第8章 ~新たな決意を胸に~
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ジョディの運転で赤井は警視庁へとたどり着く。
サングラスと帽子という簡単な変装だったため、裏口に風見が待機し、誰にも見られぬようコッソリと警視庁内へと入る。
小さな会議室に案内されると、公安刑事数名と降谷が待っていた。
「赤井、わざわざ悪いな」
「いや。それより、確認して欲しいものというのは……」
赤井の問いかけに、風見がその後ろで下を向いた。降谷も一瞬黙り込み、小さく息を吐く。
「実は……ついさっき、埠頭から二キロ離れた海上で、女性の遺体が見つかったんだ……」
「‼」
ガタタッ!
「お、おい! 赤井!」
めまいを起こした赤井が、デスクに手を突いた。幸い床に倒れることは無かったが、顔は酷く青ざめている。
「大丈夫か?」
「あ、ああ。すまない。続けてくれ」
風見にイスを差し出され、赤井はそこに腰を下ろす。降谷はさらに言い辛そうに、表情を歪めて続きを話し出した。
「女性の遺体は……その……損傷が激しくて…身元の確認が出来ないらしいんだ」
「ッ!」
続く言葉に赤井は息を飲む。
スンホに羽交い絞めにされたまま海に落ち、彼の自爆に巻き込まれた。それで命を落としたとするならば——体が無事であるはずが無い。
赤井は辛そうに下を向き、目を閉じる。その姿を、降谷もまた悲し気に見つめながら、話を続けた。
「ただ、その女性はペンダントをしていた。遺体を回収した海上保安庁からの報告によると、ペンダントに付いている石は青。
確か、広瀬も青い石のペンダントをしていたはず。
彼女には肉親が居ないから、お前にそのペンダントを確認して欲しいんだ……」
長い沈黙の後に、赤井は「分かった」と小さくつぶやいた。それを聞いて、公安刑事の一人がタブレットを降谷に差し出す。
「つい先ほど、遺留品の画像が届いた。これが……遺体の女性が身に着けていたペンダントだ」
降谷は一瞬だけタブレットの画面を見て、それを赤井の方へ向けてデスクに置いた。赤井は目を閉じたまま動かない。
画像を見る決心がつかぬまま、一分、二分と時間が過ぎていく。
「ふー……」
大きく息を吐き出して、赤井は覚悟を決めた。ゆっくりと目を開け、タブレット画面に視線を移す。
「……」
「どうだ? 赤井……」
そこにいた全員が、固唾を飲んで赤井の言葉を待っていた。
「りおのペンダント……じゃ、ない」
「ッ! ほ、本当か?」
赤井の返答を聞いて、降谷が訊き返した。
「ああ。このペンダントに付いている石は、おそらく《アマゾナイト》だ。
りおのペンダントの石は《シーグラス》。パッと見似ているが、全く別物だよ」
「そうか……では、この女性は別の事件の被害者か…」
全員が安堵のため息をつきつつ、別の事件と聞いて表情を曇らせる。
だが遺体がりおで無いとすれば、まだ生きている可能性があるということだ。
「しかし…いくら東京湾とはいえ、ここ数日は冷え込みもあって水温が例年より低めです。体力のない広瀬がいつまでもつか……」
「どこかの岸に上がっているとしても、ケガで動けない可能性もあります。早く見つけてあげないと……」
公安刑事二人が降谷に向かって声をかけた。
「よし。捜索を半径3キロ以上に広げ、海岸線の、人が入り込めそうなところを重点的に捜索しよう」
「はい!」
降谷の指示を聞いて、風見がすぐに動き出す。会議室がにわかに騒がしくなった。
「悪かったな…。ケガしてたのに、来てもらって…」
降谷が赤井に声をかけた。
「いや…また何か手がかりがあったら教えてくれ」
赤井は表情を変えず、イスから立ち上がる。
「待て、赤井」
「?」
部屋を出ようとする赤井を降谷が呼び止めた。
「お前……体…」
「体? ケガの方はだいぶ良いが?」
「そうじゃない」
かみ合わない会話に、赤井が小首を傾げた。
「ちゃんと飯……食えよ」
「え?」
「そんなナリじゃ、さくらさんが帰って来た時に怒られるぞ」
降谷に言われ、赤井は自身の顔に触れた。ここ数日でゲッソリと頬がこけ、唇もカサついている。そんな赤井の肩に、降谷がポンッと手を置いた。
誰も諦めていない
広瀬が生きている事を
だからお前もあきらめるな!
降谷からそう言われている気がした。
「ああ。そうだな。帰ったら美味いものでも食べるよ」
「そうしてくれ。うんと栄養あるヤツな!」
「ああ」
赤井は笑顔を見せ、会議室を出て行った。
「アイツ……酷い顔だったな」
降谷はため息をついた。かつて一度だけ、赤井が泣いたところを見たことがある。りおが赤井の記憶を無くした時だ。
しかしその時は記憶はなくとも、りおは生きて赤井のそばにいた。言葉を交わし手を握り、赤井はりおの一番近くで見守っていた。
だが今は——赤井のそばにりおはいない。その生死すら分からない。
泣いたとわかる目元
酷く青ざめた顔
フラつく体
本当にこれがあの赤井秀一か⁉ と目を疑いたくなる姿だった。
(必ず見つけ出してやるさ。赤井のためにも、広瀬のためにも……)
赤井が出て行ったドアを見つめ、降谷は決意を新たにした。
ブー、ブー、ブー…
(ん? メール?)
着信に気付き、降谷はポケットに手を突っ込む。スマホの画面に出た名前を見て、降谷の表情が険しくなった。
***
裏口に姿を現した赤井を、ジョディが車で拾う。
大通りに出て工藤邸に向かう途中、しびれを切らしたジョディが赤井に問いかけた。
「で、どうだったの?」
「海で見つかった遺体は……りおじゃなかった」
「そう……よかった…ッ!」
心底安心したように、ジョディは大きく息をついた。
「まだ誰もあきらめていないんだ。りおは絶対に生きてる、と。俺だけが悲観的になっていた」
後部座席で赤井は久しぶりに笑顔を見せた。
ジョディはルームミラー越しにその笑顔を見る。
「当たり前よ! 彼女がそう簡単に死ぬもんですか!
まあ……目の前で爆発を見た。あなたが悲観的になっても、それは仕方がないわ。
それでも! 信じて待ちましょ。必ず帰ってくるって」
「ああ、そうだな」
帰りの車の中には、わずかな希望を胸にしたジョディと赤井がいた。
ジョディの運転で赤井は警視庁へとたどり着く。
サングラスと帽子という簡単な変装だったため、裏口に風見が待機し、誰にも見られぬようコッソリと警視庁内へと入る。
小さな会議室に案内されると、公安刑事数名と降谷が待っていた。
「赤井、わざわざ悪いな」
「いや。それより、確認して欲しいものというのは……」
赤井の問いかけに、風見がその後ろで下を向いた。降谷も一瞬黙り込み、小さく息を吐く。
「実は……ついさっき、埠頭から二キロ離れた海上で、女性の遺体が見つかったんだ……」
「‼」
ガタタッ!
「お、おい! 赤井!」
めまいを起こした赤井が、デスクに手を突いた。幸い床に倒れることは無かったが、顔は酷く青ざめている。
「大丈夫か?」
「あ、ああ。すまない。続けてくれ」
風見にイスを差し出され、赤井はそこに腰を下ろす。降谷はさらに言い辛そうに、表情を歪めて続きを話し出した。
「女性の遺体は……その……損傷が激しくて…身元の確認が出来ないらしいんだ」
「ッ!」
続く言葉に赤井は息を飲む。
スンホに羽交い絞めにされたまま海に落ち、彼の自爆に巻き込まれた。それで命を落としたとするならば——体が無事であるはずが無い。
赤井は辛そうに下を向き、目を閉じる。その姿を、降谷もまた悲し気に見つめながら、話を続けた。
「ただ、その女性はペンダントをしていた。遺体を回収した海上保安庁からの報告によると、ペンダントに付いている石は青。
確か、広瀬も青い石のペンダントをしていたはず。
彼女には肉親が居ないから、お前にそのペンダントを確認して欲しいんだ……」
長い沈黙の後に、赤井は「分かった」と小さくつぶやいた。それを聞いて、公安刑事の一人がタブレットを降谷に差し出す。
「つい先ほど、遺留品の画像が届いた。これが……遺体の女性が身に着けていたペンダントだ」
降谷は一瞬だけタブレットの画面を見て、それを赤井の方へ向けてデスクに置いた。赤井は目を閉じたまま動かない。
画像を見る決心がつかぬまま、一分、二分と時間が過ぎていく。
「ふー……」
大きく息を吐き出して、赤井は覚悟を決めた。ゆっくりと目を開け、タブレット画面に視線を移す。
「……」
「どうだ? 赤井……」
そこにいた全員が、固唾を飲んで赤井の言葉を待っていた。
「りおのペンダント……じゃ、ない」
「ッ! ほ、本当か?」
赤井の返答を聞いて、降谷が訊き返した。
「ああ。このペンダントに付いている石は、おそらく《アマゾナイト》だ。
りおのペンダントの石は《シーグラス》。パッと見似ているが、全く別物だよ」
「そうか……では、この女性は別の事件の被害者か…」
全員が安堵のため息をつきつつ、別の事件と聞いて表情を曇らせる。
だが遺体がりおで無いとすれば、まだ生きている可能性があるということだ。
「しかし…いくら東京湾とはいえ、ここ数日は冷え込みもあって水温が例年より低めです。体力のない広瀬がいつまでもつか……」
「どこかの岸に上がっているとしても、ケガで動けない可能性もあります。早く見つけてあげないと……」
公安刑事二人が降谷に向かって声をかけた。
「よし。捜索を半径3キロ以上に広げ、海岸線の、人が入り込めそうなところを重点的に捜索しよう」
「はい!」
降谷の指示を聞いて、風見がすぐに動き出す。会議室がにわかに騒がしくなった。
「悪かったな…。ケガしてたのに、来てもらって…」
降谷が赤井に声をかけた。
「いや…また何か手がかりがあったら教えてくれ」
赤井は表情を変えず、イスから立ち上がる。
「待て、赤井」
「?」
部屋を出ようとする赤井を降谷が呼び止めた。
「お前……体…」
「体? ケガの方はだいぶ良いが?」
「そうじゃない」
かみ合わない会話に、赤井が小首を傾げた。
「ちゃんと飯……食えよ」
「え?」
「そんなナリじゃ、さくらさんが帰って来た時に怒られるぞ」
降谷に言われ、赤井は自身の顔に触れた。ここ数日でゲッソリと頬がこけ、唇もカサついている。そんな赤井の肩に、降谷がポンッと手を置いた。
誰も諦めていない
広瀬が生きている事を
だからお前もあきらめるな!
降谷からそう言われている気がした。
「ああ。そうだな。帰ったら美味いものでも食べるよ」
「そうしてくれ。うんと栄養あるヤツな!」
「ああ」
赤井は笑顔を見せ、会議室を出て行った。
「アイツ……酷い顔だったな」
降谷はため息をついた。かつて一度だけ、赤井が泣いたところを見たことがある。りおが赤井の記憶を無くした時だ。
しかしその時は記憶はなくとも、りおは生きて赤井のそばにいた。言葉を交わし手を握り、赤井はりおの一番近くで見守っていた。
だが今は——赤井のそばにりおはいない。その生死すら分からない。
泣いたとわかる目元
酷く青ざめた顔
フラつく体
本当にこれがあの赤井秀一か⁉ と目を疑いたくなる姿だった。
(必ず見つけ出してやるさ。赤井のためにも、広瀬のためにも……)
赤井が出て行ったドアを見つめ、降谷は決意を新たにした。
ブー、ブー、ブー…
(ん? メール?)
着信に気付き、降谷はポケットに手を突っ込む。スマホの画面に出た名前を見て、降谷の表情が険しくなった。
***
裏口に姿を現した赤井を、ジョディが車で拾う。
大通りに出て工藤邸に向かう途中、しびれを切らしたジョディが赤井に問いかけた。
「で、どうだったの?」
「海で見つかった遺体は……りおじゃなかった」
「そう……よかった…ッ!」
心底安心したように、ジョディは大きく息をついた。
「まだ誰もあきらめていないんだ。りおは絶対に生きてる、と。俺だけが悲観的になっていた」
後部座席で赤井は久しぶりに笑顔を見せた。
ジョディはルームミラー越しにその笑顔を見る。
「当たり前よ! 彼女がそう簡単に死ぬもんですか!
まあ……目の前で爆発を見た。あなたが悲観的になっても、それは仕方がないわ。
それでも! 信じて待ちましょ。必ず帰ってくるって」
「ああ、そうだな」
帰りの車の中には、わずかな希望を胸にしたジョディと赤井がいた。