第8章 ~新たな決意を胸に~
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***
組織が所有するビルの地下室。任務を終え、バーボンは一人その場にたたずんでいた。ポケットからスマホを取り出し、先日ウォッカから送られたメールを開く。
「いよいよか……」
決行日を目で追い、ふと顔を上げた。薄暗い部屋の真ん中には大きなテーブル。その上はもちろん周りの床にも、無数の武器が所せましと並んでいる。
「任務を受けて組織で所有している武器をかき集めてきたが……。この数、戦争でも始めるつもりか?」
予想以上の武器を見て、バーボンはため息をついた。
オドゥムの実行部隊に仕掛ける掃討作戦。いわば奇襲攻撃となる。ジンはすべての退路を断った後、総攻撃を仕掛け一網打尽にするつもりだ。
その為に用意するよう言われた武器の数は、部屋を埋め尽くすほどだった。
「場所が首都高のあの場所とは……夜ならば一般人はほとんどいない。以前の爆発事故で廃工場も多く、海に面していて被害が出るようなものもほとんどない。不幸中の幸いといえば幸いか……」
オドゥムのことは組織同様、世間に公表されていない。日本を掌握しようと企む国家(テロ組織)の存在は、社会に与えるダメージが大きすぎるからだ。その為、警察は表立った捜査が出来ずにいる。今回組織が計画した掃討作戦は公安にとって、これ以上ない好機だった。
後はどれだけ被害を最小限に食い止められるか。降谷の関心事はそれだけだ。
準備は整った。後は決行日を待つのみ。
バーボンはジンに任務完了の連絡を入れようとスマホに視線を落とす。ふと、フォルダに入っている別のメールが目に止まった。
安室透ではなく、降谷零へ届いたメール。バーボンはやや緊張した面持ちで再びそのメールを開く。
《降谷さん、至急調べて欲しいことがあります。理学部の森教授が——》
バーボンの視線が文字を追う。メールを最後まで読むと、険しい顔のまま奥歯を噛みしめた。
***
「分かった。また連絡する」
短いやり取りをして電話を切ったジンは、スマホを内ポケットにしまう。
「アニキ、今の電話……バーボンですかい?」
「ああ、ヤツに武器の調達を頼んでおいた。組織で所有しているブツを一か所に集めておけ、とな」
それだけ言うと、ジンはニヤリと不気味な笑みを浮かべた。
「それよりベルモット。例の『協力者』が言っていた【実験】とやらはどうなった? かなり踏み込んだことをやりたいようだが……ウォッカもそれに手を貸すことになっているだろう」
「ああ、そのこと。それなら仕込みは万全よ。後はあちらの希望日に我々は指示通り動くだけ」
ソファーで足を組んでいたベルモットは、自分の髪を指に絡めながら答えた。
「そうか。その件に関してはお前らに任せる。だが前にも言ったが……サツとFBIに気取られるなよ」
表情こそ変えなかったが、ジンは強い口調で釘を刺した。
「ええ、それは分かっているけど……。ねえ、ジン。私が言うのもなんだけど、本当に《ビジネス》の話を進めちゃって良いの? ラムからはストップ掛けられているんでしょう?」
ベルモットは腕を組むと心配げに問いかける。
この《ビジネス》が組織にとって重要な事は分かっている。それゆえに、内部でのいざこざは決して良いことでは無い。
「完全に動きを止めてしまっては今後の計画に支障をきたす。なぁに、オドゥムの方はもうじきカタがつく。問題ない」
ジンは余裕の表情だ。こうなると何を言ってもこの男は耳を貸さない。ベルモットは諦めたようにため息をついた。
「ベルモット、今回の《ビジネス》は組織でもかなりウェイトを置いているのはお前も知っているだろう。
今の俺達では、せいぜいオドゥムの実行部隊しか潰せないが《ビジネス》が上手くいけば『オドゥム』だけでなく『C国』という国家組織そのものをブッ潰すことだってできる。お前の心配も分かるが、今は出来るだけ事を進めねばならん」
ジンは胸ポケットから出したタバコを咥え、火をつける。
「32年前——。一度は立ち消えた組織の計画が、ようやく日の目を見るというわけだ」
ジンの吐き出したタバコの煙を、ベルモットとウォッカは黙って見つめていた。
数日後——。
とあるビルの屋上にリュ・スンホが一人立っていた。
一段高くなったコンクリートに片足をかけ、手すりに肘をつく。手にしていた双眼鏡を構え、左から右へとその視線を移動する。大通りを歩く人々や、行列ができているフードカー、店の前で賑わう客たちが見えた。
「……あれか……」
通りに面したオシャレなカフェで目的の人物らしき姿を捉えた。
「あれは……間違いなくベルモット。……待ち合わせか?」
緩くウェーブのかかったブロンドの髪を揺らし、品の良いブランドものの服を着て、カフェの窓際で足を組んでいる。
時折左手首の腕時計を気にしていた。やや背を向ける角度で座っているため表情は伺い知れないが、誰かを待っているようだ。
しばらく様子を見ていると、やがて待ち人らしき人物が現れた。
「あれはアロン・モーリスか? いや、もっと年上……。いったい何者だ?」
ベルモットの向かいに座った人物の顔は、ちょうど店のサンシェードが影になり見えない。ただ胸から下の服装を見ると、50代を越えているように見える。
「組織の【ビジネス】に関係している人物か? 外で会っているところを見ると、アロン以外にも組織外で関係者がいるということか。奴ら、いったい何を企んでいるんだ?」
ここからは二人の顔が見えない為、読唇術は使えない。スンホはポケットからスマホを出すと部下に連絡を取る。
「……ああ、そうだ。男が店を出る時に合図を出す。その男を尾行しろ。ヤツの身元を探れ」
双眼鏡で様子を伺いながら、指示を出した。やがて、相手の男が席を立つ。
「男が店を出るぞ」
スンホがそう電話口で話した時だった。
「ッ!」
スンホに背を向けていたベルモットの視線がほんのわずか、こちらに向けられる。その顔は笑っているようにも見えた。
「ッ! 計画変更だ。男を追うな。そいつはベルモットの罠だ」
スンホは慌てて部下を制止した。
「あの様子だと、こちらに気付いていたか……。おそらく尾行させた部下を拉致して、我々のことを吐かせるつもりだったのだろう。まあ、捕まったとしても我が部隊の者は降伏より死を選ぶ。そう易々と口を割らんよ」
双眼鏡から目を離したスンホは手すりから離れ、遠くにそびえる東都タワーの方へ視線を移した。
「だが、あちらにはラスティーがいる。諜報担当のあの女……。ヤツなら我らのアジトを探し出すかもしれん」
スンホの眉間に深いシワが刻まれる。ここからは慎重にことを進めなければならない。スンホは目を閉じた。
先程のベルモットの顔——。何か引っかかる。
罠を仕掛けるあたり、こちらの監視に気付いていたと見て間違いない。
そして昨日部下から『アジト周辺に怪しい黒い車を目撃』という情報も上がっていた。
小さな引っ掛かりを一つ一つ繋いでいけば——たどり着く答えは一つ。
「あのベルモットの落ち着き。そして怪しい車。もしかするとすでに奴らは我々のアジトを突き止めたか? あそこは今後、日本を掌握するための要の場所だ。今攻撃されるのはマズイ。万が一に備えた方が良さそうだ……」
スンホの表情はさらに険しくなる。
「なんにしても、ジンの【ビジネス】には組織外にまだ協力者がいる。それは間違いないだろう」
こうなれば、アジトを攻撃される前に何としても組織の【ビジネス】を暴かなくてはならない。さらに、主要メンバー数名の首を取れば、例えアジトの場所がバレたところで組織のダメージは甚大。こちらの相手をするヒマは無いだろう。
「必ず暴いてやるさ。あの組織の計画をぶっ潰し、指揮官を失って組織が崩れていく様を見届けてやる」
高らかに笑いながら、スンホは屋上を後にする。再びスマホを操作すると電話を掛けた。
「……俺だ。ベルモットは最近東都大周辺で頻繁に姿を見せている。ラスティーも先日、その大学で姿を確認した。あの大学に何かある。早急に工作員を送って周辺を洗い出せ」
『ははッ!』
電話の向こうからは、小気味よい部下の声が聞こえた。
スンホはスマホをポケットにしまうと街の雑踏に消えていった。
組織が所有するビルの地下室。任務を終え、バーボンは一人その場にたたずんでいた。ポケットからスマホを取り出し、先日ウォッカから送られたメールを開く。
「いよいよか……」
決行日を目で追い、ふと顔を上げた。薄暗い部屋の真ん中には大きなテーブル。その上はもちろん周りの床にも、無数の武器が所せましと並んでいる。
「任務を受けて組織で所有している武器をかき集めてきたが……。この数、戦争でも始めるつもりか?」
予想以上の武器を見て、バーボンはため息をついた。
オドゥムの実行部隊に仕掛ける掃討作戦。いわば奇襲攻撃となる。ジンはすべての退路を断った後、総攻撃を仕掛け一網打尽にするつもりだ。
その為に用意するよう言われた武器の数は、部屋を埋め尽くすほどだった。
「場所が首都高のあの場所とは……夜ならば一般人はほとんどいない。以前の爆発事故で廃工場も多く、海に面していて被害が出るようなものもほとんどない。不幸中の幸いといえば幸いか……」
オドゥムのことは組織同様、世間に公表されていない。日本を掌握しようと企む国家(テロ組織)の存在は、社会に与えるダメージが大きすぎるからだ。その為、警察は表立った捜査が出来ずにいる。今回組織が計画した掃討作戦は公安にとって、これ以上ない好機だった。
後はどれだけ被害を最小限に食い止められるか。降谷の関心事はそれだけだ。
準備は整った。後は決行日を待つのみ。
バーボンはジンに任務完了の連絡を入れようとスマホに視線を落とす。ふと、フォルダに入っている別のメールが目に止まった。
安室透ではなく、降谷零へ届いたメール。バーボンはやや緊張した面持ちで再びそのメールを開く。
《降谷さん、至急調べて欲しいことがあります。理学部の森教授が——》
バーボンの視線が文字を追う。メールを最後まで読むと、険しい顔のまま奥歯を噛みしめた。
***
「分かった。また連絡する」
短いやり取りをして電話を切ったジンは、スマホを内ポケットにしまう。
「アニキ、今の電話……バーボンですかい?」
「ああ、ヤツに武器の調達を頼んでおいた。組織で所有しているブツを一か所に集めておけ、とな」
それだけ言うと、ジンはニヤリと不気味な笑みを浮かべた。
「それよりベルモット。例の『協力者』が言っていた【実験】とやらはどうなった? かなり踏み込んだことをやりたいようだが……ウォッカもそれに手を貸すことになっているだろう」
「ああ、そのこと。それなら仕込みは万全よ。後はあちらの希望日に我々は指示通り動くだけ」
ソファーで足を組んでいたベルモットは、自分の髪を指に絡めながら答えた。
「そうか。その件に関してはお前らに任せる。だが前にも言ったが……サツとFBIに気取られるなよ」
表情こそ変えなかったが、ジンは強い口調で釘を刺した。
「ええ、それは分かっているけど……。ねえ、ジン。私が言うのもなんだけど、本当に《ビジネス》の話を進めちゃって良いの? ラムからはストップ掛けられているんでしょう?」
ベルモットは腕を組むと心配げに問いかける。
この《ビジネス》が組織にとって重要な事は分かっている。それゆえに、内部でのいざこざは決して良いことでは無い。
「完全に動きを止めてしまっては今後の計画に支障をきたす。なぁに、オドゥムの方はもうじきカタがつく。問題ない」
ジンは余裕の表情だ。こうなると何を言ってもこの男は耳を貸さない。ベルモットは諦めたようにため息をついた。
「ベルモット、今回の《ビジネス》は組織でもかなりウェイトを置いているのはお前も知っているだろう。
今の俺達では、せいぜいオドゥムの実行部隊しか潰せないが《ビジネス》が上手くいけば『オドゥム』だけでなく『C国』という国家組織そのものをブッ潰すことだってできる。お前の心配も分かるが、今は出来るだけ事を進めねばならん」
ジンは胸ポケットから出したタバコを咥え、火をつける。
「32年前——。一度は立ち消えた組織の計画が、ようやく日の目を見るというわけだ」
ジンの吐き出したタバコの煙を、ベルモットとウォッカは黙って見つめていた。
数日後——。
とあるビルの屋上にリュ・スンホが一人立っていた。
一段高くなったコンクリートに片足をかけ、手すりに肘をつく。手にしていた双眼鏡を構え、左から右へとその視線を移動する。大通りを歩く人々や、行列ができているフードカー、店の前で賑わう客たちが見えた。
「……あれか……」
通りに面したオシャレなカフェで目的の人物らしき姿を捉えた。
「あれは……間違いなくベルモット。……待ち合わせか?」
緩くウェーブのかかったブロンドの髪を揺らし、品の良いブランドものの服を着て、カフェの窓際で足を組んでいる。
時折左手首の腕時計を気にしていた。やや背を向ける角度で座っているため表情は伺い知れないが、誰かを待っているようだ。
しばらく様子を見ていると、やがて待ち人らしき人物が現れた。
「あれはアロン・モーリスか? いや、もっと年上……。いったい何者だ?」
ベルモットの向かいに座った人物の顔は、ちょうど店のサンシェードが影になり見えない。ただ胸から下の服装を見ると、50代を越えているように見える。
「組織の【ビジネス】に関係している人物か? 外で会っているところを見ると、アロン以外にも組織外で関係者がいるということか。奴ら、いったい何を企んでいるんだ?」
ここからは二人の顔が見えない為、読唇術は使えない。スンホはポケットからスマホを出すと部下に連絡を取る。
「……ああ、そうだ。男が店を出る時に合図を出す。その男を尾行しろ。ヤツの身元を探れ」
双眼鏡で様子を伺いながら、指示を出した。やがて、相手の男が席を立つ。
「男が店を出るぞ」
スンホがそう電話口で話した時だった。
「ッ!」
スンホに背を向けていたベルモットの視線がほんのわずか、こちらに向けられる。その顔は笑っているようにも見えた。
「ッ! 計画変更だ。男を追うな。そいつはベルモットの罠だ」
スンホは慌てて部下を制止した。
「あの様子だと、こちらに気付いていたか……。おそらく尾行させた部下を拉致して、我々のことを吐かせるつもりだったのだろう。まあ、捕まったとしても我が部隊の者は降伏より死を選ぶ。そう易々と口を割らんよ」
双眼鏡から目を離したスンホは手すりから離れ、遠くにそびえる東都タワーの方へ視線を移した。
「だが、あちらにはラスティーがいる。諜報担当のあの女……。ヤツなら我らのアジトを探し出すかもしれん」
スンホの眉間に深いシワが刻まれる。ここからは慎重にことを進めなければならない。スンホは目を閉じた。
先程のベルモットの顔——。何か引っかかる。
罠を仕掛けるあたり、こちらの監視に気付いていたと見て間違いない。
そして昨日部下から『アジト周辺に怪しい黒い車を目撃』という情報も上がっていた。
小さな引っ掛かりを一つ一つ繋いでいけば——たどり着く答えは一つ。
「あのベルモットの落ち着き。そして怪しい車。もしかするとすでに奴らは我々のアジトを突き止めたか? あそこは今後、日本を掌握するための要の場所だ。今攻撃されるのはマズイ。万が一に備えた方が良さそうだ……」
スンホの表情はさらに険しくなる。
「なんにしても、ジンの【ビジネス】には組織外にまだ協力者がいる。それは間違いないだろう」
こうなれば、アジトを攻撃される前に何としても組織の【ビジネス】を暴かなくてはならない。さらに、主要メンバー数名の首を取れば、例えアジトの場所がバレたところで組織のダメージは甚大。こちらの相手をするヒマは無いだろう。
「必ず暴いてやるさ。あの組織の計画をぶっ潰し、指揮官を失って組織が崩れていく様を見届けてやる」
高らかに笑いながら、スンホは屋上を後にする。再びスマホを操作すると電話を掛けた。
「……俺だ。ベルモットは最近東都大周辺で頻繁に姿を見せている。ラスティーも先日、その大学で姿を確認した。あの大学に何かある。早急に工作員を送って周辺を洗い出せ」
『ははッ!』
電話の向こうからは、小気味よい部下の声が聞こえた。
スンホはスマホをポケットにしまうと街の雑踏に消えていった。