最終章 ~未来へ向かって~
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翌日——
昼が近くなった頃、昴はりおの様子を見ようとドアをノックした。
「さっきシャワー浴びたの。たくさん寝たからだいぶ楽になったわ」
りおはベッドの上で体を起こし、すっきりした顔をしている。
「そうか……」
昴は安堵の表情を見せ、ズボンのポケットに片手をいれたままベッドに近づいた。
「そういえばエヴァンから連絡が来た。昨夜ジンがヤツの店に来たそうだ。マッチ箱の事を知らせておいたから、うまく立ち回ったようだよ。ジンは不機嫌そうに帰ったそうだ」
「そっか……良かった」
ルークが無事だと聞き、りおは大きく息を吐いた。
「さあ、お前も昨日は無理をしたんだ。今日はゆっくり休め」
「うん」
大きなクッションに身を預けたまま、りおはうなずいた。
「少し横になるか? それならクッションを外してやるが」
「ううん、このままでいい。そうだ、そこの本取ってくれる? まだ途中なの」
「ああ」
りおはサイドテーブルに置いてあった本を指さす。
「ほら。でもあまり根を詰めて読むなよ」
「うん。ありが……」
昴が差し出した本を、りおが礼を言って受け取ろうとしたその時——光が駆け巡るように何かが脳裏をよぎった。
ノイズの入ったモノクロの情景。
子どもの手と大人の手。
二人の手には大きな……本——
「は…ッ………」
「りお? どうした?」
「ほ、本……え…ほん……」
「絵本?」
片手で頭を押さえ、りおが表情を歪ませる。
「絵本がどうかしたのか?」
昴は片膝をつき、りおと目線を合わせた。
「父が……読んでくれた……」
「!」
父親が読んでくれた本——二人の思い出が詰まった本は一つしかない。
「思い出しそうなの……父が…よく読み聞かせてくれたお話……何の絵本なのか……」
靄がかかった頭の中に、ボンヤリと見える何か。きっとそれは、ずっと昔に読み聞かせてもらった大好きなお話——
りおは必死に記憶の糸を手繰る。あと少し。あとちょっとで思い出しそう。
そう思った時だった。
「『三匹の子ブタ』」
「え?」
突然昴が絵本の題名を口にした。
「『三匹の子ブタ』。お前の父親が、よく読み聞かせをした絵本だよ」
驚いた顔をするりおを見て、昴が微笑む。
ちょっと待ってろ、といって部屋を出て行った。
次に部屋に戻って来た時、昴は一冊の絵本を手にしていた。
「冴島さんが持っていたものだ。警察学校を卒業する直前——お前が家を売ると決めた時に、冴島さんがこっそり持ち出したものだ。
他の絵本と違い、使い込まれていた。きっと家族の思い出の本に違いないと」
そう言って昴は絵本をりおに手渡した。
使い込まれた絵本は、手で触れたところはやや擦り切れている。長い年月の中で色あせ、くすんだ色をしていたが、その他の傷みはなく大事に使っていたのが分かる。
りおはそっとページをめくった。
三匹の兄弟ブタが母親に言われてそれぞれ家を建てる。
わらの家、木の家、レンガの家。
出来上がった家に悪いオオカミが近づく。
わらの家も木の家も、あっという間に壊されて残るはレンガの家だけ。
結局レンガの家を壊すことは出来ず、悪いオオカミはグラグラ煮え立つ鍋の中に落ちて死んでしまう。
鍋の中に落ちてしまったオオカミの絵が、少しだけかすれていた。
「オオカミが可哀想だからと、小さなお前は何度もこの本を読めとねだったそうだ。
オオカミが助かって欲しい。そう願いながら」
かつて、りおの母がジェームズに話したことを、昴はりおに伝えた。
「ああ……思い出した……。そうよ…オオカミが可哀想で……父に…助けてあげてって…そうお願いした…」
りおはそっとオオカミの絵を人差し指でなぞった。
「あ、あぁ…あ…」
りおの脳裏に父との時間が蘇る。それはまるで、闇夜に打ち上げられた色鮮やかな花火のようだった。
優しい父の声。そして繰り返し繰り返し聞いた、父が作った『でたらめなお話』
原作を無視した娘のためだけの——
「しゅ、秀一さん! 冴島教官とジェームズさんを呼んで! 今すぐ!!」
体の不調も忘れ、りおが叫ぶ。
「ッ! りお…お前…」
驚く昴に向かって、りおは大きくうなずいた。
1時間後——
工藤邸のリビングに冴島とジェームズが顔を揃えた。
そこへ昴と共にりおが入ってくる。ゆっくりとソファーに座ると、昴はブランケットをりおの膝に掛けた。
「お二人とも……お忙しいのにお呼び立てして申し訳ありません。20年も経ってしまいましたが……父と母からのメッセージをお二人にお聞かせします」
「「ッ‼」」
りおの言葉に、冴島とジェームズが息を飲んだ。
「『無事に脱出出来たら、冴島のところに行け。そしてジェームズにも連絡を取り、二人と会えたら《ペンダント》を持ってパパと作った《でたらめなお話》をしろ』
これが最期のメッセージです。そして、父が作ってくれた《でたらめなお話》…それを今からお二人にお話します」
りおは二人の顔を見ると、一度目を閉じ深呼吸をした。
「大丈夫か、りお」
昴が小さな声で問いかけた。
「うん」
りおはそっと目を開け、父と作った童話を語り始めた。
昼が近くなった頃、昴はりおの様子を見ようとドアをノックした。
「さっきシャワー浴びたの。たくさん寝たからだいぶ楽になったわ」
りおはベッドの上で体を起こし、すっきりした顔をしている。
「そうか……」
昴は安堵の表情を見せ、ズボンのポケットに片手をいれたままベッドに近づいた。
「そういえばエヴァンから連絡が来た。昨夜ジンがヤツの店に来たそうだ。マッチ箱の事を知らせておいたから、うまく立ち回ったようだよ。ジンは不機嫌そうに帰ったそうだ」
「そっか……良かった」
ルークが無事だと聞き、りおは大きく息を吐いた。
「さあ、お前も昨日は無理をしたんだ。今日はゆっくり休め」
「うん」
大きなクッションに身を預けたまま、りおはうなずいた。
「少し横になるか? それならクッションを外してやるが」
「ううん、このままでいい。そうだ、そこの本取ってくれる? まだ途中なの」
「ああ」
りおはサイドテーブルに置いてあった本を指さす。
「ほら。でもあまり根を詰めて読むなよ」
「うん。ありが……」
昴が差し出した本を、りおが礼を言って受け取ろうとしたその時——光が駆け巡るように何かが脳裏をよぎった。
ノイズの入ったモノクロの情景。
子どもの手と大人の手。
二人の手には大きな……本——
「は…ッ………」
「りお? どうした?」
「ほ、本……え…ほん……」
「絵本?」
片手で頭を押さえ、りおが表情を歪ませる。
「絵本がどうかしたのか?」
昴は片膝をつき、りおと目線を合わせた。
「父が……読んでくれた……」
「!」
父親が読んでくれた本——二人の思い出が詰まった本は一つしかない。
「思い出しそうなの……父が…よく読み聞かせてくれたお話……何の絵本なのか……」
靄がかかった頭の中に、ボンヤリと見える何か。きっとそれは、ずっと昔に読み聞かせてもらった大好きなお話——
りおは必死に記憶の糸を手繰る。あと少し。あとちょっとで思い出しそう。
そう思った時だった。
「『三匹の子ブタ』」
「え?」
突然昴が絵本の題名を口にした。
「『三匹の子ブタ』。お前の父親が、よく読み聞かせをした絵本だよ」
驚いた顔をするりおを見て、昴が微笑む。
ちょっと待ってろ、といって部屋を出て行った。
次に部屋に戻って来た時、昴は一冊の絵本を手にしていた。
「冴島さんが持っていたものだ。警察学校を卒業する直前——お前が家を売ると決めた時に、冴島さんがこっそり持ち出したものだ。
他の絵本と違い、使い込まれていた。きっと家族の思い出の本に違いないと」
そう言って昴は絵本をりおに手渡した。
使い込まれた絵本は、手で触れたところはやや擦り切れている。長い年月の中で色あせ、くすんだ色をしていたが、その他の傷みはなく大事に使っていたのが分かる。
りおはそっとページをめくった。
三匹の兄弟ブタが母親に言われてそれぞれ家を建てる。
わらの家、木の家、レンガの家。
出来上がった家に悪いオオカミが近づく。
わらの家も木の家も、あっという間に壊されて残るはレンガの家だけ。
結局レンガの家を壊すことは出来ず、悪いオオカミはグラグラ煮え立つ鍋の中に落ちて死んでしまう。
鍋の中に落ちてしまったオオカミの絵が、少しだけかすれていた。
「オオカミが可哀想だからと、小さなお前は何度もこの本を読めとねだったそうだ。
オオカミが助かって欲しい。そう願いながら」
かつて、りおの母がジェームズに話したことを、昴はりおに伝えた。
「ああ……思い出した……。そうよ…オオカミが可哀想で……父に…助けてあげてって…そうお願いした…」
りおはそっとオオカミの絵を人差し指でなぞった。
「あ、あぁ…あ…」
りおの脳裏に父との時間が蘇る。それはまるで、闇夜に打ち上げられた色鮮やかな花火のようだった。
優しい父の声。そして繰り返し繰り返し聞いた、父が作った『でたらめなお話』
原作を無視した娘のためだけの——
「しゅ、秀一さん! 冴島教官とジェームズさんを呼んで! 今すぐ!!」
体の不調も忘れ、りおが叫ぶ。
「ッ! りお…お前…」
驚く昴に向かって、りおは大きくうなずいた。
1時間後——
工藤邸のリビングに冴島とジェームズが顔を揃えた。
そこへ昴と共にりおが入ってくる。ゆっくりとソファーに座ると、昴はブランケットをりおの膝に掛けた。
「お二人とも……お忙しいのにお呼び立てして申し訳ありません。20年も経ってしまいましたが……父と母からのメッセージをお二人にお聞かせします」
「「ッ‼」」
りおの言葉に、冴島とジェームズが息を飲んだ。
「『無事に脱出出来たら、冴島のところに行け。そしてジェームズにも連絡を取り、二人と会えたら《ペンダント》を持ってパパと作った《でたらめなお話》をしろ』
これが最期のメッセージです。そして、父が作ってくれた《でたらめなお話》…それを今からお二人にお話します」
りおは二人の顔を見ると、一度目を閉じ深呼吸をした。
「大丈夫か、りお」
昴が小さな声で問いかけた。
「うん」
りおはそっと目を開け、父と作った童話を語り始めた。
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