第8章 ~新たな決意を胸に~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
りおが工藤邸に戻った日の夕方。
小さな名探偵がその知らせを聞いて工藤邸に顔を出した。
「さくらさん、ホント無事でよかった……。クルーズ船の一報を聞いた時は心臓が止まるかと思ったよ」
リビングでコーヒーを飲みながらコナンがホッとした表情をさくらに向けた。
「心配かけてごめんね、コナンくん」
さくらは心底申し訳なさそうな顔をして肩をすくめる。
いつもと変わらないさくらの様子に、コナンはホッと胸を撫で下ろした。
「そういえば、ジェームズさんや冴島さんにもさくらさんが無事なこと、伝えたんだよね」
「ええ、私から伝えました。二人ともさくらの無事を聞いて喜んでましたよ。特に冴島さんは『まったく危険な事ばかりして心配かけて!』と、そのあと大変怒っていました。
近日中にお見舞いを兼ねて、お小言を言いに来るそうですよ」
「ひえぇぇ~……」
ニコニコとご機嫌な笑顔で、昴はジェームズと冴島の様子を話す。その隣でさくらが青い顔をして悲鳴をあげた。
「仕方がないでしょう。十日間も生死不明だったんです。私だって小言の二つ三つは言いたいくらいですよ」
「昴さん、入院中に十個くらい言ってたじゃん……お小言…」
「まだ全然足りません」
「えぇ~っ」
涼しい顔でコーヒーを飲みながらツーンと顔を背けた昴を見て、コナンが笑い出す。
「プッ、ふふふふ。二人とも元気そうで良かった。生死の分からないさくらさんも心配だったけど、その間の昴さんの事も同じくらい心配だったんだ。ジョディ先生からも色々聞いてたし……」
二人の顔を交互に見てコナンはため息をつく。
「今回ボク思ったんだ。一人を失ったら、二人を失うのと同じなんじゃないかって。
二人の絆は強い。だからこそ二人が揃えば最強だと思う。その反面——相手を失った時のダメージは計り知れない。でもそれは、ボクが色々言わなくたって二人が一番分かってるんだよね?」
いつになく真面目に、そして少しだけ切なげに、コナンは二人に問いかけた。
「ええ……分かってるわ。だから、勝算がなきゃ下手なことはしないし、絶対に生きて帰るっていつも思ってる」
さくらは真剣な顔でコナンを見つめる。
「それにね。秀一さんもそうだと思うけど、万が一相手が死んでしまったら——その時はきっと、死ぬほど苦しむとは思うけど……。でも最後はちゃんと立ち直るわ」
「本当に? 愛する人が死んじゃって死ぬほど苦しんで……それでもまだ立ち直れるって、どうして言い切れるの?」
コナンは悲しい顔をしてさくらを見上げた。
多くの死を目の当たりにして苦しんできたさくらを知っている。だからこそ、心配しているのだ。愛する人を失う悲しみを乗り越えることが出来るのか、と。
しかし、対照的にさくらの顔はとても穏やかだ。
「それが相手の望みだと知っているから……。私が後を追ったら、きっと秀一さんは悲しむし、すごく怒ると思う。逆も同じ。
それにね。それくらいの覚悟を持って、私は秀一さんに『愛してる』って伝えたの。もちろん、そんな簡単に死ぬつもりも、死なせるつもりはないけどね」
さくらは「ね?」と昴を見る。「ええ」と昴も微笑んだ。
「私もさくらと同意見です。もしあのままさくらが死んでいたら……確かに精神的に堪えたでしょうが、時間をかけてでも再び戦いの場に戻ったでしょう。さくらが望んでいるのはこんな自分ではないと、どこかのタイミングで気付くでしょうから。
そしていつか——この世界から消える時、『ようやくさくらに会える』と思って死ぬのでしょうね」
そう言って昴はニッコリと笑うと、さくらを見る。さくらも昴を見て笑った。
「さくらさんも赤井さんも……そこまで考えて…」
コナンはいつか昴(赤井)から聞いた、二人の恋バナを思い出す。
『お互い危険に身を置く立場。恋愛感情は時に自身のウィークポイントにもなります。ですから、気持ちを伝えることに慎重になっていた…というのはありますね』
(二人が互いの気持ちを伝えた時には、もうとっくに《覚悟》はできていたのか……)
愛する人を自身のウィークポイントには絶対にしない。
そんな覚悟を、コナンは見た気がした。
「二人には…敵わないや……」
相手の気持ちを知り尽くし、幸せそうに微笑む昴とさくらを見て、コナンの顔にも笑顔が戻った。
「それはそうと、園城寺さんのサプライズ誕生パーティーはどうだったの?」
クルーズ船の事件当日、コナン達は手作りのプレゼントを持って、衛にサプライズを仕掛けたはずだ。
「ああ、そうそう! サプライズは大成功でとても喜んでくれたよ。
元太の輪つなぎも、このまま部屋に飾るんだ~って園城寺さん大喜びだったし、光彦のお話ノートと歩美ちゃんのクマのぬいぐるみも、自分の部屋に飾るんだって。
灰原のアップルパイは食べる前にスマホで山ほど写真撮ってたし、ボクのストラップも執事長の方と一緒にプレゼントして、喜んでもらったよ」
「わぁ! 良かったね~。きっと思い出に残る誕生日パーティーになったね」
子どもたちがそれぞれ工夫を凝らし、一生懸命作った誕生日プレゼント。
衛が喜んでくれたと聞いてさくらの顔が綻んだ。
「そう言えばその時にね、園城寺さんに『謎解きの時に一緒に来ていた女性の方は?』って訊かれたんだ」
「え? 私?」
衛が自分を気にしていたと聞いて、さくらは驚く。
「うん。『どうして?』って訊ねたら、『若い時に、彼女と似た人と会ったことがあるから』って言うんだ」
さくらと昴が顔を見合わせる。思いもよらぬ言葉に二人の顔から笑顔が消えた。
「園城寺さんが若い時に会った、私と似た人って……もしかして私の母のこと?」
「さくらの母親と園城寺さんは、顔見知りってことですか?」
「う~ん、詳しくは教えてくれなかったんだ。『命の恩人との大切な約束だから』って」
「母が園城寺さんの『命の恩人』ってこと? それっていったい……」
新たな謎が浮上し、さくらは不安そうに昴を見つめる。昴もまた険しい顔をして考え込んだ。
「仮に二人が顔見知りとして、『恩人との大切な約束』がある以上、園城寺さんがこちらの質問に答えてくれる可能性は低い。ならば冴島さんに訊いた方が確実かもしれません」
そう言いながらも、昴の胸に不安がよぎる。
両親の謎に迫る新情報が得られるかもしれない。が、さくらにとって辛い情報になりなしないか——。
爆発で負ったケガの治療を終えたばかりで、さくらの心の治療はまだ再開の目途が立っていない。にもかかわらず、心配の種は増えるばかりだ。
昴は二人に分からぬよう、小さく息を吐いた。
小さな名探偵がその知らせを聞いて工藤邸に顔を出した。
「さくらさん、ホント無事でよかった……。クルーズ船の一報を聞いた時は心臓が止まるかと思ったよ」
リビングでコーヒーを飲みながらコナンがホッとした表情をさくらに向けた。
「心配かけてごめんね、コナンくん」
さくらは心底申し訳なさそうな顔をして肩をすくめる。
いつもと変わらないさくらの様子に、コナンはホッと胸を撫で下ろした。
「そういえば、ジェームズさんや冴島さんにもさくらさんが無事なこと、伝えたんだよね」
「ええ、私から伝えました。二人ともさくらの無事を聞いて喜んでましたよ。特に冴島さんは『まったく危険な事ばかりして心配かけて!』と、そのあと大変怒っていました。
近日中にお見舞いを兼ねて、お小言を言いに来るそうですよ」
「ひえぇぇ~……」
ニコニコとご機嫌な笑顔で、昴はジェームズと冴島の様子を話す。その隣でさくらが青い顔をして悲鳴をあげた。
「仕方がないでしょう。十日間も生死不明だったんです。私だって小言の二つ三つは言いたいくらいですよ」
「昴さん、入院中に十個くらい言ってたじゃん……お小言…」
「まだ全然足りません」
「えぇ~っ」
涼しい顔でコーヒーを飲みながらツーンと顔を背けた昴を見て、コナンが笑い出す。
「プッ、ふふふふ。二人とも元気そうで良かった。生死の分からないさくらさんも心配だったけど、その間の昴さんの事も同じくらい心配だったんだ。ジョディ先生からも色々聞いてたし……」
二人の顔を交互に見てコナンはため息をつく。
「今回ボク思ったんだ。一人を失ったら、二人を失うのと同じなんじゃないかって。
二人の絆は強い。だからこそ二人が揃えば最強だと思う。その反面——相手を失った時のダメージは計り知れない。でもそれは、ボクが色々言わなくたって二人が一番分かってるんだよね?」
いつになく真面目に、そして少しだけ切なげに、コナンは二人に問いかけた。
「ええ……分かってるわ。だから、勝算がなきゃ下手なことはしないし、絶対に生きて帰るっていつも思ってる」
さくらは真剣な顔でコナンを見つめる。
「それにね。秀一さんもそうだと思うけど、万が一相手が死んでしまったら——その時はきっと、死ぬほど苦しむとは思うけど……。でも最後はちゃんと立ち直るわ」
「本当に? 愛する人が死んじゃって死ぬほど苦しんで……それでもまだ立ち直れるって、どうして言い切れるの?」
コナンは悲しい顔をしてさくらを見上げた。
多くの死を目の当たりにして苦しんできたさくらを知っている。だからこそ、心配しているのだ。愛する人を失う悲しみを乗り越えることが出来るのか、と。
しかし、対照的にさくらの顔はとても穏やかだ。
「それが相手の望みだと知っているから……。私が後を追ったら、きっと秀一さんは悲しむし、すごく怒ると思う。逆も同じ。
それにね。それくらいの覚悟を持って、私は秀一さんに『愛してる』って伝えたの。もちろん、そんな簡単に死ぬつもりも、死なせるつもりはないけどね」
さくらは「ね?」と昴を見る。「ええ」と昴も微笑んだ。
「私もさくらと同意見です。もしあのままさくらが死んでいたら……確かに精神的に堪えたでしょうが、時間をかけてでも再び戦いの場に戻ったでしょう。さくらが望んでいるのはこんな自分ではないと、どこかのタイミングで気付くでしょうから。
そしていつか——この世界から消える時、『ようやくさくらに会える』と思って死ぬのでしょうね」
そう言って昴はニッコリと笑うと、さくらを見る。さくらも昴を見て笑った。
「さくらさんも赤井さんも……そこまで考えて…」
コナンはいつか昴(赤井)から聞いた、二人の恋バナを思い出す。
『お互い危険に身を置く立場。恋愛感情は時に自身のウィークポイントにもなります。ですから、気持ちを伝えることに慎重になっていた…というのはありますね』
(二人が互いの気持ちを伝えた時には、もうとっくに《覚悟》はできていたのか……)
愛する人を自身のウィークポイントには絶対にしない。
そんな覚悟を、コナンは見た気がした。
「二人には…敵わないや……」
相手の気持ちを知り尽くし、幸せそうに微笑む昴とさくらを見て、コナンの顔にも笑顔が戻った。
「それはそうと、園城寺さんのサプライズ誕生パーティーはどうだったの?」
クルーズ船の事件当日、コナン達は手作りのプレゼントを持って、衛にサプライズを仕掛けたはずだ。
「ああ、そうそう! サプライズは大成功でとても喜んでくれたよ。
元太の輪つなぎも、このまま部屋に飾るんだ~って園城寺さん大喜びだったし、光彦のお話ノートと歩美ちゃんのクマのぬいぐるみも、自分の部屋に飾るんだって。
灰原のアップルパイは食べる前にスマホで山ほど写真撮ってたし、ボクのストラップも執事長の方と一緒にプレゼントして、喜んでもらったよ」
「わぁ! 良かったね~。きっと思い出に残る誕生日パーティーになったね」
子どもたちがそれぞれ工夫を凝らし、一生懸命作った誕生日プレゼント。
衛が喜んでくれたと聞いてさくらの顔が綻んだ。
「そう言えばその時にね、園城寺さんに『謎解きの時に一緒に来ていた女性の方は?』って訊かれたんだ」
「え? 私?」
衛が自分を気にしていたと聞いて、さくらは驚く。
「うん。『どうして?』って訊ねたら、『若い時に、彼女と似た人と会ったことがあるから』って言うんだ」
さくらと昴が顔を見合わせる。思いもよらぬ言葉に二人の顔から笑顔が消えた。
「園城寺さんが若い時に会った、私と似た人って……もしかして私の母のこと?」
「さくらの母親と園城寺さんは、顔見知りってことですか?」
「う~ん、詳しくは教えてくれなかったんだ。『命の恩人との大切な約束だから』って」
「母が園城寺さんの『命の恩人』ってこと? それっていったい……」
新たな謎が浮上し、さくらは不安そうに昴を見つめる。昴もまた険しい顔をして考え込んだ。
「仮に二人が顔見知りとして、『恩人との大切な約束』がある以上、園城寺さんがこちらの質問に答えてくれる可能性は低い。ならば冴島さんに訊いた方が確実かもしれません」
そう言いながらも、昴の胸に不安がよぎる。
両親の謎に迫る新情報が得られるかもしれない。が、さくらにとって辛い情報になりなしないか——。
爆発で負ったケガの治療を終えたばかりで、さくらの心の治療はまだ再開の目途が立っていない。にもかかわらず、心配の種は増えるばかりだ。
昴は二人に分からぬよう、小さく息を吐いた。