最終章 ~未来へ向かって~
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その日の夕刻、東都大学理学部——。
帰宅の準備を終え、学生や研究生たちが一斉に玄関へと向かう。
「そういえばさ、星川さんどうしたかな」
「ああ、カフェのテロに巻き込まれたって話だろ? あれからどうなんだろう」
再び大学を長期で休んでいるため、学生たちは皆さくらの身を案じていた。その後方で深田が肩を落とす。
それを見て大石が声をかけた。
「深田、お前星川さんにはメールしたのかよ」
「あ、ああ。二回くらいメールしたかな……。爆発の影響で鼓膜が破れたって聞いた。あと、肺も圧迫されたせいで少し呼吸が苦しいって。
それ以降は……彼氏もいるんだし、俺がしつこく訊くのもなんだな、と思って」
リュックのショルダーストラップをギュッと握りしめ、深田は黙り込む。それを見て大石はため息をついた。
「心配なんだろ? もう一回メールしてみりゃ良いじゃん。『研究室のみんなも心配してる』って付け加えりゃ、変に思わないんじゃないか?」
深田は基本奥手だ。大石はアドバイスのつもりでそう話した。
「う、ん……。たださ、ウワサで聞いたんだけど……。そのテロに巻き込まれた時、星川さん男の人と会ってたみたいなんだ。しかもそれ、彼氏さんじゃないらしいって」
「あ~……それ、俺も工学部の連中から聞いたな~」
大石が頭をかきながら考え込んだ。
深田の言うウワサ話は、理学部だけでなく工学部でも話題になっているらしい。
それまで身持ちが固いと思われていたさくらが、実は『男好き』なのでは、と根も葉もないウワサが飛び交っていた。
「おい、まさかと思うが……ウワサを真に受けてるんじゃないよな?」
「いや、そうじゃないけど……」
ショックを受けているというより、何かを期待するような深田の態度に、大石は眉根を寄せる。
「お前さあ……。もしかして、今回のウワサ話で星川さんと彼氏が別れれば良い、とか思ってる? ウワサがウソでもホントでも、それが二人の耳に入ってケンカ別れでもすればいいって考えてるんじゃないよな?」
「ッ!」
図星を突かれた深田は何も言えず、大石から視線を逸らす。
それを見た大石が盛大にため息をついた。
「それ、星川さんが知ったら速攻嫌われるぞ。
いくら勝てない相手だからって……。相手の不幸を願うってどうなんだよ。好きなら相手のことを信じてやるのが愛ってもんだろ?」
「いや、それは分かるよ! でもさ、俺だったらもっと彼女を守ってやるのにって思うんだ。
テロでケガなんてさせないし、尾沼さんのことで、あんなに憔悴した彼女をほっといたりしない! 俺だったら、もっと彼女を幸せにしてやれるのに……」
深田は大石から視線を逸らしたまま、思わず本音をつぶやいた。
「お前……本気で言ってんの?」
大石はギロリと深田を睨みつけた。自分が知っている深田という男はこんな男だっただろうか?
「とにかく、それ以上余計な事を言うな。お前が知らないだけで、彼氏がちゃんとフォローしてるかもしれないじゃん。部外者が口を出して良い問題じゃないよ! よこしまなことを考えず、心配なら『仲間』として連絡取れよ! いいな‼」
大石は怖い顔をして深田を一瞥すると、さっさと理学部の玄関へと走って行ってしまった。
「仲間として……か。俺だってわかってるよ。星川さんが彼氏さんにゾッコンだってことくらい」
深田は大石が走っていった方向を見ながらつぶやく。
「誰よりも幸せになって欲しいって思うんだよ。でもそれと同じくらい、俺の物にしたいって考えちゃうんだ」
深田は大きなため息をついた。
そんなことを考えるようになったのはつい最近のことだ。
尾沼の訃報を知ってさくらがよろめいた時、深田はとっさに彼女を抱き留めた。
その時に感じた柔らかさ。そして自分の腕の中にすっぽりとおさまってしまうほど華奢な体。
このままずっと抱きしめていたいと思ってしまった。
それと同時に、ほんのわずか感じたタバコの香り。相手の男は喫煙者だと以前誰かから聞いたことがある。
こんなに好きなのに。もう他の誰かのものだなんて——。
深田の胸に、ドロドロとした黒いモノが溢れ出す。
高嶺の花だと諦めていた深田は、この時初めて嫉妬した。『沖矢昴』という大学院生に対して、憎しみを抱いたのだ。
しかし憎いからといって物理的に彼を傷つければ犯罪になる。だったら二人を引き離してしまえば良い。彼らが不仲にさえなってくれたら……。
そう思い始めたら止まらなくなった。どうやったら彼女を自分のものに出来るか。毎日そればかり考えた。
そして行き着いた答えが——。
匿名性の高いSNSでウワサをバラまくことだった。
カフェのテロで別の男と会っていた、というウワサを聞いて、『星川さくらは男好き』『カフェで会っていたのは浮気相手』だとSNSに流したのは深田自身。
ウワサが原因で二人が不仲になれば、あとは彼女に優しい言葉をかけるだけだ。
『俺はあなたを信じます』
疑心暗鬼になった彼氏が、彼女を傷つける言葉を投げかけていれば、その一言で彼女は自分の方へ落ちてくるはず——。
(ウワサが足りないなら、俺がいくらでも作って流してやる。それで星川さんを手に入れられるなら……)
誰もいなくなった理学部の玄関前で、深田はニヤリと口角を上げた。
「おや、そこにいるのは深田君かい?」
突然声をかけられた深田はビクリと体を揺らす。
「あ、教授……」
深田はゆっくり振り向くと、声をかけた人物を確認した。
「ちょうど良かった。人手が足りなくてね。ちょっと手伝ってもらえるかな?」
「え、ええ。俺で良ければ……」
深田はクルリと体の向きを変え、先を歩く教授の後をついて行った。
帰宅の準備を終え、学生や研究生たちが一斉に玄関へと向かう。
「そういえばさ、星川さんどうしたかな」
「ああ、カフェのテロに巻き込まれたって話だろ? あれからどうなんだろう」
再び大学を長期で休んでいるため、学生たちは皆さくらの身を案じていた。その後方で深田が肩を落とす。
それを見て大石が声をかけた。
「深田、お前星川さんにはメールしたのかよ」
「あ、ああ。二回くらいメールしたかな……。爆発の影響で鼓膜が破れたって聞いた。あと、肺も圧迫されたせいで少し呼吸が苦しいって。
それ以降は……彼氏もいるんだし、俺がしつこく訊くのもなんだな、と思って」
リュックのショルダーストラップをギュッと握りしめ、深田は黙り込む。それを見て大石はため息をついた。
「心配なんだろ? もう一回メールしてみりゃ良いじゃん。『研究室のみんなも心配してる』って付け加えりゃ、変に思わないんじゃないか?」
深田は基本奥手だ。大石はアドバイスのつもりでそう話した。
「う、ん……。たださ、ウワサで聞いたんだけど……。そのテロに巻き込まれた時、星川さん男の人と会ってたみたいなんだ。しかもそれ、彼氏さんじゃないらしいって」
「あ~……それ、俺も工学部の連中から聞いたな~」
大石が頭をかきながら考え込んだ。
深田の言うウワサ話は、理学部だけでなく工学部でも話題になっているらしい。
それまで身持ちが固いと思われていたさくらが、実は『男好き』なのでは、と根も葉もないウワサが飛び交っていた。
「おい、まさかと思うが……ウワサを真に受けてるんじゃないよな?」
「いや、そうじゃないけど……」
ショックを受けているというより、何かを期待するような深田の態度に、大石は眉根を寄せる。
「お前さあ……。もしかして、今回のウワサ話で星川さんと彼氏が別れれば良い、とか思ってる? ウワサがウソでもホントでも、それが二人の耳に入ってケンカ別れでもすればいいって考えてるんじゃないよな?」
「ッ!」
図星を突かれた深田は何も言えず、大石から視線を逸らす。
それを見た大石が盛大にため息をついた。
「それ、星川さんが知ったら速攻嫌われるぞ。
いくら勝てない相手だからって……。相手の不幸を願うってどうなんだよ。好きなら相手のことを信じてやるのが愛ってもんだろ?」
「いや、それは分かるよ! でもさ、俺だったらもっと彼女を守ってやるのにって思うんだ。
テロでケガなんてさせないし、尾沼さんのことで、あんなに憔悴した彼女をほっといたりしない! 俺だったら、もっと彼女を幸せにしてやれるのに……」
深田は大石から視線を逸らしたまま、思わず本音をつぶやいた。
「お前……本気で言ってんの?」
大石はギロリと深田を睨みつけた。自分が知っている深田という男はこんな男だっただろうか?
「とにかく、それ以上余計な事を言うな。お前が知らないだけで、彼氏がちゃんとフォローしてるかもしれないじゃん。部外者が口を出して良い問題じゃないよ! よこしまなことを考えず、心配なら『仲間』として連絡取れよ! いいな‼」
大石は怖い顔をして深田を一瞥すると、さっさと理学部の玄関へと走って行ってしまった。
「仲間として……か。俺だってわかってるよ。星川さんが彼氏さんにゾッコンだってことくらい」
深田は大石が走っていった方向を見ながらつぶやく。
「誰よりも幸せになって欲しいって思うんだよ。でもそれと同じくらい、俺の物にしたいって考えちゃうんだ」
深田は大きなため息をついた。
そんなことを考えるようになったのはつい最近のことだ。
尾沼の訃報を知ってさくらがよろめいた時、深田はとっさに彼女を抱き留めた。
その時に感じた柔らかさ。そして自分の腕の中にすっぽりとおさまってしまうほど華奢な体。
このままずっと抱きしめていたいと思ってしまった。
それと同時に、ほんのわずか感じたタバコの香り。相手の男は喫煙者だと以前誰かから聞いたことがある。
こんなに好きなのに。もう他の誰かのものだなんて——。
深田の胸に、ドロドロとした黒いモノが溢れ出す。
高嶺の花だと諦めていた深田は、この時初めて嫉妬した。『沖矢昴』という大学院生に対して、憎しみを抱いたのだ。
しかし憎いからといって物理的に彼を傷つければ犯罪になる。だったら二人を引き離してしまえば良い。彼らが不仲にさえなってくれたら……。
そう思い始めたら止まらなくなった。どうやったら彼女を自分のものに出来るか。毎日そればかり考えた。
そして行き着いた答えが——。
匿名性の高いSNSでウワサをバラまくことだった。
カフェのテロで別の男と会っていた、というウワサを聞いて、『星川さくらは男好き』『カフェで会っていたのは浮気相手』だとSNSに流したのは深田自身。
ウワサが原因で二人が不仲になれば、あとは彼女に優しい言葉をかけるだけだ。
『俺はあなたを信じます』
疑心暗鬼になった彼氏が、彼女を傷つける言葉を投げかけていれば、その一言で彼女は自分の方へ落ちてくるはず——。
(ウワサが足りないなら、俺がいくらでも作って流してやる。それで星川さんを手に入れられるなら……)
誰もいなくなった理学部の玄関前で、深田はニヤリと口角を上げた。
「おや、そこにいるのは深田君かい?」
突然声をかけられた深田はビクリと体を揺らす。
「あ、教授……」
深田はゆっくり振り向くと、声をかけた人物を確認した。
「ちょうど良かった。人手が足りなくてね。ちょっと手伝ってもらえるかな?」
「え、ええ。俺で良ければ……」
深田はクルリと体の向きを変え、先を歩く教授の後をついて行った。