第8章 ~新たな決意を胸に~
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その後、公安部にもりおの無事が知らされた。
仲間の無事を知った者たちは、誰からともなく空き時間に鶴を折りはじめ、やがてそれは千羽鶴ならぬ十数羽鶴となってりおの元に届けられた。
確かに千羽もの鶴が折れるほど公安部はヒマでは無いのだが……。ちんまりと繋げられた鶴を見て、さすがの安室も苦笑いをしていた。
再会の日以来、病室には昴が毎日見舞いに行き、りおの世話をしている。甲斐甲斐しく世話を焼く彼の姿は看護師が羨むほどだった。
「りお、寒くないですか?」
「うん。空調も効いてるし平気」
午前中の面会に来て早々、昴がりおに声をかけた。りおはベッドを起こし、昴に笑顔を見せる。病室へと入った昴の手には、大きな紙袋がぶら下がっていた。
「これ、前の病院からの荷物だそうです。当日着ていた服ですね。クリーニングから帰ってきたそうですよ」
袋から出し、盗聴器等が無いか念入りにチェックをして、昴は備え付けのクローゼットにかけた。
「特に何も仕掛けられてはいませんでしたよ」
紙袋をたたみ、昴は笑顔を向けた。
「ありがとう。そういえば……今回無事でいられたのはコナンくんのおかげかな」
薄いビニールに包まれたブルゾンを見て、りおが微笑んだ。
「ボウヤの?」
「うん。実はあの日の朝、ブルゾンのファスナーのツマミが壊れちゃって。急きょコナンくんに貰ったチャームを付け替えたの。ターコイズは旅のお守り。今日も無事に帰って来れますようにって、その時は軽い気持ちでね」
昴がブルゾンに手を伸ばす。一番上まで引き上げられたファスナーには、確かにターコイズのチャームが揺れていた。
「海にダイブするちょっと前、そのチャームがスンホの袖のボタンに引っかかったのよ。私が彼のスキを作ろうと体をよじった時にね。
当初、起爆スイッチは手刀で弾き飛ばすつもりでいたんだけど、チャームが引っかかったおかげでスンホの気が一瞬逸れた。お陰で着水するまでの短い時間に、上手く彼の手からスイッチを奪えたってわけ」
まさにその瞬間、状況が変わった。
一瞬気が逸れたスンホ。
チャンスを見逃さなかったりお。
そこで勝敗は決まっていたのだ。
「なるほど。持ち主思いのチャームだったわけですね。大事にしないといけないな」
昴もズボンのポケットから車のキーを出し、揃いのチャームを見つめる。数日前にこれを見た時は、絶望のふちにいた。今は穏やかな気持ちで見ることが出来る。
チャームを見つめて微笑む昴の姿を、りおもまた優しく見つめていた。
「そういえば……オドゥムの拠点だったあのアジト、爆発でほとんど跡形も残らなかったんですって。スンホが指揮していた実行部隊は、増員メンバーも含めて全滅。その後の捜査で、都内に潜伏していた別動隊の工作員も何人か摘発して……ほぼ公安部の捜査は終わったみたいなの」
「そうですか……一応の決着がついたわけですね」
「ええ」
りおは窓の方へ視線を移し、少し悲しそうな顔をした。
「でも……日本に潜伏している工作員全員が捕まったわけでは無いだろうし……きっとまた、何か仕掛けてくるわ。C国の体質が変わらない限り何度でも……」
今回の件で、オドゥムは拠点となるはずだった大きなアジトを失い、C国の日本進出は事実上不可能になった。
しかし、あの国がこんなことで諦めるはずが無い。またいつか必ず、日本を手中に収めようと襲ってくるだろう。
「ああ。だが、分からないのはジン達の行動だ。オドゥムは奴らにとってもジャマな存在。日本進出が不可能になったとはいえ、奴らが組織に報復することは今後も有り得る。
オドゥムの情報は是が非でも欲しいはずだ。しかし今回あっさりとその情報を爆破し灰にした。何か他に算段でもあるのだろうか……」
昴の声のまま、赤井の口調でつぶやく。
「それこそが、【ビジネス】に繋がっているんじゃないのかな。そんなものを手に入れなくても、オドゥムを——もしかしたら、C国そのものを——何とかできる。そう思っているのかもしれない」
《軍事国家》を、たかが寄せ集めの一組織が封じ込める。果たしてそんなことが可能だろうか。疑問は尽きない。
(でも……もし出来るとしたら——)
恐ろしい事だ、とりおは表情を歪ませる。
どんな方法にせよ、それは悪夢に近い。多くの血が流れるであろうことは簡単に予想がつく。
「りお、あまり思い詰めるな」
暗い顔をするりおに昴が声をかけた。
「取りあえず、オドゥムの計画を潰した訳だからそれは評価しよう。大学への脅威も一般人へ危害を加えられることも、しばらく心配ない。降谷くんの思惑通り、作戦は上手くいったんだ」
優しい笑みを浮かべ、昴がりおの肩に手を置いた。
「それより、ドクターの話だとあと数日で退院できるそうだ。退院したら体と相談しながら、認知行動療法も再開しないとな。発作は完全に無くなったワケじゃないんだし」
「うん……そうだね」
ゆっくり治していこう、と微笑む昴を見上げ、りおは笑顔で答えた。
***
C国——
国家権力が集まる巨大な建物。
その敷地内に、チュ・ソジュンの姿がある。『国防省』と書かれたエリアの一室で、ソジュンは電話を切ると「ふぅ」とため息をついた。近くに待機していた側近が心配そうにソジュンを見つめる。
「将軍様はだいぶお怒りのようだ」
ソジュンは表情を変えず、側近に向かって言った。側近は黙ったまま視線を落とす。
「スンホが自爆し、日本に送った実行部隊の者は全員が死んだ。彼らが潔く散ってくれたおかげで、私の首はなんとか繋がったよ」
「本当でございますか⁉」
自分の主人にお咎めなしと聞いて、側近は安堵の表情を見せた。
「ああ。だが、あの組織が推し進めている【ビジネス】もまだ分かっていない。
日本の大きな拠点を失ったのは痛いが、今後は今日本で生き残っている斥候を使って、奴らの情報収集をせよと仰せだ」
対アメリカの為に日本掌握は急務であったが、それを邪魔する組織がいる。今は早急にその対応を考えねばならない、というのがC国の最高指導者の考えだった。
「引き続き、その任務を私が仰せつかった。お前にはまた世話になるよ」
「ははッ!」
側近は腰を90度にまげて一礼した。ソジュンはそれを見て小さく何度もうなずいた。
「とはいえ、奴らからはしばし距離を置く。斥候による監視は続けるが、今回はこちらの被害も大きい。体勢立て直しにはかなり時間が必要だ」
豪華なデスクに両肘をついて手を組み、ソジュンは厳しい表情を見せる。
「奴らのビジネスについて、どうやら日本警察も動いているようだ。しばらくはそちらの出方を見るとしよう」
斥候の動きを側近に指示し、ソジュンは大きく息を吐くと、執務室の大きなイスに背中を預けた。
仲間の無事を知った者たちは、誰からともなく空き時間に鶴を折りはじめ、やがてそれは千羽鶴ならぬ十数羽鶴となってりおの元に届けられた。
確かに千羽もの鶴が折れるほど公安部はヒマでは無いのだが……。ちんまりと繋げられた鶴を見て、さすがの安室も苦笑いをしていた。
再会の日以来、病室には昴が毎日見舞いに行き、りおの世話をしている。甲斐甲斐しく世話を焼く彼の姿は看護師が羨むほどだった。
「りお、寒くないですか?」
「うん。空調も効いてるし平気」
午前中の面会に来て早々、昴がりおに声をかけた。りおはベッドを起こし、昴に笑顔を見せる。病室へと入った昴の手には、大きな紙袋がぶら下がっていた。
「これ、前の病院からの荷物だそうです。当日着ていた服ですね。クリーニングから帰ってきたそうですよ」
袋から出し、盗聴器等が無いか念入りにチェックをして、昴は備え付けのクローゼットにかけた。
「特に何も仕掛けられてはいませんでしたよ」
紙袋をたたみ、昴は笑顔を向けた。
「ありがとう。そういえば……今回無事でいられたのはコナンくんのおかげかな」
薄いビニールに包まれたブルゾンを見て、りおが微笑んだ。
「ボウヤの?」
「うん。実はあの日の朝、ブルゾンのファスナーのツマミが壊れちゃって。急きょコナンくんに貰ったチャームを付け替えたの。ターコイズは旅のお守り。今日も無事に帰って来れますようにって、その時は軽い気持ちでね」
昴がブルゾンに手を伸ばす。一番上まで引き上げられたファスナーには、確かにターコイズのチャームが揺れていた。
「海にダイブするちょっと前、そのチャームがスンホの袖のボタンに引っかかったのよ。私が彼のスキを作ろうと体をよじった時にね。
当初、起爆スイッチは手刀で弾き飛ばすつもりでいたんだけど、チャームが引っかかったおかげでスンホの気が一瞬逸れた。お陰で着水するまでの短い時間に、上手く彼の手からスイッチを奪えたってわけ」
まさにその瞬間、状況が変わった。
一瞬気が逸れたスンホ。
チャンスを見逃さなかったりお。
そこで勝敗は決まっていたのだ。
「なるほど。持ち主思いのチャームだったわけですね。大事にしないといけないな」
昴もズボンのポケットから車のキーを出し、揃いのチャームを見つめる。数日前にこれを見た時は、絶望のふちにいた。今は穏やかな気持ちで見ることが出来る。
チャームを見つめて微笑む昴の姿を、りおもまた優しく見つめていた。
「そういえば……オドゥムの拠点だったあのアジト、爆発でほとんど跡形も残らなかったんですって。スンホが指揮していた実行部隊は、増員メンバーも含めて全滅。その後の捜査で、都内に潜伏していた別動隊の工作員も何人か摘発して……ほぼ公安部の捜査は終わったみたいなの」
「そうですか……一応の決着がついたわけですね」
「ええ」
りおは窓の方へ視線を移し、少し悲しそうな顔をした。
「でも……日本に潜伏している工作員全員が捕まったわけでは無いだろうし……きっとまた、何か仕掛けてくるわ。C国の体質が変わらない限り何度でも……」
今回の件で、オドゥムは拠点となるはずだった大きなアジトを失い、C国の日本進出は事実上不可能になった。
しかし、あの国がこんなことで諦めるはずが無い。またいつか必ず、日本を手中に収めようと襲ってくるだろう。
「ああ。だが、分からないのはジン達の行動だ。オドゥムは奴らにとってもジャマな存在。日本進出が不可能になったとはいえ、奴らが組織に報復することは今後も有り得る。
オドゥムの情報は是が非でも欲しいはずだ。しかし今回あっさりとその情報を爆破し灰にした。何か他に算段でもあるのだろうか……」
昴の声のまま、赤井の口調でつぶやく。
「それこそが、【ビジネス】に繋がっているんじゃないのかな。そんなものを手に入れなくても、オドゥムを——もしかしたら、C国そのものを——何とかできる。そう思っているのかもしれない」
《軍事国家》を、たかが寄せ集めの一組織が封じ込める。果たしてそんなことが可能だろうか。疑問は尽きない。
(でも……もし出来るとしたら——)
恐ろしい事だ、とりおは表情を歪ませる。
どんな方法にせよ、それは悪夢に近い。多くの血が流れるであろうことは簡単に予想がつく。
「りお、あまり思い詰めるな」
暗い顔をするりおに昴が声をかけた。
「取りあえず、オドゥムの計画を潰した訳だからそれは評価しよう。大学への脅威も一般人へ危害を加えられることも、しばらく心配ない。降谷くんの思惑通り、作戦は上手くいったんだ」
優しい笑みを浮かべ、昴がりおの肩に手を置いた。
「それより、ドクターの話だとあと数日で退院できるそうだ。退院したら体と相談しながら、認知行動療法も再開しないとな。発作は完全に無くなったワケじゃないんだし」
「うん……そうだね」
ゆっくり治していこう、と微笑む昴を見上げ、りおは笑顔で答えた。
***
C国——
国家権力が集まる巨大な建物。
その敷地内に、チュ・ソジュンの姿がある。『国防省』と書かれたエリアの一室で、ソジュンは電話を切ると「ふぅ」とため息をついた。近くに待機していた側近が心配そうにソジュンを見つめる。
「将軍様はだいぶお怒りのようだ」
ソジュンは表情を変えず、側近に向かって言った。側近は黙ったまま視線を落とす。
「スンホが自爆し、日本に送った実行部隊の者は全員が死んだ。彼らが潔く散ってくれたおかげで、私の首はなんとか繋がったよ」
「本当でございますか⁉」
自分の主人にお咎めなしと聞いて、側近は安堵の表情を見せた。
「ああ。だが、あの組織が推し進めている【ビジネス】もまだ分かっていない。
日本の大きな拠点を失ったのは痛いが、今後は今日本で生き残っている斥候を使って、奴らの情報収集をせよと仰せだ」
対アメリカの為に日本掌握は急務であったが、それを邪魔する組織がいる。今は早急にその対応を考えねばならない、というのがC国の最高指導者の考えだった。
「引き続き、その任務を私が仰せつかった。お前にはまた世話になるよ」
「ははッ!」
側近は腰を90度にまげて一礼した。ソジュンはそれを見て小さく何度もうなずいた。
「とはいえ、奴らからはしばし距離を置く。斥候による監視は続けるが、今回はこちらの被害も大きい。体勢立て直しにはかなり時間が必要だ」
豪華なデスクに両肘をついて手を組み、ソジュンは厳しい表情を見せる。
「奴らのビジネスについて、どうやら日本警察も動いているようだ。しばらくはそちらの出方を見るとしよう」
斥候の動きを側近に指示し、ソジュンは大きく息を吐くと、執務室の大きなイスに背中を預けた。