第8章 ~新たな決意を胸に~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
***
数日後——
「ラスティーは今日退院だって?」
ホテルのライティングデスクにノートパソコンを置き、後ろを振り返ったアロンがベルモットに問いかけた。
「ええ、そうみたいよ。バーボンから連絡があったわ」
一度くらい見舞いに行きたかったな~、と言ってアロンは前を向くと、両手を頭の後ろで組んだ。
「あらあら、彼氏と水入らずでいるのにジャマするような事するわけ? それに元々あの子は組織から離れて心の治療をしてたのよ? 私達とは会わないに越したことは無いわ」
窓際に置かれた応接セットで優雅にコーヒーを飲みながらベルモットが答える。
「それより仕事の方はどうなの? リュ・スンホのお陰で計画が遅れ気味よ。ジンがイライラしてるわ」
「ん~。あちらの実験結果のデータは問題ないみたいだよ。もちろん、実用化にはもう少しって感じらしいけどね。やっぱり必要なデータは【あの場所】にしか無いんだろうなぁ」
パソコン画面を見ながらアロンがイスを揺らす。
「【あの場所】って……例のアメリカの?」
ベルモットはカップを戻すと視線だけをアロンへ向けた。
「ああ。アメリカは《彼》と同じ実験を大昔にやってたからね。人間が考えることは今も昔も、さほど変わらないって事だね」
話をしながらアロンはキーボードをカタカタと操作した。画面が次々と開き、アロンの瞳にその数値が映り込む。
「つまり、こちらの実験より、アメリカのデータの方が進んでるってこと?」
ベルモットがさらに問いかける。今回のビジネスの中枢メンバーではあるが、詳しいいきさつなどは聞かされていない。
「そりゃそうだよ。昔とはいえ、アメリカが莫大な予算をかけて研究してたんだ。《彼》の実験とは規模が違う。しかし実験を進めるうちに、それがとても恐ろしいものだとアメリカは気付いた。研究していた【ブツ】はほぼ完成していたが、全てを国家機密として封印したんだ」
ふ~ん、とベルモットは曖昧な返事をした。
「そんな恐ろしいものを、組織は自力で復活させようとしてるのね?」
「そうさ。俺たちは、世界のパワーバランスが変わるかもしれない【禁断の果実】を手に入れようとしているのさ」
そう言って笑うアロンの顔には、心なしか恐怖の色が浮かんでいた。
***
「ふぅ……なんか久しぶりに帰った感じがする」
退院後、ようやく工藤邸に戻ったりおはリビングに入るなりつぶやいた。
「確かに。かれこれ二週間以上留守にしてましたからね」
荷物を持った昴がリビングに入ると、りおのひとり言に答えた。
「あ、昴さん。荷物ありがとう。ここに置いてくれれば、後は私が少しずつ——」
りおが振り返って声をかけた瞬間——。トン、と荷物が床に置かれ、昴の両手がりおに伸びた。
「ッ……すば……」
二人の距離がゼロになったと同時に、唇が重なった。体を強く引き寄せられ、昴の大きな左手がりおの後頭部を支える。完全にホールドされた状態で、昴の舌がスルリとりおの口の中に入り込んだ。
「んっ…ぅ……は…」
舌を絡ませて深く口づけ、時折浅く唇を食み、角度を変え、再び深く相手を求める。
唾液を交換し合い、互いの体を強く抱きしめれば、もはや相手の息づかいと時々漏れ出る吐息しか耳に入らない。さらに相手が欲しくなる。
会えなかった時間を取り戻すかのように、そして離れていた距離を埋めるかのように、二人はキスを交わした。
「ふ…ぅん…う…」
キスに夢中になればなるほど、りおの体から力が抜けていく。その場にしゃがみ込むりおを抱きしめたまま、昴もその場に座り込んだ。
その間も唇は離さない。
昴は床に手を突き、ゆっくりとりおを押し倒しながら、尚も深く口づける。りおの感じる所を舌先でなぞれば、その体はピクリと反応した。
それが嬉しくて。愛おしくて。昴は何度もそこを愛撫した。
やがて完全にりおが床に寝そべった状態になり、昴はようやく唇を離す。
お互いの口元は唾液で濡れている。二人は息を切らして見つめ合った。
「はぁ…はぁ…は……りお……」
「は…しゅ…はぁ……しゅ…ちさ…」
昴は片手を床についたまま、空いた手でウィッグとメガネを取る。りおが手を伸ばし、変声機のスイッチをOFFにした。
「やっと……やっと俺のところに…戻ってきたんだな…」
赤井がりおの髪を撫でながら、嬉しそうに微笑んだ。
「船の上で……必ず戻るって言ったでしょ? あなたとたくさん約束してるし、そう簡単に死ねないわ」
そう言って、りおは赤井の顔に手を伸ばす。
「たくさん心配かけたね。入院中、ジョディさんからメールで聞いたわ。ホントに……ホントにゴメン」
以前より、ほんの少しだけ主張を強くした赤井の頬を撫でた。
「ご飯、ちゃんと作って食べてたんだってね。でもその割に少し頬がこけてる……。きっと無理して食べてたんだね……」
りおの目が切なげに細められた。
「味がしないんだ……何を食べても。お前の居ない食卓は色も味もぼやけてしまって、まるで砂を食べてるようだった」
りおの手に赤井は自身の手を重ね、すり寄るようにして目を閉じた。
「病院で再会した日。お前の隣で一緒に昼食を食べただろう? 病院の売店で買ったサンドイッチだったが、すごく美味かったんだ。卵とトマトとレタスが入ってて、色も鮮やかで……お前がいるだけで……」
「うん、うん……」
アンバーの目から涙がこぼれる。りおは泣きながら何度もうなずいた。
「りお。頼むから、もう二度と俺の前から居なくならないでくれ。俺の事を忘れてたっていい。ただ、もうどこにも……行かないでくれ」
ペリドットの瞳がまっすぐアンバーの瞳を見つめる。
「うん。秀一さん……私、ずっとあなたのそばにいる……。もうどこにも行かないよ」
「ああ、約束だ。俺もずっとお前のそばにいる」
りおが体を起こし、赤井の首元に抱きつく。赤井もりおの体を強く抱きしめた。
久しぶりに二人が揃った工藤邸のリビング。そこには温かな日の光が差し込み、風を受けた木の葉が影を映す。それはまるで、りおの帰りを喜んでいるかのように、優しく軽やかに揺れていた。
数日後——
「ラスティーは今日退院だって?」
ホテルのライティングデスクにノートパソコンを置き、後ろを振り返ったアロンがベルモットに問いかけた。
「ええ、そうみたいよ。バーボンから連絡があったわ」
一度くらい見舞いに行きたかったな~、と言ってアロンは前を向くと、両手を頭の後ろで組んだ。
「あらあら、彼氏と水入らずでいるのにジャマするような事するわけ? それに元々あの子は組織から離れて心の治療をしてたのよ? 私達とは会わないに越したことは無いわ」
窓際に置かれた応接セットで優雅にコーヒーを飲みながらベルモットが答える。
「それより仕事の方はどうなの? リュ・スンホのお陰で計画が遅れ気味よ。ジンがイライラしてるわ」
「ん~。あちらの実験結果のデータは問題ないみたいだよ。もちろん、実用化にはもう少しって感じらしいけどね。やっぱり必要なデータは【あの場所】にしか無いんだろうなぁ」
パソコン画面を見ながらアロンがイスを揺らす。
「【あの場所】って……例のアメリカの?」
ベルモットはカップを戻すと視線だけをアロンへ向けた。
「ああ。アメリカは《彼》と同じ実験を大昔にやってたからね。人間が考えることは今も昔も、さほど変わらないって事だね」
話をしながらアロンはキーボードをカタカタと操作した。画面が次々と開き、アロンの瞳にその数値が映り込む。
「つまり、こちらの実験より、アメリカのデータの方が進んでるってこと?」
ベルモットがさらに問いかける。今回のビジネスの中枢メンバーではあるが、詳しいいきさつなどは聞かされていない。
「そりゃそうだよ。昔とはいえ、アメリカが莫大な予算をかけて研究してたんだ。《彼》の実験とは規模が違う。しかし実験を進めるうちに、それがとても恐ろしいものだとアメリカは気付いた。研究していた【ブツ】はほぼ完成していたが、全てを国家機密として封印したんだ」
ふ~ん、とベルモットは曖昧な返事をした。
「そんな恐ろしいものを、組織は自力で復活させようとしてるのね?」
「そうさ。俺たちは、世界のパワーバランスが変わるかもしれない【禁断の果実】を手に入れようとしているのさ」
そう言って笑うアロンの顔には、心なしか恐怖の色が浮かんでいた。
***
「ふぅ……なんか久しぶりに帰った感じがする」
退院後、ようやく工藤邸に戻ったりおはリビングに入るなりつぶやいた。
「確かに。かれこれ二週間以上留守にしてましたからね」
荷物を持った昴がリビングに入ると、りおのひとり言に答えた。
「あ、昴さん。荷物ありがとう。ここに置いてくれれば、後は私が少しずつ——」
りおが振り返って声をかけた瞬間——。トン、と荷物が床に置かれ、昴の両手がりおに伸びた。
「ッ……すば……」
二人の距離がゼロになったと同時に、唇が重なった。体を強く引き寄せられ、昴の大きな左手がりおの後頭部を支える。完全にホールドされた状態で、昴の舌がスルリとりおの口の中に入り込んだ。
「んっ…ぅ……は…」
舌を絡ませて深く口づけ、時折浅く唇を食み、角度を変え、再び深く相手を求める。
唾液を交換し合い、互いの体を強く抱きしめれば、もはや相手の息づかいと時々漏れ出る吐息しか耳に入らない。さらに相手が欲しくなる。
会えなかった時間を取り戻すかのように、そして離れていた距離を埋めるかのように、二人はキスを交わした。
「ふ…ぅん…う…」
キスに夢中になればなるほど、りおの体から力が抜けていく。その場にしゃがみ込むりおを抱きしめたまま、昴もその場に座り込んだ。
その間も唇は離さない。
昴は床に手を突き、ゆっくりとりおを押し倒しながら、尚も深く口づける。りおの感じる所を舌先でなぞれば、その体はピクリと反応した。
それが嬉しくて。愛おしくて。昴は何度もそこを愛撫した。
やがて完全にりおが床に寝そべった状態になり、昴はようやく唇を離す。
お互いの口元は唾液で濡れている。二人は息を切らして見つめ合った。
「はぁ…はぁ…は……りお……」
「は…しゅ…はぁ……しゅ…ちさ…」
昴は片手を床についたまま、空いた手でウィッグとメガネを取る。りおが手を伸ばし、変声機のスイッチをOFFにした。
「やっと……やっと俺のところに…戻ってきたんだな…」
赤井がりおの髪を撫でながら、嬉しそうに微笑んだ。
「船の上で……必ず戻るって言ったでしょ? あなたとたくさん約束してるし、そう簡単に死ねないわ」
そう言って、りおは赤井の顔に手を伸ばす。
「たくさん心配かけたね。入院中、ジョディさんからメールで聞いたわ。ホントに……ホントにゴメン」
以前より、ほんの少しだけ主張を強くした赤井の頬を撫でた。
「ご飯、ちゃんと作って食べてたんだってね。でもその割に少し頬がこけてる……。きっと無理して食べてたんだね……」
りおの目が切なげに細められた。
「味がしないんだ……何を食べても。お前の居ない食卓は色も味もぼやけてしまって、まるで砂を食べてるようだった」
りおの手に赤井は自身の手を重ね、すり寄るようにして目を閉じた。
「病院で再会した日。お前の隣で一緒に昼食を食べただろう? 病院の売店で買ったサンドイッチだったが、すごく美味かったんだ。卵とトマトとレタスが入ってて、色も鮮やかで……お前がいるだけで……」
「うん、うん……」
アンバーの目から涙がこぼれる。りおは泣きながら何度もうなずいた。
「りお。頼むから、もう二度と俺の前から居なくならないでくれ。俺の事を忘れてたっていい。ただ、もうどこにも……行かないでくれ」
ペリドットの瞳がまっすぐアンバーの瞳を見つめる。
「うん。秀一さん……私、ずっとあなたのそばにいる……。もうどこにも行かないよ」
「ああ、約束だ。俺もずっとお前のそばにいる」
りおが体を起こし、赤井の首元に抱きつく。赤井もりおの体を強く抱きしめた。
久しぶりに二人が揃った工藤邸のリビング。そこには温かな日の光が差し込み、風を受けた木の葉が影を映す。それはまるで、りおの帰りを喜んでいるかのように、優しく軽やかに揺れていた。