最終章 ~未来へ向かって~
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その日の夕方——
昴のスマホに一本の電話がかかってきた。
「もしもし? エヴァン?」
チョーカーの電源を切った昴が問いかける。電話は繋がっているが相手の応答はない。
「……どうした? 何かあったのか?」
長い沈黙。昴はただならぬものを感じ、低い声で再び問いかけた。
『……シュウ、カーディナルの師匠のことが分かったぞ。コードネームは《ケルヴィー》本名《マシュー・メンデス》
元はアメリカ陸軍の少佐だった男だ。軍では爆破物のエキスパート。戦争で負ったケガが原因で軍を退役。その後の待遇に不満を抱き、アメリカに反旗を翻したらしい。
退役後は色々流れて、最終的に組織の爆破担当としての地位を築いた。まだ船の爆破についての関与は分からんが、32年前、体の衰えを理由に弟子にその座を譲っている』
昴の問いかけには答えず、ルークはカーディナルの師匠について詳細に説明した。
「この短期間で良くそこまで調べたな」
昴は驚きの声を上げた。ルークは小さく『ああ』と答える。
『ダニーが……全部調べてくれたんだ。自分の命と引き換えに』
「なに?」
命と? 昴はカッと目を見開き、ルークに問いかけた。
『今朝、遺体で発見されたんだ。ちらっとしか見えなかったが、酷い暴行を受けて顔が分からないくらい腫れていた。最後はおそらく……頭を撃たれた』
「ッ‼ その始末の仕方は……!」
『ああ。間違いなく……ジンだろうな』
そこまで言って、ルークの口からは嗚咽が漏れた。
『さっき郵便が届いたんだ。小さな封筒に……ヤツの字でいっぱいのメモが。報告はメールしてくることもあったが、アナログが一番安心だって言って、ヤツはいつも郵便を使ってた。万が一の時、俺のところまで疑いの目が向かないように……』
ルークは絞り出すように言葉を発した。
『アイツ……子どもの頃から知ってるんだ。親に捨てられて……スラム街でガリガリにやせ細っててさ。物乞いとスリをして、やっと生きてたんだ。
スラム街で炊き出しをしたら、泣きながらそれを食って……学校へ行きたいって俺に言ったんだ。勉強して働いて、普通の暮らしがしたいって』
涙ながらに話すルークに昴は言葉を失う。
『教会に小さな学びの場を作ったら、アイツが一番にそこの生徒になったんだよ。
暴動で学びの場は無くなり、アイツはストリートギャングになった。でも何年かして、読み書きを覚えて悪いことから足を洗ったんだ。
まっとうな職にもついたが、過去を探られて解雇されて……。そのうちギャング時代の顔の広さを利用し、情報屋まがいな事をするようになってさ。実績を積み、日本で俺が起こした事件を聞いて追いかけて来たんだよ…なのに……』
「そうか……」
これまでずっとダニーを見守ってきたルークの悲しみを思えば、昴はかけるべき言葉を見つけられない。
ただ、一つだけ確認しなければならない事があった。
「エヴァン……一つだけ気がかりなことがある。ヤツが始末をつけたということは……お前の正体が……」
最悪の事態を考えて、昴は唇を噛む。しかし電話の向こうのルークは平然としていた。
『ダニーは、きっと何もしゃべっちゃいない。そういうヤツだよ』
「本人がしゃべらずとも、お前と関わりがあったんだ。今すぐ身を隠せ。ジンはどんな小さな痕跡でもすぐに嗅ぎつける」
執念深く、並外れた洞察力を持つジン。ルークと対峙すれば正体に気付かれる可能性がある。
死んだはずの『ノエル』が生きて、組織の諜報活動をしているとバレれば——
『俺は逃げないよ』
昴の意に反して、ルークはキッパリと言い放った。
「お前、何言って……」
『ダニーを信じてるんだ。だから、俺は逃げない。今の俺はしがないBARのマスター。それ以上でも以下でもない。ジンが来るなら……いらっしゃいと愛想笑いを振りまくだけだ』
淀みのないその言葉を聞いて、説得は無理だと昴は悟った。
ルークとの通話を切った昴が、深いため息をつく。
「何かあったのね?」
近くで聞いていたりおが昴を見る。
「ああ。エヴァンの仲間がジンに捕まって……殺された」
「‼」
りおに真実をつげるかどうか一瞬迷ったが、隠したところでいつかバレる。昴は正直に話した。
「それって……ジンにルークの正体がバレたってこと?」
「いや、エヴァンは『何もしゃべってないだろう』と言っていた。だが、本人がしゃべらなくとも、所持品の中にヤツに繋がるものがあれば……」
「確かにそうね……」
りおは表情を歪ませ下を向いた。しばらく黙っていたが、何かを決心したかのように顔を上げる。
「ねえ、私アジトに行って様子を見てくる」
「な⁉ バカなこと言うな。その体でアジトになんか……」
「事態は一刻を争うわ。ジンがどこまで掴んでいるのか、それだけでも調べてくる!」
昴が止めるのもきかず、りおはサッと立ち上がると準備を整え、組織のアジトへと向かった。
昴のスマホに一本の電話がかかってきた。
「もしもし? エヴァン?」
チョーカーの電源を切った昴が問いかける。電話は繋がっているが相手の応答はない。
「……どうした? 何かあったのか?」
長い沈黙。昴はただならぬものを感じ、低い声で再び問いかけた。
『……シュウ、カーディナルの師匠のことが分かったぞ。コードネームは《ケルヴィー》本名《マシュー・メンデス》
元はアメリカ陸軍の少佐だった男だ。軍では爆破物のエキスパート。戦争で負ったケガが原因で軍を退役。その後の待遇に不満を抱き、アメリカに反旗を翻したらしい。
退役後は色々流れて、最終的に組織の爆破担当としての地位を築いた。まだ船の爆破についての関与は分からんが、32年前、体の衰えを理由に弟子にその座を譲っている』
昴の問いかけには答えず、ルークはカーディナルの師匠について詳細に説明した。
「この短期間で良くそこまで調べたな」
昴は驚きの声を上げた。ルークは小さく『ああ』と答える。
『ダニーが……全部調べてくれたんだ。自分の命と引き換えに』
「なに?」
命と? 昴はカッと目を見開き、ルークに問いかけた。
『今朝、遺体で発見されたんだ。ちらっとしか見えなかったが、酷い暴行を受けて顔が分からないくらい腫れていた。最後はおそらく……頭を撃たれた』
「ッ‼ その始末の仕方は……!」
『ああ。間違いなく……ジンだろうな』
そこまで言って、ルークの口からは嗚咽が漏れた。
『さっき郵便が届いたんだ。小さな封筒に……ヤツの字でいっぱいのメモが。報告はメールしてくることもあったが、アナログが一番安心だって言って、ヤツはいつも郵便を使ってた。万が一の時、俺のところまで疑いの目が向かないように……』
ルークは絞り出すように言葉を発した。
『アイツ……子どもの頃から知ってるんだ。親に捨てられて……スラム街でガリガリにやせ細っててさ。物乞いとスリをして、やっと生きてたんだ。
スラム街で炊き出しをしたら、泣きながらそれを食って……学校へ行きたいって俺に言ったんだ。勉強して働いて、普通の暮らしがしたいって』
涙ながらに話すルークに昴は言葉を失う。
『教会に小さな学びの場を作ったら、アイツが一番にそこの生徒になったんだよ。
暴動で学びの場は無くなり、アイツはストリートギャングになった。でも何年かして、読み書きを覚えて悪いことから足を洗ったんだ。
まっとうな職にもついたが、過去を探られて解雇されて……。そのうちギャング時代の顔の広さを利用し、情報屋まがいな事をするようになってさ。実績を積み、日本で俺が起こした事件を聞いて追いかけて来たんだよ…なのに……』
「そうか……」
これまでずっとダニーを見守ってきたルークの悲しみを思えば、昴はかけるべき言葉を見つけられない。
ただ、一つだけ確認しなければならない事があった。
「エヴァン……一つだけ気がかりなことがある。ヤツが始末をつけたということは……お前の正体が……」
最悪の事態を考えて、昴は唇を噛む。しかし電話の向こうのルークは平然としていた。
『ダニーは、きっと何もしゃべっちゃいない。そういうヤツだよ』
「本人がしゃべらずとも、お前と関わりがあったんだ。今すぐ身を隠せ。ジンはどんな小さな痕跡でもすぐに嗅ぎつける」
執念深く、並外れた洞察力を持つジン。ルークと対峙すれば正体に気付かれる可能性がある。
死んだはずの『ノエル』が生きて、組織の諜報活動をしているとバレれば——
『俺は逃げないよ』
昴の意に反して、ルークはキッパリと言い放った。
「お前、何言って……」
『ダニーを信じてるんだ。だから、俺は逃げない。今の俺はしがないBARのマスター。それ以上でも以下でもない。ジンが来るなら……いらっしゃいと愛想笑いを振りまくだけだ』
淀みのないその言葉を聞いて、説得は無理だと昴は悟った。
ルークとの通話を切った昴が、深いため息をつく。
「何かあったのね?」
近くで聞いていたりおが昴を見る。
「ああ。エヴァンの仲間がジンに捕まって……殺された」
「‼」
りおに真実をつげるかどうか一瞬迷ったが、隠したところでいつかバレる。昴は正直に話した。
「それって……ジンにルークの正体がバレたってこと?」
「いや、エヴァンは『何もしゃべってないだろう』と言っていた。だが、本人がしゃべらなくとも、所持品の中にヤツに繋がるものがあれば……」
「確かにそうね……」
りおは表情を歪ませ下を向いた。しばらく黙っていたが、何かを決心したかのように顔を上げる。
「ねえ、私アジトに行って様子を見てくる」
「な⁉ バカなこと言うな。その体でアジトになんか……」
「事態は一刻を争うわ。ジンがどこまで掴んでいるのか、それだけでも調べてくる!」
昴が止めるのもきかず、りおはサッと立ち上がると準備を整え、組織のアジトへと向かった。