第8章 ~新たな決意を胸に~
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二日後の日曜日——
少年探偵団の面々は園城寺家に招待され、執事長が計画したサプライズパーティーが盛大に執り行われた。
内密に進められた準備は大成功で、園城寺家の当主である衛を大いに驚かせた。
「まさか、この年になってこんな盛大に誕生日を祝ってもらえるとは……」
部屋を飾る輪つなぎや、折り紙で作った星やハートを見て、衛はあんぐりと口を開けている。
「へへへ~! 飾りはぜ~んぶ、僕たちが作ったんですよ! 歩美ちゃんがいろんな折り方を調べてくれたんです。
あと、このたくさんある輪つなぎは、元太君が一人で作ったんですよ。衛さんが喜んでくれると思って!」
得意げに衛を見上げる光彦たちに、衛は満面の笑みを見せた。
「ああ、とっても嬉しいよ! ひとつひとつ手作りだろう? こんな嬉しいプレゼントは初めてだよ!」
衛は子どもたち一人一人に礼を言って、頭を撫でてくれた。
「発案者は君か?」
顔を上げた衛が執事長に声をかける。
「ええ。旦那様を元気にする方法は、これしかないと思いまして。名案でしたでしょう?」
悪戯っぽく笑う執事長を見て、衛は参ったと両手を広げた。
「付き合いが長いと何でもお見通しか。しかし、いつもいつも私が驚かされている気がする…。いつか君にもサプライズを仕掛けてやらんと、割に合わんぞ」
嬉しいような、ちょっと悔しいような、そんな笑顔で衛は執事長に言った。
「じいさん、《サプライズ》ってのは言っちゃダメだろ。全然《サプライズ》にならねーじゃん」
執事長と衛のやり取りを見ていた元太がツッコんだ。
「あ、ああ…そうか! こんなだから、いつまでたっても彼にサプライズを仕掛けられないんだな」
衛は頭に手を当てて笑う。それを見てみんなが笑った。
「私は旦那様が元気でいて下されば、それで十分でございます。
好きな物をたくさん召し上がって、好きな将棋をなさって、時々こうして子どもたちと楽しく過ごす——
ご病気をされて、すっかりふさぎ込んでしまわれた姿を知っている私にとって、それこそがサプライズでございますよ」
優しく微笑む執事長の目には、薄っすらと涙が溜まっていた。
「お前の方こそ、私より先に衰えてくれるなよ。お前がいるから、私はこうして元気でいられるのだから」
衛の目にもまた、涙が溜まっている。それを子どもたちは優しく見守っていた。
「気心の知れた友がそばにいて、可愛い子どもたちから元気をもらって——。そのおかげで、私の命が長らえられる……。
ああ……人生で二度目だな、こうして人に生かしてもらうのは」
(二度目……? どういう意味だ?)
ボソリとつぶやいた衛の言葉に、コナンが反応した。しかしそれは、コナンにしか聞こえなかったらしい。他の者たちは特に気にした様子もない。
「そうだ! サプライズはまだあるんだよなぁ!」
もらい泣きしそうになった元太が、場を盛り上げようと声を上げた。
「そうですよ! 僕たちからのプレゼント、まだ差し上げていませんよ」
「歩美たち、一生懸命考えて用意したんだよ! おじいさん、今日はいっぱい楽しんでね!」
光彦と歩美も、涙を拭きながら声を上げる。
「パーティーはこれからだぜ!」
美味しそうな料理が並ぶテーブルを見回し、元太が嬉しそうに叫んだ。
「そうだったね! じゃあ、みんなでご馳走を食べながら、ゆっくりプレゼントを見せてもらおうかな?」
「「「うん!!」」」
ニコニコの笑顔になった衛や子どもたちを見て、「そうね」と哀が微笑む。コナンもわずかな引っかかりを感じながら、笑顔を向けた。
園城寺家で誕生パーティーが開かれている、ちょうどその頃——
昴とさくらは、以前《火星探査機はくちょう》が落下して大騒ぎとなった海上都市、エッジオブオーシャンに来ていた。
公安警察を狙った爆発事件の現場となった《国際会議場》は、将来的には市民の憩いの場として生まれ変わることが決まっている。
その為、現在は修復工事の真っ只中だ。建物一帯は工事用の足場が組まれ、防音シートが張り巡らされている。
その《国際会議場》の近くには埠頭があり、時々大型のクルーズ船が停泊していた。船内に物資などが運ばれる一方、週末などにはクルーズ船の見学ができる。
豪華な客室や船内レストラン、カジノやショップ、場合によっては最上階のデッキに大きなプールが設置されている船もある。
滅多に乗る事が出来ない、豪華なクルーズ船を見学できると聞いて、エッジオブオーシャンには多くの観光客が訪れていた。
「ここで、リュ・スンホの目撃情報があったということですか?」
浮かれた観光客たちの中で、昴は険しい顔でさくらに問いかけた。
「うん、そうなの。掃討作戦後、公安は二手に分かれてオドゥムを追っているわ。
A班は爆発のあったアジトの現場検証。
B班はリュ・スンホの行方探し。
そのうちのスンホ探しの方だけど、実は、国際会議場の工事関係者が、複数回スンホらしき人物を目撃しているの。公安の捜査員も張り込みをして、それらしき人物を確認した。
ここは埠頭もあって船も近づきやすいし、外海(そとうみ)にも出やすい。もしかしたら、C国からお迎えが来るんじゃないかって」
今日は天気が良いものの気温が低く、さくらは白い息を吐きながら昴に説明した。
話を聞いていた昴が小さくため息をつく。
「で? なぜあなたがその情報の裏を取るために、ここへ来ることになったんです?」
現在PTSDの治療中の身だ。降谷もその状況を分かっているはずなのだが……。
「それが……目撃情報があまり信用できないというか……『たぶんスンホじゃないか』という程度なんですって。
現在の公安は新人も多くて、凶悪犯を見抜く力がイマイチ足りないって、風見さんがボヤいてるの。
風見さんは今、A班の陣頭指揮に加えて別の案件も抱えているし、降谷さんも倉庫街の事件の後処理で警察庁に入りびたり。
そうなれば、私が様子を見に来るしかないでしょ」
「つまりそれは……あなたの独断…ですか?」
「え、ええ…まあ…」
あははと視線を泳がせ、さくらはそっぽを向く。
「まったく……」
これ以上心配事を増やさんでくれ——。昴は眉間にしわを寄せ、片手で頭を押さえた。
「もしかしたら、あなたをおびき出すための、スンホの罠かもしれませんよ」
片目だけ開けた昴はジロリとさくらを見る。
「うん……その可能性もあるっていうのは分かってる。でも、このまま野放しにしておくわけにもいかないわ。ここから本国に帰るだけなら、日本には影響は無いけど、別の目的がある可能性もあるでしょ?
今、この辺り一帯は観光で人の出入りも多い。観光客に紛れて工作員を増員したり、もしくは観光客を狙うことだって考えられる。
狙いが私だけなら、必ず私の前に姿を現すわけで……。 彼を捕まえるならその方が好都合」
「…また危険なことを考えてるだろ」
「そんなことないよ。あくまでも、情報の信ぴょう性を確認しに来ただけですぅ~。
でもまぁ……危険がないと言えばウソになるから『ひとり』じゃなく、あなたと『一緒に』来たのよ」
ニッコリと微笑むさくらの顔は、確信犯の顔をしていた。
『一緒に』と言えば、何でも許してもらえると思っているらしい。
「さくら、あなた自分の体のこと分かってます? 今は現場に出れるほど、体力も精神力も回復していないんですよ! ターゲットと鉢合わせしたらどうなるか……」
「シーッ! 昴さん! 声大きいよ!」
両手を腰に当てて怖い顔をする昴を、周りが何事かと見ている。
「あ……」
つい、気持ちが入り過ぎて声のトーンが上がってしまった。
二人はコソコソと、その場から逃げるように場所を移動した。
「はぁ、はぁ、はぁ……もう! 昴さん、声大き過ぎよ!」
その場から走って逃げた二人は、建設中の建物の近くで足を止めた。
「す、すまん……」
声は昴のまま赤井の口調で答えた。
「声の大きさについては謝るが、お前のその向こう見ずな行動には賛同できんぞ。サプライズを仕掛けるのは子どもたちだけで十分だ。今日はこのまま帰るぞ」
昴はさくらの腕を掴み、車を停めた方へ歩み出す。
「え~……」
納得いかない声を出し、さくらは不貞腐れた様に口を尖らせた。
そんなことは意に介さず、昴はさくらの腕を引く。仕方なく、さくらは歩き出した。
が、その時——
フラフラと足元のおぼつかない男がさくらの視界に入る。
酔っ払いのようにも見えるが、何か違う。ゾワリと背筋が寒くなるような——言葉では表現しがたい『何か』を感じ、さくらは足を止め、ジッとその男を見つめた。
「おい、どうした?」
突然動かなくなったさくらに、昴が声をかける。
「昴さん……アレ……」
「アレ?」
不審に思いながら、昴もさくらが見ている方向に視線を向ける。
「ッ‼」
昴もまた、さくらと同様に何かを感じ思わず男を凝視した。
「スンホ……だね」
「……ああ」
顏写真を見たことはあったが、リュ・スンホと会ったことは一度も無い。だが、オドゥムの工作員とは何度か戦ったことはある。
特殊な訓練を受けた工作員たちは皆、何とも形容しがたいオーラをまとっていた。
視線の先にいる男もまた、ふらついてはいるものの、その研ぎ澄まされたオーラを放っている。
男はフラフラしながら、クルーズ船に近づいているようだった。
「様子がおかしいわ。粛清対象となって自暴自棄にでもなったのかしら……。まさか、船ごと爆破する気じゃ……」
「そう思わせて、お前をおびき寄せるつもりかもしれんぞ」
「例えそうだとしても、見て見ぬふりはできないでしょ⁉」
「確かにな」
二人は互いの顔を見てうなずき合うと、急いで男を追った。
少年探偵団の面々は園城寺家に招待され、執事長が計画したサプライズパーティーが盛大に執り行われた。
内密に進められた準備は大成功で、園城寺家の当主である衛を大いに驚かせた。
「まさか、この年になってこんな盛大に誕生日を祝ってもらえるとは……」
部屋を飾る輪つなぎや、折り紙で作った星やハートを見て、衛はあんぐりと口を開けている。
「へへへ~! 飾りはぜ~んぶ、僕たちが作ったんですよ! 歩美ちゃんがいろんな折り方を調べてくれたんです。
あと、このたくさんある輪つなぎは、元太君が一人で作ったんですよ。衛さんが喜んでくれると思って!」
得意げに衛を見上げる光彦たちに、衛は満面の笑みを見せた。
「ああ、とっても嬉しいよ! ひとつひとつ手作りだろう? こんな嬉しいプレゼントは初めてだよ!」
衛は子どもたち一人一人に礼を言って、頭を撫でてくれた。
「発案者は君か?」
顔を上げた衛が執事長に声をかける。
「ええ。旦那様を元気にする方法は、これしかないと思いまして。名案でしたでしょう?」
悪戯っぽく笑う執事長を見て、衛は参ったと両手を広げた。
「付き合いが長いと何でもお見通しか。しかし、いつもいつも私が驚かされている気がする…。いつか君にもサプライズを仕掛けてやらんと、割に合わんぞ」
嬉しいような、ちょっと悔しいような、そんな笑顔で衛は執事長に言った。
「じいさん、《サプライズ》ってのは言っちゃダメだろ。全然《サプライズ》にならねーじゃん」
執事長と衛のやり取りを見ていた元太がツッコんだ。
「あ、ああ…そうか! こんなだから、いつまでたっても彼にサプライズを仕掛けられないんだな」
衛は頭に手を当てて笑う。それを見てみんなが笑った。
「私は旦那様が元気でいて下されば、それで十分でございます。
好きな物をたくさん召し上がって、好きな将棋をなさって、時々こうして子どもたちと楽しく過ごす——
ご病気をされて、すっかりふさぎ込んでしまわれた姿を知っている私にとって、それこそがサプライズでございますよ」
優しく微笑む執事長の目には、薄っすらと涙が溜まっていた。
「お前の方こそ、私より先に衰えてくれるなよ。お前がいるから、私はこうして元気でいられるのだから」
衛の目にもまた、涙が溜まっている。それを子どもたちは優しく見守っていた。
「気心の知れた友がそばにいて、可愛い子どもたちから元気をもらって——。そのおかげで、私の命が長らえられる……。
ああ……人生で二度目だな、こうして人に生かしてもらうのは」
(二度目……? どういう意味だ?)
ボソリとつぶやいた衛の言葉に、コナンが反応した。しかしそれは、コナンにしか聞こえなかったらしい。他の者たちは特に気にした様子もない。
「そうだ! サプライズはまだあるんだよなぁ!」
もらい泣きしそうになった元太が、場を盛り上げようと声を上げた。
「そうですよ! 僕たちからのプレゼント、まだ差し上げていませんよ」
「歩美たち、一生懸命考えて用意したんだよ! おじいさん、今日はいっぱい楽しんでね!」
光彦と歩美も、涙を拭きながら声を上げる。
「パーティーはこれからだぜ!」
美味しそうな料理が並ぶテーブルを見回し、元太が嬉しそうに叫んだ。
「そうだったね! じゃあ、みんなでご馳走を食べながら、ゆっくりプレゼントを見せてもらおうかな?」
「「「うん!!」」」
ニコニコの笑顔になった衛や子どもたちを見て、「そうね」と哀が微笑む。コナンもわずかな引っかかりを感じながら、笑顔を向けた。
園城寺家で誕生パーティーが開かれている、ちょうどその頃——
昴とさくらは、以前《火星探査機はくちょう》が落下して大騒ぎとなった海上都市、エッジオブオーシャンに来ていた。
公安警察を狙った爆発事件の現場となった《国際会議場》は、将来的には市民の憩いの場として生まれ変わることが決まっている。
その為、現在は修復工事の真っ只中だ。建物一帯は工事用の足場が組まれ、防音シートが張り巡らされている。
その《国際会議場》の近くには埠頭があり、時々大型のクルーズ船が停泊していた。船内に物資などが運ばれる一方、週末などにはクルーズ船の見学ができる。
豪華な客室や船内レストラン、カジノやショップ、場合によっては最上階のデッキに大きなプールが設置されている船もある。
滅多に乗る事が出来ない、豪華なクルーズ船を見学できると聞いて、エッジオブオーシャンには多くの観光客が訪れていた。
「ここで、リュ・スンホの目撃情報があったということですか?」
浮かれた観光客たちの中で、昴は険しい顔でさくらに問いかけた。
「うん、そうなの。掃討作戦後、公安は二手に分かれてオドゥムを追っているわ。
A班は爆発のあったアジトの現場検証。
B班はリュ・スンホの行方探し。
そのうちのスンホ探しの方だけど、実は、国際会議場の工事関係者が、複数回スンホらしき人物を目撃しているの。公安の捜査員も張り込みをして、それらしき人物を確認した。
ここは埠頭もあって船も近づきやすいし、外海(そとうみ)にも出やすい。もしかしたら、C国からお迎えが来るんじゃないかって」
今日は天気が良いものの気温が低く、さくらは白い息を吐きながら昴に説明した。
話を聞いていた昴が小さくため息をつく。
「で? なぜあなたがその情報の裏を取るために、ここへ来ることになったんです?」
現在PTSDの治療中の身だ。降谷もその状況を分かっているはずなのだが……。
「それが……目撃情報があまり信用できないというか……『たぶんスンホじゃないか』という程度なんですって。
現在の公安は新人も多くて、凶悪犯を見抜く力がイマイチ足りないって、風見さんがボヤいてるの。
風見さんは今、A班の陣頭指揮に加えて別の案件も抱えているし、降谷さんも倉庫街の事件の後処理で警察庁に入りびたり。
そうなれば、私が様子を見に来るしかないでしょ」
「つまりそれは……あなたの独断…ですか?」
「え、ええ…まあ…」
あははと視線を泳がせ、さくらはそっぽを向く。
「まったく……」
これ以上心配事を増やさんでくれ——。昴は眉間にしわを寄せ、片手で頭を押さえた。
「もしかしたら、あなたをおびき出すための、スンホの罠かもしれませんよ」
片目だけ開けた昴はジロリとさくらを見る。
「うん……その可能性もあるっていうのは分かってる。でも、このまま野放しにしておくわけにもいかないわ。ここから本国に帰るだけなら、日本には影響は無いけど、別の目的がある可能性もあるでしょ?
今、この辺り一帯は観光で人の出入りも多い。観光客に紛れて工作員を増員したり、もしくは観光客を狙うことだって考えられる。
狙いが私だけなら、必ず私の前に姿を現すわけで……。 彼を捕まえるならその方が好都合」
「…また危険なことを考えてるだろ」
「そんなことないよ。あくまでも、情報の信ぴょう性を確認しに来ただけですぅ~。
でもまぁ……危険がないと言えばウソになるから『ひとり』じゃなく、あなたと『一緒に』来たのよ」
ニッコリと微笑むさくらの顔は、確信犯の顔をしていた。
『一緒に』と言えば、何でも許してもらえると思っているらしい。
「さくら、あなた自分の体のこと分かってます? 今は現場に出れるほど、体力も精神力も回復していないんですよ! ターゲットと鉢合わせしたらどうなるか……」
「シーッ! 昴さん! 声大きいよ!」
両手を腰に当てて怖い顔をする昴を、周りが何事かと見ている。
「あ……」
つい、気持ちが入り過ぎて声のトーンが上がってしまった。
二人はコソコソと、その場から逃げるように場所を移動した。
「はぁ、はぁ、はぁ……もう! 昴さん、声大き過ぎよ!」
その場から走って逃げた二人は、建設中の建物の近くで足を止めた。
「す、すまん……」
声は昴のまま赤井の口調で答えた。
「声の大きさについては謝るが、お前のその向こう見ずな行動には賛同できんぞ。サプライズを仕掛けるのは子どもたちだけで十分だ。今日はこのまま帰るぞ」
昴はさくらの腕を掴み、車を停めた方へ歩み出す。
「え~……」
納得いかない声を出し、さくらは不貞腐れた様に口を尖らせた。
そんなことは意に介さず、昴はさくらの腕を引く。仕方なく、さくらは歩き出した。
が、その時——
フラフラと足元のおぼつかない男がさくらの視界に入る。
酔っ払いのようにも見えるが、何か違う。ゾワリと背筋が寒くなるような——言葉では表現しがたい『何か』を感じ、さくらは足を止め、ジッとその男を見つめた。
「おい、どうした?」
突然動かなくなったさくらに、昴が声をかける。
「昴さん……アレ……」
「アレ?」
不審に思いながら、昴もさくらが見ている方向に視線を向ける。
「ッ‼」
昴もまた、さくらと同様に何かを感じ思わず男を凝視した。
「スンホ……だね」
「……ああ」
顏写真を見たことはあったが、リュ・スンホと会ったことは一度も無い。だが、オドゥムの工作員とは何度か戦ったことはある。
特殊な訓練を受けた工作員たちは皆、何とも形容しがたいオーラをまとっていた。
視線の先にいる男もまた、ふらついてはいるものの、その研ぎ澄まされたオーラを放っている。
男はフラフラしながら、クルーズ船に近づいているようだった。
「様子がおかしいわ。粛清対象となって自暴自棄にでもなったのかしら……。まさか、船ごと爆破する気じゃ……」
「そう思わせて、お前をおびき寄せるつもりかもしれんぞ」
「例えそうだとしても、見て見ぬふりはできないでしょ⁉」
「確かにな」
二人は互いの顔を見てうなずき合うと、急いで男を追った。