第8章 ~新たな決意を胸に~
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数日後——
さくらは治療の為、昴と共に病院へ来ていた。認知行動療法を終えた直後とあって、かなり疲弊している。
今日は車から脱出して、爆発音が聞こえたところまでは語る事が出来た。しかし両親の死の場面が近づくと落ち着きが無くなり、激しく取り乱す。今日もまた、思うように治療は進まなかった。
「何か飲み物でも買って来ましょうか?」
治療を終えてからすでに三十分。待合の長椅子に身を預けるようにして座っているさくらに、昴が声をかけた。
「うん……売店行って自分で選びたい…」
珍しく甘いものが飲みたくなって、さくらはゆっくりと立ち上がる。昴に支えられて一般外来にある売店へと移動した。
「珍しいですね。さくらが甘い飲み物なんて」
マンゴ―ジュースを美味しそうに飲むさくらを見て、昴が意外そうな顔をする。
「んー。マレーシアにいる頃はね、けっこう好きで飲んでたの。あっちは南国だしフルーツも豊富だから、私の中では割と定番の飲み物だったわ。その頃はコーヒーも飲まなかったし」
たまに飲みたくなるのよね、とさくらは微笑む。
(そういえば『ラスティー』というコードネームを与えられた時、りおはコーヒーが飲めなかったな……)
昴は当時のことを思い出す。好きな飲み物など分からず、「これなら飲める」という言葉一つでラスティーに缶のカフェオレを手渡したこともあった。
「次飲む時はそのマンゴージュース、飲んでみようかな」
さくらのお気に入りと聞けば自然と興味をそそられる。
「昴さんこそ、意外に甘いもの平気よね。なんなら一口飲んでみる?」
「はい」と差し出され「良いんですか?」と昴は遠慮がちにストローをくわえた。
「あ…うまい…」
「ふふふっ! でしょ」
まんざらでもない顔をした昴を見て「絶対気に入ると思ったわ」とさくらは笑った。
以前、コナンと昴で読書会(ホームズ限定)をした時は、休憩時にコーヒーとおまんじゅうを二人で美味しそうに食べていた。
スコーンやケーキなどを日常的に食べる習慣のあるイギリス。そこで育った赤井も、甘いものが苦手なわけでは無いらしい。
「さて、顔色も良くなりましたね。自力で歩けそうですか?」
「うん。甘いものの力、偉大だわ!」
完全ではないものの、難なく立ち上がったさくらは笑顔を見せる。二人は肩を並べて歩き出した。
売店から一般外来を抜け、病院エントランスに向かう。駐車場はエントランスを出ればすぐそこだ。途中、小児科を通り過ぎた。
小さな子どもたちが母親や父親に連れられて順番を待っている。小児科の受付前には子どもが遊べるスペースがあり、おもちゃや絵本が広げられていた。
「わぁ、探偵団よりもっと小さな子がいるわ」
冷却シートをおでこに貼って、真っ赤な顔をしながら笑顔で遊んでいる子。
指を吸いながら母親にピッタリ甘えている子。
他の子が持っているおもちゃに興味津々な子。
小さな子どもたちを見て、さくらの顔も自然とほころぶ。賑やかな小児科エリアを通り過ぎながら、さくらは何気なく本棚へと目を向けた。
子どもの背丈に合わせた小さな本棚には、新作の絵本から往年の名作まで、所狭しと並べられている。
「ん?」
ふと見覚えのある背表紙をみつけて、さくらは歩みを止めた。
「さくら?」
昴も足を止め、さくらの方へ振り向いた。
「……」
昴の呼びかけにも答えず、さくらは本棚をジッと見つめている。近くではしゃぐ子どもたちの声が、次第に遠くなっていく。
やがてその声はずっとずっと昔——
本を抱きかかえた、幼い自分の声に変わった……
『パパ~! もう一回読んで~』
『えぇ~…またかぁ? これで何度目だ?』
『だって、オオカミが可哀想なんだもん』
『何度読んでも結末は変わらんぞ?』
『え~……あ、そうだ! それなら、パパがオオカミさん助けてあげて!』
『パパが? う~ん…そうだなぁ…』
『……!』
『…』
「…ッ、うぅぅッ…」
突然さくらが頭を押さえた。フラフラと倒れかけたところで、昴が慌ててその肩を掴む。
「ッ! おい、どうした?」
「わ、わからな……頭が…頭が、痛…い…」
「顔が真っ青だぞ……さくら、ソファーに座ろう」
頭を押さえたまま崩れ落ちそうになるさくらを、昴は待合のソファーに座らせた。
さくらの異変に気付いた小児科の看護師が駆け寄る。
「どうしました?」
「それが、急に頭痛を訴えて……」
「受診されている科と担当医はどなたです?」
看護師の問いかけに、昴は担当医の名だけを告げる。捜査官専用の特別枠に居るドクターの名。それだけ伝えれば事足りた。
看護師は一瞬驚き、そして何かを察したように小さくうなずいた。
「分かりました。ストレッチャーを用意して、すぐにそちらにお運びします」
看護師は胸ポケットから院内用のPHSを取り出すと、ストレッチャーの手配と担当医に連絡を取った。
さくらは治療の為、昴と共に病院へ来ていた。認知行動療法を終えた直後とあって、かなり疲弊している。
今日は車から脱出して、爆発音が聞こえたところまでは語る事が出来た。しかし両親の死の場面が近づくと落ち着きが無くなり、激しく取り乱す。今日もまた、思うように治療は進まなかった。
「何か飲み物でも買って来ましょうか?」
治療を終えてからすでに三十分。待合の長椅子に身を預けるようにして座っているさくらに、昴が声をかけた。
「うん……売店行って自分で選びたい…」
珍しく甘いものが飲みたくなって、さくらはゆっくりと立ち上がる。昴に支えられて一般外来にある売店へと移動した。
「珍しいですね。さくらが甘い飲み物なんて」
マンゴ―ジュースを美味しそうに飲むさくらを見て、昴が意外そうな顔をする。
「んー。マレーシアにいる頃はね、けっこう好きで飲んでたの。あっちは南国だしフルーツも豊富だから、私の中では割と定番の飲み物だったわ。その頃はコーヒーも飲まなかったし」
たまに飲みたくなるのよね、とさくらは微笑む。
(そういえば『ラスティー』というコードネームを与えられた時、りおはコーヒーが飲めなかったな……)
昴は当時のことを思い出す。好きな飲み物など分からず、「これなら飲める」という言葉一つでラスティーに缶のカフェオレを手渡したこともあった。
「次飲む時はそのマンゴージュース、飲んでみようかな」
さくらのお気に入りと聞けば自然と興味をそそられる。
「昴さんこそ、意外に甘いもの平気よね。なんなら一口飲んでみる?」
「はい」と差し出され「良いんですか?」と昴は遠慮がちにストローをくわえた。
「あ…うまい…」
「ふふふっ! でしょ」
まんざらでもない顔をした昴を見て「絶対気に入ると思ったわ」とさくらは笑った。
以前、コナンと昴で読書会(ホームズ限定)をした時は、休憩時にコーヒーとおまんじゅうを二人で美味しそうに食べていた。
スコーンやケーキなどを日常的に食べる習慣のあるイギリス。そこで育った赤井も、甘いものが苦手なわけでは無いらしい。
「さて、顔色も良くなりましたね。自力で歩けそうですか?」
「うん。甘いものの力、偉大だわ!」
完全ではないものの、難なく立ち上がったさくらは笑顔を見せる。二人は肩を並べて歩き出した。
売店から一般外来を抜け、病院エントランスに向かう。駐車場はエントランスを出ればすぐそこだ。途中、小児科を通り過ぎた。
小さな子どもたちが母親や父親に連れられて順番を待っている。小児科の受付前には子どもが遊べるスペースがあり、おもちゃや絵本が広げられていた。
「わぁ、探偵団よりもっと小さな子がいるわ」
冷却シートをおでこに貼って、真っ赤な顔をしながら笑顔で遊んでいる子。
指を吸いながら母親にピッタリ甘えている子。
他の子が持っているおもちゃに興味津々な子。
小さな子どもたちを見て、さくらの顔も自然とほころぶ。賑やかな小児科エリアを通り過ぎながら、さくらは何気なく本棚へと目を向けた。
子どもの背丈に合わせた小さな本棚には、新作の絵本から往年の名作まで、所狭しと並べられている。
「ん?」
ふと見覚えのある背表紙をみつけて、さくらは歩みを止めた。
「さくら?」
昴も足を止め、さくらの方へ振り向いた。
「……」
昴の呼びかけにも答えず、さくらは本棚をジッと見つめている。近くではしゃぐ子どもたちの声が、次第に遠くなっていく。
やがてその声はずっとずっと昔——
本を抱きかかえた、幼い自分の声に変わった……
『パパ~! もう一回読んで~』
『えぇ~…またかぁ? これで何度目だ?』
『だって、オオカミが可哀想なんだもん』
『何度読んでも結末は変わらんぞ?』
『え~……あ、そうだ! それなら、パパがオオカミさん助けてあげて!』
『パパが? う~ん…そうだなぁ…』
『……!』
『…』
「…ッ、うぅぅッ…」
突然さくらが頭を押さえた。フラフラと倒れかけたところで、昴が慌ててその肩を掴む。
「ッ! おい、どうした?」
「わ、わからな……頭が…頭が、痛…い…」
「顔が真っ青だぞ……さくら、ソファーに座ろう」
頭を押さえたまま崩れ落ちそうになるさくらを、昴は待合のソファーに座らせた。
さくらの異変に気付いた小児科の看護師が駆け寄る。
「どうしました?」
「それが、急に頭痛を訴えて……」
「受診されている科と担当医はどなたです?」
看護師の問いかけに、昴は担当医の名だけを告げる。捜査官専用の特別枠に居るドクターの名。それだけ伝えれば事足りた。
看護師は一瞬驚き、そして何かを察したように小さくうなずいた。
「分かりました。ストレッチャーを用意して、すぐにそちらにお運びします」
看護師は胸ポケットから院内用のPHSを取り出すと、ストレッチャーの手配と担当医に連絡を取った。