第8章 ~新たな決意を胸に~
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「つまり……あの時、りおを助けたのはベルモットだったということか?」
感動の再会からようやく平常心に戻って、ここに至るまでのいきさつを聞いた。
「うん。実はデッキの客の中に、組織の構成員が紛れ込んでいるのを目撃したの。公安だけじゃなく、組織もスンホを探してたからね。
私、ジンからも連絡を受けていたのよ。『おそらく、自分かラスティーか、どちらかを狙って来るだろうから気をつけろ』って。
だからあの日、エッジオブオーシャンへ偵察に行くことは、ベルモットにだけ伝えてあったのよ」
りおの話を聞いて赤井は「そうだったのか」とつぶやいた。
「スンホとあなたが戦っている時、その構成員から、『海でベルモットが待機してる』って口の動きで伝えられて……」
「それで海に落ちても、何とかなると思ったんだな」
捨て身の作戦であったなら、あの時『生きて帰る』とは伝えてこなかっただろう。
近くでベルモットが待機していると知っていたからこそ、あえて『体当たり』という形で客からスンホを遠ざけたのだ。
「うん、そうだよ。海に落ちる直前に、私はスンホから起爆スイッチを奪ったの。彼の拘束から、なんとか抜け出た状態で海に落ちたってわけ」
だてに何度もオドゥムの構成員に羽交い絞めにされてないわ、とりおは笑う。
「海に落ちたら思いのほか潮の流れがあってね。私はとっさに近くにあったロープに掴まったの。実はそれ、海中に居たベルモットが用意してくれたものだったのよ。船上の様子を無線で聞きながら、彼女は船底にロープを固定して万が一に備えていたの。
おかげで私は潮に流されず、その場に留まる事が出来た。
スンホはロープに気付かず、そのまま流されたわ。それでも私を巻き込もうと、体にくくり付けていた爆弾に、持っていた銃で直接銃弾を撃ち込んだの」
「それで爆弾が爆発したんだな」
あの水柱の下で、そのような攻防戦が繰り広げられていたとは……。赤井は眉根を寄せる。
「潮の流れで離れていたとはいえ、スンホから距離が近かった私は、爆発の威力で意識を失った。ベルモットは船の影にいたおかげで爆弾の影響は受けずに済んだの。
あとはベルモットに連れられて、海上にいたアロンが引き上げてくれたってわけ」
「アロンが?」
意外な人物の名を聞き、赤井が問いかけた。
「ええ。海上と海中、どっちでも援護に回れるように二手に分かれて待機してたみたい。
ダイビングの装備をしていたベルモットに介抱されて、クルーズ船からだいぶ離れた所で引き上げられた。アロンが私達を拾ってくれたそうよ。警察が駆けつけた時には、すでにその場を離れていたわ」
それで直後の大規模な捜索でも見つけられなかったのか、と赤井はつぶやいた。
「しかし海中で待機とは……ベルモットはそこまで読んでいたのか?」
「ええ。スンホにはもう後が無い。ジンは別の任務でアジトにほぼ缶詰だった。そうなれば、ラスティーを殺すか、より多くの犠牲者を出して自爆するかの二択。
さらに彼の目撃場所から推測すれば、おのずとクルーズ船の客を狙うだろうって。
クルーズ船でスンホと私が対峙するとしたら船の甲板。
そうなれば『ラスティーの事だから、きっと上から降ってくるだろう』って確信があったみたい」
りおの話を聞いて、赤井は思わず吹き出す。確かにそうだな、と妙に納得してしまった。
「こうやって聞くと、だいぶ計算されてたように聞こえるでしょう。しかし、現実はなかなかハードでしたよ」
二人のやり取りを聞いていた安室が、やれやれと両手を広げた。
「というと?」
まだ何かあるのか、と赤井が安室に問いかける。
「体力のない体で冷たい海に飛び込んだ上に、やや距離があったとはいえ爆発の圧力をモロに浴びたんです。海から彼女を引き上げた時は瀕死状態だったと聞きました。
慌ててベルモットは自身の顔が利く病院に連れて行きましたが、三日間ほど生死の境をさまよったらしいです」
「なにッ……、三日も?」
今までの話の流れでは、そんなにひどい状態だったとは一言も聞いていない。ジロリと赤井がりおを見る。
「あ……そ、そうだった…っけ」
りおは視線を泳がせ、頬をポリポリと掻いた。
ラスティーが生死の境をさまよっている間、ベルモットはバーボンに連絡を入れたのだという。
まだ生きるか死ぬか分からない。が、とりあえずラスティーを保護し、自分が預かっている、と。
「ようやく峠を越えて快方に向かっていると連絡が来たのが五日前。そろそろ面会が出来るくらいになった、と連絡が来たのが昨日でした。その日のうちに広瀬に面会に行き、この病院に転院したんです」
準備万端整ったところで赤井を迎えに行ったんですよ、と安室が微笑む。
二人が会うなら人の出入りが少ない方が良い、と言って安室がお高い病室を取ってくれたのだ、と今度はりおが肩をすくめた。
「なるほど。そういう事だったのか。だが……一週間前にベルモットから連絡が来ていたのに、なぜ俺に連絡しなかったんだ?」
生きていると知っていればこんなに苦しい思いをせずに済んだはず。赤井は恨めしそうに安室を見た。
「まだ彼女の生死がハッキリしていませんでした。生きていると喜ばせておいて、結局助からなければ、あなたをぬか喜びをさせることになってしまう。
当然迷いましたよ。どのタイミングで切り出すか。下手に捜索の手を緩めれば、僕の正体がバレる可能性もありますし。快方に向かっていると聞いた時だって、そこはベルモットの息がかかった病院です。
自分の目で確認するまでは信じられませんし、安全な病院に転院するまで、あなたを呼ぶわけにはいきませんからね。ホント、ここまで手を回すのは骨が折れましたよ。でもまあ、そのおかげで—―。僕が赤井に用意した『栄養』は、良く効いたようですけどね」
顔色が全然違いますよ、と安室は笑う。そこまで考え抜いてのことだったのか、と赤井は素直に礼を言った。
ブー、ブー、ブー、ブー……
三人が笑顔で話す中、バイブの音が部屋に響く。
「おっと、ウワサをすればベルモットからだ。ちょっと失礼します」
安室はスマホの画面をチラリと覗き、病室を出る。少し離れた給湯室に入ると通話をタップした。
『彼氏クンに会わせてあげた?』
「ええ、二人ともとても喜んでいましたよ。転院先の病院は沖矢さんの家からも近いですし、後は彼に任せます」
『それなら良かった。あの子も喜んだでしょう』
「ええ。まだ熱はありますけど、あの様子なら退院も早まるかもしれません」
『ふふふ。そうなることを願ってるわ』
ベルモットは安心したように優しい声で答える。それはまるで母のような、姉のような——安室も初めて聞く声だった。
しかしそれもつかの間——すぐにいつもの《ベルモット》の声に戻った。
「これで邪魔なオドゥムが居なくなった。ジンはいよいよ本格的に始めるわよ。組織の重要機密だから、あなた達でさえ教えられることは今はほとんどないけど……【ビジネス】が軌道に乗ったら、その時に教えてあげるわ」
じゃ、あとはよろしく。とだけ言って、ベルモットは電話を切った。
(ビジネス…か…)
安室は険しい顔のまま、すでに通話の切れたスマホの画面を見つめていた。
「つまり……あの時、りおを助けたのはベルモットだったということか?」
感動の再会からようやく平常心に戻って、ここに至るまでのいきさつを聞いた。
「うん。実はデッキの客の中に、組織の構成員が紛れ込んでいるのを目撃したの。公安だけじゃなく、組織もスンホを探してたからね。
私、ジンからも連絡を受けていたのよ。『おそらく、自分かラスティーか、どちらかを狙って来るだろうから気をつけろ』って。
だからあの日、エッジオブオーシャンへ偵察に行くことは、ベルモットにだけ伝えてあったのよ」
りおの話を聞いて赤井は「そうだったのか」とつぶやいた。
「スンホとあなたが戦っている時、その構成員から、『海でベルモットが待機してる』って口の動きで伝えられて……」
「それで海に落ちても、何とかなると思ったんだな」
捨て身の作戦であったなら、あの時『生きて帰る』とは伝えてこなかっただろう。
近くでベルモットが待機していると知っていたからこそ、あえて『体当たり』という形で客からスンホを遠ざけたのだ。
「うん、そうだよ。海に落ちる直前に、私はスンホから起爆スイッチを奪ったの。彼の拘束から、なんとか抜け出た状態で海に落ちたってわけ」
だてに何度もオドゥムの構成員に羽交い絞めにされてないわ、とりおは笑う。
「海に落ちたら思いのほか潮の流れがあってね。私はとっさに近くにあったロープに掴まったの。実はそれ、海中に居たベルモットが用意してくれたものだったのよ。船上の様子を無線で聞きながら、彼女は船底にロープを固定して万が一に備えていたの。
おかげで私は潮に流されず、その場に留まる事が出来た。
スンホはロープに気付かず、そのまま流されたわ。それでも私を巻き込もうと、体にくくり付けていた爆弾に、持っていた銃で直接銃弾を撃ち込んだの」
「それで爆弾が爆発したんだな」
あの水柱の下で、そのような攻防戦が繰り広げられていたとは……。赤井は眉根を寄せる。
「潮の流れで離れていたとはいえ、スンホから距離が近かった私は、爆発の威力で意識を失った。ベルモットは船の影にいたおかげで爆弾の影響は受けずに済んだの。
あとはベルモットに連れられて、海上にいたアロンが引き上げてくれたってわけ」
「アロンが?」
意外な人物の名を聞き、赤井が問いかけた。
「ええ。海上と海中、どっちでも援護に回れるように二手に分かれて待機してたみたい。
ダイビングの装備をしていたベルモットに介抱されて、クルーズ船からだいぶ離れた所で引き上げられた。アロンが私達を拾ってくれたそうよ。警察が駆けつけた時には、すでにその場を離れていたわ」
それで直後の大規模な捜索でも見つけられなかったのか、と赤井はつぶやいた。
「しかし海中で待機とは……ベルモットはそこまで読んでいたのか?」
「ええ。スンホにはもう後が無い。ジンは別の任務でアジトにほぼ缶詰だった。そうなれば、ラスティーを殺すか、より多くの犠牲者を出して自爆するかの二択。
さらに彼の目撃場所から推測すれば、おのずとクルーズ船の客を狙うだろうって。
クルーズ船でスンホと私が対峙するとしたら船の甲板。
そうなれば『ラスティーの事だから、きっと上から降ってくるだろう』って確信があったみたい」
りおの話を聞いて、赤井は思わず吹き出す。確かにそうだな、と妙に納得してしまった。
「こうやって聞くと、だいぶ計算されてたように聞こえるでしょう。しかし、現実はなかなかハードでしたよ」
二人のやり取りを聞いていた安室が、やれやれと両手を広げた。
「というと?」
まだ何かあるのか、と赤井が安室に問いかける。
「体力のない体で冷たい海に飛び込んだ上に、やや距離があったとはいえ爆発の圧力をモロに浴びたんです。海から彼女を引き上げた時は瀕死状態だったと聞きました。
慌ててベルモットは自身の顔が利く病院に連れて行きましたが、三日間ほど生死の境をさまよったらしいです」
「なにッ……、三日も?」
今までの話の流れでは、そんなにひどい状態だったとは一言も聞いていない。ジロリと赤井がりおを見る。
「あ……そ、そうだった…っけ」
りおは視線を泳がせ、頬をポリポリと掻いた。
ラスティーが生死の境をさまよっている間、ベルモットはバーボンに連絡を入れたのだという。
まだ生きるか死ぬか分からない。が、とりあえずラスティーを保護し、自分が預かっている、と。
「ようやく峠を越えて快方に向かっていると連絡が来たのが五日前。そろそろ面会が出来るくらいになった、と連絡が来たのが昨日でした。その日のうちに広瀬に面会に行き、この病院に転院したんです」
準備万端整ったところで赤井を迎えに行ったんですよ、と安室が微笑む。
二人が会うなら人の出入りが少ない方が良い、と言って安室がお高い病室を取ってくれたのだ、と今度はりおが肩をすくめた。
「なるほど。そういう事だったのか。だが……一週間前にベルモットから連絡が来ていたのに、なぜ俺に連絡しなかったんだ?」
生きていると知っていればこんなに苦しい思いをせずに済んだはず。赤井は恨めしそうに安室を見た。
「まだ彼女の生死がハッキリしていませんでした。生きていると喜ばせておいて、結局助からなければ、あなたをぬか喜びをさせることになってしまう。
当然迷いましたよ。どのタイミングで切り出すか。下手に捜索の手を緩めれば、僕の正体がバレる可能性もありますし。快方に向かっていると聞いた時だって、そこはベルモットの息がかかった病院です。
自分の目で確認するまでは信じられませんし、安全な病院に転院するまで、あなたを呼ぶわけにはいきませんからね。ホント、ここまで手を回すのは骨が折れましたよ。でもまあ、そのおかげで—―。僕が赤井に用意した『栄養』は、良く効いたようですけどね」
顔色が全然違いますよ、と安室は笑う。そこまで考え抜いてのことだったのか、と赤井は素直に礼を言った。
ブー、ブー、ブー、ブー……
三人が笑顔で話す中、バイブの音が部屋に響く。
「おっと、ウワサをすればベルモットからだ。ちょっと失礼します」
安室はスマホの画面をチラリと覗き、病室を出る。少し離れた給湯室に入ると通話をタップした。
『彼氏クンに会わせてあげた?』
「ええ、二人ともとても喜んでいましたよ。転院先の病院は沖矢さんの家からも近いですし、後は彼に任せます」
『それなら良かった。あの子も喜んだでしょう』
「ええ。まだ熱はありますけど、あの様子なら退院も早まるかもしれません」
『ふふふ。そうなることを願ってるわ』
ベルモットは安心したように優しい声で答える。それはまるで母のような、姉のような——安室も初めて聞く声だった。
しかしそれもつかの間——すぐにいつもの《ベルモット》の声に戻った。
「これで邪魔なオドゥムが居なくなった。ジンはいよいよ本格的に始めるわよ。組織の重要機密だから、あなた達でさえ教えられることは今はほとんどないけど……【ビジネス】が軌道に乗ったら、その時に教えてあげるわ」
じゃ、あとはよろしく。とだけ言って、ベルモットは電話を切った。
(ビジネス…か…)
安室は険しい顔のまま、すでに通話の切れたスマホの画面を見つめていた。