最終章 ~未来へ向かって~
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「実は命の恩人に伝えたいことがあって、今回このようなまどろっこしい方法を使ったんだ。
それゆえ、君があのご夫婦の娘さんなのか、確かめる必要があってね」
顔を上げた衛はジッとさくらの顔を見る。
先ほどとは違い、どこか緊張感を漂わせる衛の顔に、昴はさくら顔を見合わせる。
「広瀬夫妻に伝えたいこと、とは……?」
昴がゆっくりと言葉を選びながら訊ねた。衛は小さくうなずくと一度咳ばらいをした。
「実は、私は病気で引退するまで建築士をしていてね。美術館やホール、商業ビルなどをデザインしていたんだよ。
今では息子が後を継いでいるんだが……その息子から、先日気になることを言われたんだ」
衛はそう言うと、運転席にいた伍井の方へ向く。
伍井はバッグから書類の束を衛に手渡した。
「現在日本は、建築資材のほとんどを海外に依存している。大型タンカーなどで運ばれた資材を、複数のメーカーや企業でシェアしているんだ。
ところが、最近いくつかの資材が契約するメーカーや企業以外のところに流れているようなんだ」
衛は手にした資料を広げ、二人に見せた。
「ここを見てくれ。運ばれた資材を各メーカーや企業が実際に確保した割合だ。これらを足した数がここに書かれている」
衛が指さしたところを見ると、【91%】と書かれていた。
「もちろん、海外の資材は日本の物に比べて品質にばらつきがある。不良品として破棄されるものもあるから、100%になる事はあまりない。かといって、95%を切る事もほとんどないんだ」
三人は過去の資料を並べ、数値を確認した。
確かに【97%】【98%】【99%】【96%】という数が並び、95%未満になったことはない。ところが、ここ4~5か月の間に95%を切る事態が幾度となく発生している。
「つまり、建築資材の一部がどこか別のところに流れている可能性がある、ということですね」
資料を見ながら、昴が衛に問いかけた。
「ああ。しかも二か月ほど前だったか……。息子が出張で出掛けた帰りに不審な大型トレーラーを目撃したんだよ」
「大型トレーラー……ですか?」
都内では見かけない車種にさくらが眉をひそめた。
「ああ。一般の人はあまり目にすることは無いと思う。大きいから普段は真夜中とか、道が混雑しない時間帯を選んで走っているんだ」
衛は建築にあまり詳しくない二人に分かるよう、説明を加えた。
「どこの会社にも属さない、企業名の記載もないトレーラーが複数台、同じ場所を目指して走っていたらしいんだ。
使途不明の資材と不審なトレーラー……。
息子からその事を聞いた時、私は例の組織の事が頭に浮かんだんだ。
なにしろ現場の品質管理に便宜を図れて、尚且つ大がかりな輸送まで出来る奴なんてそうそう居ないだろう?」
「「ッ‼」」
衛の言葉を聞いて二人は息を詰めた。
使途不明の建設資材が意味するもの——。
それが組織によるものであれば、彼らが『どこか』に『何か』を建設していることを意味する。
時期的に考えて——。エンジェルダスト焼失後に本格的に着手した【ビジネス】に関わる施設だということは、容易に推測できる
「しかしそれを確かめることも、誰かに伝えることも出来なかった。
公安警察はすでに私の警護を解いていたし、組織の事は他言無用と言われている。普通に警察に届けたとしても何の証拠も持っていない。
だが、何とも言えない胸騒ぎがして……誰かに伝えなければとずっと思っていた。そんな時、偶然君たちと出会ったんだ」
資料から目を離し、衛は二人を見て微笑んだ。
「君は20年前に私を助けてくれた女性と瓜二つだった。しかし、どう切り出したらいいのか分からなくてね」
困った顔をして頬を掻く衛を見て、さくらはなるほど、と合点がいった。
(ああ、だから……。園城寺邸で衛さんが私に何か言いたそうだったのは、そういうことだったのね……)
子どもたちの後を追おうとしたさくらに、衛が何か言おうとしてやめた時のことをさくらは思い出した。
「それで、そのトレーラーが向かったのは?」
昴は尚も顔をこわばらせ、声を低くして問いかけた。
「彼らが向かっていた場所は——」
「なっ⁉」
「ま、まさか⁉」
衛から聞いた場所を聞いて、二人は驚愕した。
「そ、それが本当に組織によるものだったら……」
「ああ。我々が思っている以上に【ビジネス】の話は進んでいる可能性が高い……」
昴とさくらの顔はさらに焦りの色を濃くした。
「一般人の私が出来ることはここまでです。
お役に立つ情報かどうか分かりませんが、全てあなたたちに託しました。夫妻の代わりに公安に伝えていただけますか?」
二人とは真逆に、衛は安堵の表情を見せた。若い二人を見る衛の目は優しく温かだ。
「はい! 彼らの企みを必ず阻止して見せます」
さくらは真っすぐに衛の顔を見た。
「ふふふ。そうか。ということは……君もご両親と同じ、【公安警察官】なんだね」
「えっ……あっ……は、はい……」
しまった、という顔をしてさくらは下を向く。
「ははははは。大丈夫だよ。君のことは誰にも言わない。少年探偵団にもね! その代わり、一つだけ教えて欲しいことがあるんだ」
「教えて欲しいこと?」
さくらは困り顔のまま衛に訊ねた。
「20年前のあの日、最初に声をかけてくれた女性は《広瀬》と名乗った。
そしてその日の夜、捜査協力への感謝と爆弾解体の連絡をくれた男性警察官も《広瀬》と名乗っていた」
衛は当時の事を思い出しながら、懐かしそうに話す。
「二人がご夫婦であろうことは予想がついた。だが、下の名前を知らないんだ。
公安警察は秘密主義。私の命の恩人は、きっとその功績を称えられることなく、この世を去ったんだろう? だからせめて、私の胸にだけは刻んでおきたいんだ。君の父親と母親の名前。
そして……私の車に爆弾を仕掛けられたことを目撃し、それを母親に伝えてくれた君の、本当の名前も、ね」
だめかな? と期待半分諦め半分の表情で衛はさくらに問いかけた。
さくらはそんな衛に微笑みかける。
「ダメだなんて、そんな……。ぜひ覚えておいて下さい。両親も喜ぶと思います。
父の名は一真。母はルナ。そして私は——広瀬りおと言います」
「一真さんと、ルナさん。そして君の名はりおさん、か。今思えば君のお母さんが一度だけ、その名を口にしていたな」
『りおが、いえ……私の娘が目撃したんです! お願いです。信じてください。事態は一刻を争います!』
初対面だった自分に対し、車を使う事を必死に止めたりおの母。
衛の脳裏には、その時の情景が今でも昨日のことのように蘇る。
「君たち家族のおかげで私の命は未来につながった。その恩は大きすぎて、とても返しきれないけれど……私が出来ることだったら何でもする。何かの時は頼っておいで」
優しく微笑む衛の顔は、まるで子を見る父親のように感じた。
「はい、ありがとうございます」
さくらも満面の笑顔で応えた。
(私には父親がたくさんいるわ。冴島教官にジェームズさん、そして衛さんも……。全ては両親が結んでくれた縁。ありがとう……パパ、ママ)
穏やかな表情を見せるさくらを、昴は優しく見つめていた。
それゆえ、君があのご夫婦の娘さんなのか、確かめる必要があってね」
顔を上げた衛はジッとさくらの顔を見る。
先ほどとは違い、どこか緊張感を漂わせる衛の顔に、昴はさくら顔を見合わせる。
「広瀬夫妻に伝えたいこと、とは……?」
昴がゆっくりと言葉を選びながら訊ねた。衛は小さくうなずくと一度咳ばらいをした。
「実は、私は病気で引退するまで建築士をしていてね。美術館やホール、商業ビルなどをデザインしていたんだよ。
今では息子が後を継いでいるんだが……その息子から、先日気になることを言われたんだ」
衛はそう言うと、運転席にいた伍井の方へ向く。
伍井はバッグから書類の束を衛に手渡した。
「現在日本は、建築資材のほとんどを海外に依存している。大型タンカーなどで運ばれた資材を、複数のメーカーや企業でシェアしているんだ。
ところが、最近いくつかの資材が契約するメーカーや企業以外のところに流れているようなんだ」
衛は手にした資料を広げ、二人に見せた。
「ここを見てくれ。運ばれた資材を各メーカーや企業が実際に確保した割合だ。これらを足した数がここに書かれている」
衛が指さしたところを見ると、【91%】と書かれていた。
「もちろん、海外の資材は日本の物に比べて品質にばらつきがある。不良品として破棄されるものもあるから、100%になる事はあまりない。かといって、95%を切る事もほとんどないんだ」
三人は過去の資料を並べ、数値を確認した。
確かに【97%】【98%】【99%】【96%】という数が並び、95%未満になったことはない。ところが、ここ4~5か月の間に95%を切る事態が幾度となく発生している。
「つまり、建築資材の一部がどこか別のところに流れている可能性がある、ということですね」
資料を見ながら、昴が衛に問いかけた。
「ああ。しかも二か月ほど前だったか……。息子が出張で出掛けた帰りに不審な大型トレーラーを目撃したんだよ」
「大型トレーラー……ですか?」
都内では見かけない車種にさくらが眉をひそめた。
「ああ。一般の人はあまり目にすることは無いと思う。大きいから普段は真夜中とか、道が混雑しない時間帯を選んで走っているんだ」
衛は建築にあまり詳しくない二人に分かるよう、説明を加えた。
「どこの会社にも属さない、企業名の記載もないトレーラーが複数台、同じ場所を目指して走っていたらしいんだ。
使途不明の資材と不審なトレーラー……。
息子からその事を聞いた時、私は例の組織の事が頭に浮かんだんだ。
なにしろ現場の品質管理に便宜を図れて、尚且つ大がかりな輸送まで出来る奴なんてそうそう居ないだろう?」
「「ッ‼」」
衛の言葉を聞いて二人は息を詰めた。
使途不明の建設資材が意味するもの——。
それが組織によるものであれば、彼らが『どこか』に『何か』を建設していることを意味する。
時期的に考えて——。エンジェルダスト焼失後に本格的に着手した【ビジネス】に関わる施設だということは、容易に推測できる
「しかしそれを確かめることも、誰かに伝えることも出来なかった。
公安警察はすでに私の警護を解いていたし、組織の事は他言無用と言われている。普通に警察に届けたとしても何の証拠も持っていない。
だが、何とも言えない胸騒ぎがして……誰かに伝えなければとずっと思っていた。そんな時、偶然君たちと出会ったんだ」
資料から目を離し、衛は二人を見て微笑んだ。
「君は20年前に私を助けてくれた女性と瓜二つだった。しかし、どう切り出したらいいのか分からなくてね」
困った顔をして頬を掻く衛を見て、さくらはなるほど、と合点がいった。
(ああ、だから……。園城寺邸で衛さんが私に何か言いたそうだったのは、そういうことだったのね……)
子どもたちの後を追おうとしたさくらに、衛が何か言おうとしてやめた時のことをさくらは思い出した。
「それで、そのトレーラーが向かったのは?」
昴は尚も顔をこわばらせ、声を低くして問いかけた。
「彼らが向かっていた場所は——」
「なっ⁉」
「ま、まさか⁉」
衛から聞いた場所を聞いて、二人は驚愕した。
「そ、それが本当に組織によるものだったら……」
「ああ。我々が思っている以上に【ビジネス】の話は進んでいる可能性が高い……」
昴とさくらの顔はさらに焦りの色を濃くした。
「一般人の私が出来ることはここまでです。
お役に立つ情報かどうか分かりませんが、全てあなたたちに託しました。夫妻の代わりに公安に伝えていただけますか?」
二人とは真逆に、衛は安堵の表情を見せた。若い二人を見る衛の目は優しく温かだ。
「はい! 彼らの企みを必ず阻止して見せます」
さくらは真っすぐに衛の顔を見た。
「ふふふ。そうか。ということは……君もご両親と同じ、【公安警察官】なんだね」
「えっ……あっ……は、はい……」
しまった、という顔をしてさくらは下を向く。
「ははははは。大丈夫だよ。君のことは誰にも言わない。少年探偵団にもね! その代わり、一つだけ教えて欲しいことがあるんだ」
「教えて欲しいこと?」
さくらは困り顔のまま衛に訊ねた。
「20年前のあの日、最初に声をかけてくれた女性は《広瀬》と名乗った。
そしてその日の夜、捜査協力への感謝と爆弾解体の連絡をくれた男性警察官も《広瀬》と名乗っていた」
衛は当時の事を思い出しながら、懐かしそうに話す。
「二人がご夫婦であろうことは予想がついた。だが、下の名前を知らないんだ。
公安警察は秘密主義。私の命の恩人は、きっとその功績を称えられることなく、この世を去ったんだろう? だからせめて、私の胸にだけは刻んでおきたいんだ。君の父親と母親の名前。
そして……私の車に爆弾を仕掛けられたことを目撃し、それを母親に伝えてくれた君の、本当の名前も、ね」
だめかな? と期待半分諦め半分の表情で衛はさくらに問いかけた。
さくらはそんな衛に微笑みかける。
「ダメだなんて、そんな……。ぜひ覚えておいて下さい。両親も喜ぶと思います。
父の名は一真。母はルナ。そして私は——広瀬りおと言います」
「一真さんと、ルナさん。そして君の名はりおさん、か。今思えば君のお母さんが一度だけ、その名を口にしていたな」
『りおが、いえ……私の娘が目撃したんです! お願いです。信じてください。事態は一刻を争います!』
初対面だった自分に対し、車を使う事を必死に止めたりおの母。
衛の脳裏には、その時の情景が今でも昨日のことのように蘇る。
「君たち家族のおかげで私の命は未来につながった。その恩は大きすぎて、とても返しきれないけれど……私が出来ることだったら何でもする。何かの時は頼っておいで」
優しく微笑む衛の顔は、まるで子を見る父親のように感じた。
「はい、ありがとうございます」
さくらも満面の笑顔で応えた。
(私には父親がたくさんいるわ。冴島教官にジェームズさん、そして衛さんも……。全ては両親が結んでくれた縁。ありがとう……パパ、ママ)
穏やかな表情を見せるさくらを、昴は優しく見つめていた。