最終章 ~未来へ向かって~
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「ところで今日は見舞いがてら、お前たちに伝えたいことがあって来たんだ」
コーヒーを半分ほど飲んだところで、ルークが真剣な面持ちで切り出した。
「伝えたいこと?」
昴が顔を上げる。りおも不思議そうにルークの顔を見た。
「さくら。お前の両親は、32年前にアメリカで起きた『大型旅客船爆破事件』をきっかけに知り合ったんだったよな」
「えっ! どうしてそれを……」
動揺するりおの膝からパサリとブランケットが落ちた。
「あ~、驚かせて悪い。実はだいぶ前にボスから頼まれて、お前の両親のことを調べていたんだ。少しでもお前の負担を減らせないかって。
お前たちも知っての通り広瀬夫妻は組織を追っていた。もしかしたら、彼らの持っていた情報の中に【今】につながる情報があるんじゃないかって、ボスは考えていてね」
りおの緊張をほぐそうと、ルークは頭をかきながら少しおどけた表情で答えた。
「なにしろ、夫妻が亡くなってから20年も経っているし、調査も難航していてね〜。だが、一つだけ有力な情報を得たんだ。それをお前たちに伝えようと思って」
そう言うと、ルークはバッグから分厚いファイルを取り出す。以前りおも借りたことがあるFBIの捜査資料だった。
「夫妻は『大型旅客船爆破事件』を追っていた。だから、俺もここから調査を開始したんだ」
取り出した捜査資料をテーブルに置くと、ルークは最初のページを開いた。
「この資料によれば、船の所有者は日本の企業で『株式会社 深風香(ミカゼカ)研究所』。主に健康食品や健康器具なんかを販売していたようだ。
当時全く無名の企業が大型旅客船を所有し、尚且つアメリカの港で船上パーティーやクルージングを計画した。そして、その船が突如爆破された。
FBIは多くの謎が残るこの事件に疑問を持ち、日本に捜査チームを送った。そのメンバーの一人が、お前の母親であるルナ・グリーンだ。
当時の捜査では、この企業の詳細は全く掴めなかった。しかし、ルナが公安の広瀬刑事と組んで捜査する中でこの企業の名が過去に一度だけ世に出たことがある、と分かったんだ」
「一度だけ?」
りおは身を乗り出し、食い入るようにルークの顔を見つめる。
「ああ。今から50年近く前——お前の両親たちにとっては20年近く前だが——烏丸グループの傘下で、薬の研究をする企業の中にこの名があったんだ。ルナは当時、上司だったジェームズにその事をほのめかしている。
もっとも、ルナたちが情報を得た時は、まだ確定的ではなかったらしく、企業名と『烏丸』というキーワードは明かさなかった」
ルークはメモ紙を取り出すとサラサラと書き込んだ。
「二人が掴んだ名は『実風花(ミカゼカ)製薬』。使っている漢字や職種は違うが、同じ【ミカゼカ】と読む。ちょっと珍しい名前だろ?
しかし、その企業は1年足らずで消えている。
夫妻はその事実をキッカケに、船の事件が烏丸グループに関係すると推理した」
ルークの話を聞いて昴は「ほう」と声を漏らした。
「その当時すでに【烏丸】に行き着いていたのか……」
自分たちがそこにたどり着いたのは、つい最近だ。夫妻の洞察力の鋭さに昴は舌を巻いた。
「正式な報告は全く残っていないから、これは俺の勝手な推測だが……」
ルークはりおの顔をジッと見ると、そこで一度言葉を切った。
「おそらく二人は星の数ほどある企業を、それこそしらみつぶしに調べたんだろう。そして組織に行き着いた。
状況証拠は揃ったが、どれも確定的ではない。
上に報告するためには、組織に潜入して動かぬ証拠を手に入れるしかないと結論付けた。
二人は先を見越して、その後は影に徹することを決めたんだろう。
それを裏付けるように以後、自分たちの存在を消すようにと公安の仲間に頼んでいる。お前の恩師だという【冴島】という同期にな」
「そうだったの……」
両親の捜査能力、そして覚悟を目の当たりにして、りおは深いため息をついた。
「ここで一つ疑問が残る。当時20年も前に消えた企業の名前を、組織はなぜ船の所有者として、あえて使ったのか」
ルークは疑問を呈しながら二人の顔を交互に見た。
「確かにそうだな。一年足らずで消えた小さな企業の名。復活させる意味などあるのか?」
昴も腕を組み考え込んだ。りおは捜査資料をジッと見つめる。
「その企業が当時進めていた【研究】と、それ以前に進めていた【研究】が同じか、類似していた……とかじゃないかしら? 組織内にはラボもあるし、今でも様々な研究をしている。担当していたチームの名前が変わると混乱するから、同じ名前を使ったのかも。
後は……一度研究が頓挫して、散り散りになった当時の関係者を再び集めるために、同じ名前を使ったとも考えられるわ」
ボソリとつぶやいたりおの言葉に、昴が反応した。
「どちらにしても、過去に共通する《何か》を【研究】していたメンバーが、その名のもとに再び船に集められた、と考えるべきか。つまり、当時船にいた連中は組織の研究員。
となると、船を爆破したのは……組織と対立する別の誰か、ということか? 組織が始めようとした、その【研究】を潰すために」
「確かにな。だがシュウよ、それだと矛盾が生じるんだ」
今度はルークが口を挟んだ。
「お前たちが言う通り、船に集まったのは組織の研究員。つまり船は組織の持ち物と見て間違いないだろう。じゃあ、船を爆破したのは組織を狙う別の誰かか、というとそれも違うと思うんだ。
この捜査資料に載っている写真や調書を読むと、この爆破の仕方……ある人物の方法と酷似しているんだよ」
「ある人物?」
昴は片目を開けルークの顔を見る。りおもルークの顔をジッと見つめた。
「カーディナル、だよ」
「「えっ⁉」」
ルークの口から飛び出した名前に二人は息を飲んだ。
「じゃあ……船を爆破したのは組織の爆破担当《カーディナル》ってこと⁉ 組織は仲間を殺したってこと?」
「いや、ことはそんな単純じゃない。アメリカでこの旅客船の爆破事件があった日、カーディナルは日本にいたことが分かっている」
ルークはバッグからクリアファイルに挟まれた、新聞の切り抜きを二人に見せた。
「同じ日に日本で起きた、ある爆破事件のニュースだ。船の事件に比べれば規模は小さいが、逆にターゲットのみを狙った的確な爆破だった。
現在、公安はこの事件を《カーディナル》が起こした事件だと断定している。
そしてこの事件直後、《カーディナル》は日本からカナダに飛んでいるんだ。渡航記録も残っている。つまり船の事件当日、《カーディナル》は間違いなく日本にいたことが裏付けられた」
記事を受け取った昴と共に、りおは新聞記事を読む。ルークが言うように都心の人が多いエリアで、ターゲットのみを的確に爆死させていた。
爆破が建物やその周辺に与える影響を最小限にして狙った獲物のみを葬る——。そんな器用な事が出来るのは彼しかいない。
コーヒーを半分ほど飲んだところで、ルークが真剣な面持ちで切り出した。
「伝えたいこと?」
昴が顔を上げる。りおも不思議そうにルークの顔を見た。
「さくら。お前の両親は、32年前にアメリカで起きた『大型旅客船爆破事件』をきっかけに知り合ったんだったよな」
「えっ! どうしてそれを……」
動揺するりおの膝からパサリとブランケットが落ちた。
「あ~、驚かせて悪い。実はだいぶ前にボスから頼まれて、お前の両親のことを調べていたんだ。少しでもお前の負担を減らせないかって。
お前たちも知っての通り広瀬夫妻は組織を追っていた。もしかしたら、彼らの持っていた情報の中に【今】につながる情報があるんじゃないかって、ボスは考えていてね」
りおの緊張をほぐそうと、ルークは頭をかきながら少しおどけた表情で答えた。
「なにしろ、夫妻が亡くなってから20年も経っているし、調査も難航していてね〜。だが、一つだけ有力な情報を得たんだ。それをお前たちに伝えようと思って」
そう言うと、ルークはバッグから分厚いファイルを取り出す。以前りおも借りたことがあるFBIの捜査資料だった。
「夫妻は『大型旅客船爆破事件』を追っていた。だから、俺もここから調査を開始したんだ」
取り出した捜査資料をテーブルに置くと、ルークは最初のページを開いた。
「この資料によれば、船の所有者は日本の企業で『株式会社 深風香(ミカゼカ)研究所』。主に健康食品や健康器具なんかを販売していたようだ。
当時全く無名の企業が大型旅客船を所有し、尚且つアメリカの港で船上パーティーやクルージングを計画した。そして、その船が突如爆破された。
FBIは多くの謎が残るこの事件に疑問を持ち、日本に捜査チームを送った。そのメンバーの一人が、お前の母親であるルナ・グリーンだ。
当時の捜査では、この企業の詳細は全く掴めなかった。しかし、ルナが公安の広瀬刑事と組んで捜査する中でこの企業の名が過去に一度だけ世に出たことがある、と分かったんだ」
「一度だけ?」
りおは身を乗り出し、食い入るようにルークの顔を見つめる。
「ああ。今から50年近く前——お前の両親たちにとっては20年近く前だが——烏丸グループの傘下で、薬の研究をする企業の中にこの名があったんだ。ルナは当時、上司だったジェームズにその事をほのめかしている。
もっとも、ルナたちが情報を得た時は、まだ確定的ではなかったらしく、企業名と『烏丸』というキーワードは明かさなかった」
ルークはメモ紙を取り出すとサラサラと書き込んだ。
「二人が掴んだ名は『実風花(ミカゼカ)製薬』。使っている漢字や職種は違うが、同じ【ミカゼカ】と読む。ちょっと珍しい名前だろ?
しかし、その企業は1年足らずで消えている。
夫妻はその事実をキッカケに、船の事件が烏丸グループに関係すると推理した」
ルークの話を聞いて昴は「ほう」と声を漏らした。
「その当時すでに【烏丸】に行き着いていたのか……」
自分たちがそこにたどり着いたのは、つい最近だ。夫妻の洞察力の鋭さに昴は舌を巻いた。
「正式な報告は全く残っていないから、これは俺の勝手な推測だが……」
ルークはりおの顔をジッと見ると、そこで一度言葉を切った。
「おそらく二人は星の数ほどある企業を、それこそしらみつぶしに調べたんだろう。そして組織に行き着いた。
状況証拠は揃ったが、どれも確定的ではない。
上に報告するためには、組織に潜入して動かぬ証拠を手に入れるしかないと結論付けた。
二人は先を見越して、その後は影に徹することを決めたんだろう。
それを裏付けるように以後、自分たちの存在を消すようにと公安の仲間に頼んでいる。お前の恩師だという【冴島】という同期にな」
「そうだったの……」
両親の捜査能力、そして覚悟を目の当たりにして、りおは深いため息をついた。
「ここで一つ疑問が残る。当時20年も前に消えた企業の名前を、組織はなぜ船の所有者として、あえて使ったのか」
ルークは疑問を呈しながら二人の顔を交互に見た。
「確かにそうだな。一年足らずで消えた小さな企業の名。復活させる意味などあるのか?」
昴も腕を組み考え込んだ。りおは捜査資料をジッと見つめる。
「その企業が当時進めていた【研究】と、それ以前に進めていた【研究】が同じか、類似していた……とかじゃないかしら? 組織内にはラボもあるし、今でも様々な研究をしている。担当していたチームの名前が変わると混乱するから、同じ名前を使ったのかも。
後は……一度研究が頓挫して、散り散りになった当時の関係者を再び集めるために、同じ名前を使ったとも考えられるわ」
ボソリとつぶやいたりおの言葉に、昴が反応した。
「どちらにしても、過去に共通する《何か》を【研究】していたメンバーが、その名のもとに再び船に集められた、と考えるべきか。つまり、当時船にいた連中は組織の研究員。
となると、船を爆破したのは……組織と対立する別の誰か、ということか? 組織が始めようとした、その【研究】を潰すために」
「確かにな。だがシュウよ、それだと矛盾が生じるんだ」
今度はルークが口を挟んだ。
「お前たちが言う通り、船に集まったのは組織の研究員。つまり船は組織の持ち物と見て間違いないだろう。じゃあ、船を爆破したのは組織を狙う別の誰かか、というとそれも違うと思うんだ。
この捜査資料に載っている写真や調書を読むと、この爆破の仕方……ある人物の方法と酷似しているんだよ」
「ある人物?」
昴は片目を開けルークの顔を見る。りおもルークの顔をジッと見つめた。
「カーディナル、だよ」
「「えっ⁉」」
ルークの口から飛び出した名前に二人は息を飲んだ。
「じゃあ……船を爆破したのは組織の爆破担当《カーディナル》ってこと⁉ 組織は仲間を殺したってこと?」
「いや、ことはそんな単純じゃない。アメリカでこの旅客船の爆破事件があった日、カーディナルは日本にいたことが分かっている」
ルークはバッグからクリアファイルに挟まれた、新聞の切り抜きを二人に見せた。
「同じ日に日本で起きた、ある爆破事件のニュースだ。船の事件に比べれば規模は小さいが、逆にターゲットのみを狙った的確な爆破だった。
現在、公安はこの事件を《カーディナル》が起こした事件だと断定している。
そしてこの事件直後、《カーディナル》は日本からカナダに飛んでいるんだ。渡航記録も残っている。つまり船の事件当日、《カーディナル》は間違いなく日本にいたことが裏付けられた」
記事を受け取った昴と共に、りおは新聞記事を読む。ルークが言うように都心の人が多いエリアで、ターゲットのみを的確に爆死させていた。
爆破が建物やその周辺に与える影響を最小限にして狙った獲物のみを葬る——。そんな器用な事が出来るのは彼しかいない。