第7章 ~記憶の扉が開くとき~
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「そうだ、実は僕もあなたに報告があったんです」
冷めてしまった紅茶を口にした安室は、何かを思い出したようにパッと顔を上げた。
「情報屋のルークから『アロン・モーリス』と『ダリル・ホリンズ』が同一人物だと報告が来ました。そして彼がカーディナルの会社の後継者で、《ホール》という言葉を口にしたことも」
安室の話を聞いて、昴は「ああ」と言った。
「さくらがアロンと接触した際に、その真偽を確かめたんだ。
カーディナルから爆破の手解きは受けていないが、別の事を教わったと。それが《ホール》を開ける事だとな」
昴の説明を聞いて安室がなるほど、と数回うなずいた。
「カーディナルの会社はIT企業です。そこで学んだとすれば、《ホール》とはセキュリティーホールのことでしょうか?
プログラムの不具合や設計上のミスで偶然開いたものではなく、外からこじ開ける…という意味なのかもしれません」
安室の見解に昴もうなずいた。それを見て安室はさらに続ける。
「今、公安でも早急に調べています。
先日起ったアメリカのサイバー攻撃、今回の報告を受けてFBIが追っているようですので、いずれ情報のすり合わせをする予定でいます。
何か分かれば、あなたにも報告しますから」
「わかった」
二人のやり取りを、コナンはグッと眉根を寄せて聞き入っていた。
(組織の奴ら、いったい何を企んでいる?
なんか知らねーけど…なんなんだ…この妙な胸騒ぎは……)
得体のしれない不安を感じ、コナンは思わず自分の胸元をギュッと握る。
コナンの不安を察したのか、安室が「コナンくん」と声をかけた。
「え?」
コナンが顔を上げる。
「大丈夫だよ。僕たちがついている。君が不安になることはない」
安室が笑顔を向ける。
「彼の言う通りだよ」
昴もそう言うと、コナンに近づき膝をついた。
「君や君の仲間や家族は俺たちが必ず守る。だから心配するな」
いつの間にかチョーカーの電源を切り、赤井の声で言った。
「うん」
頼もしい大人二人の言葉は、不安に押しつぶされそうだったコナンの心を優しく包み込んだ。
***
その日の夜———
ブーッ…ブーッ…ブーッ…
「俺だ。何の用だ、バーボン」
アロンと密談をしていたジンは電話に出ると、近くにあったソファーに深く座った。
「……何? ラスティーが? ……それで?」
「?」
ラスティーの名を聞いて、アロンが顔を上げる。
「そうか…分かった。仕方あるまい。まあ、今のところラスティーの出番は無いからちょうどいい。ラスティーへの連絡係はバーボン、お前がやれ。……ああ。ちゃんと休ませてやらねーとベルモットやラムがうるせぇからな。あとはお前に任せた」
じゃあな、といってジンは電話を切る。灰皿に置きっぱなしだったタバコの灰を落とし、再びジンが口にくわえた。
「ラスティーがどうしたって?」
アロンは心配そうにジンに訊ねた。
「体調が良くないそうだ。しばらく一線を引きたいとバーボンを通して連絡があった」
「そんなにケガ、酷いのか?」
自分を庇ったためにラスティーはケガをした。もしそれが原因だとしたら——。
アロンは責任を感じ、険しい顔でジンを見る。
「心配するな。ケガはそんなに酷くない。心の問題だろう。アイツは以前たくさんの仲間を目の前で亡くしてな。それ以来心の不具合が多い。
本来そんなヤツは組織に必要ねぇんだが、ラスティーはそれを差し引いても高いスキルを持っている。だから『あの方』もラムも俺も、多少の事は目を瞑っているんだ」
ジンはタバコの煙を吐き出しながら、アロンに説明した。
「おそらく、今回は耳のケガと精神的なダメージ、といったところか。発作的に痛みが起こって動けなくなる、とバーボンから報告があったから、おそらくPTSDの症状だろう。
カフェの爆発では目の前で工作員が死んだし、周りにいた客も被害を受けている。ヤツにとっちゃ、かなりの負荷だったんだろう」
言葉の合間にタバコを咥え、煙を吸い込む。フ〜ッと大きく吐き出すと薄暗い部屋に白い煙が充満し、やがて消えた。
「まあ、そっちは以前もバーボンの知り合いに診てもらっていたから、今回もヤツが世話を焼くんだろう。心配ない」
吸い終わったタバコを灰皿に押し付け、ジンは立ち上がる。それをアロンは視線だけで追った。
「……そうか」
ケガのせいじゃないと聞いて、アロンはわずかに安堵した。
しかし自分のミスであることに変わりない。彼女への好奇心から二人で会おうなどと考えた為に、相手に襲撃のチャンスを与えてしまったのだ。
アロンは改めてオドゥムに対する警戒感を強めた。
「まあ、起きたことは仕方ねぇ。俺は面倒な事はさっさと忘れるタチでな。
それよりも……実行部隊をぶっ潰す作戦をじっくり練ろうじゃないか。奴らに落とし前をつけてもらわねぇとな」
「ああ」
ジンの言葉にアロンはうなずくと、二人は互いの顔を見合わせニヤリと笑った。
一方、オドゥムの実行部隊長であるスンホも、着々と組織の喉元を狙う作戦を立てていた。
「ベルモットの周辺を洗え。米花町周辺での目撃情報が斥候から上がっている。そこに何かあるはずだ」
「御意」
スンホの命令を受けた工作員はすぐさま部屋を出て行った。それを見届けると、スンホはイスを鳴らして立ち上がる。
「ジンは執念深い男だ。間違いなく報復を企んでいるはず……。今頃ここ(アジト)の所在を躍起になって探しているだろう」
スンホは最高指導者の写真を見上げ、口角を上げる。
「お前たちの手の内はデジタルアタックマップで全てお見通しだ。そう簡単にアジトにはたどり着けまい。
お前たちがアジトに固執している間に、お前たちの企み、必ず暴いてやるぞ」
どちらが先に相手を出し抜くか——。プライドと命の駆け引きが今まさに幕を開ける。そしてそれは、スンホにとって最後のチャンス。決して失敗は許されない。
二つの組織がぶつかり合う日が刻々と近づいていた。
さらに、組織の【ビジネス】もジンの画策により、水面下で動いていた。ラムの知らないところで、ごく一部の幹部を中心にその準備が進んでいる。
幾つもの糸が複雑に絡み合う中、事態は確実に悪い方へと進んでいた。
それはやがて——心の傷を深くしたりおと赤井に、牙を向けることになる——。
==第7章完==
冷めてしまった紅茶を口にした安室は、何かを思い出したようにパッと顔を上げた。
「情報屋のルークから『アロン・モーリス』と『ダリル・ホリンズ』が同一人物だと報告が来ました。そして彼がカーディナルの会社の後継者で、《ホール》という言葉を口にしたことも」
安室の話を聞いて、昴は「ああ」と言った。
「さくらがアロンと接触した際に、その真偽を確かめたんだ。
カーディナルから爆破の手解きは受けていないが、別の事を教わったと。それが《ホール》を開ける事だとな」
昴の説明を聞いて安室がなるほど、と数回うなずいた。
「カーディナルの会社はIT企業です。そこで学んだとすれば、《ホール》とはセキュリティーホールのことでしょうか?
プログラムの不具合や設計上のミスで偶然開いたものではなく、外からこじ開ける…という意味なのかもしれません」
安室の見解に昴もうなずいた。それを見て安室はさらに続ける。
「今、公安でも早急に調べています。
先日起ったアメリカのサイバー攻撃、今回の報告を受けてFBIが追っているようですので、いずれ情報のすり合わせをする予定でいます。
何か分かれば、あなたにも報告しますから」
「わかった」
二人のやり取りを、コナンはグッと眉根を寄せて聞き入っていた。
(組織の奴ら、いったい何を企んでいる?
なんか知らねーけど…なんなんだ…この妙な胸騒ぎは……)
得体のしれない不安を感じ、コナンは思わず自分の胸元をギュッと握る。
コナンの不安を察したのか、安室が「コナンくん」と声をかけた。
「え?」
コナンが顔を上げる。
「大丈夫だよ。僕たちがついている。君が不安になることはない」
安室が笑顔を向ける。
「彼の言う通りだよ」
昴もそう言うと、コナンに近づき膝をついた。
「君や君の仲間や家族は俺たちが必ず守る。だから心配するな」
いつの間にかチョーカーの電源を切り、赤井の声で言った。
「うん」
頼もしい大人二人の言葉は、不安に押しつぶされそうだったコナンの心を優しく包み込んだ。
***
その日の夜———
ブーッ…ブーッ…ブーッ…
「俺だ。何の用だ、バーボン」
アロンと密談をしていたジンは電話に出ると、近くにあったソファーに深く座った。
「……何? ラスティーが? ……それで?」
「?」
ラスティーの名を聞いて、アロンが顔を上げる。
「そうか…分かった。仕方あるまい。まあ、今のところラスティーの出番は無いからちょうどいい。ラスティーへの連絡係はバーボン、お前がやれ。……ああ。ちゃんと休ませてやらねーとベルモットやラムがうるせぇからな。あとはお前に任せた」
じゃあな、といってジンは電話を切る。灰皿に置きっぱなしだったタバコの灰を落とし、再びジンが口にくわえた。
「ラスティーがどうしたって?」
アロンは心配そうにジンに訊ねた。
「体調が良くないそうだ。しばらく一線を引きたいとバーボンを通して連絡があった」
「そんなにケガ、酷いのか?」
自分を庇ったためにラスティーはケガをした。もしそれが原因だとしたら——。
アロンは責任を感じ、険しい顔でジンを見る。
「心配するな。ケガはそんなに酷くない。心の問題だろう。アイツは以前たくさんの仲間を目の前で亡くしてな。それ以来心の不具合が多い。
本来そんなヤツは組織に必要ねぇんだが、ラスティーはそれを差し引いても高いスキルを持っている。だから『あの方』もラムも俺も、多少の事は目を瞑っているんだ」
ジンはタバコの煙を吐き出しながら、アロンに説明した。
「おそらく、今回は耳のケガと精神的なダメージ、といったところか。発作的に痛みが起こって動けなくなる、とバーボンから報告があったから、おそらくPTSDの症状だろう。
カフェの爆発では目の前で工作員が死んだし、周りにいた客も被害を受けている。ヤツにとっちゃ、かなりの負荷だったんだろう」
言葉の合間にタバコを咥え、煙を吸い込む。フ〜ッと大きく吐き出すと薄暗い部屋に白い煙が充満し、やがて消えた。
「まあ、そっちは以前もバーボンの知り合いに診てもらっていたから、今回もヤツが世話を焼くんだろう。心配ない」
吸い終わったタバコを灰皿に押し付け、ジンは立ち上がる。それをアロンは視線だけで追った。
「……そうか」
ケガのせいじゃないと聞いて、アロンはわずかに安堵した。
しかし自分のミスであることに変わりない。彼女への好奇心から二人で会おうなどと考えた為に、相手に襲撃のチャンスを与えてしまったのだ。
アロンは改めてオドゥムに対する警戒感を強めた。
「まあ、起きたことは仕方ねぇ。俺は面倒な事はさっさと忘れるタチでな。
それよりも……実行部隊をぶっ潰す作戦をじっくり練ろうじゃないか。奴らに落とし前をつけてもらわねぇとな」
「ああ」
ジンの言葉にアロンはうなずくと、二人は互いの顔を見合わせニヤリと笑った。
一方、オドゥムの実行部隊長であるスンホも、着々と組織の喉元を狙う作戦を立てていた。
「ベルモットの周辺を洗え。米花町周辺での目撃情報が斥候から上がっている。そこに何かあるはずだ」
「御意」
スンホの命令を受けた工作員はすぐさま部屋を出て行った。それを見届けると、スンホはイスを鳴らして立ち上がる。
「ジンは執念深い男だ。間違いなく報復を企んでいるはず……。今頃ここ(アジト)の所在を躍起になって探しているだろう」
スンホは最高指導者の写真を見上げ、口角を上げる。
「お前たちの手の内はデジタルアタックマップで全てお見通しだ。そう簡単にアジトにはたどり着けまい。
お前たちがアジトに固執している間に、お前たちの企み、必ず暴いてやるぞ」
どちらが先に相手を出し抜くか——。プライドと命の駆け引きが今まさに幕を開ける。そしてそれは、スンホにとって最後のチャンス。決して失敗は許されない。
二つの組織がぶつかり合う日が刻々と近づいていた。
さらに、組織の【ビジネス】もジンの画策により、水面下で動いていた。ラムの知らないところで、ごく一部の幹部を中心にその準備が進んでいる。
幾つもの糸が複雑に絡み合う中、事態は確実に悪い方へと進んでいた。
それはやがて——心の傷を深くしたりおと赤井に、牙を向けることになる——。
==第7章完==