
こういう時は一度引いてみるのも手だ。
冴島と昴がそう話をしていた時、ジェームズがあるものに気付いた。
「ちょっと待ってくれ。あれはなんだ?」
「「え?」」
ジェームズが指さしたところには、小さな看板がある。
木で出来たそれは、大きさがA4サイズほどで高さはほとんどない。別の風車に続く細い道と、今下りてきた道との分岐にひっそりと立っていた。
四人は顔を見合わせ、看板に近づく。
『風の丘 この先400M』
年季の入った看板にはそう記されていた。
「風の丘?」
冴島が首をひねる。
「何だろうね」
ジェームズも不思議そうに看板を見た。
「もしかすると……ですが、そこにモニュメントか何かがあるのではないでしょうか。風車を建設した際の記念に、記念碑とか記念像とか。日本は建設記念にセレモニーをすることが多いので……」
「「「ッ!」」」
りおが外国人であるジェームズにも分かるように説明すると、三人が反応した。
「ってことはそこに何か……」
「え……あ!」
寒さでイマイチ頭が回っていないりおも、冴島の言葉でハッとする。
「行ってみましょう!」
昴の言葉に全員がうなずいた。
再び坂道を上って別の風車の近くまで来ると、先ほどより広い場所に記念碑と小さな東屋が建っていた。
「あれのようです」
四人が近づく。
「この記念碑が建てられたのは……今から三十四年前、のようです。広瀬夫妻が組織を追っていた時にはすでにあった事になりますね」
記念碑に刻まれた日付を見て昴が考え込む。
「ああ、そうだな。それにこれは……風の環かな」
冴島が記念碑を見上げる。ブロンズで出来た記念碑は風がうねる様子を見事に表現していた。
【風】が環を描き、大きな渦を成しているように見える。
「風のモニュメントと東屋。ここが【風】の家ってことになるのかい?」
ジェームズが昴の方へ視線をよこした。
「他に該当しそうなものは無いですし、今は仮にここを《風の家》としましょう。物語の中では『僕の家から丘が見える』と【風】は言っています。ここから見えるものは……」
そう言って昴は海を背にしてモニュメントの前に立ち、周りを見た。
そこには見渡す限りの丘、丘、丘。
これでは【風】が言う丘がどれのことなのか全く分からない。
「お話の中には、太陽が光でその丘を指し示すシーンがあったはずよ」
りおがそのシーンを思い出しながら、物語の一部分をもう一度話してみせた。
「『僕の家から丘が見える。その丘を越えると畑があるんだ』
風がそう言って太陽を見ました。
太陽は小さくうなずいて、光で指し示します。
『ほら、この方角だよ』」
「確かにそんなシーンがありましたね」
昴が振り返り、記念碑を見た。ふと記念碑の台座に何か説明書きがされている事に気付く。
「こ、これは!!」
説明書きを読んだ昴が叫んだ。
「どうしたんだい?」
冴島とジェームズが昴に問いかける。
「謎が解けましたよ」
「「「えっ!!」」」
ニッコリ微笑む昴を見て、三人は不思議そうに顔を見合わせた。
「この記念碑は、環の中に太陽の光がすっぽり入り込む造りになっているようです。それも年に二回だけ」
昴の説明を聞いたりおがハッと顔を上げた。
「それ、もしかして春分の日と秋分の日なんじゃ……」
「ご名答」
りおの言葉に昴がうなずいた。
「春分の日と秋分の日、太陽は真東から昇って真西に沈みます。つまり太陽が海から昇ればその光はこの環を通ります。そして指し示す方角は……」
「ここから真西の方向!」
「そういうことです」
二人のやり取りを聞いていた冴島は、驚いて声も出ない。
「なんとも粋な謎解きじゃないか」
ジェームズは感嘆の声を上げた。
「そうと分かればここに長居は無用です。りおの顔色も悪い。一度温かい場所に退避しましょう」
昴の提案に二人はうなずいた。
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