第8章 ~新たな決意を胸に~
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***
リンゴーン
突然、工藤邸の呼び鈴が鳴る。
「ッ! まさか……りお⁉」
赤井はすぐさまインターホンの受話器を取った。だが期待に反してインターホンのカメラに映っていたのは別の人物だった。
ガチャ……
赤井がドアを開ける。そこには安室が立っていた。
「赤井……朝早くに悪いが、すぐに出かける用意をして下さい」
「すぐ?」
「ああ」
「どこへ行くか訊いても?」
「何も聞かず、ただ準備だけ。さすがに変装はまだでしたか……。まあ、そのままでも良い」
「わかった」
何か事情があるのだろう。赤井は返事をするとすぐに自室へ向かい着替えをした。その間、安室にはダイニングで待ってもらった。
急ぎだというので、取りあえず上はダークカラーのセーターに下はジーンズという格好。
歯を磨いて顔を洗った後は、髪をかき上げてワックスをつけた。
準備を終えてダイニングへ戻る。
「待たせたな」
「いいえ。お食事の途中でしたか。せっかくですから食べてから行きましょう」
「急いでるんじゃないのか?」
「いえ、食事を待つくらいの時間はありますよ」
「……そう…か」
安室の意図が分からず、赤井は「じゃあ」と言って、すでに冷めてしまった朝食に手を付けた。
食べてる姿を安室に見られているというのはどうにも落ち着かない。
食事は十数分で済んだが、食べたものがどこに入ったのか分からないくらい緊張した。
「食事の所作、キレイなんですね」
「そうか?」
「ええ。育ちの良さがにじみ出ています」
別に普通に食べただけだが? と赤井は思ったが、同じような事をりおにも言われたことがある。
珍しく安室が自分を褒めているようだ。そう思うと少々気恥ずかしい。
「さてと。それじゃあ、帽子と…あとサングラスくらいはかけてください。一応身元がバレない程度の変装は必要です。そしたら出掛けますよ」
ポアロのアルバイト店員が板についているせいか、安室はサッと空いた皿を手に取ると洗い場へと持っていく。
「洗い物はしておきます。あなたは準備を」
「あ、ああ。すまないな…」
多少の居心地悪さを感じつつ、赤井はダイニングを出た。
RX-7に乗ると、安室がエンジンをかけた。
「この車に乗せてもらうのは初めてだな」
「そうでしたね」
いい年をした大人の男二人が運転席と助手席に収まると、まるで車の試乗にでも行くようだ。
「じゃ、出発しますよ」
RX-7が低いエンジン音を響かせて動き出す。
(いったいどこへ連れて行く気だ?)
不安と期待とで自然と早く打つ鼓動を感じながら、赤井はジッと前を見据えた。
車を走らせること二十分ほど。車はとある建物の前に停まった。
「病院?」
車から降りた赤井は、正面玄関の前で建物を見上げた。
「ええ。ジョディさんから、あなたがだいぶ無理をしていると聞いてね。少し栄養を補った方が良いと思いまして」
「は?」
そんな事の為に連れ出したのか? 赤井は半ばあきれ顔で安室を見た。
「それなら心配ない。さっき見てもらった通り食事もちゃんと取れている。こんなところで点滴などされなくても俺は……」
「まあまあ。僕もここに用があるので。付き合ってください」
ニコニコと人の良い笑顔を貼り付けて、安室は「さあどうぞ」と中へ入るよう促す。自分の車で来なかった事を後悔しつつ、赤井は渋々中へと入った。
病院に入ってすぐ、エレベーターホールへと連れられた。エレベーターに乗ると安室は十階のボタンを押す。
「十階ということは入院病棟か?」
不思議に思った赤井が安室に問いかけた。
「ええ。人の出入りがない方が良いと思いまして。部屋を取ってあります。そこであなたも栄養を貰うと良いですよ」
「部屋を取るって……病院だろう……?」
ホテルじゃあるまいし。点滴をするだけなのにわざわざ入院病棟へ? 俺を入院させる気か?
安室が何を考えているのかさっぱり分からない。赤井は小首を傾げつつ、それ以上何も訊かなかった。
チン…
特に会話も無いまま目的のフロアに着き、控えめなチャイムが鳴るとドアが開いた。
「こっちです」
安室に案内されるままフロアの廊下を歩く。どうも他の病棟とは雰囲気が違うようだ。
「特別病棟ですからね。政財界のお偉いさんやセレブの方など…。いわゆるお金をたくさん払って入れる特別な個室です」
「ふ~ん……」
もう何を言われても動じない。点滴でも何でもして、さっさと帰ろう。入院だけはまっぴら御免だ、などと考えながら、赤井は安室の後ろをついていった。
やがて、とある病室の前で安室が立ち止まった。赤井の顔を見てニッコリ微笑む。
「もう準備は出来ていますから。一応ノックをして中に入って下さい」
「いや、ちょっと待て。百歩譲って点滴は良いとして、俺は入院なんぞする気は……」
「まあまあ……。入院するかどうかはともかく、今のあなたには栄養が必要です。まずは入ってドクターにご挨拶を」
どうあっても、ここで『治療』を受けねばならないらしい。赤井は追及を諦め、ドアをノックした。
コンコン……
特に返事はない。
「ちょっと席を外しているのかな? 静かに入ってみてください」
安室に促され、気が進まないまま赤井は病室のドアを開けた。
ガララ…
「失礼します」
一応挨拶をして部屋に入る。マナーとして帽子とサングラスを外した。
広い部屋には、医者や看護師らしい人影は無い。カーテンが開いているためか、真っ白な病室内に朝の光が反射していた。
「?」
眩しい光の中、やや目を細めて部屋を見ると、ベッドの布団がこんもりと盛り上がっていた。
(誰か……居るのか?)
不審に思いながら、赤井は部屋の中へと足を踏み入れる。どうやら人が寝ているらしい。
目元に当たる光を手で遮りながら、ベッドへ近づいた。
「ッ……!」
寝ている人物の顔を見て、赤井は息を飲む。持っていた帽子とサングラスが床に落ちた。
「りおッ‼」
ベッドで眠っていたのは紛れもなく——
その帰りをずっと待ち望んでいた《愛しい恋人》だった。
赤井は思わずベッドに駆け寄った。ベッドサイドに両膝を付き、点滴の繋がった手を握る。
熱があるのか、いつもより熱いりおの手。
自分の手よりずいぶん細く華奢な手を、赤井は両手で握り、自分の額に押し付けた。
涙が後から後からこぼれ落ちる。
赤井の涙はりおの手を伝ってベッドのシーツを濡らした。
「…秀一…さん……」
名を呼ばれ、赤井はりおの顔を見た。
さっきまで閉じていた目が開かれ、愛してやまないアンバーの瞳がこちらを見ていた。
「ただいま。秀一さん」
熱のせいなのか、それともまだ半分まどろんでいるのか、りおはふにゃりと微笑む。
首元で光る、シーグラスのペンダントが「チャリッ」と音を立てた。
「おかえり……おかえり、りお」
流れる涙はそのままに、赤井は震える声でそう答えた。
リンゴーン
突然、工藤邸の呼び鈴が鳴る。
「ッ! まさか……りお⁉」
赤井はすぐさまインターホンの受話器を取った。だが期待に反してインターホンのカメラに映っていたのは別の人物だった。
ガチャ……
赤井がドアを開ける。そこには安室が立っていた。
「赤井……朝早くに悪いが、すぐに出かける用意をして下さい」
「すぐ?」
「ああ」
「どこへ行くか訊いても?」
「何も聞かず、ただ準備だけ。さすがに変装はまだでしたか……。まあ、そのままでも良い」
「わかった」
何か事情があるのだろう。赤井は返事をするとすぐに自室へ向かい着替えをした。その間、安室にはダイニングで待ってもらった。
急ぎだというので、取りあえず上はダークカラーのセーターに下はジーンズという格好。
歯を磨いて顔を洗った後は、髪をかき上げてワックスをつけた。
準備を終えてダイニングへ戻る。
「待たせたな」
「いいえ。お食事の途中でしたか。せっかくですから食べてから行きましょう」
「急いでるんじゃないのか?」
「いえ、食事を待つくらいの時間はありますよ」
「……そう…か」
安室の意図が分からず、赤井は「じゃあ」と言って、すでに冷めてしまった朝食に手を付けた。
食べてる姿を安室に見られているというのはどうにも落ち着かない。
食事は十数分で済んだが、食べたものがどこに入ったのか分からないくらい緊張した。
「食事の所作、キレイなんですね」
「そうか?」
「ええ。育ちの良さがにじみ出ています」
別に普通に食べただけだが? と赤井は思ったが、同じような事をりおにも言われたことがある。
珍しく安室が自分を褒めているようだ。そう思うと少々気恥ずかしい。
「さてと。それじゃあ、帽子と…あとサングラスくらいはかけてください。一応身元がバレない程度の変装は必要です。そしたら出掛けますよ」
ポアロのアルバイト店員が板についているせいか、安室はサッと空いた皿を手に取ると洗い場へと持っていく。
「洗い物はしておきます。あなたは準備を」
「あ、ああ。すまないな…」
多少の居心地悪さを感じつつ、赤井はダイニングを出た。
RX-7に乗ると、安室がエンジンをかけた。
「この車に乗せてもらうのは初めてだな」
「そうでしたね」
いい年をした大人の男二人が運転席と助手席に収まると、まるで車の試乗にでも行くようだ。
「じゃ、出発しますよ」
RX-7が低いエンジン音を響かせて動き出す。
(いったいどこへ連れて行く気だ?)
不安と期待とで自然と早く打つ鼓動を感じながら、赤井はジッと前を見据えた。
車を走らせること二十分ほど。車はとある建物の前に停まった。
「病院?」
車から降りた赤井は、正面玄関の前で建物を見上げた。
「ええ。ジョディさんから、あなたがだいぶ無理をしていると聞いてね。少し栄養を補った方が良いと思いまして」
「は?」
そんな事の為に連れ出したのか? 赤井は半ばあきれ顔で安室を見た。
「それなら心配ない。さっき見てもらった通り食事もちゃんと取れている。こんなところで点滴などされなくても俺は……」
「まあまあ。僕もここに用があるので。付き合ってください」
ニコニコと人の良い笑顔を貼り付けて、安室は「さあどうぞ」と中へ入るよう促す。自分の車で来なかった事を後悔しつつ、赤井は渋々中へと入った。
病院に入ってすぐ、エレベーターホールへと連れられた。エレベーターに乗ると安室は十階のボタンを押す。
「十階ということは入院病棟か?」
不思議に思った赤井が安室に問いかけた。
「ええ。人の出入りがない方が良いと思いまして。部屋を取ってあります。そこであなたも栄養を貰うと良いですよ」
「部屋を取るって……病院だろう……?」
ホテルじゃあるまいし。点滴をするだけなのにわざわざ入院病棟へ? 俺を入院させる気か?
安室が何を考えているのかさっぱり分からない。赤井は小首を傾げつつ、それ以上何も訊かなかった。
チン…
特に会話も無いまま目的のフロアに着き、控えめなチャイムが鳴るとドアが開いた。
「こっちです」
安室に案内されるままフロアの廊下を歩く。どうも他の病棟とは雰囲気が違うようだ。
「特別病棟ですからね。政財界のお偉いさんやセレブの方など…。いわゆるお金をたくさん払って入れる特別な個室です」
「ふ~ん……」
もう何を言われても動じない。点滴でも何でもして、さっさと帰ろう。入院だけはまっぴら御免だ、などと考えながら、赤井は安室の後ろをついていった。
やがて、とある病室の前で安室が立ち止まった。赤井の顔を見てニッコリ微笑む。
「もう準備は出来ていますから。一応ノックをして中に入って下さい」
「いや、ちょっと待て。百歩譲って点滴は良いとして、俺は入院なんぞする気は……」
「まあまあ……。入院するかどうかはともかく、今のあなたには栄養が必要です。まずは入ってドクターにご挨拶を」
どうあっても、ここで『治療』を受けねばならないらしい。赤井は追及を諦め、ドアをノックした。
コンコン……
特に返事はない。
「ちょっと席を外しているのかな? 静かに入ってみてください」
安室に促され、気が進まないまま赤井は病室のドアを開けた。
ガララ…
「失礼します」
一応挨拶をして部屋に入る。マナーとして帽子とサングラスを外した。
広い部屋には、医者や看護師らしい人影は無い。カーテンが開いているためか、真っ白な病室内に朝の光が反射していた。
「?」
眩しい光の中、やや目を細めて部屋を見ると、ベッドの布団がこんもりと盛り上がっていた。
(誰か……居るのか?)
不審に思いながら、赤井は部屋の中へと足を踏み入れる。どうやら人が寝ているらしい。
目元に当たる光を手で遮りながら、ベッドへ近づいた。
「ッ……!」
寝ている人物の顔を見て、赤井は息を飲む。持っていた帽子とサングラスが床に落ちた。
「りおッ‼」
ベッドで眠っていたのは紛れもなく——
その帰りをずっと待ち望んでいた《愛しい恋人》だった。
赤井は思わずベッドに駆け寄った。ベッドサイドに両膝を付き、点滴の繋がった手を握る。
熱があるのか、いつもより熱いりおの手。
自分の手よりずいぶん細く華奢な手を、赤井は両手で握り、自分の額に押し付けた。
涙が後から後からこぼれ落ちる。
赤井の涙はりおの手を伝ってベッドのシーツを濡らした。
「…秀一…さん……」
名を呼ばれ、赤井はりおの顔を見た。
さっきまで閉じていた目が開かれ、愛してやまないアンバーの瞳がこちらを見ていた。
「ただいま。秀一さん」
熱のせいなのか、それともまだ半分まどろんでいるのか、りおはふにゃりと微笑む。
首元で光る、シーグラスのペンダントが「チャリッ」と音を立てた。
「おかえり……おかえり、りお」
流れる涙はそのままに、赤井は震える声でそう答えた。