第8章 ~新たな決意を胸に~
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キーンコーンカーンコーン……
帝丹小学校のチャイムが鳴り響く。
「は~い、みんな! 今日はここまで。ノートに書けたら先生に提出してね。
じゃ、お当番さん。終わりの挨拶をお願い」
「はーい」
挨拶が済むと、教室はガヤガヤと賑やかになった。
「グランドで遊ぼうよ」
「いいよ~」
「なら、3時間目の準備してから行こ!」
「あ、次は音楽か~」
元気のいい男の子たちは、次の授業の準備をして教室を飛び出していく。
「おい、コナン! 俺たちもサッカーしに行こうぜ!」
「今日こそ元太くんのシュートを阻止してみせますよ!」
元太と光彦がコナンに声をかけた。
「あ、ああ……今日はいいや」
いつもなら二つ返事で外に行くコナンが、ここ数日元気が無い。
「どうしたのコナンくん?」
心配そうに歩美が話しかけた。
「ん、いや……なんでもねぇ…」
コナンは無理に笑うと、それ以上は何も言わない。歩美たちは心配そうに顔を見合わせた。
実はさくらがクルーズ船の事件に巻き込まれ、行方不明になっている事を子どもたちは知らない。
下手に心配をかけたくないというのもあるが、その事を知った子どもたちが昴を心配して会いに行くことを避けたかったからだ。
赤井には今、変装をして《沖矢昴》を演じる気力はない。
同じ理由で哀にも事実を伏せているが、勘の鋭い哀はコナンが何か隠している事に何となく気付いているようだった。
「そ、そうか? じゅあオレたちだけで外行ってくるぞ」
まだ何となく腑に落ちない顔をして、元太と光彦、そして歩美は教室を出る。その様子を哀が目で追っていた。
「元気ないわね」
三人が出て行ったことを確認して、哀がコナンに声をかけた。
「そうか?」
机にひじをつき、コナンはぼんやりと外を眺めている。
「何かあったんでしょう?」
オブラートに包むこともせず、単刀直入に哀は尚も問いかける。
「ねーよ」
多くを語ればボロが出る。コナンは努めて短く答えた。が、哀にとっては、その態度が余計癪に障る。
「『ねーよ』じゃないわよ。あったからそんな顔してるんでしょ。いったい何があったの? 相談くらい乗るわよ」
それは哀の優しさに他ならない。子どもたちには相談できなくても、同じ秘密を共有する者同士。自分なら相談相手になる。そんな気持ちで哀は声をかけた。
それはコナンも分かっている。しかし《沖矢昴》の秘密を知らない哀に、これ以上踏み込ませるわけにはいかない。
「ホントになんでもねーって」
コナンはこれ以上追及されないように、席を立った。その態度に哀の眉が吊り上がる。
「ちょっと待ちなさい。あなたがそういう時は大抵何でもなくないのよ。どうしても言わないなら、当ててあげましょうか。
あなたが隠している事に、工藤邸のお二人さんが関係している……違う?」
「ッ!!」
怖い顔で睨みつける哀を、コナンは驚いた顔で振り返った。
「その顔は図星ね。なんで分かったか教えてあげましょうか。
ここ数日、二人の姿を見かけていないの。昴さんも、さくらさんも全く、ね。
夜、電気はついているから、不在というわけではない。だけど電気がついているのはいつも一か所だけ。そして同じタイミングであなたの様子がおかしくなった……。とすれば答えは一つ。どうかしら、私の推理」
探偵顔負けの推理を披露して、哀はコナンに詰め寄る。これ以上は無理だな、と判断してコナンはため息をついた。
「ああ、そうだよ。おめーの言う通り。先日起きたクルーズ船の爆発事件。知ってるだろ? アレに二人が関わってるんだ。そしてその爆発に巻き込まれて……さくらさんが行方不明だ」
「なんですって⁉」
思わず叫んでしまった哀に、周りの子どもたちが何事かと振り向いた。哀は愛想笑いをしてその場を収める。
「爆発に巻き込まれて⁉ ってまさか、犯人と一緒に海に落ちた女性って……」
「そのまさか、だよ」
コナンは周りに聞こえないように、口元に片手を添えた。
「あの日、公安の仕事でさくらさんは昴さんと一緒にエッジオブオーシャンに居たんだ。
そこで犯人と鉢合わせして……ニュースでは出てないが、犯人はオドゥムの実行部隊長。これまでの計画失敗の責任を取らされ、粛清対象だったんだ」
「もしかして……自暴自棄になったその犯人がさくらさんを道連れに……?」
「ああ」
コナンの返事を聞いて哀がよろめいた。
「そ、それで……昴さんは?」
何とか踏みとどまり、哀はさらに訊ねる。
「昴さんは——」
コナンはグッと拳を握った。秘密をバラさぬよう細心の注意を払う。
「目の前でさくらさんが海に消えて、そのまま爆発を見たんだ。相当ショックを受けてるよ。
今はそっとしておいた方が良いと思う。ここ数日はジョディ先生が時々様子を見に行ってるから、身の回りのことは大丈夫だ」
哀が工藤邸へ行かないよう釘を刺す。しかし、哀はさらにつっこんだ質問をした。
「なぜジョディ先生が? 昴さんとジョディ先生、何か関係があるの?」
「ッ…あ、ああ。さくらさんとジョディ先生が繋がってるんだよ。公安とFBIとで合同捜査もあったしな。それで仲良くなって、ジョディ先生は時々工藤邸に遊びに行ってたらしい。
だからじゃないかな。さくらさん、『自分に何かあった時は、昴さんをお願い』って頼んであったみたいなんだ」
ウソは言ってない。『自分に何かあった時は秀一さんをお願いね』と、さくらが(その時は半分冗談交じりで)ジョディに言っていたのは事実だし、捜査資料などを携えて、ジョディが工藤邸に度々顔を出していたのも本当だ。
「そう……」
ようやく納得したように、哀の表情がわずかにゆるむ。それを見て、コナンも肩の荷が下りた様にため息をついた。
「状況的には……どうなの?」
ほんの少し間をおいて、哀が問いかけた。
「え?」
「さくらさんの生存の可能性は?」
うつむいたまま…哀は核心的な事を口にした。
「……正直……絶望的だ…」
「ッ!」
コナンから返された答えに、哀は息を飲んだ。
「犯人は体に爆弾を仕掛けていた。さくらさんはその犯人に羽交い絞めにされたまま、海に落ちた。その直後に爆発。
仮に——海に落ちた衝撃で二人の体が離れたとして、一緒に潮に流されれば二人に距離は無い。爆破の衝撃は水の中ではもろに伝わる。
仮に体がちぎれなくたって、内臓へのダメージは大きい。生存の可能性は……ゼロに近い」
「そんなっ!!」
もう会えないかもしれない。姉の時のように最期に顔を見ることも無く——。哀は唇を噛んだ。
その姿を見てコナンもグッと拳を握りしめる。
(だから……それが分かってるから、赤井さんもあんな状態に……)
心から信頼して頼れる大人二人。その二人を、いっぺんに失くしてしまったような悲しみと絶望を感じ、コナンは下を向く。
(赤井さんとさくらさんは二人でいなきゃダメなんだ。まるで翼と同じ。片方だけでは空を飛べない……)
事件直後の赤井の姿を思い出し、コナンの目に涙が浮かぶ。
(さくらさん…ッ! お願いだ、赤井さんのために……早く帰って来てくれ…)
言葉にならない思いが、涙の粒となって床に落ちた。哀はそれを見て目を閉じる。
(さくらさん……お願いッ! 無事に帰って来て…)
二人の悲痛な思いとは裏腹に、小学校には子どもたちの笑い声が響いていた。
キーンコーンカーンコーン……
帝丹小学校のチャイムが鳴り響く。
「は~い、みんな! 今日はここまで。ノートに書けたら先生に提出してね。
じゃ、お当番さん。終わりの挨拶をお願い」
「はーい」
挨拶が済むと、教室はガヤガヤと賑やかになった。
「グランドで遊ぼうよ」
「いいよ~」
「なら、3時間目の準備してから行こ!」
「あ、次は音楽か~」
元気のいい男の子たちは、次の授業の準備をして教室を飛び出していく。
「おい、コナン! 俺たちもサッカーしに行こうぜ!」
「今日こそ元太くんのシュートを阻止してみせますよ!」
元太と光彦がコナンに声をかけた。
「あ、ああ……今日はいいや」
いつもなら二つ返事で外に行くコナンが、ここ数日元気が無い。
「どうしたのコナンくん?」
心配そうに歩美が話しかけた。
「ん、いや……なんでもねぇ…」
コナンは無理に笑うと、それ以上は何も言わない。歩美たちは心配そうに顔を見合わせた。
実はさくらがクルーズ船の事件に巻き込まれ、行方不明になっている事を子どもたちは知らない。
下手に心配をかけたくないというのもあるが、その事を知った子どもたちが昴を心配して会いに行くことを避けたかったからだ。
赤井には今、変装をして《沖矢昴》を演じる気力はない。
同じ理由で哀にも事実を伏せているが、勘の鋭い哀はコナンが何か隠している事に何となく気付いているようだった。
「そ、そうか? じゅあオレたちだけで外行ってくるぞ」
まだ何となく腑に落ちない顔をして、元太と光彦、そして歩美は教室を出る。その様子を哀が目で追っていた。
「元気ないわね」
三人が出て行ったことを確認して、哀がコナンに声をかけた。
「そうか?」
机にひじをつき、コナンはぼんやりと外を眺めている。
「何かあったんでしょう?」
オブラートに包むこともせず、単刀直入に哀は尚も問いかける。
「ねーよ」
多くを語ればボロが出る。コナンは努めて短く答えた。が、哀にとっては、その態度が余計癪に障る。
「『ねーよ』じゃないわよ。あったからそんな顔してるんでしょ。いったい何があったの? 相談くらい乗るわよ」
それは哀の優しさに他ならない。子どもたちには相談できなくても、同じ秘密を共有する者同士。自分なら相談相手になる。そんな気持ちで哀は声をかけた。
それはコナンも分かっている。しかし《沖矢昴》の秘密を知らない哀に、これ以上踏み込ませるわけにはいかない。
「ホントになんでもねーって」
コナンはこれ以上追及されないように、席を立った。その態度に哀の眉が吊り上がる。
「ちょっと待ちなさい。あなたがそういう時は大抵何でもなくないのよ。どうしても言わないなら、当ててあげましょうか。
あなたが隠している事に、工藤邸のお二人さんが関係している……違う?」
「ッ!!」
怖い顔で睨みつける哀を、コナンは驚いた顔で振り返った。
「その顔は図星ね。なんで分かったか教えてあげましょうか。
ここ数日、二人の姿を見かけていないの。昴さんも、さくらさんも全く、ね。
夜、電気はついているから、不在というわけではない。だけど電気がついているのはいつも一か所だけ。そして同じタイミングであなたの様子がおかしくなった……。とすれば答えは一つ。どうかしら、私の推理」
探偵顔負けの推理を披露して、哀はコナンに詰め寄る。これ以上は無理だな、と判断してコナンはため息をついた。
「ああ、そうだよ。おめーの言う通り。先日起きたクルーズ船の爆発事件。知ってるだろ? アレに二人が関わってるんだ。そしてその爆発に巻き込まれて……さくらさんが行方不明だ」
「なんですって⁉」
思わず叫んでしまった哀に、周りの子どもたちが何事かと振り向いた。哀は愛想笑いをしてその場を収める。
「爆発に巻き込まれて⁉ ってまさか、犯人と一緒に海に落ちた女性って……」
「そのまさか、だよ」
コナンは周りに聞こえないように、口元に片手を添えた。
「あの日、公安の仕事でさくらさんは昴さんと一緒にエッジオブオーシャンに居たんだ。
そこで犯人と鉢合わせして……ニュースでは出てないが、犯人はオドゥムの実行部隊長。これまでの計画失敗の責任を取らされ、粛清対象だったんだ」
「もしかして……自暴自棄になったその犯人がさくらさんを道連れに……?」
「ああ」
コナンの返事を聞いて哀がよろめいた。
「そ、それで……昴さんは?」
何とか踏みとどまり、哀はさらに訊ねる。
「昴さんは——」
コナンはグッと拳を握った。秘密をバラさぬよう細心の注意を払う。
「目の前でさくらさんが海に消えて、そのまま爆発を見たんだ。相当ショックを受けてるよ。
今はそっとしておいた方が良いと思う。ここ数日はジョディ先生が時々様子を見に行ってるから、身の回りのことは大丈夫だ」
哀が工藤邸へ行かないよう釘を刺す。しかし、哀はさらにつっこんだ質問をした。
「なぜジョディ先生が? 昴さんとジョディ先生、何か関係があるの?」
「ッ…あ、ああ。さくらさんとジョディ先生が繋がってるんだよ。公安とFBIとで合同捜査もあったしな。それで仲良くなって、ジョディ先生は時々工藤邸に遊びに行ってたらしい。
だからじゃないかな。さくらさん、『自分に何かあった時は、昴さんをお願い』って頼んであったみたいなんだ」
ウソは言ってない。『自分に何かあった時は秀一さんをお願いね』と、さくらが(その時は半分冗談交じりで)ジョディに言っていたのは事実だし、捜査資料などを携えて、ジョディが工藤邸に度々顔を出していたのも本当だ。
「そう……」
ようやく納得したように、哀の表情がわずかにゆるむ。それを見て、コナンも肩の荷が下りた様にため息をついた。
「状況的には……どうなの?」
ほんの少し間をおいて、哀が問いかけた。
「え?」
「さくらさんの生存の可能性は?」
うつむいたまま…哀は核心的な事を口にした。
「……正直……絶望的だ…」
「ッ!」
コナンから返された答えに、哀は息を飲んだ。
「犯人は体に爆弾を仕掛けていた。さくらさんはその犯人に羽交い絞めにされたまま、海に落ちた。その直後に爆発。
仮に——海に落ちた衝撃で二人の体が離れたとして、一緒に潮に流されれば二人に距離は無い。爆破の衝撃は水の中ではもろに伝わる。
仮に体がちぎれなくたって、内臓へのダメージは大きい。生存の可能性は……ゼロに近い」
「そんなっ!!」
もう会えないかもしれない。姉の時のように最期に顔を見ることも無く——。哀は唇を噛んだ。
その姿を見てコナンもグッと拳を握りしめる。
(だから……それが分かってるから、赤井さんもあんな状態に……)
心から信頼して頼れる大人二人。その二人を、いっぺんに失くしてしまったような悲しみと絶望を感じ、コナンは下を向く。
(赤井さんとさくらさんは二人でいなきゃダメなんだ。まるで翼と同じ。片方だけでは空を飛べない……)
事件直後の赤井の姿を思い出し、コナンの目に涙が浮かぶ。
(さくらさん…ッ! お願いだ、赤井さんのために……早く帰って来てくれ…)
言葉にならない思いが、涙の粒となって床に落ちた。哀はそれを見て目を閉じる。
(さくらさん……お願いッ! 無事に帰って来て…)
二人の悲痛な思いとは裏腹に、小学校には子どもたちの笑い声が響いていた。