最終章 ~未来へ向かって~
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話を終え、工藤邸を出たルークは米花町を歩き、東都タワーに近いファストフード店に入る。セットメニューを頼んで席についた。
やがて一人の男が店にやってくると、飲み物を頼んでルークの隣に座った。
「珍しいですね、アニキがファストフードなんて」
男は山盛りのポテトを見て目を丸くした。
「たまに食べたくなるんだよ。日本の料理も好きだが、アメリカで食ってたものが恋しくなる時もあってね」
「確かに」と笑って男は頼んだばかりのコーラのフタを取り、勢いよく喉に流し込んだ。
「1本だけ良いっすか?」
プパッとカップから口を離した男が、今度はポケットからタバコを取り出す。
「ああ。ここは喫煙スペースだし、良いんじゃないか」
「じゃ、遠慮なく」
男は胸ポケットをまさぐり、タバコを取り出した。
「あ、いっけね。ライター忘れた」
「ったく、相変わらずだな。ホラ、店のマッチ。ちょうどポケットにあったからお前にやるよ」
ルークは『シリウス』と書かれた店のマッチを男に手渡す。
アニキの店のマッチっすね! といって男は嬉しそうにそれを受け取った。
「ところでダニー、一つ頼まれてくれるか?」
ルークはコーヒーを一口飲むと男の顔を見た。
「ええ、もちろんです。オレ、アニキの舎弟として役に立てるように、日本での仕事も一生懸命覚えたんっすよ」
ダニーと呼ばれた男はパッと表情を明るくして、火のついたタバコを灰皿に置いた。
「そうか……できれば俺は…お前にこんな仕事はさせたくなかったんだが……」
ダニーとは正反対に、ルークは表情を曇らせる。
「何言ってるんです! スラム街で餓死寸前のオレに、温かい食い物と読み書きを教えてくれたのはアニキです。アニキが手を差し伸べてくれなかったら、オレはあの時とっくに死んでいた。
暴動でコーディーたちが死んで、その仇もアニキが取ってくれたんだ。そのアニキの役に立つなら、オレ何でもします!」
ダニーの真剣な眼差しがルークをとらえる。
光の加減で色が変わるヘーゼルの瞳。ルークへの強い信頼と覚悟が見て取れた。
「お前の気持ちは分かったよ。わざわざ俺を追って日本にまで来たんだもんな」
コーディーの兄の死後、ダニーはストリートギャングから足を洗っていた。しばらく職を転々としていたが、最近では本国でも情報屋として活躍していた。
そして、日本で起きた『ミシェル』の事件を知り、ルークの為にアメリカから飛んできたのだ。その熱意に参ったとでも言うように、ルークは微笑んだ。
「《カーディナル》について追加の調査だ。
ヤツに爆破技術を伝授した《師匠》がいるらしいんだ。そいつが何者か調べてくれ」
「分かりました」
ダニーは力強くうなずいた。
「頼んだぞ。だが……決して無理はするな。お前の命が最優先。いいな」
「分かってますよ。じゃ!」
タバコをグイッと灰皿に押し付けてダニーは席を立つ。空になったカップを掴むとゴミ箱に放り込み、店を出て行った。
(フン……。初めて会った時はスリや物乞いでやっと生きていた子どもが……たくましくなったもんだ)
当時の事を思い出し、ルークはフフッと笑みをこぼした。頬杖をついて店の出入り口に視線を送る。
ガラスの自動ドアが閉まった先に見える、ダニーの後姿から何となく目が離せない。
(無茶だけはするなよ)
もう一度念ずるように心の中でつぶやいて、ルークはコーヒーを喉に流し込んだ。
夕方——
こっそりとポアロの近くに立ち寄ったルークは、RX-7が停まっている駐車場で時間を潰していた。
そこへバイトを終えた安室がやってくる。
「よう! トール(透)!」
「おや、こんな所で待ち伏せですか?」
ニコリと微笑んだ安室はポケットから車のキーを取り出した。
「お送りしますよ。乗って下さい」
「お~! 助かるよ~」
カチャリとロックの開く音を聞いたルークは、嬉しそうに助手席のドアを開けた。
ブロロロ~……
駐車場を出たRX-7は、軽快なエンジン音を響かせながら大通りを疾走する。
運転する安室の横でルークはシートを少しだけ倒し、周りの景色を楽しんでいた。
「カーディナルの所持していたノートなら申請を出しておきました。他に何か?」
前を見据えたまま安室がルークに問いかけた。
「ああ。実は……組織の【ビジネス】について、気になることがあってね」
ルークは先程までとは違う《情報屋》としての鋭い目を安室に向ける。それを横目に見て、安室の表情もスッと引き締まった。
「世界中の名だたる研究者に《組織》から声がかかっているようなんだ。
詳細は明かされていないが破格の金が積まれている。まあ、いわゆるヘッドハンティングだな」
ルークは持っていたバッグからファイルを取り出した。
入っていた資料には国名と人名、そしてその人物の所属や肩書が英語で書かれている。
「研究分野は多岐に渡っていて、いったい何を研究しようとしているのかは分からない。おそらく情報漏洩に備えての、かく乱の意味もあるんだろう。
ただ気になるのは、このヘッドハンティングされているのが、東都大と関わっている人物が多いことなんだ。もちろん全員がそうなわけでは無いが……」
ルークは資料を広げ、チェックが付いている部分を指さした。
「ここにチェックが入っているのが、東都大と関わりがある、または関わりがあった人物。
過去に別の研究で提携していたり、所属する研究所の代表者が東都大のOBだったり。
もちろん、東都大は優秀な大学だから研究分野も多岐に渡るし、学会で注目されている研究者が多いのも確かさ。でも、ちょっと数が多いなと思ってね」
「つまり……東都大の中に組織の協力者が居るかもしれない、と?」
運転をしながらチラリと資料を見た安室がルークに問いかけた。
「ああ。可能性がある、としか言えないけどね」
「なるほど。その事をさくらさんには?」
「いや、まだ伝えていない」
黄色から赤に変わった信号を見て、安室がギアをおとす。車は停止線の前でゆっくり止まった。
「実はまだ捜査中ですが、疑わしい行動を取る人物が一人います。今のところ、その人物が黒だという決定打も無い。白でも黒でもない、グレーな人物。
しかもその人物は、公安の《協力者》として登録されています」
淡々と話す安室に対し、ルークはカッと目を見開いた。
「おい、それマジか。もし黒だったら、とんでもないことだぞ。情報が漏れることもそうだが、そんな人物を公安の《協力者》にした責任問題だって浮上するってことだ」
そうなれば、当然その人物を《協力者》として登録した風見も、それを許可した降谷(安室)も責任を問われるということだ。
「今は報告を待つしかありません。僕は……白だと信じたい。さくらさんを……いや、広瀬をずっと見守ってくれた人だから」
安室はハンドルをグッと握りしめる。ルークは黙ってそれを見つめていた。
やがて一人の男が店にやってくると、飲み物を頼んでルークの隣に座った。
「珍しいですね、アニキがファストフードなんて」
男は山盛りのポテトを見て目を丸くした。
「たまに食べたくなるんだよ。日本の料理も好きだが、アメリカで食ってたものが恋しくなる時もあってね」
「確かに」と笑って男は頼んだばかりのコーラのフタを取り、勢いよく喉に流し込んだ。
「1本だけ良いっすか?」
プパッとカップから口を離した男が、今度はポケットからタバコを取り出す。
「ああ。ここは喫煙スペースだし、良いんじゃないか」
「じゃ、遠慮なく」
男は胸ポケットをまさぐり、タバコを取り出した。
「あ、いっけね。ライター忘れた」
「ったく、相変わらずだな。ホラ、店のマッチ。ちょうどポケットにあったからお前にやるよ」
ルークは『シリウス』と書かれた店のマッチを男に手渡す。
アニキの店のマッチっすね! といって男は嬉しそうにそれを受け取った。
「ところでダニー、一つ頼まれてくれるか?」
ルークはコーヒーを一口飲むと男の顔を見た。
「ええ、もちろんです。オレ、アニキの舎弟として役に立てるように、日本での仕事も一生懸命覚えたんっすよ」
ダニーと呼ばれた男はパッと表情を明るくして、火のついたタバコを灰皿に置いた。
「そうか……できれば俺は…お前にこんな仕事はさせたくなかったんだが……」
ダニーとは正反対に、ルークは表情を曇らせる。
「何言ってるんです! スラム街で餓死寸前のオレに、温かい食い物と読み書きを教えてくれたのはアニキです。アニキが手を差し伸べてくれなかったら、オレはあの時とっくに死んでいた。
暴動でコーディーたちが死んで、その仇もアニキが取ってくれたんだ。そのアニキの役に立つなら、オレ何でもします!」
ダニーの真剣な眼差しがルークをとらえる。
光の加減で色が変わるヘーゼルの瞳。ルークへの強い信頼と覚悟が見て取れた。
「お前の気持ちは分かったよ。わざわざ俺を追って日本にまで来たんだもんな」
コーディーの兄の死後、ダニーはストリートギャングから足を洗っていた。しばらく職を転々としていたが、最近では本国でも情報屋として活躍していた。
そして、日本で起きた『ミシェル』の事件を知り、ルークの為にアメリカから飛んできたのだ。その熱意に参ったとでも言うように、ルークは微笑んだ。
「《カーディナル》について追加の調査だ。
ヤツに爆破技術を伝授した《師匠》がいるらしいんだ。そいつが何者か調べてくれ」
「分かりました」
ダニーは力強くうなずいた。
「頼んだぞ。だが……決して無理はするな。お前の命が最優先。いいな」
「分かってますよ。じゃ!」
タバコをグイッと灰皿に押し付けてダニーは席を立つ。空になったカップを掴むとゴミ箱に放り込み、店を出て行った。
(フン……。初めて会った時はスリや物乞いでやっと生きていた子どもが……たくましくなったもんだ)
当時の事を思い出し、ルークはフフッと笑みをこぼした。頬杖をついて店の出入り口に視線を送る。
ガラスの自動ドアが閉まった先に見える、ダニーの後姿から何となく目が離せない。
(無茶だけはするなよ)
もう一度念ずるように心の中でつぶやいて、ルークはコーヒーを喉に流し込んだ。
夕方——
こっそりとポアロの近くに立ち寄ったルークは、RX-7が停まっている駐車場で時間を潰していた。
そこへバイトを終えた安室がやってくる。
「よう! トール(透)!」
「おや、こんな所で待ち伏せですか?」
ニコリと微笑んだ安室はポケットから車のキーを取り出した。
「お送りしますよ。乗って下さい」
「お~! 助かるよ~」
カチャリとロックの開く音を聞いたルークは、嬉しそうに助手席のドアを開けた。
ブロロロ~……
駐車場を出たRX-7は、軽快なエンジン音を響かせながら大通りを疾走する。
運転する安室の横でルークはシートを少しだけ倒し、周りの景色を楽しんでいた。
「カーディナルの所持していたノートなら申請を出しておきました。他に何か?」
前を見据えたまま安室がルークに問いかけた。
「ああ。実は……組織の【ビジネス】について、気になることがあってね」
ルークは先程までとは違う《情報屋》としての鋭い目を安室に向ける。それを横目に見て、安室の表情もスッと引き締まった。
「世界中の名だたる研究者に《組織》から声がかかっているようなんだ。
詳細は明かされていないが破格の金が積まれている。まあ、いわゆるヘッドハンティングだな」
ルークは持っていたバッグからファイルを取り出した。
入っていた資料には国名と人名、そしてその人物の所属や肩書が英語で書かれている。
「研究分野は多岐に渡っていて、いったい何を研究しようとしているのかは分からない。おそらく情報漏洩に備えての、かく乱の意味もあるんだろう。
ただ気になるのは、このヘッドハンティングされているのが、東都大と関わっている人物が多いことなんだ。もちろん全員がそうなわけでは無いが……」
ルークは資料を広げ、チェックが付いている部分を指さした。
「ここにチェックが入っているのが、東都大と関わりがある、または関わりがあった人物。
過去に別の研究で提携していたり、所属する研究所の代表者が東都大のOBだったり。
もちろん、東都大は優秀な大学だから研究分野も多岐に渡るし、学会で注目されている研究者が多いのも確かさ。でも、ちょっと数が多いなと思ってね」
「つまり……東都大の中に組織の協力者が居るかもしれない、と?」
運転をしながらチラリと資料を見た安室がルークに問いかけた。
「ああ。可能性がある、としか言えないけどね」
「なるほど。その事をさくらさんには?」
「いや、まだ伝えていない」
黄色から赤に変わった信号を見て、安室がギアをおとす。車は停止線の前でゆっくり止まった。
「実はまだ捜査中ですが、疑わしい行動を取る人物が一人います。今のところ、その人物が黒だという決定打も無い。白でも黒でもない、グレーな人物。
しかもその人物は、公安の《協力者》として登録されています」
淡々と話す安室に対し、ルークはカッと目を見開いた。
「おい、それマジか。もし黒だったら、とんでもないことだぞ。情報が漏れることもそうだが、そんな人物を公安の《協力者》にした責任問題だって浮上するってことだ」
そうなれば、当然その人物を《協力者》として登録した風見も、それを許可した降谷(安室)も責任を問われるということだ。
「今は報告を待つしかありません。僕は……白だと信じたい。さくらさんを……いや、広瀬をずっと見守ってくれた人だから」
安室はハンドルをグッと握りしめる。ルークは黙ってそれを見つめていた。