最終章 ~未来へ向かって~
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一夜明けて——
りおはベッドから出ると簡単に着替えを済ませ、ダイニングへと向かった。
「退院してからずっと秀一さん任せだったし、今日は気分も良いから頑張って作ってみようかな」
エプロンを掛けて冷蔵庫を覗く。赤井が作った副菜がいくつか入っていた。
「ふふふ。これ、私が教えた小松菜の胡麻和え。上手に作ってある。じゃあ……これと、厚焼き玉子と……あ、鮭があるから……」
食材を確認しながら朝食のメニューを考えた。
必要なものを一通り冷蔵庫から取り出し、調理に取り掛かる。
米を研いで炊飯器にセットして、味噌汁用の出汁を取って——。
久々の料理は気分転換にもなって、りおは時々鼻歌を歌いながら次々と料理を仕上げていく。
工藤邸のダイニングは魚の焼きあがる匂いと味噌汁の匂いで満たされた。
「起きてたのか……」
くぁっとあくびをしながら、美味しそうな匂いに誘われた赤井がダイニングに顔を出す。
「良い匂いだ。和食は久しぶりだな」
卵焼きを焼くりおを後ろから覗き込む。赤井が作る朝食はベーコンを焼いたりレタスを添えたりが多いので大抵主食はパン。
つまり、りおが退院してからは連日朝はパン食だった。
「うん、冷蔵庫に鮭があったし秀一さんが作った胡麻和えもあったでしょ? もう今日は和食だなって」
ニコリと微笑むりおの顔はほんのり赤みが差し、体調が良い事が分かる。
「ようやく……いつもの、いつも通りの朝が来たな」
皿に卵焼きを盛り付けるりおを見ながら赤井も微笑んだ。
朝食を済ませた二人は、それぞれ次の準備へ。りおは身支度をして家事をこなす。
赤井は変装後、書斎でFBIの仲間とリモート会議に参加した。
赤井からはあまり無理しないように、と言われているものの、見れば外は晴天。ずっと臥せっていたので『今日はシーツを洗うぞ!』と、りおは心に決めていた。
掃除を終えたりおは外に出て二人分の服を干し、次はシーツを取りに戻ろうと家の中に入る。
さすがに少し張り切り過ぎたのか急に疲労感に襲われ、一度リビングへと戻った。
「はぁ……体力落ちたなぁ」
どさりとソファーに腰を下ろし、背もたれに体を預けた。
窓辺を見れば、時々吹く風に工藤邸の木々が揺れ、日の光もそれに合わせて揺れている。
温かな日差し
穏やかな時間
外をボンヤリ眺めているうちに、りおのまぶたが重くなる。やがてスーッと眠りに落ちた。
昴が会議を終え書斎から出るとランドリールームのドアが開いていた。
「ん? りお? 居るのか?」
声をかけて部屋を覗くが、そこにりおの姿は無い。見れば、洗濯機の中には洗いあがったシーツがまだ入っている。
「外で他の洗濯物を干しているのか?」
昴は中のシーツを取り出すとそれを抱えて干場へと向かった。
途中、リビングのドアも開いていたのでひょいと中を覗く。
「フッ。なるほど」
ソファーに座ったりおが気持ち良さそうに眠っていた。昴が近づいてみると、りおは袖をまくり、足元には空になった洗濯カゴがある。ひと目見て状況を察した。
「やれやれ。あれほど無理するなと言ったのに……」
昴は呆れたようにため息をつき、足元にあった洗濯カゴの中に持っていたシーツを入れた。りおを起こさないように戸棚から静かにブランケットを出す。
ふわりと広げたブランケットでりおの体を包むと洗濯カゴを抱えて干場へと向かった。
勝手口から外に出て昴はシーツを広げる。
物干しにかけてシワを伸ばし、風で飛ばされないようにピンチで留めた。
「これで良いだろう」
満足げにシーツを見て昴が微笑む。
そこへ「昴さ~ん!」「にいちゃ〜ん」という子どもたちの声が外壁越しに聞こえた。
「お兄さん! こんにちは~」
「おや、少年探偵団のみなさん、お揃いで。今日も博士のところに遊びに来たのですか?」
玄関の前で子どもたちと顔を合わせた昴は笑顔で声をかけた。
「うん。それと、今日はこれをお兄さんとお姉さんに渡そうと思って来たんだよ」
歩美が手に持っていた紙袋を差し出す。
「私とさくらに、ですか?」
なんでしょう?
昴は不思議そうに紙袋を受け取り、中を覗き込む。
「園城寺衛さんが、謎解きに来てくれた若いカップルに渡して欲しいって、僕達が預かって来たんです」
光彦が得意げになって教えてくれた。
「園城寺さんが?」
昴は不思議そうに小首をかしげた。
「おうよ! じいさん二人に会いたがってたぜ! 今度ぜひ屋敷に遊びに来てくれって言ってたぞ」
元太が嬉しそうに言うと、そうそう! と歩美と光彦もうなずいた。
「中はね、皆で作ったクッキーだよ! お屋敷のお料理作っている人に教えてもらってたくさん作ったの!」
「すっかり園城寺家の方々と仲良しになりましたね」
魔境の謎解き以降、子どもたちは時々園城寺家に遊びに行き、衛の話し相手をしたり一緒にお菓子作りや昔ながらのゲームなどで遊んで交流を深めているらしい。
「お姉さんは? 体調崩したって聞いてから全然会えてないけど……元気なの?」
歩美が心配そうに訊ねた。
「ええ、今日はとても体調が良くて朝食を作ったり洗濯をしていましたけど……さすがにちょっと動き過ぎたのか、ソファーで眠ってしまいました。
でも、だいぶ本調子に戻ってきたのでもうじきみんなとも会えますよ」
「本当!? じゃあ、今度来た時は会えるかなぁ」
歩美の顔がぱっと明るくなった。
「ええ。きっと会えますよ」
昴の言葉に子どもたちは「やった~!」と飛び上がって喜んだ。
「次、絶対会おうね」という伝言を昴に残し、三人は阿笠邸へと向かう。昴は三人が阿笠邸の敷地に入るまで手を振った。
(園城寺衛が俺たちに会いたい理由はなんだ?
彼には公安との約束がある。ただ懐かしいとか、礼を言いたいという訳では無さそうだが……)
昴は子どもたちの姿が見えなくなった後も、受け取った紙袋を見つめ、しばらく立ち尽くした。
***
東都を一望できる、ホテルのスカイラウンジの一角。ベルモットは景色を眺めながらPCを開いていた。
PCの隣にはスマホが置かれ、耳にはヘッドセットをかけている。
ブー、ブー、ブー、ブー……
テーブルの上のスマホが振動すると、ベルモットはヘッドセットの通話ボタンを押した。
「ハァイ、ジン。何か用?」
キーボードをカタカタと打ちながら、電話の相手に声をかけた。
『計画の方はどうなっている?』
「問題ないわ。『彼』とも定期的に連絡取ってるし。ああ、そうそう。『彼』から伝言よ。ちょっと試してみたい実験があるんですって。このあと仕込みをして、短期間のうちに規模の小さな実験をいくつか行うそうよ。今回はこちらの援護は必要ないみたい。で、そっちはどうなの?」
ベルモットは画面から目を離し、窓の外へ視線を向けた。
『こっちは、アロンが間もなく例の作業に取りかかる予定だ。今回狙うところは今までとは比べ物にならないほど強力なセキュリティーを備えている。
中に入り込むだけでかなりの時間がかかるはずだ。作業が始まれば数日は缶詰になる』
「まあ、そうでしょうね」
ベルモットは話をしながら、テーブルの上の紅茶に手を伸ばした。
「ところで、ヘッドハンティングのリストを見たわ。東都大の関係者が多いけど大丈夫なの? 警察にバレたら計画どころでは無くなるんじゃない?」
『仕方ねぇだろ。お前の言う『彼』のご希望なんだ。俺たちが口をはさめることじゃない。
もちろん、それを見越してダミーもいくつか用意してある。万が一、公安やFBIが気付いたところで、何を研究しているか分からなければヤツらも手の打ちようがない。心配するな』
ビジネスが順調に進んでいるためか、今日はジンの機嫌がすこぶる良い。いつもなら適当にあしらう質問にもまともな返答が返ってくる。
珍しいこともあるものね、とベルモットは小さく息を吐いた。
「それで? ラスティーたちには、いつ詳細を知らせる気でいるの?」
ベルモットはここ最近、気になっていることをジンに訊ねた。
『そろそろだとは思っているがラスティーの体調が安定しない。
当初、ヤツにはアロンの補佐をしてもらう予定でいたが、今のところアロン一人でも問題なさそうだし事後報告でも良いだろう。
例の研究室の方も間もなく稼働する。データをごっそり頂いて、研究室が本格的に動き出したら、他の奴らにも知らせれば良いだろう。
今差し迫って奴らに任せる仕事も無いからな』
組織内でも極秘に進めてきた今回の計画。
オドゥムとの対立が激化した最中でもラムに内緒で進めていた為、他の幹部たちにもほとんど知らせていない。
「そう……。出来れば、ラスティーにはギリギリまで知らせないで欲しいの。体調も少しずつ良くなってきているとはいえ、『彼』はラスティーが潜っている理学部の人間だわ。今の彼女にはまだ刺激が強すぎると思うの。コルンが殺った男だって——」
『ベルモット』
ベルモットの言葉にかぶせるように、ジンが名を呼ぶ。
『私情が入り過ぎだ。組織の計画が最優先。邪魔な者は誰であろうと即刻消すし、必要とあらば他の奴らにも全容を話す。お前、俺のやり方にケチをつける気か?』
「ッ!」
キーボードを叩いていたベルモットの指先がピクリと止まった。この男に逆らうとロクな事にはならない。
「いいえ、そんなつもりはないわ。ただあの子が心配なだけ」
『なら今まで通り、何も知らないフリをしていろ。また連絡する』
ブツッ……ツー、ツー、ツー、ツー……
乱暴に切られた電話からは、連続する無機質な音だけが聞こえた。
(今まで通り、知らないフリ……ね…)
ふぅ…と小さなため息をこぼし、ベルモットは再び紅茶を口に運んだ。
りおはベッドから出ると簡単に着替えを済ませ、ダイニングへと向かった。
「退院してからずっと秀一さん任せだったし、今日は気分も良いから頑張って作ってみようかな」
エプロンを掛けて冷蔵庫を覗く。赤井が作った副菜がいくつか入っていた。
「ふふふ。これ、私が教えた小松菜の胡麻和え。上手に作ってある。じゃあ……これと、厚焼き玉子と……あ、鮭があるから……」
食材を確認しながら朝食のメニューを考えた。
必要なものを一通り冷蔵庫から取り出し、調理に取り掛かる。
米を研いで炊飯器にセットして、味噌汁用の出汁を取って——。
久々の料理は気分転換にもなって、りおは時々鼻歌を歌いながら次々と料理を仕上げていく。
工藤邸のダイニングは魚の焼きあがる匂いと味噌汁の匂いで満たされた。
「起きてたのか……」
くぁっとあくびをしながら、美味しそうな匂いに誘われた赤井がダイニングに顔を出す。
「良い匂いだ。和食は久しぶりだな」
卵焼きを焼くりおを後ろから覗き込む。赤井が作る朝食はベーコンを焼いたりレタスを添えたりが多いので大抵主食はパン。
つまり、りおが退院してからは連日朝はパン食だった。
「うん、冷蔵庫に鮭があったし秀一さんが作った胡麻和えもあったでしょ? もう今日は和食だなって」
ニコリと微笑むりおの顔はほんのり赤みが差し、体調が良い事が分かる。
「ようやく……いつもの、いつも通りの朝が来たな」
皿に卵焼きを盛り付けるりおを見ながら赤井も微笑んだ。
朝食を済ませた二人は、それぞれ次の準備へ。りおは身支度をして家事をこなす。
赤井は変装後、書斎でFBIの仲間とリモート会議に参加した。
赤井からはあまり無理しないように、と言われているものの、見れば外は晴天。ずっと臥せっていたので『今日はシーツを洗うぞ!』と、りおは心に決めていた。
掃除を終えたりおは外に出て二人分の服を干し、次はシーツを取りに戻ろうと家の中に入る。
さすがに少し張り切り過ぎたのか急に疲労感に襲われ、一度リビングへと戻った。
「はぁ……体力落ちたなぁ」
どさりとソファーに腰を下ろし、背もたれに体を預けた。
窓辺を見れば、時々吹く風に工藤邸の木々が揺れ、日の光もそれに合わせて揺れている。
温かな日差し
穏やかな時間
外をボンヤリ眺めているうちに、りおのまぶたが重くなる。やがてスーッと眠りに落ちた。
昴が会議を終え書斎から出るとランドリールームのドアが開いていた。
「ん? りお? 居るのか?」
声をかけて部屋を覗くが、そこにりおの姿は無い。見れば、洗濯機の中には洗いあがったシーツがまだ入っている。
「外で他の洗濯物を干しているのか?」
昴は中のシーツを取り出すとそれを抱えて干場へと向かった。
途中、リビングのドアも開いていたのでひょいと中を覗く。
「フッ。なるほど」
ソファーに座ったりおが気持ち良さそうに眠っていた。昴が近づいてみると、りおは袖をまくり、足元には空になった洗濯カゴがある。ひと目見て状況を察した。
「やれやれ。あれほど無理するなと言ったのに……」
昴は呆れたようにため息をつき、足元にあった洗濯カゴの中に持っていたシーツを入れた。りおを起こさないように戸棚から静かにブランケットを出す。
ふわりと広げたブランケットでりおの体を包むと洗濯カゴを抱えて干場へと向かった。
勝手口から外に出て昴はシーツを広げる。
物干しにかけてシワを伸ばし、風で飛ばされないようにピンチで留めた。
「これで良いだろう」
満足げにシーツを見て昴が微笑む。
そこへ「昴さ~ん!」「にいちゃ〜ん」という子どもたちの声が外壁越しに聞こえた。
「お兄さん! こんにちは~」
「おや、少年探偵団のみなさん、お揃いで。今日も博士のところに遊びに来たのですか?」
玄関の前で子どもたちと顔を合わせた昴は笑顔で声をかけた。
「うん。それと、今日はこれをお兄さんとお姉さんに渡そうと思って来たんだよ」
歩美が手に持っていた紙袋を差し出す。
「私とさくらに、ですか?」
なんでしょう?
昴は不思議そうに紙袋を受け取り、中を覗き込む。
「園城寺衛さんが、謎解きに来てくれた若いカップルに渡して欲しいって、僕達が預かって来たんです」
光彦が得意げになって教えてくれた。
「園城寺さんが?」
昴は不思議そうに小首をかしげた。
「おうよ! じいさん二人に会いたがってたぜ! 今度ぜひ屋敷に遊びに来てくれって言ってたぞ」
元太が嬉しそうに言うと、そうそう! と歩美と光彦もうなずいた。
「中はね、皆で作ったクッキーだよ! お屋敷のお料理作っている人に教えてもらってたくさん作ったの!」
「すっかり園城寺家の方々と仲良しになりましたね」
魔境の謎解き以降、子どもたちは時々園城寺家に遊びに行き、衛の話し相手をしたり一緒にお菓子作りや昔ながらのゲームなどで遊んで交流を深めているらしい。
「お姉さんは? 体調崩したって聞いてから全然会えてないけど……元気なの?」
歩美が心配そうに訊ねた。
「ええ、今日はとても体調が良くて朝食を作ったり洗濯をしていましたけど……さすがにちょっと動き過ぎたのか、ソファーで眠ってしまいました。
でも、だいぶ本調子に戻ってきたのでもうじきみんなとも会えますよ」
「本当!? じゃあ、今度来た時は会えるかなぁ」
歩美の顔がぱっと明るくなった。
「ええ。きっと会えますよ」
昴の言葉に子どもたちは「やった~!」と飛び上がって喜んだ。
「次、絶対会おうね」という伝言を昴に残し、三人は阿笠邸へと向かう。昴は三人が阿笠邸の敷地に入るまで手を振った。
(園城寺衛が俺たちに会いたい理由はなんだ?
彼には公安との約束がある。ただ懐かしいとか、礼を言いたいという訳では無さそうだが……)
昴は子どもたちの姿が見えなくなった後も、受け取った紙袋を見つめ、しばらく立ち尽くした。
***
東都を一望できる、ホテルのスカイラウンジの一角。ベルモットは景色を眺めながらPCを開いていた。
PCの隣にはスマホが置かれ、耳にはヘッドセットをかけている。
ブー、ブー、ブー、ブー……
テーブルの上のスマホが振動すると、ベルモットはヘッドセットの通話ボタンを押した。
「ハァイ、ジン。何か用?」
キーボードをカタカタと打ちながら、電話の相手に声をかけた。
『計画の方はどうなっている?』
「問題ないわ。『彼』とも定期的に連絡取ってるし。ああ、そうそう。『彼』から伝言よ。ちょっと試してみたい実験があるんですって。このあと仕込みをして、短期間のうちに規模の小さな実験をいくつか行うそうよ。今回はこちらの援護は必要ないみたい。で、そっちはどうなの?」
ベルモットは画面から目を離し、窓の外へ視線を向けた。
『こっちは、アロンが間もなく例の作業に取りかかる予定だ。今回狙うところは今までとは比べ物にならないほど強力なセキュリティーを備えている。
中に入り込むだけでかなりの時間がかかるはずだ。作業が始まれば数日は缶詰になる』
「まあ、そうでしょうね」
ベルモットは話をしながら、テーブルの上の紅茶に手を伸ばした。
「ところで、ヘッドハンティングのリストを見たわ。東都大の関係者が多いけど大丈夫なの? 警察にバレたら計画どころでは無くなるんじゃない?」
『仕方ねぇだろ。お前の言う『彼』のご希望なんだ。俺たちが口をはさめることじゃない。
もちろん、それを見越してダミーもいくつか用意してある。万が一、公安やFBIが気付いたところで、何を研究しているか分からなければヤツらも手の打ちようがない。心配するな』
ビジネスが順調に進んでいるためか、今日はジンの機嫌がすこぶる良い。いつもなら適当にあしらう質問にもまともな返答が返ってくる。
珍しいこともあるものね、とベルモットは小さく息を吐いた。
「それで? ラスティーたちには、いつ詳細を知らせる気でいるの?」
ベルモットはここ最近、気になっていることをジンに訊ねた。
『そろそろだとは思っているがラスティーの体調が安定しない。
当初、ヤツにはアロンの補佐をしてもらう予定でいたが、今のところアロン一人でも問題なさそうだし事後報告でも良いだろう。
例の研究室の方も間もなく稼働する。データをごっそり頂いて、研究室が本格的に動き出したら、他の奴らにも知らせれば良いだろう。
今差し迫って奴らに任せる仕事も無いからな』
組織内でも極秘に進めてきた今回の計画。
オドゥムとの対立が激化した最中でもラムに内緒で進めていた為、他の幹部たちにもほとんど知らせていない。
「そう……。出来れば、ラスティーにはギリギリまで知らせないで欲しいの。体調も少しずつ良くなってきているとはいえ、『彼』はラスティーが潜っている理学部の人間だわ。今の彼女にはまだ刺激が強すぎると思うの。コルンが殺った男だって——」
『ベルモット』
ベルモットの言葉にかぶせるように、ジンが名を呼ぶ。
『私情が入り過ぎだ。組織の計画が最優先。邪魔な者は誰であろうと即刻消すし、必要とあらば他の奴らにも全容を話す。お前、俺のやり方にケチをつける気か?』
「ッ!」
キーボードを叩いていたベルモットの指先がピクリと止まった。この男に逆らうとロクな事にはならない。
「いいえ、そんなつもりはないわ。ただあの子が心配なだけ」
『なら今まで通り、何も知らないフリをしていろ。また連絡する』
ブツッ……ツー、ツー、ツー、ツー……
乱暴に切られた電話からは、連続する無機質な音だけが聞こえた。
(今まで通り、知らないフリ……ね…)
ふぅ…と小さなため息をこぼし、ベルモットは再び紅茶を口に運んだ。