最終章 ~未来へ向かって~
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その日の夜10時——
ようやく工藤邸に帰り着いたりおは、そのまま玄関に倒れ込んだ。
「ほらみろ。無茶するからだ」
りおを抱きかかえ部屋を移動する赤井は、怒りを通り越して呆れ顔でりおに言った。
「ごめん……。でも無茶しただけの対価は得て来たわよ」
りおは青い顔で微笑む。
「情報も大事だが、お前はもう少し自分を大事にしなきゃダメだ。海での教訓が活かされていない。そろそろ冴島さんの……いや、その前に俺の雷が落ちるぞ」
怖い顔をして赤井はりおを見る。
「ご…ごめんなさい……」
りおは赤井の首にしがみついたまま、顔を伏せた。
ベッドに寝かされ、赤井が布団をかける。
「そういえば食事は取ったのか? 食べてないなら何か作ろう」
赤井がりおに問いかけた。
「ううん。ベルモットのところで少し食べたの。秀一さんは? 夕飯食べた?」
「俺はさっき食べたよ。お前に教わった通り、炊き込みご飯をおにぎりにしてトースターで焼いてみたんだ。香ばしくて美味かったよ。具だくさんの味噌汁とよく合って、なかなかだった」
「そう、よかった」
赤井がちゃんと食事をしたと聞いて、りおは安堵の表情を浮かべる。その顔はもう眠ってしまいそうだった。
「ゆっくりお休み。マッチ箱のことと、アメリカの施設の件は俺からエヴァンと降谷くん、それからジェームズにも伝えておく。続きは明日の朝聞くから」
「うん……お願い……ね…」
やっと言葉を絞り出し、りおはそのまま眠りに落ちる。
「ふぅ。まったく……心配は尽きないな」
無事に戻ったことに安堵し、赤井は大きなため息をつく。
りおの頬をそっと撫で、ポケットからスマホを取り出すと部屋を後にした。
深夜2時を過ぎた頃——
黒髪に口髭をたくわえたマスターが店じまいを始める。布巾を持って各テーブルを回り、一つ一つ丁寧に拭いた。
店に客はおらず、薄暗い間接照明の中で黙々と片付けを続ける。
カラン……
突如店のドアベルが鳴り、男が一人入ってきた。
「もう店じまいか? 一杯だけ飲めるか?」
「ええ。もうこんな時間ですから、お客さんは来ないかと思ってました。良いですよ。カウンター席でよろしいですか?」
マスターが顔を上げ、笑顔で出迎える。
入ってきた男は銀色の長髪を揺らし、カウンター席に座った。
「イエロー・パロットを頼む」
「かしこまりました」
オーダーを聞いたマスターは、カチャカチャと準備を始めた。その様子を男はジッと見ている。お互い何もしゃべらず、店内には静かなジャズだけが流れた。
「お待たせいたしました」
店の名前が入ったコースターに、マスターは出来上がったばかりのカクテルを置いた。
尚も男はしゃべらない。じっと置かれたカクテルに視線を落とす。
マスターは使った道具を片付ける為、男に背を向けた。
その様子にぐっと眉根を寄せた男が、コートのポケットから何かを取り出すとカウンターに置いた。
「マスター。このマッチの持ち主を知っているか?」
男がようやく口を開いた。
マスターが振り向く。
「マッチ……ですか?」
マスターは不思議そうに男を見ると、カウンターのマッチ箱に視線を移す。
「店の名前が入っていますから、ウチのマッチには違いないですが、誰が持って行ったかなんて……うわぁっ!! しかもこれッ! 血が付いてるじゃないですか!!」
マッチ箱にべっとりと付いた血の跡を見て、マスターが飛び上がった。その拍子に足元にあった空き瓶を蹴り倒したのか、店内にはハデな音が響き渡る。
その様子に、男は「チッ!」と舌打ちをした。
容易く自分に背中を向け、尚且つこの程度の血に驚くマスターの反応に、不機嫌さを顕にする。
(ズブの素人か。てっきりFBIか公安の手練かと思ったが……)
男は足元の空瓶を片付けるマスターを睨みつけた。
「閉店前に邪魔したな」
男は立ち上がると、カウンターに一万円札を置く。再び銀の長髪を揺らし店を出て行った。
店内は再びマスターだけになった。
相変わらず静かなジャズが流れている。さっきと変わったことといえば、一口も飲まれていないカクテルと一万円札、血の付いたマッチ箱がカウンターに置かれていることだった。
「イエロー・パロット。カクテル言葉は〈騙されない〉か……」
フン。口ほどにも無い男だ、とマスターはそのマッチ箱を手に取る。
「ダニー……」
戻れるなら、このマッチを手渡した時に戻りたい。ルークはマッチ箱を握りしめ、静かに涙を流した。