第1章 ~運命の再会そして…~
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ラボへの潜入後退院してきたりおに、お説教とキスをした翌朝…。
赤井は変装のために洗面所にいた。ウィッグも顔もいつも通り完璧に沖矢昴だ。後は首に変声機チョーカーを付けるだけ。
ふと、昨夜りおに付けられたキスマークを見る。左の首筋に赤い跡…。思わず左手でそこに触れた。こんな小さな跡を嬉しいと思ってしまうとは…。
りおから名を呼んでもらえなくなって、2週間以上過ぎた。コミュニケーションに不自由はないが、声を聞きたいと思ってしまうのはわがままだろうか。
(いつ治るか分からない心の病…。それくらいには十分傷ついてきてしまったのだな…)
チョーカーを首につけながら、「早く声が聞きたい」と心の中で呟いた。
赤井はキッチンに入り、朝食の準備でもしようかと思っていると玄関のチャイムが鳴った。インターホンに出ると、「おはよう」という哀と博士の声が聞こえてきた。
「昴くんもずっと病院に詰めておったし、退院してきたばかりで、ふたりとも疲れていると思ってな。ほれ、朝食♪ 一緒に食べよう」
博士がニッコリ微笑んで手に持っていた鍋を見せた。
「ありがとうございます。助かります」
昴は笑顔で鍋を受け取る。確かにここのところずっと気を張っていたし、病院にも詰めていた。さくらを潜入させたことが良かったのか、自問自答の日々だった。こんな時、誰かからの優しさは本当にありがたい。博士たちには感謝しかなかった。
「さくらさん、まだ寝てる?」
「いいえ、先ほど声をかけたら起きていました。まだ痛みがあるので、着替えに時間がかかっているのだと思います」
そう伝えると、「私手伝ってくる」といって哀はさくらの部屋へ向かった。
男ふたり取り残され、博士は「じゃあ、ふたりで朝食のセッティングでもするかの?」
といってダイニングへと入っていった。
ダイニングテーブルに皿やグラスを用意しながら、博士は昴に声をかけてきた。
「そういえば、あのギムレットとかいう男、君がショットガンで頭を吹き飛ばしたそうじゃないか」
「ええ。エンジェルダストを投与していましたから。現にライフルで頭を打ち抜いた後も、奴は立ち上がりましたよ」
「はいぃぃ?」
博士は驚きの声を上げる。
「その…凄惨な遺体を…さくらくんは見たのかの?」
博士の問いに、サラダを取り分けていた昴の手が止まる。
「…見たには見たのですが…。ケガをしていて意識が朦朧としていましたし…。どこまで遺体として認識していたかは分かりません」
「そうか…」
「ただ…」
「ただ?」
一度視線を落とした博士は、再び昴の顔を注視する。
「潜入前だったのですが、彼女ガラスで手を切ったんです。フラッシュバックは起きなかったようですが、ポタポタと落ちる自分の血をずっと見つめていました。本人はその前後の記憶が曖昧なようです」
そこまで話し、昴は空になったサラダボールを流しへと置いた。
「先生にも相談したのですが、大きな発作の後でしたし、フラッシュバックが起きないのはむしろ前向きに考えようと」
「良い方の向かっているのなら良いんじゃが…」
「そうですね…」
そう答え次の配膳を再開すると、さくらと哀が笑顔でダイニングにやってきた。さくらはゆっくりとダイニングのイスに腰かける。
「ふふ。こうやって見ると、まるでお嬢様と執事たちね」
哀が3人の様子を見て、からかうように言った。
朝食を囲みながら、昴はさくらに声をかける。
「ケガから退院したばかりですが、PTSDの治療から離れてだいぶ経ちます。今日の午後新出先生に今の様子を診察してもらってはいかがでしょう?まあ声がまだ出ないので、治療再開は先でしょうけど」
『そうですね。お願いしたいです』
さくらも同意したため、早速朝食後に電話をした。
午後
久しぶりに新出先生が往診に来てくれた。
「さくらさん、お久しぶりですね。随分と無茶をしたようですが大丈夫ですか?」
新出は笑顔でさくらに訊ねた。
(無茶をした情報は昴さんだな…)と思ったが、本人(昴)がすぐ隣でニコニコしているので、さくらはバツが悪そうにうなずくことしか出来なかった。
丁寧に診察をしてもらい、ここ最近の事を話す。さくらが手話で話すと昴が声で先生に伝えてくれた。
先生は時々メモを取り、ウンウンと相槌を打ちながら聞いている。
「食事も取れているし、ケガの前は体も動かせていたようだし。良いですね」
先生に褒めてもらい、さくらも笑顔を見せた。
「少し沖矢さんと、今後の治療について相談させてもらって良いかな?」
新出の提案にさくらはうなずく。
「じゃあ、ちょっと客室を借りるよ」
そう言って新出と昴はリビングを出ていった。
「先日お電話いただいたことですが…」
新出が先に口を開く。
「行動療法が功を奏して、彼女の中の事件につながる物事、例えば血液や香りに対して、過剰反応しなくなってきていると思います。それは何度も同じ経験をして《慣れて》きたのもありますが、記憶を曖昧にする…という形で脳が防御線を張っているのだと思います」
新出はさくらと話した時のメモを見ながら、説明してくれた。
「スコッチの死に対しての耐性は出来つつあると言って良いでしょう。彼女のトラウマがそれ1点であれば、治療は成功と言って良いのですが……彼女の場合、トラウマになった出来事はそれだけではなかったはずです。
治療は次のステージに進んだといっていいでしょう。
問題は、彼女の中にある次の《負の出来事》を連想させる物が何か…現状では分からないことです。今までは血液だったり香りだったり、スコッチの死をイメージさせるものが多かったと思いますが…」
つまり発作につながるものが何か分からなければ、防ぎようもない……ということだ。
(PTSD 発症の直接的な原因だったスコッチの事がクリアーになっても、彼女のトラウマはまだある。スコッチの事でただ隠れていたにすぎない。いつ、どのタイミングで発作が起こるか分からないという事か…)
治療の効果が出ている事は喜ばしい。だが次の一手のための準備や心構えが出来ない事に、昴は不安を覚えた。