第7章 ~記憶の扉が開くとき~
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***
同じ頃、とあるホテルの一室——
アロンは部屋の小さなデスクにノートパソコンを広げ、カタカタとキーボードを叩いていた。
「ow!(痛ッ!)」
ズキリと太ももに走った痛みに、思わず顔を歪めた。
ラスティーのおかげで爆発によるケガは軽傷ですんだ。が、投げナイフによる刺し傷は未だに痛みが残る。
それでも適切な応急処置が施されていたため、爆発の騒ぎで重傷化することは免れた。出血も驚くほど少なかった、と後になって担当したナースから聞いた。
「ラスティー……君のおかげだよ」
アロンは痛む太ももをさすりながら、爆発の瞬間を思い出す。必死に自分を守ろうとしたラスティーの姿が脳裏から離れない。
「まったく……組織の人間らしくないなぁ」
太ももをさする手を止め、アロンはため息をついた。その場にいた全員を守ろうとしていたラスティー。この組織に似つかわしくない女だ、と思う。
「ま、そんなミステリアスなところに先代は惹かれたのかもね」
組織の爆破担当だったにもかかわらず、路頭に迷っていた自分を助けてくれたカーディナル。そんな彼の行動もまた、組織の人間らしくは無いのだが。
(根っからの悪人になれる人間というのは、そう多くは無いのかもな)
恩人でもある彼の笑顔を思い出し、アロンは表情を緩めた。ふと、パソコンの横に置かれたスマホに目が行く。
そのスマホにメールが届いたのは今朝。安否を心配していたラスティーからだった。鼓膜が破れたと聞いてはいたが、他にもダメージがあるらしく検査入院中だという。
見舞いに行くと返信したが『寝たり起きたりでひどい顔をしている上、検査ばかりで病室にいる時間がほとんどない』とやんわり断られた。
(ラスティーのケガ、そんなに酷いのかな。俺のせいで、取り返しのつかないことになったら……)
アロンはマウスを弄びながら、再び「ふぅ…」とため息をついた。
トントン
「ああ、来たかな」
来客を知らせるドアのノックに、アロンはそれまでのネガティブな思考を止めて席を立つ。
ドアスコープを覗いて、それが【待ち人】だったことを確認すると、ロックを外して中へと招き入れた。
「時間通りですね。さあどうぞ。あなたからご依頼があった物は用意出来ています」
アロンはにこやかに声をかけた。二人は窓際にある応接セットへと向かう。窓のブラインドは下ろされ、ネオンで光り輝く街は一切見えない。
「先日お渡しした分の続きがこちらです。また何か必要なものがあればいつでもおっしゃってください。ベルモット経由でも構いませんし、今回のように私に直接でも構いません」
アロンはジャケットの内ポケットからUSBメモリを取り出すとテーブルに置いた。男はそのUSBメモリをすぐさま手に取る。
礼を言って上着のポケットへとすぐに仕舞い込んだ。同時に、持参していた大きな封筒をアロンに手渡す。
「それは……例の名簿ですね」
アロンは笑顔で封筒を受け取る。中からクリップで止められた書類の束を引き出し、ザッと目を通した。
「日本だけでなく、海外にも……。あなたが推薦する方は優秀な方ばかりですね。分かりました。後ほど確認して、出来るだけご期待に沿えるようにしましょう」
アロンは笑顔で答えると、再び書類を封筒の中に仕舞った。
「あ、そうそう。今日はあなたの好きな甘いものもあるんですよ。今後のこともお聞きしたいですし……ご一緒にどうですか?」
アロンがサイドテーブルに置かれた高級菓子を見せる。男はアロンに視線を向けるとニッコリと微笑んだ。
男が帰った後しばらくして、ベルモットがアロンの部屋に手土産を持ってやってきた。
「USBメモリの受け渡しだけなら、私がやるのに」
部屋に入ってすぐ、ベルモットはため息交じりに言った。
「フフフ。大事な情報だからね。自分で取りに来たかったみたいだよ。あと彼が推薦する人物の名簿も届けてくれたよ」
アロンはソファーに座ったまま、先ほどの封筒をひらひらと振ってみせた。
「ああ、例のヘッドハンティングのリストね。新しいビジネスを成功させるには、今後たくさんの研究者が必要らしいから」
封筒をチラリと目視したベルモットは、顔にかかった長い髪をグイッとかき上げた。
「出来るだけ【彼】の希望に沿うようにヘッドハンティングしろ、ってジンが言っているわ。そちらは私とウォッカがメインで動くことになってる。
それよりも、オドゥムの奴らは今でもあなたを探しているかもしれないのよ。奴らは神出鬼没。どこで見ているか分からない。あなたもむやみに外部の人間とコンタクトを取らない方が良いと思うけど。またケガを増やしたいの?」
アロンの太ももに視線を移し、ベルモットは少し強い言葉で牽制した。
「ああ、分かってる。あの時ラスティーがいなかったら、俺は間違いなく奴らに拉致されていた。組織の計画を白状するまで痛めつけられて、最後は殺されていただろう……。今後は慎むよ」
封筒をデスクに置き、残ったコーヒーを一気に喉へ流し込んだアロンは小さく息をつく。
「ラスティーは……今頃どうしてるかな」
「あら、アロン。もしかしてラスティーに惚れちゃったのかしら?」
ベルモットはからかうように声をかけた。
「いや……命の恩人だからさ。ケガも酷いって聞いたし。俺のせいで悪いことしたなって」
神妙な顔をするアロンを見て、ベルモットはふ~ん…と返事をした。
「さ、落ち込んでる場合じゃ無いわ。あの子のことは彼氏クンが面倒見ているだろうし、心配は無用よ。
それよりジンがオドゥムの実行部隊を潰すとか言い出してるの。ラムは組織の計画の一時停止を宣言したけど、ジンには何か考えがあるみたい。ラスティー不在でこちらに回ってくる仕事も多いのよね。あなたに手伝ってもらいたいの」
ベルモットの目は鋭くアロンを捉えた。
「OK。それは承知している。彼女のケガは俺のせいでもあるから、その分は働かせてもらうよ。で、まずは何をすればいい?」
気持ちを切り替え、アロンはベルモットを見上げる。ベルモットはフッと笑って、彼に近づいた。
テーブルの上には先ほどの封筒が置かれてる。
『東都大学』と印刷されたそれに、アロンに耳打ちするベルモットの影が怪しく揺れた。
同じ頃、とあるホテルの一室——
アロンは部屋の小さなデスクにノートパソコンを広げ、カタカタとキーボードを叩いていた。
「ow!(痛ッ!)」
ズキリと太ももに走った痛みに、思わず顔を歪めた。
ラスティーのおかげで爆発によるケガは軽傷ですんだ。が、投げナイフによる刺し傷は未だに痛みが残る。
それでも適切な応急処置が施されていたため、爆発の騒ぎで重傷化することは免れた。出血も驚くほど少なかった、と後になって担当したナースから聞いた。
「ラスティー……君のおかげだよ」
アロンは痛む太ももをさすりながら、爆発の瞬間を思い出す。必死に自分を守ろうとしたラスティーの姿が脳裏から離れない。
「まったく……組織の人間らしくないなぁ」
太ももをさする手を止め、アロンはため息をついた。その場にいた全員を守ろうとしていたラスティー。この組織に似つかわしくない女だ、と思う。
「ま、そんなミステリアスなところに先代は惹かれたのかもね」
組織の爆破担当だったにもかかわらず、路頭に迷っていた自分を助けてくれたカーディナル。そんな彼の行動もまた、組織の人間らしくは無いのだが。
(根っからの悪人になれる人間というのは、そう多くは無いのかもな)
恩人でもある彼の笑顔を思い出し、アロンは表情を緩めた。ふと、パソコンの横に置かれたスマホに目が行く。
そのスマホにメールが届いたのは今朝。安否を心配していたラスティーからだった。鼓膜が破れたと聞いてはいたが、他にもダメージがあるらしく検査入院中だという。
見舞いに行くと返信したが『寝たり起きたりでひどい顔をしている上、検査ばかりで病室にいる時間がほとんどない』とやんわり断られた。
(ラスティーのケガ、そんなに酷いのかな。俺のせいで、取り返しのつかないことになったら……)
アロンはマウスを弄びながら、再び「ふぅ…」とため息をついた。
トントン
「ああ、来たかな」
来客を知らせるドアのノックに、アロンはそれまでのネガティブな思考を止めて席を立つ。
ドアスコープを覗いて、それが【待ち人】だったことを確認すると、ロックを外して中へと招き入れた。
「時間通りですね。さあどうぞ。あなたからご依頼があった物は用意出来ています」
アロンはにこやかに声をかけた。二人は窓際にある応接セットへと向かう。窓のブラインドは下ろされ、ネオンで光り輝く街は一切見えない。
「先日お渡しした分の続きがこちらです。また何か必要なものがあればいつでもおっしゃってください。ベルモット経由でも構いませんし、今回のように私に直接でも構いません」
アロンはジャケットの内ポケットからUSBメモリを取り出すとテーブルに置いた。男はそのUSBメモリをすぐさま手に取る。
礼を言って上着のポケットへとすぐに仕舞い込んだ。同時に、持参していた大きな封筒をアロンに手渡す。
「それは……例の名簿ですね」
アロンは笑顔で封筒を受け取る。中からクリップで止められた書類の束を引き出し、ザッと目を通した。
「日本だけでなく、海外にも……。あなたが推薦する方は優秀な方ばかりですね。分かりました。後ほど確認して、出来るだけご期待に沿えるようにしましょう」
アロンは笑顔で答えると、再び書類を封筒の中に仕舞った。
「あ、そうそう。今日はあなたの好きな甘いものもあるんですよ。今後のこともお聞きしたいですし……ご一緒にどうですか?」
アロンがサイドテーブルに置かれた高級菓子を見せる。男はアロンに視線を向けるとニッコリと微笑んだ。
男が帰った後しばらくして、ベルモットがアロンの部屋に手土産を持ってやってきた。
「USBメモリの受け渡しだけなら、私がやるのに」
部屋に入ってすぐ、ベルモットはため息交じりに言った。
「フフフ。大事な情報だからね。自分で取りに来たかったみたいだよ。あと彼が推薦する人物の名簿も届けてくれたよ」
アロンはソファーに座ったまま、先ほどの封筒をひらひらと振ってみせた。
「ああ、例のヘッドハンティングのリストね。新しいビジネスを成功させるには、今後たくさんの研究者が必要らしいから」
封筒をチラリと目視したベルモットは、顔にかかった長い髪をグイッとかき上げた。
「出来るだけ【彼】の希望に沿うようにヘッドハンティングしろ、ってジンが言っているわ。そちらは私とウォッカがメインで動くことになってる。
それよりも、オドゥムの奴らは今でもあなたを探しているかもしれないのよ。奴らは神出鬼没。どこで見ているか分からない。あなたもむやみに外部の人間とコンタクトを取らない方が良いと思うけど。またケガを増やしたいの?」
アロンの太ももに視線を移し、ベルモットは少し強い言葉で牽制した。
「ああ、分かってる。あの時ラスティーがいなかったら、俺は間違いなく奴らに拉致されていた。組織の計画を白状するまで痛めつけられて、最後は殺されていただろう……。今後は慎むよ」
封筒をデスクに置き、残ったコーヒーを一気に喉へ流し込んだアロンは小さく息をつく。
「ラスティーは……今頃どうしてるかな」
「あら、アロン。もしかしてラスティーに惚れちゃったのかしら?」
ベルモットはからかうように声をかけた。
「いや……命の恩人だからさ。ケガも酷いって聞いたし。俺のせいで悪いことしたなって」
神妙な顔をするアロンを見て、ベルモットはふ~ん…と返事をした。
「さ、落ち込んでる場合じゃ無いわ。あの子のことは彼氏クンが面倒見ているだろうし、心配は無用よ。
それよりジンがオドゥムの実行部隊を潰すとか言い出してるの。ラムは組織の計画の一時停止を宣言したけど、ジンには何か考えがあるみたい。ラスティー不在でこちらに回ってくる仕事も多いのよね。あなたに手伝ってもらいたいの」
ベルモットの目は鋭くアロンを捉えた。
「OK。それは承知している。彼女のケガは俺のせいでもあるから、その分は働かせてもらうよ。で、まずは何をすればいい?」
気持ちを切り替え、アロンはベルモットを見上げる。ベルモットはフッと笑って、彼に近づいた。
テーブルの上には先ほどの封筒が置かれてる。
『東都大学』と印刷されたそれに、アロンに耳打ちするベルモットの影が怪しく揺れた。