最終章 ~未来へ向かって~
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ルークから依頼を受けたダニーは、すぐさま行動を開始する。組織と繋がっているとウワサされる人物や、かつて組織に所属し今は隠居生活を送る者などに目星を付けた。
裏社会のつてを使ってターゲットの所在が明らかになると、周到に計画を立てて彼らとコンタクトを取る。カーディナルよりも前に存在した『爆破担当者』を入念に調べた。
数日後——
「え~っと……32年前に日本で起きた小さな爆破事件。この事件の少し前から《カーディナル》は爆破担当として組織内に周知されていた……と。
但し、カーディナル以前の爆破担当者についてはコードネームも知られておらず、その存在自体トップシークレットってわけか……」
その日、ダニーは繁華街の小さな居酒屋にいた。チェーン店のそこは座席が個室になっていて、周りの視線や音も気にならない。
テーブルに小さなメモ紙を数枚広げ、手に入れた情報を整理していく。
「だが、ようやくカーディナルの《師匠》ってヤツのコードネームが分かった。ホント、苦労したぜ……」
ダニーはしわくちゃになったメモを取り出すと「ふぅ、」と安堵のため息を漏らした。
「コイツの爆破テクニックは完璧。まさに芸術品だったと多くの人物が証言していた。
だが、カーディナルが仕事を引き継いでからは、忽然と姿を消している。やっぱりアニキが睨んだ通りかもしれないな……」
ダニーはメモに書かれたコードネームの下にその男の本名と経歴を書き入れた。
「これでアニキからの任務は完了だな」
ダニーはポケットに入っていた《シリウス》と書かれたマッチ箱を弄びながら、ボソリとつぶやく。
メモ紙を小さく折りたたむと、フッと得意げに笑みをこぼした。
居酒屋を出たダニーは繁華街を歩き、小さなポストのある角を曲がってそのまま真っすぐ大通りに向かった。
繁華街から外れたその道は街灯の数も少なく、少し暗く感じる。平日のせいもあって人通りも少ない。
あと数メートルで大通りに出る、というところで、ダニーは後ろから誰かがつけて来ることに気付いた。
(誰だ? 組織の人間か?)
ダニーは後ろの気配に細心の注意を払う。どうやら向こうはひとり。居酒屋を出てしばらく行ったところで、コソコソと後ろをつけていたらしい。しかし、相手が一人ならば撒くのは容易い。大通りに出たら一気に走り出し、知り尽くした裏通りを駆使すれば追手を振り切れると考えていた。
後ろを気にするダニーの目の前に、物陰から男がぬっと現れた。尾行者ばかり気にしていたダニーは男の存在に気付かない。
ドン……
そのまま男と肩同士がぶつかった。
「Oh、sor……」
謝罪をしようと顔を向ける。
「お前、怪しい……俺と車、乗る」
黒いキャップとサングラスをかけた男がニィッと薄笑いを浮かべていた。
**
ベルモットがアジトに到着した時、アジトの駐車場にはコルンの車が無造作に停めてあった。何事かと思いながら、ベルモットは自室へと足を向ける。
駐車場から自室へ向かう廊下の途中、ある部屋から激しい物音が聞こえてきた。
「いったい何の音?」
ベルモットは訝しげに部屋へと近づいた。
「入るな」
突然後ろから声が聞こえた。
「ッ! コルン? 一体何の騒ぎ? ずいぶんにぎやかだけど」
声のした方に振り向き、ベルモットが問いかける。
「ネズミ捕まえた……ジン、ヤツの飼い主吐かせる。楽しそう……」
「ああ、なるほど」
コルンの短い言葉で状況を理解したベルモットが、小さく何度かうなずいた。
「つまり、ここ最近組織を嗅ぎまわっていたネズミを捕まえたのね。で、痛めつけて……雇い主を吐かせてるってことかしら」
「ああ」
自分が言わんとしていたことが通じて、コルンはニヤァと嬉しそうに笑う。
その間も、部屋からは激しい音がひっきりなしに響いていた。
「ジンのヤツ、これじゃあ雇い主を吐く前に死んじゃうわ」
少し止めに入った方が良いのでは、とベルモットがドアに手を掛けた。その時——
パァン!
短い銃声が一発響いた。
ベルモットとコルンが顔を見合わせる。
まさかと思いながら、ベルモットは部屋のドアを開けた。
「ジン! 今の音……」
二人が部屋に入ると、後ろ手に縛られた男が床に転がっていた。その周りには、ゆっくりと血だまりが広がっていく。
ジンの左手には銃が握られ、銃口からはゆらりと煙が揺れていた。
ベルモットが再び倒れている男に目を向ける。
頭を撃たれ、男は息絶えていた。
ウォッカが男に近づき、身体検査をするようにポケットをまさぐる。
「アニキ」
ウォッカが取り出したのは血まみれになったマッチ箱。タバコとは別のポケットにしまわれていた。
通常ならば同じポケットに入っているはずのそれ。なぜ別々にしまわれていたのか。
ジンがニヤリと笑う。
「その店、何か匂うな」
翌日朝——
警視庁に『堤無津川の河川敷で遺体発見』の一報が入る。捜査一課の高木と佐藤はサイレンを鳴らし、現場へと急行した。
「ご苦労様です」
規制線をくぐって制服警官に声をかけると、ブルーシートのかかった遺体へと二人は近づいた。白い手袋をはめ、シートをめくる。
「‼」
激しい暴行で顔が腫れあがり、至近距離で撃たれた頭部には損傷が見られる。とても直視できない有様だった。
二人はグッと奥歯を噛みしめ、シートを戻す。
「それで? 遺体の身元は?」
気持ちを切り替えるように、佐藤は近くの警官に声をかけた。
「身元が分かるものが一切無く、顔も腫れているため、今のところ不明です」
「所持品は?」
「財布がありました。現金はそのままでしたが、キャッシュカードや免許証などは入っていませんでした」
「そう……」
髪や肌の色などの身体的特徴からして、欧米人であることには違いない。身元を示すものが無いとすれば、不法滞在の外国人の可能性もある。
身元不明の不法滞在者が事件に巻き込まれた場合、手がかりが少なく犯人検挙は難しい。
佐藤はがっくりと肩を落とした。
そんな現場の様子を、パーカーを目深に被った男が野次馬に紛れて見ていた。グッと拳を握りしめ、身動き一つしないでブルーシートを凝視する。やがて人込みの中へと消えていった。
裏社会のつてを使ってターゲットの所在が明らかになると、周到に計画を立てて彼らとコンタクトを取る。カーディナルよりも前に存在した『爆破担当者』を入念に調べた。
数日後——
「え~っと……32年前に日本で起きた小さな爆破事件。この事件の少し前から《カーディナル》は爆破担当として組織内に周知されていた……と。
但し、カーディナル以前の爆破担当者についてはコードネームも知られておらず、その存在自体トップシークレットってわけか……」
その日、ダニーは繁華街の小さな居酒屋にいた。チェーン店のそこは座席が個室になっていて、周りの視線や音も気にならない。
テーブルに小さなメモ紙を数枚広げ、手に入れた情報を整理していく。
「だが、ようやくカーディナルの《師匠》ってヤツのコードネームが分かった。ホント、苦労したぜ……」
ダニーはしわくちゃになったメモを取り出すと「ふぅ、」と安堵のため息を漏らした。
「コイツの爆破テクニックは完璧。まさに芸術品だったと多くの人物が証言していた。
だが、カーディナルが仕事を引き継いでからは、忽然と姿を消している。やっぱりアニキが睨んだ通りかもしれないな……」
ダニーはメモに書かれたコードネームの下にその男の本名と経歴を書き入れた。
「これでアニキからの任務は完了だな」
ダニーはポケットに入っていた《シリウス》と書かれたマッチ箱を弄びながら、ボソリとつぶやく。
メモ紙を小さく折りたたむと、フッと得意げに笑みをこぼした。
居酒屋を出たダニーは繁華街を歩き、小さなポストのある角を曲がってそのまま真っすぐ大通りに向かった。
繁華街から外れたその道は街灯の数も少なく、少し暗く感じる。平日のせいもあって人通りも少ない。
あと数メートルで大通りに出る、というところで、ダニーは後ろから誰かがつけて来ることに気付いた。
(誰だ? 組織の人間か?)
ダニーは後ろの気配に細心の注意を払う。どうやら向こうはひとり。居酒屋を出てしばらく行ったところで、コソコソと後ろをつけていたらしい。しかし、相手が一人ならば撒くのは容易い。大通りに出たら一気に走り出し、知り尽くした裏通りを駆使すれば追手を振り切れると考えていた。
後ろを気にするダニーの目の前に、物陰から男がぬっと現れた。尾行者ばかり気にしていたダニーは男の存在に気付かない。
ドン……
そのまま男と肩同士がぶつかった。
「Oh、sor……」
謝罪をしようと顔を向ける。
「お前、怪しい……俺と車、乗る」
黒いキャップとサングラスをかけた男がニィッと薄笑いを浮かべていた。
**
ベルモットがアジトに到着した時、アジトの駐車場にはコルンの車が無造作に停めてあった。何事かと思いながら、ベルモットは自室へと足を向ける。
駐車場から自室へ向かう廊下の途中、ある部屋から激しい物音が聞こえてきた。
「いったい何の音?」
ベルモットは訝しげに部屋へと近づいた。
「入るな」
突然後ろから声が聞こえた。
「ッ! コルン? 一体何の騒ぎ? ずいぶんにぎやかだけど」
声のした方に振り向き、ベルモットが問いかける。
「ネズミ捕まえた……ジン、ヤツの飼い主吐かせる。楽しそう……」
「ああ、なるほど」
コルンの短い言葉で状況を理解したベルモットが、小さく何度かうなずいた。
「つまり、ここ最近組織を嗅ぎまわっていたネズミを捕まえたのね。で、痛めつけて……雇い主を吐かせてるってことかしら」
「ああ」
自分が言わんとしていたことが通じて、コルンはニヤァと嬉しそうに笑う。
その間も、部屋からは激しい音がひっきりなしに響いていた。
「ジンのヤツ、これじゃあ雇い主を吐く前に死んじゃうわ」
少し止めに入った方が良いのでは、とベルモットがドアに手を掛けた。その時——
パァン!
短い銃声が一発響いた。
ベルモットとコルンが顔を見合わせる。
まさかと思いながら、ベルモットは部屋のドアを開けた。
「ジン! 今の音……」
二人が部屋に入ると、後ろ手に縛られた男が床に転がっていた。その周りには、ゆっくりと血だまりが広がっていく。
ジンの左手には銃が握られ、銃口からはゆらりと煙が揺れていた。
ベルモットが再び倒れている男に目を向ける。
頭を撃たれ、男は息絶えていた。
ウォッカが男に近づき、身体検査をするようにポケットをまさぐる。
「アニキ」
ウォッカが取り出したのは血まみれになったマッチ箱。タバコとは別のポケットにしまわれていた。
通常ならば同じポケットに入っているはずのそれ。なぜ別々にしまわれていたのか。
ジンがニヤリと笑う。
「その店、何か匂うな」
翌日朝——
警視庁に『堤無津川の河川敷で遺体発見』の一報が入る。捜査一課の高木と佐藤はサイレンを鳴らし、現場へと急行した。
「ご苦労様です」
規制線をくぐって制服警官に声をかけると、ブルーシートのかかった遺体へと二人は近づいた。白い手袋をはめ、シートをめくる。
「‼」
激しい暴行で顔が腫れあがり、至近距離で撃たれた頭部には損傷が見られる。とても直視できない有様だった。
二人はグッと奥歯を噛みしめ、シートを戻す。
「それで? 遺体の身元は?」
気持ちを切り替えるように、佐藤は近くの警官に声をかけた。
「身元が分かるものが一切無く、顔も腫れているため、今のところ不明です」
「所持品は?」
「財布がありました。現金はそのままでしたが、キャッシュカードや免許証などは入っていませんでした」
「そう……」
髪や肌の色などの身体的特徴からして、欧米人であることには違いない。身元を示すものが無いとすれば、不法滞在の外国人の可能性もある。
身元不明の不法滞在者が事件に巻き込まれた場合、手がかりが少なく犯人検挙は難しい。
佐藤はがっくりと肩を落とした。
そんな現場の様子を、パーカーを目深に被った男が野次馬に紛れて見ていた。グッと拳を握りしめ、身動き一つしないでブルーシートを凝視する。やがて人込みの中へと消えていった。