最終章 ~未来へ向かって~
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「退院してきたばかりだったな。それなのに長々と話をしてしまって……悪いことをした」
冴島は申し訳なさそうに頬を掻いた。りおが一真の顔を思い出したと聞いて、嬉しさのあまり話に花が咲いてしまった。
「いいえ、りおも嬉しそうに聞いていましたから。ほら、寝顔見てください。なんだか笑ってるみたいですよ」
顔にかかったりおの髪をそっと耳にかけ、昴が微笑む。
「君のそばに居るからだろう。君と離れていた十日間、そして生死の境を彷徨っている間も、この子は君の元へ帰る事だけを考えていたに違いない。
君がそばに居てくれるから、この子は帰って来たんだ。そうでなければ……とっくにこの世に未練なんて無かっただろうに」
冴島は少し寂しそうに微笑んだ。
「今日の様子からすれば、これから徐々に思い出すことも多くなるだろう。良い思い出ばかりなら良いがな……。さらにいえば、園城寺氏の動向も心配だ。彼は悪い男ではないと思うが、りおが退院してまだ日も浅い。安易にコンタクトを取るのはマズいだろう」
冴島の言葉に昴もうなずいた。
「ええ。私もそう思います。しばらくは様子を見て、彼がさらにアクションを起こしてくるようなら、その時に考えます」
「そうだな。沖矢くん、りおを頼んだよ。君が居てくれれば、俺も安心だ」
「はい。ずっと彼女のそばに居ます」
眠るりおの体を抱き寄せ、昴は真剣な顔でそう返事をした。
冴島の訪問から数日後——。
リンゴ~ン
工藤邸には再び来客のチャイムが響いた。
「はい」
程なくして昴がインターホンに出る。
『こんにちは~。今ご近所を回っている、リサイクルショップの者ですが~』
男の陽気な声が受話器の向こうから聞こえた。
「リサイクル、ですか? あいにく間に合っていますので」
業者の営業と分かって、昴は興味なさげに受話器を置こうとした。
『あ~‼ 待ってください! そう言わずに! 飲んでない洋酒とかでもお高く引き取りますから〜。例えば~…そうですね、《ライ》はお持ちですか? 他には……《スコッチ》と《ドランブイ》の組み合わせでもいいですよ』
「ッ!」
インターホンのカメラ越しに男と目が合う。
それを見て昴がため息をついた。
「……分かりました。今開けます」
昴は静かにインターホンの受話器を置くと、玄関へと足を向けた。
「こんにちは~」
リビングのドアが開き、男が笑顔で入ってくる。
「あら、お久しぶり」
ソファーに座ってカフェオレを飲んでいたりおが、男に声をかけた。
「な~にが『あら、お久しぶり』だよ! どれだけ俺が心配してたと思ってんだ!」
さっきまでの笑顔が嘘のようにグッと目を吊り上げ、男がりおに近づいた。
「あはは…本当にごめんなさい……」
眉をハの字にして、りおは持っていたカップをテーブルに置いた。
そこへ一人分のコーヒーを持った昴がリビングに入る。
「おや? リサイクルショップの営業さん、まだ座ってなかったのですか。コーヒーが入りましたよ。どこでも良いのでお座りください」
「お、サンキュー♪ ってかそれ! いつまで引っ張るの⁉ 今の俺の名は《情報屋のルーク》! 怪しまれないように業者に変装して来たの! でもって只今説教中!」
コーヒーの良い香りにつられてルークは思わず礼を言ったが、今はそれどころではない。
「ははは、そうか。気持ちは分かるがそれくらいにしてやってくれ。無事が分かってから、りおのヤツ何回説教されてるか……そろそろ耳にタコが出来てしまう」
昴は赤井の口調で返すと、笑いながらルークの横を通り過ぎる。空いてる席にコーヒーカップを置いた。
「フッ……まぁ、そりゃぁそうだろうな。で、さくら。お前はちゃんと反省したのか?」
意地悪そうな笑顔で、ルークがりおに問いかける。
「した。しました。もう無謀な事はしないし、冬の海にも飛び込みません」
もう勘弁して、と言いたげにりおは口を尖らせた。その姿を見てルークも笑い出す。
「その様子だとだいぶ絞られたな。フフフ、分かった。俺はもう何も言わんよ。さくら、無事で本当に良かった」
ルークは再び歩みを進めるとりおの前に立つ。身をかがめ、無事を喜ぶようにハグをした。
「さくらの事も心配だったが、シュウの事も心配したんだぜ。ボスも心を痛めていたよ。『あんな赤井くんの姿は初めて見た』ってな」
ようやくソファーへと座ったルークは、やや真剣な顔で昴を見る。
「ああ、それも散々言われたよ。すまない。ずいぶん心配をかけたな」
飲みかけのコーヒーを一口飲んだ昴がフッと肩をすくめて謝罪の言葉を口にした。それを見てルークが「くくっ」と笑い出す。どうやらこちらも耳にタコらしい。
(もう俺が言うことは何も無いな)
穏やかな日常を取り戻した二人に、ルークは安心したように目を細めた。
それじゃあコーヒーでもいただきますか、とカップに手を伸ばした時、ふと二人のカップに目が向く。
(ん? ペアカップ、かな? 色違いの。へ~ぇ…あの堅物だったシュウがねぇ……)
コロンとした丸いフォルム。深い赤と緑。どこをどう見たって色違いのペアカップ。ルークは二人に悟られないようにチラ見を繰り返した。
(人間変われば変わるもんだな~。シュウが恋人とペアカップだと? まあ、アイツがこれだけ惚れ込んでるんだ。精神的に追い込まれるのも無理ないか……)
今度は昴の顔を何度もチラ見して、ルークはコーヒーをゴクリと飲み込んだ。
冴島は申し訳なさそうに頬を掻いた。りおが一真の顔を思い出したと聞いて、嬉しさのあまり話に花が咲いてしまった。
「いいえ、りおも嬉しそうに聞いていましたから。ほら、寝顔見てください。なんだか笑ってるみたいですよ」
顔にかかったりおの髪をそっと耳にかけ、昴が微笑む。
「君のそばに居るからだろう。君と離れていた十日間、そして生死の境を彷徨っている間も、この子は君の元へ帰る事だけを考えていたに違いない。
君がそばに居てくれるから、この子は帰って来たんだ。そうでなければ……とっくにこの世に未練なんて無かっただろうに」
冴島は少し寂しそうに微笑んだ。
「今日の様子からすれば、これから徐々に思い出すことも多くなるだろう。良い思い出ばかりなら良いがな……。さらにいえば、園城寺氏の動向も心配だ。彼は悪い男ではないと思うが、りおが退院してまだ日も浅い。安易にコンタクトを取るのはマズいだろう」
冴島の言葉に昴もうなずいた。
「ええ。私もそう思います。しばらくは様子を見て、彼がさらにアクションを起こしてくるようなら、その時に考えます」
「そうだな。沖矢くん、りおを頼んだよ。君が居てくれれば、俺も安心だ」
「はい。ずっと彼女のそばに居ます」
眠るりおの体を抱き寄せ、昴は真剣な顔でそう返事をした。
冴島の訪問から数日後——。
リンゴ~ン
工藤邸には再び来客のチャイムが響いた。
「はい」
程なくして昴がインターホンに出る。
『こんにちは~。今ご近所を回っている、リサイクルショップの者ですが~』
男の陽気な声が受話器の向こうから聞こえた。
「リサイクル、ですか? あいにく間に合っていますので」
業者の営業と分かって、昴は興味なさげに受話器を置こうとした。
『あ~‼ 待ってください! そう言わずに! 飲んでない洋酒とかでもお高く引き取りますから〜。例えば~…そうですね、《ライ》はお持ちですか? 他には……《スコッチ》と《ドランブイ》の組み合わせでもいいですよ』
「ッ!」
インターホンのカメラ越しに男と目が合う。
それを見て昴がため息をついた。
「……分かりました。今開けます」
昴は静かにインターホンの受話器を置くと、玄関へと足を向けた。
「こんにちは~」
リビングのドアが開き、男が笑顔で入ってくる。
「あら、お久しぶり」
ソファーに座ってカフェオレを飲んでいたりおが、男に声をかけた。
「な~にが『あら、お久しぶり』だよ! どれだけ俺が心配してたと思ってんだ!」
さっきまでの笑顔が嘘のようにグッと目を吊り上げ、男がりおに近づいた。
「あはは…本当にごめんなさい……」
眉をハの字にして、りおは持っていたカップをテーブルに置いた。
そこへ一人分のコーヒーを持った昴がリビングに入る。
「おや? リサイクルショップの営業さん、まだ座ってなかったのですか。コーヒーが入りましたよ。どこでも良いのでお座りください」
「お、サンキュー♪ ってかそれ! いつまで引っ張るの⁉ 今の俺の名は《情報屋のルーク》! 怪しまれないように業者に変装して来たの! でもって只今説教中!」
コーヒーの良い香りにつられてルークは思わず礼を言ったが、今はそれどころではない。
「ははは、そうか。気持ちは分かるがそれくらいにしてやってくれ。無事が分かってから、りおのヤツ何回説教されてるか……そろそろ耳にタコが出来てしまう」
昴は赤井の口調で返すと、笑いながらルークの横を通り過ぎる。空いてる席にコーヒーカップを置いた。
「フッ……まぁ、そりゃぁそうだろうな。で、さくら。お前はちゃんと反省したのか?」
意地悪そうな笑顔で、ルークがりおに問いかける。
「した。しました。もう無謀な事はしないし、冬の海にも飛び込みません」
もう勘弁して、と言いたげにりおは口を尖らせた。その姿を見てルークも笑い出す。
「その様子だとだいぶ絞られたな。フフフ、分かった。俺はもう何も言わんよ。さくら、無事で本当に良かった」
ルークは再び歩みを進めるとりおの前に立つ。身をかがめ、無事を喜ぶようにハグをした。
「さくらの事も心配だったが、シュウの事も心配したんだぜ。ボスも心を痛めていたよ。『あんな赤井くんの姿は初めて見た』ってな」
ようやくソファーへと座ったルークは、やや真剣な顔で昴を見る。
「ああ、それも散々言われたよ。すまない。ずいぶん心配をかけたな」
飲みかけのコーヒーを一口飲んだ昴がフッと肩をすくめて謝罪の言葉を口にした。それを見てルークが「くくっ」と笑い出す。どうやらこちらも耳にタコらしい。
(もう俺が言うことは何も無いな)
穏やかな日常を取り戻した二人に、ルークは安心したように目を細めた。
それじゃあコーヒーでもいただきますか、とカップに手を伸ばした時、ふと二人のカップに目が向く。
(ん? ペアカップ、かな? 色違いの。へ~ぇ…あの堅物だったシュウがねぇ……)
コロンとした丸いフォルム。深い赤と緑。どこをどう見たって色違いのペアカップ。ルークは二人に悟られないようにチラ見を繰り返した。
(人間変われば変わるもんだな~。シュウが恋人とペアカップだと? まあ、アイツがこれだけ惚れ込んでるんだ。精神的に追い込まれるのも無理ないか……)
今度は昴の顔を何度もチラ見して、ルークはコーヒーをゴクリと飲み込んだ。