第8章 ~新たな決意を胸に~
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数日後——。
首都高を走っていたポルシェ356Aと数台の黒いバンが車線変更した。この先の料金所に向かう。最後尾の車を運転していたバーボンが、隣に座るラスティーに声をかけた。
「体は大丈夫ですか? 今回の任務への参加……沖矢さんが心配していましたよ」
「ええ、大丈夫です。最近はだいぶ発作を起こさなくなったんですよ」
「なら、いいんですけど……」
わずかに微笑むラスティーの横で、バーボンは複雑そうな顔をした。
(『だいぶ』起こさなくなっただけで『全く』ではないだろう…)
状況が好転したと手放しで喜べるような状態では無い。ましてやこの後は命がけの任務が待っている。心配は尽きない。
「そういえば……例の内偵は、今朝コルン達によって隠密に始末されたようです。大学の学生やその他の人たちに影響はありません。その報告も、まだスンホの耳には入っていないでしょう」
「……そうですか……」
バーボンはあえて詳しくは伝えなかったが、これで一般人が巻き込まれる心配は無くなった。
その事だけでも伝えておこうと、大まかに状況を話す。ラスティーもバーボンの意図をくみ、それ以上詮索しない。
とりあえず近しい人たちへの危機は回避した。今は目の前の任務をこなすことに集中しなければ——。
ラスティーは目を閉じ、深呼吸を繰り返す。少し速くなった呼吸を整えた。そして次に目を開けた時には、『組織の諜報員』としての顔になる。二人の乗ったバンは料金所を過ぎ、一般道へと入った。
今回ジンが陣頭指揮を執るのは【オドゥム実行部隊掃討作戦】である。
本来ならラスティーはこの作戦には参加しない予定だった。PTSDの治療中であることはジンに伝えてあり、しばらく一線から退くことも了承を得ている。
しかし今回の掃討作戦ではアジトの退路を断つため、人手を多く必要とした。
にもかかわらず、ベルモットは別件で不在。アロン、キャンティ、コルンはすでに別働隊として数に入っている。さらにウォッカはジンと行動を共にしながら、現場で細かなサポートをすることになっていた。
そのためモニターでアジト全体を把握し、ジンに伝えるいわば《参謀》役が足らず、ラスティーが駆り出されることになったのだ。
降谷はりおの状況について昴(赤井)から全て聞かされていた。今夜の掃討作戦の際も、くれぐれも頼むと言われている。
やんわりと無茶をしないよう釘を刺そうと思ったが、どうやら本人はラスティーとしての任務をしっかりこなすつもりでいるようだ。もう少し自分を大事にしてくれと思うが、彼女のこれまでの行動を見れば言うだけムダだろう。
どうしたものか……と、バーボンはラスティーに分からないように小さく息を吐いた。
**
倉庫街の入口付近で一旦全車両が停まる。
事前打ち合わせの通り、その後は数台ずつに別れオドゥムのアジトを囲む様に配置された。
バーボンとラスティーが乗る車は全体の状況を把握するため、そのまま倉庫街の入り口で待機し、ドローンを飛ばした。
ドローンには通常のカメラと全方向監視赤外線装置が搭載され、アジト内部を監視する手はずになっている。バンの後部座席へと移動した二人は、ヘッドセットを付けてジンの指示を待った。
後部座席にはPC等の電子機器が設置され、さながら飛行機のコックピットのようになっている。バーボンはドローンを操作し、上空から組織の仲間の動きを確認した。
『聞こえるか、バーボン』
「ええ、良く聞こえます」
『アジトの中に何人いるか分かるか?』
ジンの問いかけに、バーボンはラスティーを見た。ラスティーは黙ってうなずくとキーボードに手を伸ばす。
「高度を上げます」
バーボンはコントローラーを操作し、ドローンの高度を上げた。わずかな街灯を頼りに、アジト全体が画面に映る。
その直後、ラスティーがコマンドを打ち終わると画面が切り替わり、赤外線装置が起動して建物の輪郭と人の形が映し出された。
上空から送られてくる情報によれば、アジトには二十人ほどが隠れているようだった。
「えっ……なんでこんなに居るの⁉ 私が周辺の防犯カメラで解析した時、このアジトに出入りしているのは十人程度だったはず……」
ラスティーはカメラに映る人物の数に驚く。ジンがそれを聞いてフンと鼻を鳴らした。
『おそらく本国からの合流部隊だ。本格的なアジトを手に入れ、増員したんだろう。そういえばアロンからも昨日連絡が来ていたな。港にK国を経由したおかしな船が到着したと』
そいつらもまとめて始末してやる、とジンは上機嫌だ。ラスティーはやや苦しげに視線を落とす。バーボンは心配そうにそれを見ていた。
「倉庫の見取りと重ね合わせると、どうやら地下にいるようです。隠し部屋か何かがあるのかもしれません。
大多数が一か所に固まっているようですが、数名が一人を守るように配置されています」
『ふん、その守られているヤツがスンホの可能性が高いな』
バーボンの情報を聞き、ジンは考え込む。事前に打ち合わせた作戦のうち、最善のものを選ぶと指示を出すためヘッドセットに手をかけた。するとそれを見透かしたかのようにラスティーが声を発した。
「ちょっと待ってジン。元々このアジトに出入りしていた工作員は、さっきも言った通り十人程度よ。今アジトで確認出来るのは二十数人。逆に増員したわりには少ない気がするの。
数回に分けて密航させる算段なのかもしれないけど、日本の港は意外と監視の目が厳しいわ。
しかも最近K国からの船も、国家間の摩擦から日本政府は数を制限している。もしかしたら——」
「どこか別の場所に潜んでいて、こちらを監視しているかもしれない、ということですね。確かに可能性はあります。ジン、用心して下さい」
バーボンは表情を硬くし、ラスティーの言葉に付け加えた。
『分かった。バーボンとラスティーはドローンで周辺の様子も探っておけ。何か怪しい動きがあればすぐに知らせろ。
今回ベルモットはある人物の護衛に出ているため、お前たちの役割は大きい。アジトの監視も怠るなよ。
街に設置されているサツの監視カメラは、近くの建物からアロンがジャミングする。だがそれも長時間は無理だ。さっさとカタをつける。
監視区域を広げる以外は当初の予定通りだ。A班は建物に侵入し、隠し部屋の入口を探せ! B班、C班は建物を囲んでアリ一匹逃がすな!』
『『『了解』』』
各班の声が聞こえたことを確認すると、ジンがA班に向かって指示を出す。
『A班、突入だ』
ジンの合図を聞いて、黒服の男たち数名が倉庫入口に集結した。
首都高を走っていたポルシェ356Aと数台の黒いバンが車線変更した。この先の料金所に向かう。最後尾の車を運転していたバーボンが、隣に座るラスティーに声をかけた。
「体は大丈夫ですか? 今回の任務への参加……沖矢さんが心配していましたよ」
「ええ、大丈夫です。最近はだいぶ発作を起こさなくなったんですよ」
「なら、いいんですけど……」
わずかに微笑むラスティーの横で、バーボンは複雑そうな顔をした。
(『だいぶ』起こさなくなっただけで『全く』ではないだろう…)
状況が好転したと手放しで喜べるような状態では無い。ましてやこの後は命がけの任務が待っている。心配は尽きない。
「そういえば……例の内偵は、今朝コルン達によって隠密に始末されたようです。大学の学生やその他の人たちに影響はありません。その報告も、まだスンホの耳には入っていないでしょう」
「……そうですか……」
バーボンはあえて詳しくは伝えなかったが、これで一般人が巻き込まれる心配は無くなった。
その事だけでも伝えておこうと、大まかに状況を話す。ラスティーもバーボンの意図をくみ、それ以上詮索しない。
とりあえず近しい人たちへの危機は回避した。今は目の前の任務をこなすことに集中しなければ——。
ラスティーは目を閉じ、深呼吸を繰り返す。少し速くなった呼吸を整えた。そして次に目を開けた時には、『組織の諜報員』としての顔になる。二人の乗ったバンは料金所を過ぎ、一般道へと入った。
今回ジンが陣頭指揮を執るのは【オドゥム実行部隊掃討作戦】である。
本来ならラスティーはこの作戦には参加しない予定だった。PTSDの治療中であることはジンに伝えてあり、しばらく一線から退くことも了承を得ている。
しかし今回の掃討作戦ではアジトの退路を断つため、人手を多く必要とした。
にもかかわらず、ベルモットは別件で不在。アロン、キャンティ、コルンはすでに別働隊として数に入っている。さらにウォッカはジンと行動を共にしながら、現場で細かなサポートをすることになっていた。
そのためモニターでアジト全体を把握し、ジンに伝えるいわば《参謀》役が足らず、ラスティーが駆り出されることになったのだ。
降谷はりおの状況について昴(赤井)から全て聞かされていた。今夜の掃討作戦の際も、くれぐれも頼むと言われている。
やんわりと無茶をしないよう釘を刺そうと思ったが、どうやら本人はラスティーとしての任務をしっかりこなすつもりでいるようだ。もう少し自分を大事にしてくれと思うが、彼女のこれまでの行動を見れば言うだけムダだろう。
どうしたものか……と、バーボンはラスティーに分からないように小さく息を吐いた。
**
倉庫街の入口付近で一旦全車両が停まる。
事前打ち合わせの通り、その後は数台ずつに別れオドゥムのアジトを囲む様に配置された。
バーボンとラスティーが乗る車は全体の状況を把握するため、そのまま倉庫街の入り口で待機し、ドローンを飛ばした。
ドローンには通常のカメラと全方向監視赤外線装置が搭載され、アジト内部を監視する手はずになっている。バンの後部座席へと移動した二人は、ヘッドセットを付けてジンの指示を待った。
後部座席にはPC等の電子機器が設置され、さながら飛行機のコックピットのようになっている。バーボンはドローンを操作し、上空から組織の仲間の動きを確認した。
『聞こえるか、バーボン』
「ええ、良く聞こえます」
『アジトの中に何人いるか分かるか?』
ジンの問いかけに、バーボンはラスティーを見た。ラスティーは黙ってうなずくとキーボードに手を伸ばす。
「高度を上げます」
バーボンはコントローラーを操作し、ドローンの高度を上げた。わずかな街灯を頼りに、アジト全体が画面に映る。
その直後、ラスティーがコマンドを打ち終わると画面が切り替わり、赤外線装置が起動して建物の輪郭と人の形が映し出された。
上空から送られてくる情報によれば、アジトには二十人ほどが隠れているようだった。
「えっ……なんでこんなに居るの⁉ 私が周辺の防犯カメラで解析した時、このアジトに出入りしているのは十人程度だったはず……」
ラスティーはカメラに映る人物の数に驚く。ジンがそれを聞いてフンと鼻を鳴らした。
『おそらく本国からの合流部隊だ。本格的なアジトを手に入れ、増員したんだろう。そういえばアロンからも昨日連絡が来ていたな。港にK国を経由したおかしな船が到着したと』
そいつらもまとめて始末してやる、とジンは上機嫌だ。ラスティーはやや苦しげに視線を落とす。バーボンは心配そうにそれを見ていた。
「倉庫の見取りと重ね合わせると、どうやら地下にいるようです。隠し部屋か何かがあるのかもしれません。
大多数が一か所に固まっているようですが、数名が一人を守るように配置されています」
『ふん、その守られているヤツがスンホの可能性が高いな』
バーボンの情報を聞き、ジンは考え込む。事前に打ち合わせた作戦のうち、最善のものを選ぶと指示を出すためヘッドセットに手をかけた。するとそれを見透かしたかのようにラスティーが声を発した。
「ちょっと待ってジン。元々このアジトに出入りしていた工作員は、さっきも言った通り十人程度よ。今アジトで確認出来るのは二十数人。逆に増員したわりには少ない気がするの。
数回に分けて密航させる算段なのかもしれないけど、日本の港は意外と監視の目が厳しいわ。
しかも最近K国からの船も、国家間の摩擦から日本政府は数を制限している。もしかしたら——」
「どこか別の場所に潜んでいて、こちらを監視しているかもしれない、ということですね。確かに可能性はあります。ジン、用心して下さい」
バーボンは表情を硬くし、ラスティーの言葉に付け加えた。
『分かった。バーボンとラスティーはドローンで周辺の様子も探っておけ。何か怪しい動きがあればすぐに知らせろ。
今回ベルモットはある人物の護衛に出ているため、お前たちの役割は大きい。アジトの監視も怠るなよ。
街に設置されているサツの監視カメラは、近くの建物からアロンがジャミングする。だがそれも長時間は無理だ。さっさとカタをつける。
監視区域を広げる以外は当初の予定通りだ。A班は建物に侵入し、隠し部屋の入口を探せ! B班、C班は建物を囲んでアリ一匹逃がすな!』
『『『了解』』』
各班の声が聞こえたことを確認すると、ジンがA班に向かって指示を出す。
『A班、突入だ』
ジンの合図を聞いて、黒服の男たち数名が倉庫入口に集結した。