最終章 ~未来へ向かって~
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「りお、起きてください。お茶にしませんか?」
昴の声でりおの意識が浮上する。
「う……ん…すば、る…さん? 私…寝ちゃってた…?」
目を擦りながら、りおがソファーから体を起こした。
「ええ。あれだけ言っておいたのに張り切り過ぎです。でもまぁ、お陰で家の中がキレイになりました」
部屋の中をぐるりと見回して昴が微笑む。
掃除も片付けも、やはりりおの方が手際が良いしキレイになる。
「先ほど、探偵団が届けてくれたクッキーを食べませんか? もうじきコーヒーも入りますよ」
「えっ! 子どもたち来たの?」
「ええ。最近、頻繁に園城寺家のお屋敷に遊びに行ってるようですよ。
園城寺さんや調理担当の方と一緒にクッキーを作ったといって持って来てくれました」
さあ、ティータイムしましょうと昴に言われ、りおはソファーから立ち上がった。
ダイニングテーブルにはすでにコーヒーが準備され、あとはカップへ注ぐだけになっている。
昴がコーヒーを淹れている間に、りおが紙袋からクッキーの入った包みを取り出した。
可愛いラッピング袋に入れられ、口はリボンで縛ってある。
「わぁ! カワイイ! きっとこれ選んだのは歩美ちゃんね」
りおが包みを眺め、嬉しそうにリボンを解く。中には絞り出しのクッキーや、ココアのクッキー、そして型抜きクッキーが入っていた。誰が作ったのか容易に想像できる、色んな形のクッキーをお皿に並べ、りおは微笑む。
「ん?」
空になった紙袋をたたもうとした時、中にまだ何か入っている事に気付いた。
「なんだろう」
小さな封筒のようなものを手に取り、表と裏を確認するが、特に何も書いてない。
しっかりと糊付けされた口を開けると、中からメッセージカードが出て来た。
「!」
メッセージを読んだりおが息を飲む。
「どうしました?」
両手にカップを持った昴はテーブルにカップを置き、りおの手元を覗き込んだ。
『次の金曜日午前11時。例の公園の、あの場所にてお会いしましょう』
「園城寺さんからのメッセージでしょうか? しかし《例の公園の、あの場所》とは……?」
メッセージを声に出して読んだ昴は、なんとも要領の得ないメッセージに小首を傾げる。
「東都……東公園」
「え?」
笑顔が消えたりおは、何か確信めいた顔をしてつぶやいた。
「二十年前の秋……金曜日、午前11時。東都東公園駐車場。車に爆弾を仕掛けているカーディナルを目撃した、時間と場所よ」
「なに⁉ やはり彼は、お前が広瀬夫妻の娘だと気付いて……」
昴の顔がサッと険しくなった。
「しかしなぜだ。なぜ今更、お前に会う必要がある?」
昴は衛の行動がどうにも理解できない。
公安からは広瀬夫妻と接触を持つ事や、夫妻に関することは口外しない事、知り得た情報を決して漏らさない事を約束させられたはずだ。
しかも二十年も経って、その娘(かもしれない)りおとコンタクトを取る理由が分からない。
「園城寺さんはとても真面目で真っ当な人だと冴島教官が言ってたわ。その彼がここまでするからには、きっと理由があるんだと思う。
私、園城寺さんに会いに行くわ」
りおの決意に昴は黙ってうなずいた。
金曜日午前11時。
東都東公園駐車場——。
昴の車はりおを乗せ、公園の駐車場に停車した。
コンコン
ほどなくして、車の窓ガラスがノックされた。身なりのきちんとした男性と目が合う。男性は軽く会釈をした。
「あなたは、園城寺家の……」
昴が窓を開けて声をかけた。
「はい。執事長の伍井(いつい)と申します。いつぞやの謎解きの際には、大変お世話になりました」
伍井は笑顔で言うと丁寧に頭を下げた。
「早速ではありますが、旦那様がお待ちでございます。お二人ともこちらへ」
伍井が視線を向けた先には、白いバンが停まっていた。
昴とさくらは、お互いの顔を見ると小さくうなずく。車から降り、伍井の後について行った。
バンの後部座席に二人が乗ると、そこには園城寺衛が待っていた。
「やあ、お二人とも。久しぶりですね。先日は私の道楽にお付き合いをさせて申し訳なかった。だが、おかげで子どもたちとも仲良くなれて、最近は楽しい時間を過ごさせてもらっていますよ」
ニコニコと嬉しそうに話す衛は謎解きをした時と変わらない。子どもたちと過ごす時間が本当に楽しそうだった。
「それは良かった。子どもたちも、とても喜んでいます。先日はお土産をありがとうございました。とてもおいしいクッキーでした」
昴も笑顔で答えた。相手の出方を伺いつつ、当たり障りのない会話が続く。
「ところで……わざわざ今日この時間、この場所を指定したのは……何か理由がおありで?」
和やかな空気をまといながら、昴は確信を突く質問をした。
「金曜の11時。この場所に来られたということは……。やはりあなたは、あのご夫婦の娘さんなのですね?」
笑顔はそのままに、衛はさくらを見る。
「……はい。二十年前この場所で、車に爆弾を仕掛ける人物を目撃しました。そして、それを母に伝えました」
さくらも衛の顔をジッと見つめ、相手の様子を伺う。
「そうか。君のお陰で私は今、こうして生きていられる。だいぶ時間が経ってしまったが、お礼を言わせてもらうよ」
ようやく思いを伝えられた衛は、満足げにほほ笑んだ。
「君のご両親にも世話になった。いつか直接会ってお礼を言いたいと思っていたが、公安警察から止められていてね。でも、こうして君に会えたのも何かの縁だ。ご両親にもお会いできればと思っているが……今、どちらに?」
「……ッ!」
衛の問いかけに、さくらは視線を落とす。何かを言おうとしても、ヒュッと喉が鳴るだけで声が出ない。
ハッハッと浅い呼吸を繰り返した。
「ッ……まさか……!」
尋常ではないさくらの様子に、衛はハッとした。昴がさくらの肩を引き寄せ、優しく抱きしめる。
「……はい。お察しの通りです。これ以上は彼女の為に訊かないであげてください」
昴は片目だけ開けると衛の顔を凝視した。
「そうか……だから公安は……。私のせい、だね。本当にすまない…」
ひざの上に置かれた衛の手は、固く握られている。悲し気に顔を伏せる衛に、さくらは呼吸を整えながら言った。
「いえ、あなたのせいでは…ありません。両親は……警察官としての…職務を全うした。あなたや市民を…守ったのです。私は…二人を誇りに…思います…」
優しく微笑むさくらの顔に、衛は二十年前自分に声をかけてくれた女性の顔を重ね合わせた。
「…そうか……そう言ってもらえると私も救われる…」
衛は祈るように目を伏せ、頭を垂れた。
昴の声でりおの意識が浮上する。
「う……ん…すば、る…さん? 私…寝ちゃってた…?」
目を擦りながら、りおがソファーから体を起こした。
「ええ。あれだけ言っておいたのに張り切り過ぎです。でもまぁ、お陰で家の中がキレイになりました」
部屋の中をぐるりと見回して昴が微笑む。
掃除も片付けも、やはりりおの方が手際が良いしキレイになる。
「先ほど、探偵団が届けてくれたクッキーを食べませんか? もうじきコーヒーも入りますよ」
「えっ! 子どもたち来たの?」
「ええ。最近、頻繁に園城寺家のお屋敷に遊びに行ってるようですよ。
園城寺さんや調理担当の方と一緒にクッキーを作ったといって持って来てくれました」
さあ、ティータイムしましょうと昴に言われ、りおはソファーから立ち上がった。
ダイニングテーブルにはすでにコーヒーが準備され、あとはカップへ注ぐだけになっている。
昴がコーヒーを淹れている間に、りおが紙袋からクッキーの入った包みを取り出した。
可愛いラッピング袋に入れられ、口はリボンで縛ってある。
「わぁ! カワイイ! きっとこれ選んだのは歩美ちゃんね」
りおが包みを眺め、嬉しそうにリボンを解く。中には絞り出しのクッキーや、ココアのクッキー、そして型抜きクッキーが入っていた。誰が作ったのか容易に想像できる、色んな形のクッキーをお皿に並べ、りおは微笑む。
「ん?」
空になった紙袋をたたもうとした時、中にまだ何か入っている事に気付いた。
「なんだろう」
小さな封筒のようなものを手に取り、表と裏を確認するが、特に何も書いてない。
しっかりと糊付けされた口を開けると、中からメッセージカードが出て来た。
「!」
メッセージを読んだりおが息を飲む。
「どうしました?」
両手にカップを持った昴はテーブルにカップを置き、りおの手元を覗き込んだ。
『次の金曜日午前11時。例の公園の、あの場所にてお会いしましょう』
「園城寺さんからのメッセージでしょうか? しかし《例の公園の、あの場所》とは……?」
メッセージを声に出して読んだ昴は、なんとも要領の得ないメッセージに小首を傾げる。
「東都……東公園」
「え?」
笑顔が消えたりおは、何か確信めいた顔をしてつぶやいた。
「二十年前の秋……金曜日、午前11時。東都東公園駐車場。車に爆弾を仕掛けているカーディナルを目撃した、時間と場所よ」
「なに⁉ やはり彼は、お前が広瀬夫妻の娘だと気付いて……」
昴の顔がサッと険しくなった。
「しかしなぜだ。なぜ今更、お前に会う必要がある?」
昴は衛の行動がどうにも理解できない。
公安からは広瀬夫妻と接触を持つ事や、夫妻に関することは口外しない事、知り得た情報を決して漏らさない事を約束させられたはずだ。
しかも二十年も経って、その娘(かもしれない)りおとコンタクトを取る理由が分からない。
「園城寺さんはとても真面目で真っ当な人だと冴島教官が言ってたわ。その彼がここまでするからには、きっと理由があるんだと思う。
私、園城寺さんに会いに行くわ」
りおの決意に昴は黙ってうなずいた。
金曜日午前11時。
東都東公園駐車場——。
昴の車はりおを乗せ、公園の駐車場に停車した。
コンコン
ほどなくして、車の窓ガラスがノックされた。身なりのきちんとした男性と目が合う。男性は軽く会釈をした。
「あなたは、園城寺家の……」
昴が窓を開けて声をかけた。
「はい。執事長の伍井(いつい)と申します。いつぞやの謎解きの際には、大変お世話になりました」
伍井は笑顔で言うと丁寧に頭を下げた。
「早速ではありますが、旦那様がお待ちでございます。お二人ともこちらへ」
伍井が視線を向けた先には、白いバンが停まっていた。
昴とさくらは、お互いの顔を見ると小さくうなずく。車から降り、伍井の後について行った。
バンの後部座席に二人が乗ると、そこには園城寺衛が待っていた。
「やあ、お二人とも。久しぶりですね。先日は私の道楽にお付き合いをさせて申し訳なかった。だが、おかげで子どもたちとも仲良くなれて、最近は楽しい時間を過ごさせてもらっていますよ」
ニコニコと嬉しそうに話す衛は謎解きをした時と変わらない。子どもたちと過ごす時間が本当に楽しそうだった。
「それは良かった。子どもたちも、とても喜んでいます。先日はお土産をありがとうございました。とてもおいしいクッキーでした」
昴も笑顔で答えた。相手の出方を伺いつつ、当たり障りのない会話が続く。
「ところで……わざわざ今日この時間、この場所を指定したのは……何か理由がおありで?」
和やかな空気をまといながら、昴は確信を突く質問をした。
「金曜の11時。この場所に来られたということは……。やはりあなたは、あのご夫婦の娘さんなのですね?」
笑顔はそのままに、衛はさくらを見る。
「……はい。二十年前この場所で、車に爆弾を仕掛ける人物を目撃しました。そして、それを母に伝えました」
さくらも衛の顔をジッと見つめ、相手の様子を伺う。
「そうか。君のお陰で私は今、こうして生きていられる。だいぶ時間が経ってしまったが、お礼を言わせてもらうよ」
ようやく思いを伝えられた衛は、満足げにほほ笑んだ。
「君のご両親にも世話になった。いつか直接会ってお礼を言いたいと思っていたが、公安警察から止められていてね。でも、こうして君に会えたのも何かの縁だ。ご両親にもお会いできればと思っているが……今、どちらに?」
「……ッ!」
衛の問いかけに、さくらは視線を落とす。何かを言おうとしても、ヒュッと喉が鳴るだけで声が出ない。
ハッハッと浅い呼吸を繰り返した。
「ッ……まさか……!」
尋常ではないさくらの様子に、衛はハッとした。昴がさくらの肩を引き寄せ、優しく抱きしめる。
「……はい。お察しの通りです。これ以上は彼女の為に訊かないであげてください」
昴は片目だけ開けると衛の顔を凝視した。
「そうか……だから公安は……。私のせい、だね。本当にすまない…」
ひざの上に置かれた衛の手は、固く握られている。悲し気に顔を伏せる衛に、さくらは呼吸を整えながら言った。
「いえ、あなたのせいでは…ありません。両親は……警察官としての…職務を全うした。あなたや市民を…守ったのです。私は…二人を誇りに…思います…」
優しく微笑むさくらの顔に、衛は二十年前自分に声をかけてくれた女性の顔を重ね合わせた。
「…そうか……そう言ってもらえると私も救われる…」
衛は祈るように目を伏せ、頭を垂れた。