第1章 ~運命の再会そして…~
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さくらは足払いをかけて相手の体勢を崩し、顔面に回し蹴りをする。ギムレットはその勢いで吹っ飛び、口からは血が流れた。
しかし顔は笑ったままだ。ふらりと立ち上がり、さくらに蹴りを入れた。とっさに避けたが、技の速さに驚く。
「逃げられちゃったか~」
さらに連続で蹴りを入れてくるも、全てさくらはギリギリで避けた。
「この薬はね~、痛みも恐怖も感じない夢の薬なんだよ~。おまけに筋力は通常の4倍だ。俺の作った薬はサイコーだよ~」
ギムレットはおしゃべりをしながら、ドンドン近づいてくる。さくらは全体重をかけるつもりで体当たりし、その勢いで肘打ちをギムネットの腹に決めた。だがまったく彼には効かず、そのまま首を掴まれ放り投げられた。
とっさで受身が取れず、地面に叩きつけられる。ギムレットはほぼ仰向けに倒れたさくらに近づき、左脇腹に蹴りを入れた。
「ぐぅッ!! かはっ! ごほッごほッ!!」
アバラがミシッと音をたてた。 脇を押さえてさくらはうずくまる。激痛で息ができない。ギムレットは、そんなさくらの脇腹をさらに踏みつけようと片足を上げた。
「ッ!」
ダンッ!
すんでの所でそれを避けるが、痛みと酸欠で視界がぼやける。
再びギムレットが攻撃しようとした瞬間、さくらは彼の膝裏を蹴った。ガクリと膝が折れ、ギムレットがその場に手をつく。その隙をついて立ち上がると、さくらはヨロヨロと建物の方へ向かった。
すでに意識は朦朧としていた。ギムレットはそんなさくらの姿をあざ笑うかのように体を起こすと、ゆっくり歩きながら近づく。
「ふははは…どこまで逃げられるかな~~~」
勝利を確信したように大きく口角を上げ、さらなる狂気の顔を向けたまま、ギムレットはさくらをゆっくり追い詰める。
しかし建物の角を曲がった時、その笑顔が消えギムレットは立ち止まった。狙撃手の影に気づく。
『なるほど。ここへ誘い込むつもりだったのか』
さくらの思考を読み取ったギムレットは、埠頭の照明灯に向かって、持っていた銃を撃った。
フッ
照明が落ち、あたりが暗くなる。
「暗視スコープを使って人影はわかっても、それが俺かラスティーか分かるまい。まして、ラスティーは今声が出ない。さあ、どうするスナイパーさん」
「チィ!」
視界を奪われ、昴が舌打ちする。さくらは痛みで意識が朦朧としている上に、あたりが真っ暗になってしまったため、方向感覚が分からなくなってしまっていた。
ギムレットもかく乱するように、左脇腹をおさえて似たような動きを取る。視界の左右の人影はわかるが、どちらがさくらか分からない。
「くそッ! ギムレットめ…」
スコープを覗く昴の表情が歪む。汗が一筋こめかみからアゴに向かって流れ、それが地面に落ちた。
「さくら! どっちだ! 教えてくれ!!」
昴がイヤホンのマイクに向かって叫ぶ。さくらは昴の声を聞き、朦朧としながらも昴に自分の位置を伝える方法を考えた。
『す、昴さん…私は…ここ…よ…』
そしていつもポケットに入っている、あのキーホルダーをとり出した。
ちりり~ん……ちりり~ん……
それを聞いた昴はハッとし、周りを一瞬見回した。右耳に差し込まれたイヤホンを外し、目を閉じて音に集中する。
「さくら……」
鳴り響くキーホルダーの音がキーンと右耳にだけ残った。次の瞬間、カッと目を見開いた昴はライフルの銃口を左に向けた。
ターン!!
銃声が一発響いた。
直後、埠頭の非常用の電灯に明かりが灯る。あたりが少しだけ明るくなった。車から脱出した安室が、電気系統を非常用に切り替えていたのだ。管理棟から出てきた安室が目にしたのは、その場に崩れ落ちるように倒れた、ギムレットの姿だった。
ギムレットの額には穴が開き、血が流れていた。しかし昴はショットガンに持ち替え、さくらたちの方へ向かって走り出した。
「もう死んでますよ」
安室は死体に近づこうとした。
『ダメ!! 近づいてはダメ!!』
さくらははぁはぁと肩で息をしながら、首を振り懸命に安室に訴える。さくらの必死の様子を見て、安室は半信半疑でギムレットから距離を置き、その体を凝視した。
「ッ! な、なに?」
頭をライフルで撃ちぬかれたにも関わらず、僅かに動いた指先。その光景を見て安室が声を上げた。やがて死んだと思ったその男は再び立ち上がったのだ。安室は自分の目を疑う。
額から血を流したギムレットはふらりと立ち上がると、さくらの方へ向かってヨロヨロと歩き出す。そしてうわ言のように呟いた。
「ラスティー……お前のアンバーの瞳は俺のもの……愛しい愛しい……カ…ナ……」
『カ…ナ…?』
さくらがその名に反応する。彼の目に涙が溜まっていたことを見逃さなかった。だが、そのまま目をカッと見開いたギムレットは、再び狂気の顔を向けると持っていた銃を構え、さくらを狙った。
「さくらさん!! 危ない!!」
安室が叫び、駆け寄ろうとするが二人まで距離があり間に合わない。さくらにはもう避ける余力は残っていなかった。
「そこまでだ。亡霊は地獄で仲間を待つんだな」
ショットガンをもった昴が姿を現す。
カチャ! ドゴーン!!
躊躇なくショットガンでギムレットの頭を打ち抜いた。頭が完全に吹き飛んだ男はバタリと倒れ、そして二度と動かなかった。
凄惨な死の一部始終を、さくらに見せることになってしまった。昴の顔が曇る。
さくらは脇を押さえてその場に座り込んだ。肩で息をして、ギムレットの死体を見つめている。昴はさくらから死体を隠すように近づき、膝を付いて声をかけた。
「さくら…大丈夫か?」
「ゴホッ…ゴホッ…ゴフッ!」
ボタボタッ!
力なく咳をした途端、吐血した。
「お、おい! さくらッ!!!」
さくらは額を昴の肩に押し付けると、そのまま意識を手放した。
***
ギムレットの異常行動はラボを混乱させていた。
襲われた医療スタッフも死者こそ出なかったが、重傷者が多数出ていた。また、人ひとりがたいした道具もなく、建物の壁を大破させたことに組織の者たちも驚きを隠せないようだ。
事態の沈静化に上層部は躍起になっており、ギムレットの始末はバーボンとラスティーのコンビで行ったということで処理された。
ラスティーは今回のことでさらに体調を崩し、元の診療所へ送り届けたとバーボンから連絡が入る。ジンもベルモットもギムレットの異常性を以前から危惧していたので、あっさりと納得した。