最終章 ~未来へ向かって~
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工藤邸で謎解きが繰り広げられている頃。
降谷から招集された風見は、警視庁からほど近い公安のセーフハウスを目指していた。
エレベーターを降りて廊下を進み、セキュリティーロックを外す。ドアを開けて中に入ると、すでに降谷とルークが顔を揃えていた。
「遅くなりました」
「風見、悪いな。急に呼び出して」
風見と目を合わせた降谷が声をかける。しかし、その声はいつもと違って緊張しているようだった。
「どうしたんですか?」
見れば、隣にいたルークの表情も硬い。これは何かあったと思い、風見はゴクリとつばを飲み込んだ。
「夕べ赤井を通じて広瀬から連絡が来たんだ。
組織が狙っている場所が少し絞れてきた」
「ほ、本当ですか?」
狙いが分かれば対策の打ちようがある。風見はにわかに活気づいた。
「それが……日本ではなくアメリカだというんだ。アメリカの施設に情報を盗むための『ホール』を開けるらしい」
「ホール、ですか?」
降谷の言わんとしている事が分からず、風見は首をかしげる。
「問題はどこの施設を狙うか、だ。アメリカには重要機密を扱う部署が多い。そのどこを狙うつもりかは、まだ分からない。
しかしどこを狙われても情報が盗まれれば——」
珍しく降谷の顔に焦りが見える。
それもそのはず。どの情報であろうとアメリカの重要機密が組織の手に渡れば、世界はパニックに陥るだろう。NOCリストの比ではない。
それを巡って争いが起き、場合によっては戦争が始まる可能性もあるのだから。
「現在アメリカ政府と情報共有するかどうか検討中だ。事を急げば組織に怪しまれてしまう。
情報漏洩の元を探られれば、広瀬の命が危ない上に、激昂したジンが何をしでかすか分かったものではない。今は狙う施設を絞ることが先決だ」
淡々と述べる降谷に、ルークも小さくうなずいた。
「ユーヤ。実はもう一つ、新たな情報があるんだ」
ルークはそう言ってチラリと降谷を見る。降谷もルークの顔を見てうなずくと、二人は風見の方へ視線を向けた。
「風見、落ち着いて聞いて欲しい。組織は今、ヘッドハンティングに動いている。かなり計画は進んでいると見て間違いない。しかも、声をかけられているのが東都大と関わりがある人物ばかりだ」
「えッ!」
降谷から伝えられた事柄に、風見は声を上げた。
「そ、それはつまり……」
「ああ。君が考えている通りだよ。東都大に【ビジネス】の中心人物がいる」
やや苦しげな表情で降谷は答えた。
「やはり…彼が…」
風見の脳裏に森教授の顔が浮かぶ。現在も隠密に彼の捜査を続けているが、まだ確証はない。しかし、思い当たる人物は彼しかいない。
「ジンたちの【ビジネス】の詳細が分かれば、狙う施設もかなり絞れる。そうなればボスを通じてアメリカにも応援要請も出来るだろう。俺も裏で動いているから、君たち公安も情報収集を頼む。
まあ、そいつを暴くのに一番近い所にいるのはおそらくさくらだ。彼女のフォローを頼むよ」
ポンとルークに肩を叩かれ、風見は「はい」と返事をした。
(結局全部、広瀬にかかっているのか。彼女一人でこの重大な難局を背負って……)
何もできない自分に風見は歯噛みする。
見れば、ルークも降谷も同じように険しい顔をしていた。思っている事は皆同じようだ。
(今悔やんだところで何も解決しない。俺は俺の出来ることをやるだけだ)
風見は腹を決め、顔を上げた。
「あと、そうだ。これも伝えておかなくちゃいけないな」
ルークがジャケットの内ポケットに手を入れた。取り出したのは《カーディナルのノート》だった。
降谷が手を回し、申請を出した日の夜にはルークの手に渡っていた。
「少々骨が折れたが全部確認したよ。ビンゴだった。
32年前にアメリカで起きた『豪華客船爆破事件』の犯人は、カーディナルの師匠《マシュー・メンデス》、コードネーム《ケルヴィー》で間違いない。
ノートには、その時の爆破の仕掛けが事細かに書かれていたよ。陸軍時代に負った古傷が元で体調を崩していたマシューにとって、最後の大仕事だったし難しい爆破だった。
綿密な計算と、それまでの経験や知識を最大限に使った仕事だったようだ」
「……そうですか……」
降谷がノートを受け取り、パラパラと中を見る。びっしりと英語で書かれたメモと、配線や調合、船の構造などの絵が描かれていた。
「しかし、32年前にアメリカで起きた船の爆破と、今回の組織のビジネス。何か関係があるのですか?」
降谷はノートから目を離し、ルークを見る。
「さあ……。関係あるかもしれないし、無いかもしれない。広瀬夫妻が組織を追っていたのは20年も前のことだしね。
だが、組織は何十年も前から何か大きな計画を実現しようと動いているのは事実。広瀬夫妻がその計画の一部に気付いていたとしたら……」
「ッ!!」
降谷はハッと目を見開いた。
「夫妻が組織の【動き】をキャッチしていたのは間違いないんだ。そしてその情報をどこかに隠したことも。
それが今回の【ビジネス】と繋がるかどうかは、そのパンドラの箱を開けてみなけりゃわからん。今はそれを追うしかない」
ルークの顔が先ほどよりも鋭くなる。風見が息を飲んだ。
「彼らが命がけで集めた情報に頼らなければならないほど、俺たちは組織について知らなすぎる。
【新たなビジネス】のことだって、早期に動きを掴んでいながら、結局ヤツらが何を企んでいるのか未だに分かっていない」
「た、確かに……」
ルークの言葉に風見は拳を握りしめた。
ジンがアロン・モーリスについて調べていた事も、アメリカに長期滞在していた事も、情報を得ていながら未だに【ビジネス】の全容解明に至っていない。
「夫妻が隠したとされる情報についてはさくらとシュウが追っている。しかし、彼女の心の状態の事もあるから無理は出来ない。
少しでも役に立てばと、俺も32年前の事件から調べていたんだよ」
——まだまだ真相解明には至っていないから、伝えられるような情報は無いが……。
ルークは悔しそうに下を向いた。
「以前、広瀬が大型船の事件を調べているのは知っていました。まさかそれが彼女の家族と関わりがあったとは……」
大型船が描かれたページを見つめ、降谷がつぶやく。
「ああ、それが悲劇の始まり……。しかしその事件があったからこそ、彼女はこの世に生を受けた。皮肉なもんだよ」
ルークがまっすぐ降谷を見る。
「分かりました。32年前の事件の管轄はFBIです。このノートはそちらで使ってください。上には僕から伝えておきます」
パタンとページを閉じた降谷は、カーディナルのノートを再びルークに手渡す。
「ありがとう、トール」
ルークはノートを受け取った。
点でしかなかった事件や事実が少しずつ繋がっていく。
32年前に起きた船の爆破事件
組織の【新しいビジネス】
広瀬夫妻が遺した情報
その全てが繋がった時、いったい何が自分たちを待ち構えているのか——。
ルークの脳裏にはジェームズの言葉がよぎった。
「その時にね、(ルナから)聞いたんだよ。
『組織は恐ろしいことをしようとしている。
それは彼らの計画のほんの一部に過ぎない。
組織離脱後落ち着いたら、分かっている部分だけでも必ず報告する』と言われていたんだ」
(広瀬夫妻が掴んでいた『恐ろしいこと』…それが今回のビジネスと関係するのか?
32年前に起きた組織内の摩擦。そして【ミカゼカ】という名前でつながった、企業名とジンの言葉……)
ルークは漠然とした不安に駆られ、それを追い払うかのように深く息を吐いた。
降谷から招集された風見は、警視庁からほど近い公安のセーフハウスを目指していた。
エレベーターを降りて廊下を進み、セキュリティーロックを外す。ドアを開けて中に入ると、すでに降谷とルークが顔を揃えていた。
「遅くなりました」
「風見、悪いな。急に呼び出して」
風見と目を合わせた降谷が声をかける。しかし、その声はいつもと違って緊張しているようだった。
「どうしたんですか?」
見れば、隣にいたルークの表情も硬い。これは何かあったと思い、風見はゴクリとつばを飲み込んだ。
「夕べ赤井を通じて広瀬から連絡が来たんだ。
組織が狙っている場所が少し絞れてきた」
「ほ、本当ですか?」
狙いが分かれば対策の打ちようがある。風見はにわかに活気づいた。
「それが……日本ではなくアメリカだというんだ。アメリカの施設に情報を盗むための『ホール』を開けるらしい」
「ホール、ですか?」
降谷の言わんとしている事が分からず、風見は首をかしげる。
「問題はどこの施設を狙うか、だ。アメリカには重要機密を扱う部署が多い。そのどこを狙うつもりかは、まだ分からない。
しかしどこを狙われても情報が盗まれれば——」
珍しく降谷の顔に焦りが見える。
それもそのはず。どの情報であろうとアメリカの重要機密が組織の手に渡れば、世界はパニックに陥るだろう。NOCリストの比ではない。
それを巡って争いが起き、場合によっては戦争が始まる可能性もあるのだから。
「現在アメリカ政府と情報共有するかどうか検討中だ。事を急げば組織に怪しまれてしまう。
情報漏洩の元を探られれば、広瀬の命が危ない上に、激昂したジンが何をしでかすか分かったものではない。今は狙う施設を絞ることが先決だ」
淡々と述べる降谷に、ルークも小さくうなずいた。
「ユーヤ。実はもう一つ、新たな情報があるんだ」
ルークはそう言ってチラリと降谷を見る。降谷もルークの顔を見てうなずくと、二人は風見の方へ視線を向けた。
「風見、落ち着いて聞いて欲しい。組織は今、ヘッドハンティングに動いている。かなり計画は進んでいると見て間違いない。しかも、声をかけられているのが東都大と関わりがある人物ばかりだ」
「えッ!」
降谷から伝えられた事柄に、風見は声を上げた。
「そ、それはつまり……」
「ああ。君が考えている通りだよ。東都大に【ビジネス】の中心人物がいる」
やや苦しげな表情で降谷は答えた。
「やはり…彼が…」
風見の脳裏に森教授の顔が浮かぶ。現在も隠密に彼の捜査を続けているが、まだ確証はない。しかし、思い当たる人物は彼しかいない。
「ジンたちの【ビジネス】の詳細が分かれば、狙う施設もかなり絞れる。そうなればボスを通じてアメリカにも応援要請も出来るだろう。俺も裏で動いているから、君たち公安も情報収集を頼む。
まあ、そいつを暴くのに一番近い所にいるのはおそらくさくらだ。彼女のフォローを頼むよ」
ポンとルークに肩を叩かれ、風見は「はい」と返事をした。
(結局全部、広瀬にかかっているのか。彼女一人でこの重大な難局を背負って……)
何もできない自分に風見は歯噛みする。
見れば、ルークも降谷も同じように険しい顔をしていた。思っている事は皆同じようだ。
(今悔やんだところで何も解決しない。俺は俺の出来ることをやるだけだ)
風見は腹を決め、顔を上げた。
「あと、そうだ。これも伝えておかなくちゃいけないな」
ルークがジャケットの内ポケットに手を入れた。取り出したのは《カーディナルのノート》だった。
降谷が手を回し、申請を出した日の夜にはルークの手に渡っていた。
「少々骨が折れたが全部確認したよ。ビンゴだった。
32年前にアメリカで起きた『豪華客船爆破事件』の犯人は、カーディナルの師匠《マシュー・メンデス》、コードネーム《ケルヴィー》で間違いない。
ノートには、その時の爆破の仕掛けが事細かに書かれていたよ。陸軍時代に負った古傷が元で体調を崩していたマシューにとって、最後の大仕事だったし難しい爆破だった。
綿密な計算と、それまでの経験や知識を最大限に使った仕事だったようだ」
「……そうですか……」
降谷がノートを受け取り、パラパラと中を見る。びっしりと英語で書かれたメモと、配線や調合、船の構造などの絵が描かれていた。
「しかし、32年前にアメリカで起きた船の爆破と、今回の組織のビジネス。何か関係があるのですか?」
降谷はノートから目を離し、ルークを見る。
「さあ……。関係あるかもしれないし、無いかもしれない。広瀬夫妻が組織を追っていたのは20年も前のことだしね。
だが、組織は何十年も前から何か大きな計画を実現しようと動いているのは事実。広瀬夫妻がその計画の一部に気付いていたとしたら……」
「ッ!!」
降谷はハッと目を見開いた。
「夫妻が組織の【動き】をキャッチしていたのは間違いないんだ。そしてその情報をどこかに隠したことも。
それが今回の【ビジネス】と繋がるかどうかは、そのパンドラの箱を開けてみなけりゃわからん。今はそれを追うしかない」
ルークの顔が先ほどよりも鋭くなる。風見が息を飲んだ。
「彼らが命がけで集めた情報に頼らなければならないほど、俺たちは組織について知らなすぎる。
【新たなビジネス】のことだって、早期に動きを掴んでいながら、結局ヤツらが何を企んでいるのか未だに分かっていない」
「た、確かに……」
ルークの言葉に風見は拳を握りしめた。
ジンがアロン・モーリスについて調べていた事も、アメリカに長期滞在していた事も、情報を得ていながら未だに【ビジネス】の全容解明に至っていない。
「夫妻が隠したとされる情報についてはさくらとシュウが追っている。しかし、彼女の心の状態の事もあるから無理は出来ない。
少しでも役に立てばと、俺も32年前の事件から調べていたんだよ」
——まだまだ真相解明には至っていないから、伝えられるような情報は無いが……。
ルークは悔しそうに下を向いた。
「以前、広瀬が大型船の事件を調べているのは知っていました。まさかそれが彼女の家族と関わりがあったとは……」
大型船が描かれたページを見つめ、降谷がつぶやく。
「ああ、それが悲劇の始まり……。しかしその事件があったからこそ、彼女はこの世に生を受けた。皮肉なもんだよ」
ルークがまっすぐ降谷を見る。
「分かりました。32年前の事件の管轄はFBIです。このノートはそちらで使ってください。上には僕から伝えておきます」
パタンとページを閉じた降谷は、カーディナルのノートを再びルークに手渡す。
「ありがとう、トール」
ルークはノートを受け取った。
点でしかなかった事件や事実が少しずつ繋がっていく。
32年前に起きた船の爆破事件
組織の【新しいビジネス】
広瀬夫妻が遺した情報
その全てが繋がった時、いったい何が自分たちを待ち構えているのか——。
ルークの脳裏にはジェームズの言葉がよぎった。
「その時にね、(ルナから)聞いたんだよ。
『組織は恐ろしいことをしようとしている。
それは彼らの計画のほんの一部に過ぎない。
組織離脱後落ち着いたら、分かっている部分だけでも必ず報告する』と言われていたんだ」
(広瀬夫妻が掴んでいた『恐ろしいこと』…それが今回のビジネスと関係するのか?
32年前に起きた組織内の摩擦。そして【ミカゼカ】という名前でつながった、企業名とジンの言葉……)
ルークは漠然とした不安に駆られ、それを追い払うかのように深く息を吐いた。