第8章 ~新たな決意を胸に~
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前回の受診から幾日か経ち——
認知行動療法を重ねるうちに、わずかではあるが、りおに回復の兆しが見え始めた。
毎日起きていた発作の回数も減り、まったく発作を起こさない日も目に見えて増えてきている。
「おや、もう起きたのですか?」
今日も治療を終えて工藤邸に帰り着いた後、自室で寝ていたりおがリビングに顔を出した。
「うん。まだちょっとだるいけど大丈夫。それよりも、なんだかお腹すいちゃって……」
帰宅から一時間ほど眠ったりおは、お腹をさすりながら微笑んだ。
「そういえばそろそろお昼ですね。夕べのカレーで良いですか?」
「うん! 昴さんのカレー! やったぁ!」
読んでいた本を置いた昴と共に、りおはダイニングへと向かった。
「二日目のカレーって美味しいよね」
温めたカレーを食べ始めたりおは、もぐもぐと咀嚼しながらつぶやいた。
「そうですね。具材のうまみが溶けてコクが増すのでしょうね」
このカレーはけっこう自信作です、と昴は笑顔を向ける。
「ふふふ、すごく美味しいよ。そういえば元太君、昴さんの作ったカレーのファンなんだって」
今まで食べた中で1、2を争うくらい美味いんだぜ! と力説していた元太の姿を思い出す。
「そう言っていただけると作りがいがありますね」
「彼の食べっぷりを見ても、作りがいを感じるけどね」
「たしかに」
満面の笑みを浮かべて美味しそうに食べる姿は作った者を幸せにする。
そんな元太の姿を想像して二人は笑った。
「治療の後に、こうやって食事が取れるようになってきましたね。良い変化ですよ」
スプーンを置き、昴は嬉しそうに声をかけた。
「そうね。最初の頃なんて食事どころか、ベッドから起きることも出来なかったわ。今は前と比べて少しだけ心が軽いの」
そう言って笑うりおは、美味しそうにカレーを頬張る。
「自分自身も変化を感じているなら良かった。
でも油断は禁物ですよ。発作が完全になくなったわけではありませんからね」
「うん、分かってる。いつもありがとうね、昴さん」
血色の良い笑顔を見れば回復しているのは明らか。だが、昴の心配は尽きない。
(まだ安心はできない。何かあればすぐに状況は悪くなる。もう少し……もう少し回復してくれれば……)
昴は祈るような気持ちで、りおを見つめていた。
その日の夜遅く——
りおの元にジンからメールが届く。飾り気のない単刀直入な文章の中に、彼の強い意志が窺 える。いよいよオドゥムと決着をつける気でいるようだ。
その手始めとして、オドゥムの実行部隊の責任者とアジトを割り出せと指示された。
ジン自身も組織の末端や情報屋を使って追っていたようだが、実行部隊の動きを捉えるどころか全ての手駒が死、もしくは行方不明になっているという。
相手は厳しい訓練を積んだオドゥムの工作員。一介の情報屋程度では誰も太刀打ちできなかったようだ。
「ジンからの任務か……。PCを使っての情報集めだけなら、リハビリにはちょうど良いかな…」
りおは久しぶりにPCを立ち上げると、画面に向き合う。
「メールによると、オドゥムは通信妨害をしているようね。アロンもかなり苦戦しているみたいだし、直接的に探りを入れるのは無理か……それなら今回はラスティーとしての情報網を使うより、警視庁をハッキングしてカメラとアプリを使った方が確実かな。さて、どこを突破口にしよう……」
りおは口元に手を当てて「うーん…」と唸った。
「彼らが自ら姿を見せたのはあの時だけ——。そこから探るのが一番早いかな。まあ多少骨は折れるけど、単純な方法の方が足がつかないわね」
右手でマウスを優しく握る。カーソルを合わせてカチカチッとダブルクリックした。
ウィンドウを開き、カタカタとキーを叩く。
画面には都内の監視カメラの画像がいくつも映し出された。その中からある画像をクリックし、画面に大きく表示させる。
日付はカフェの爆破があった日。カメラの画像は荒く、画面奥から手前へと歩いてくる人の動きはカクカクとぎこちない。
その歩行者が画面からフェードアウトした数秒後——。
爆風でカフェのガラスが吹き飛び、中から煙が吹き出す様子が捉えられていた。
「けっこうな威力があったのね……」
映像を見たりおが小さく息をつく。気を取り直してマウスを操作した。
事件が起こった時刻から少しずつ時間を戻し、実行犯がホテルに到着した時間とその時に乗っていた車を探した。
「あ、これだわ。アロンの車のすぐ後ろ……つまり、アロンを尾行して現場に来たのね。ってことは彼の車を知ってたってこと? いったいどうやって……」
りおは一時停止された画像を見て考え込んだ。
「あの車はアロンと大学で会った時に『今日手に入れた』って言ってたわ。しかも私と会う約束を取り付けるために用意したって。
あの時の彼の容姿でアロン本人だと気付くのは難しい。都内で乗り回しても、車の持ち主を特定するのは困難……とすれば……まさかッ! 大学で私と接触したところを誰かに見られていたってこと⁉︎」
りおはゾクリと身を震わせた。仕事柄、常に周りの気配には気を配っている。監視の目や尾行には敏感な方だ。オドゥムの工作員は特殊な訓練を積んでいるとはいえ、その気配を感じ取れなかったことに恐怖を感じた。
「と、とにかく今はアジトの場所を探さないと……」
りおは気持ちを切り替え、再び画面に向き直った。
静止画面を解析して車種とナンバーが分かると都内全域に範囲を広げ、Nシステムを使ってその車がどこから来たのかを追跡を開始した。
しばらくは順調にNシステムを通過した車が映し出される。しかし途中から、どのシステムもその姿を捉えなくなった。
「車が姿を消した地域は商業ビルが立ち並ぶ繁華街。アジトに出来る様な廃屋もないし、人通りも多い。ここにアジトを構えるにはかなり無理がある。おそらく、どこかで車を変えたか……」
りおは別ウインドウでマップを広げ、周辺を確認した。
「カフェに来た時に使っていたのはワンボックスカー。それなりに大きさがあるから、乗り換えるなら少し広い場所。しかも車が二台停まっても怪しまれないような……」
マップを拡大し、最後に通過したNシステムを起点に、東西南北くまなくチェックした。
「ん? ここ……大通りから少し入ったところにスーパーがある。しかも駐車場……けっこう広いわね」
他にもいくつか車が停められそうな場所をチェックし、一つ一つ周辺の建物などに設置された防犯カメラの映像を、ハッキングを駆使して確認した。
「ビンゴ! 見つけたわ。やっぱりこのスーパーの駐車場で乗り換えたのね。工作員の顔までバッチリ映ってる! じゃあ、今度はこの車の車種とナンバーを追跡すれば——」
再びNシステムを使って、今度は乗り換え前の車(ミニバン)を追った。
しかし、彼らもそう簡単にアジトを割らせるつもりはないらしい。
りおはが車の追跡を開始して、かれこれ二時間近く経つが未だアジトにたどり着けない。
「ふぅ……また住宅街へ入ったか」
りおは肩に手を当て、首を回した。
工作員たちは巧みに幹線道路を避け、さらにもう一度車を変えるなど、尾行や後々の追跡の目をくらまそうと、あの手この手を使ってかく乱する。
しかしラスティーが持つネットワークは東都全体を包囲しており、その程度で見失ったりはしない。
再び周辺の小さな防犯カメラに至るまで、細かく画像のチェックをすれば、その姿はすぐに見つけられた。
やがて——
車はある場所で停止し、実行犯たちが車から姿を現した。
前回の受診から幾日か経ち——
認知行動療法を重ねるうちに、わずかではあるが、りおに回復の兆しが見え始めた。
毎日起きていた発作の回数も減り、まったく発作を起こさない日も目に見えて増えてきている。
「おや、もう起きたのですか?」
今日も治療を終えて工藤邸に帰り着いた後、自室で寝ていたりおがリビングに顔を出した。
「うん。まだちょっとだるいけど大丈夫。それよりも、なんだかお腹すいちゃって……」
帰宅から一時間ほど眠ったりおは、お腹をさすりながら微笑んだ。
「そういえばそろそろお昼ですね。夕べのカレーで良いですか?」
「うん! 昴さんのカレー! やったぁ!」
読んでいた本を置いた昴と共に、りおはダイニングへと向かった。
「二日目のカレーって美味しいよね」
温めたカレーを食べ始めたりおは、もぐもぐと咀嚼しながらつぶやいた。
「そうですね。具材のうまみが溶けてコクが増すのでしょうね」
このカレーはけっこう自信作です、と昴は笑顔を向ける。
「ふふふ、すごく美味しいよ。そういえば元太君、昴さんの作ったカレーのファンなんだって」
今まで食べた中で1、2を争うくらい美味いんだぜ! と力説していた元太の姿を思い出す。
「そう言っていただけると作りがいがありますね」
「彼の食べっぷりを見ても、作りがいを感じるけどね」
「たしかに」
満面の笑みを浮かべて美味しそうに食べる姿は作った者を幸せにする。
そんな元太の姿を想像して二人は笑った。
「治療の後に、こうやって食事が取れるようになってきましたね。良い変化ですよ」
スプーンを置き、昴は嬉しそうに声をかけた。
「そうね。最初の頃なんて食事どころか、ベッドから起きることも出来なかったわ。今は前と比べて少しだけ心が軽いの」
そう言って笑うりおは、美味しそうにカレーを頬張る。
「自分自身も変化を感じているなら良かった。
でも油断は禁物ですよ。発作が完全になくなったわけではありませんからね」
「うん、分かってる。いつもありがとうね、昴さん」
血色の良い笑顔を見れば回復しているのは明らか。だが、昴の心配は尽きない。
(まだ安心はできない。何かあればすぐに状況は悪くなる。もう少し……もう少し回復してくれれば……)
昴は祈るような気持ちで、りおを見つめていた。
その日の夜遅く——
りおの元にジンからメールが届く。飾り気のない単刀直入な文章の中に、彼の強い意志が
その手始めとして、オドゥムの実行部隊の責任者とアジトを割り出せと指示された。
ジン自身も組織の末端や情報屋を使って追っていたようだが、実行部隊の動きを捉えるどころか全ての手駒が死、もしくは行方不明になっているという。
相手は厳しい訓練を積んだオドゥムの工作員。一介の情報屋程度では誰も太刀打ちできなかったようだ。
「ジンからの任務か……。PCを使っての情報集めだけなら、リハビリにはちょうど良いかな…」
りおは久しぶりにPCを立ち上げると、画面に向き合う。
「メールによると、オドゥムは通信妨害をしているようね。アロンもかなり苦戦しているみたいだし、直接的に探りを入れるのは無理か……それなら今回はラスティーとしての情報網を使うより、警視庁をハッキングしてカメラとアプリを使った方が確実かな。さて、どこを突破口にしよう……」
りおは口元に手を当てて「うーん…」と唸った。
「彼らが自ら姿を見せたのはあの時だけ——。そこから探るのが一番早いかな。まあ多少骨は折れるけど、単純な方法の方が足がつかないわね」
右手でマウスを優しく握る。カーソルを合わせてカチカチッとダブルクリックした。
ウィンドウを開き、カタカタとキーを叩く。
画面には都内の監視カメラの画像がいくつも映し出された。その中からある画像をクリックし、画面に大きく表示させる。
日付はカフェの爆破があった日。カメラの画像は荒く、画面奥から手前へと歩いてくる人の動きはカクカクとぎこちない。
その歩行者が画面からフェードアウトした数秒後——。
爆風でカフェのガラスが吹き飛び、中から煙が吹き出す様子が捉えられていた。
「けっこうな威力があったのね……」
映像を見たりおが小さく息をつく。気を取り直してマウスを操作した。
事件が起こった時刻から少しずつ時間を戻し、実行犯がホテルに到着した時間とその時に乗っていた車を探した。
「あ、これだわ。アロンの車のすぐ後ろ……つまり、アロンを尾行して現場に来たのね。ってことは彼の車を知ってたってこと? いったいどうやって……」
りおは一時停止された画像を見て考え込んだ。
「あの車はアロンと大学で会った時に『今日手に入れた』って言ってたわ。しかも私と会う約束を取り付けるために用意したって。
あの時の彼の容姿でアロン本人だと気付くのは難しい。都内で乗り回しても、車の持ち主を特定するのは困難……とすれば……まさかッ! 大学で私と接触したところを誰かに見られていたってこと⁉︎」
りおはゾクリと身を震わせた。仕事柄、常に周りの気配には気を配っている。監視の目や尾行には敏感な方だ。オドゥムの工作員は特殊な訓練を積んでいるとはいえ、その気配を感じ取れなかったことに恐怖を感じた。
「と、とにかく今はアジトの場所を探さないと……」
りおは気持ちを切り替え、再び画面に向き直った。
静止画面を解析して車種とナンバーが分かると都内全域に範囲を広げ、Nシステムを使ってその車がどこから来たのかを追跡を開始した。
しばらくは順調にNシステムを通過した車が映し出される。しかし途中から、どのシステムもその姿を捉えなくなった。
「車が姿を消した地域は商業ビルが立ち並ぶ繁華街。アジトに出来る様な廃屋もないし、人通りも多い。ここにアジトを構えるにはかなり無理がある。おそらく、どこかで車を変えたか……」
りおは別ウインドウでマップを広げ、周辺を確認した。
「カフェに来た時に使っていたのはワンボックスカー。それなりに大きさがあるから、乗り換えるなら少し広い場所。しかも車が二台停まっても怪しまれないような……」
マップを拡大し、最後に通過したNシステムを起点に、東西南北くまなくチェックした。
「ん? ここ……大通りから少し入ったところにスーパーがある。しかも駐車場……けっこう広いわね」
他にもいくつか車が停められそうな場所をチェックし、一つ一つ周辺の建物などに設置された防犯カメラの映像を、ハッキングを駆使して確認した。
「ビンゴ! 見つけたわ。やっぱりこのスーパーの駐車場で乗り換えたのね。工作員の顔までバッチリ映ってる! じゃあ、今度はこの車の車種とナンバーを追跡すれば——」
再びNシステムを使って、今度は乗り換え前の車(ミニバン)を追った。
しかし、彼らもそう簡単にアジトを割らせるつもりはないらしい。
りおはが車の追跡を開始して、かれこれ二時間近く経つが未だアジトにたどり着けない。
「ふぅ……また住宅街へ入ったか」
りおは肩に手を当て、首を回した。
工作員たちは巧みに幹線道路を避け、さらにもう一度車を変えるなど、尾行や後々の追跡の目をくらまそうと、あの手この手を使ってかく乱する。
しかしラスティーが持つネットワークは東都全体を包囲しており、その程度で見失ったりはしない。
再び周辺の小さな防犯カメラに至るまで、細かく画像のチェックをすれば、その姿はすぐに見つけられた。
やがて——
車はある場所で停止し、実行犯たちが車から姿を現した。