第8章 ~新たな決意を胸に~
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クルーズ船は埠頭に横付けされていた。
船のサイドからは物資を運び込む出入口と、乗客が乗り降りする乗降口があり、それぞれ足場が出されている。
物資の出入口付近で、昴とさくらが男に追いついた。
「あなた、リュ・スンホね?」
さくらが静かに問いかける。男は振り向いた。
「フ…フフフ…ラスティーか……。まあ、俺を追ってくるのは、お前かジンか……どちらかだとは思っていた」
スンホはゆらゆらと体を揺らしながら、昴とさくらの方へ向き直る。
「お前らのせいで俺は粛清対象だ。ここで将軍様のお役に立てなければ、国に連れ帰られ国民の前で公開処刑される。
どうせ死ぬなら……お役に立って死にたい」
スンホは疲れた顔をしていた。自暴自棄になっているせいか、焦点が合わず夢うつつのように見える。
「ジンという男も食えない男だったよ。俺がベルモットを監視していると知って、ワザと偽の情報を掴ませやがった」
「偽の情報?」
スンホの言葉にさくらが眉根を寄せる。
「ああ、そうとも。アジトを爆破されて、もう後がない俺に偽のメールのやり取りをハッキングさせた。
まんまとエサを食わされた俺は、組織は『証拠が残らない毒薬作り』をしていると思い込まされた」
そう言いながら、スンホの顔が悔しさで歪む。
「古宿区で男の自死騒ぎがあっただろう。あれを離れたビルから目撃した時、俺は男が何かしらの薬を盛られたと思ったんだ。
その後、ベルモットのメールをハッキングして、ようやく組織が企む【ビジネス】が『証拠の残らない毒薬作り』だと確信した。
俺は意気揚々とソジュン様にご報告したんだ。そしたら……」
スンホはそう言いながら自分の頭を抱えた。悔しそうに自身の髪を鷲摑みする。
「そしたらどうだ。ソジュン様に『そんな薬はずいぶん前から奴らは作っており、すでに何人かはそれで殺されている』と言われたんだ。
ははは……笑えるだろ。とっくに出来ていた薬について、俺は得意げになってご報告したんだ」
言葉とは裏腹に、悔しさをにじませるスンホ。二人は何も言わず、彼を睨み続けた。
「フ……フフフフ…。そんな目で見るな、ラスティー。いいか、良く聞け。俺の体にはたくさんの爆弾が括り付けられている。今から俺はこの船に乗る。今日は日曜で観光客が多い。ここで爆発させれば、いったい何人道連れにできるかな?」
「「‼」」
スンホの狂気の言葉に、二人は息を飲んだ。
「ラスティーは組織の人間であるにもかかわらず、『死』に敏感なそうじゃないか。だったら俺を止めてみろ。
俺は日本国民を道連れに、そしてお前もろとも、パ~ッと最後に大きな花を咲かせるんだ……」
ハハハハ……と高らかに笑いながら、スンホはクルリと体の向きを変える。クルーズ船の物資搬入口に向かって走り出した。
「ま、待てッ!」
二人はスンホの後を追い、クルーズ船の中へと向かった。
煌びやかな客船とは全く別の、クルーズ船の裏の顔——
物資を運び出す倉庫は、ここが豪華クルーズ船の船内とは思えないほど、殺風景で雑然としていた。
中には何人か作業員がいたが、倉庫が広いため、侵入者に気付く者はいない。
カンカンカンカン……
走り去るスンホの足音を頼りに、二人は後を追う。
「ヤツはデッキに上るつもりだ!」
昴は走りながらさくらに声をかけた。
「え? なんで?」
「クルーズ船の客室は狭いから、そこで爆破しても爆弾の威力が削がれて大した被害は出ない。
だが、今日は休日。デッキには観光客がたくさんいるはずだ。あんな広いところで爆発させれば、デッキにいる人はもちろん、床が抜ければデッキの下の階にも被害が及ぶ!」
「そういうこと…っ!」
さくらは息を切らしながら答えた。
関係ない人たちにまで被害が出てはならない——祈るような気持ちで、さくらはスンホを追った。
船首側に設置された広いデッキは、大勢の人で賑わっていた。
そこに階段を駆け上がったスンホが現れる。懐から銃を出すと、空に向かって威嚇射撃をした。
ドゴォーン!
「‼」
銃声を聞いて、その場にいた人々が何事かと振り返る。そこには銃を持った男の姿。いち早く状況に気付いた客が悲鳴を上げた。
「キャ——‼」
「強盗か⁉」
「け、拳銃を持ってるぞ!」
恐怖に恐れおののく人々を見て、スンホはニヤリと笑う。
「ここにいる全員、一か所に集まれ。一人でも抵抗すれば……」
そう言いながら、着ていたブルゾンのファスナーを下ろした。
「あ、あれは⁉」
客たちはスンホの体を見て愕然とした。その体に巻き付いていたのは、いくつもの爆弾。
あんなものがここで炸裂したら——。
素人であっても結果が容易に想像できるほど、たくさんの爆弾が括り付けられていた。
やがて、客たちの中から一人、また一人と動き出す者が出始め、それに誘われるように他の客たちも動き出す。
気付けば、デッキで散らばっていた客たち全員が、スンホに言われた通り一か所に集まっていた。
そこへ昴とさくらが到着する。客の多さに、昴は「チッ」と舌打ちをした。
「……!」
さくらもデッキを見まわし、険しい表情を見せる。
「来たかラスティー」
銃をラスティーに向け、スンホは笑った。
「ココに居る全員を助けたくば、俺を倒すか、もしくはお前一人が犠牲になって俺と一緒に死ぬか、どちらかだ」
「なに⁉」
スンホの言葉に昴が目を見開いた。ココに居る全員の命を守るのは当然だが、さくら一人が犠牲になるなど、絶対に容認できない。鋭い目でスンホを見た。
「もちろん……あなたを倒すわ」
さくらは右足を後ろに引き、左手を前に出す。
昴もまた同じ構えをした。
「フフフ。そう言うと思ったよ。だが、力の差は歴然だ。お前たちにハンデをやろう。二人まとめて相手をしてやる!」
スンホは銃を懐に仕舞うと、右手を前に出して構えた。
「まずはこちらから行くぞ!」
スンホが二人に向かって走り出した。狙いをラスティーに絞る。ギラリと鋭い目でラスティーを睨むと、「ウオォォッ!」と声を上げ、腕を振り上げた。
スンホの渾身のパンチを、さくらはひらりとかわす。攻撃をかわしながら、体を捻って強烈な回し蹴りを放った。
が、スンホは素早く身を屈め、蹴りを回避する。そのスンホを狙って、昴がさらに低い蹴りで狙うが、その体は床ギリギリまでさらに低くして昴の蹴りをも回避した。
そのまま腕の反動だけで上体を起こし、一気に立ち上がると昴に向けて飛び蹴りを放つ。
「ぐッ!」
ギリギリで避けたはずだったが、スンホのジャンプは予想より高さがある。蹴りが昴の左肩にヒットした。
着地して不安定な体勢のまま、スンホはさくらに向かって手刀を数発放つ。
「くぅっ!」
さくらは手で手刀を受け止め、全て左右に流した。
スンホは手刀を弾かれた流れのまま、サッとさくらから距離をとり、片方の膝を上げて腕をゆっくりと広げ、構え直す。
一瞬動きを止めると、次は昴に向かって連続して手刀を繰り出した。
その動きは柔軟で素早く、一切の無駄がない。
「少林拳か……」
攻撃をかわした昴がつぶやいた。
ゆっくりな動作からの速い返し、そして流れる様な蹴りと一瞬の静止。
緩急がついた一連の動きはまさに少林拳。しかも柔軟性と筋力を兼ね備えたスンホの動きは、戦う者の予想を遥かに上回る。
今までに戦ってきた敵の中で格段に強い。
「フフフ。我々は常に、死と隣り合わせで技を磨いてきた。お前らとは鍛え方が違うんだよ」
流れるように両手を動かし、スンホは二人をあざ笑った。
船のサイドからは物資を運び込む出入口と、乗客が乗り降りする乗降口があり、それぞれ足場が出されている。
物資の出入口付近で、昴とさくらが男に追いついた。
「あなた、リュ・スンホね?」
さくらが静かに問いかける。男は振り向いた。
「フ…フフフ…ラスティーか……。まあ、俺を追ってくるのは、お前かジンか……どちらかだとは思っていた」
スンホはゆらゆらと体を揺らしながら、昴とさくらの方へ向き直る。
「お前らのせいで俺は粛清対象だ。ここで将軍様のお役に立てなければ、国に連れ帰られ国民の前で公開処刑される。
どうせ死ぬなら……お役に立って死にたい」
スンホは疲れた顔をしていた。自暴自棄になっているせいか、焦点が合わず夢うつつのように見える。
「ジンという男も食えない男だったよ。俺がベルモットを監視していると知って、ワザと偽の情報を掴ませやがった」
「偽の情報?」
スンホの言葉にさくらが眉根を寄せる。
「ああ、そうとも。アジトを爆破されて、もう後がない俺に偽のメールのやり取りをハッキングさせた。
まんまとエサを食わされた俺は、組織は『証拠が残らない毒薬作り』をしていると思い込まされた」
そう言いながら、スンホの顔が悔しさで歪む。
「古宿区で男の自死騒ぎがあっただろう。あれを離れたビルから目撃した時、俺は男が何かしらの薬を盛られたと思ったんだ。
その後、ベルモットのメールをハッキングして、ようやく組織が企む【ビジネス】が『証拠の残らない毒薬作り』だと確信した。
俺は意気揚々とソジュン様にご報告したんだ。そしたら……」
スンホはそう言いながら自分の頭を抱えた。悔しそうに自身の髪を鷲摑みする。
「そしたらどうだ。ソジュン様に『そんな薬はずいぶん前から奴らは作っており、すでに何人かはそれで殺されている』と言われたんだ。
ははは……笑えるだろ。とっくに出来ていた薬について、俺は得意げになってご報告したんだ」
言葉とは裏腹に、悔しさをにじませるスンホ。二人は何も言わず、彼を睨み続けた。
「フ……フフフフ…。そんな目で見るな、ラスティー。いいか、良く聞け。俺の体にはたくさんの爆弾が括り付けられている。今から俺はこの船に乗る。今日は日曜で観光客が多い。ここで爆発させれば、いったい何人道連れにできるかな?」
「「‼」」
スンホの狂気の言葉に、二人は息を飲んだ。
「ラスティーは組織の人間であるにもかかわらず、『死』に敏感なそうじゃないか。だったら俺を止めてみろ。
俺は日本国民を道連れに、そしてお前もろとも、パ~ッと最後に大きな花を咲かせるんだ……」
ハハハハ……と高らかに笑いながら、スンホはクルリと体の向きを変える。クルーズ船の物資搬入口に向かって走り出した。
「ま、待てッ!」
二人はスンホの後を追い、クルーズ船の中へと向かった。
煌びやかな客船とは全く別の、クルーズ船の裏の顔——
物資を運び出す倉庫は、ここが豪華クルーズ船の船内とは思えないほど、殺風景で雑然としていた。
中には何人か作業員がいたが、倉庫が広いため、侵入者に気付く者はいない。
カンカンカンカン……
走り去るスンホの足音を頼りに、二人は後を追う。
「ヤツはデッキに上るつもりだ!」
昴は走りながらさくらに声をかけた。
「え? なんで?」
「クルーズ船の客室は狭いから、そこで爆破しても爆弾の威力が削がれて大した被害は出ない。
だが、今日は休日。デッキには観光客がたくさんいるはずだ。あんな広いところで爆発させれば、デッキにいる人はもちろん、床が抜ければデッキの下の階にも被害が及ぶ!」
「そういうこと…っ!」
さくらは息を切らしながら答えた。
関係ない人たちにまで被害が出てはならない——祈るような気持ちで、さくらはスンホを追った。
船首側に設置された広いデッキは、大勢の人で賑わっていた。
そこに階段を駆け上がったスンホが現れる。懐から銃を出すと、空に向かって威嚇射撃をした。
ドゴォーン!
「‼」
銃声を聞いて、その場にいた人々が何事かと振り返る。そこには銃を持った男の姿。いち早く状況に気付いた客が悲鳴を上げた。
「キャ——‼」
「強盗か⁉」
「け、拳銃を持ってるぞ!」
恐怖に恐れおののく人々を見て、スンホはニヤリと笑う。
「ここにいる全員、一か所に集まれ。一人でも抵抗すれば……」
そう言いながら、着ていたブルゾンのファスナーを下ろした。
「あ、あれは⁉」
客たちはスンホの体を見て愕然とした。その体に巻き付いていたのは、いくつもの爆弾。
あんなものがここで炸裂したら——。
素人であっても結果が容易に想像できるほど、たくさんの爆弾が括り付けられていた。
やがて、客たちの中から一人、また一人と動き出す者が出始め、それに誘われるように他の客たちも動き出す。
気付けば、デッキで散らばっていた客たち全員が、スンホに言われた通り一か所に集まっていた。
そこへ昴とさくらが到着する。客の多さに、昴は「チッ」と舌打ちをした。
「……!」
さくらもデッキを見まわし、険しい表情を見せる。
「来たかラスティー」
銃をラスティーに向け、スンホは笑った。
「ココに居る全員を助けたくば、俺を倒すか、もしくはお前一人が犠牲になって俺と一緒に死ぬか、どちらかだ」
「なに⁉」
スンホの言葉に昴が目を見開いた。ココに居る全員の命を守るのは当然だが、さくら一人が犠牲になるなど、絶対に容認できない。鋭い目でスンホを見た。
「もちろん……あなたを倒すわ」
さくらは右足を後ろに引き、左手を前に出す。
昴もまた同じ構えをした。
「フフフ。そう言うと思ったよ。だが、力の差は歴然だ。お前たちにハンデをやろう。二人まとめて相手をしてやる!」
スンホは銃を懐に仕舞うと、右手を前に出して構えた。
「まずはこちらから行くぞ!」
スンホが二人に向かって走り出した。狙いをラスティーに絞る。ギラリと鋭い目でラスティーを睨むと、「ウオォォッ!」と声を上げ、腕を振り上げた。
スンホの渾身のパンチを、さくらはひらりとかわす。攻撃をかわしながら、体を捻って強烈な回し蹴りを放った。
が、スンホは素早く身を屈め、蹴りを回避する。そのスンホを狙って、昴がさらに低い蹴りで狙うが、その体は床ギリギリまでさらに低くして昴の蹴りをも回避した。
そのまま腕の反動だけで上体を起こし、一気に立ち上がると昴に向けて飛び蹴りを放つ。
「ぐッ!」
ギリギリで避けたはずだったが、スンホのジャンプは予想より高さがある。蹴りが昴の左肩にヒットした。
着地して不安定な体勢のまま、スンホはさくらに向かって手刀を数発放つ。
「くぅっ!」
さくらは手で手刀を受け止め、全て左右に流した。
スンホは手刀を弾かれた流れのまま、サッとさくらから距離をとり、片方の膝を上げて腕をゆっくりと広げ、構え直す。
一瞬動きを止めると、次は昴に向かって連続して手刀を繰り出した。
その動きは柔軟で素早く、一切の無駄がない。
「少林拳か……」
攻撃をかわした昴がつぶやいた。
ゆっくりな動作からの速い返し、そして流れる様な蹴りと一瞬の静止。
緩急がついた一連の動きはまさに少林拳。しかも柔軟性と筋力を兼ね備えたスンホの動きは、戦う者の予想を遥かに上回る。
今までに戦ってきた敵の中で格段に強い。
「フフフ。我々は常に、死と隣り合わせで技を磨いてきた。お前らとは鍛え方が違うんだよ」
流れるように両手を動かし、スンホは二人をあざ笑った。