第7章 ~記憶の扉が開くとき~
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***
「アロンとラスティーがオドゥムに襲われた!? どういうことなの、ジンッ!」
アジトに居たベルモットはジンから直接報告を受け、声を荒げた。
「落ち着けベルモット。二人とも無事だ。それぞれからケガの状態について連絡も来ている。アロンは投げナイフによる刺し傷が太ももに一つ。爆破によるケガは些細なものらしい。今ウォッカが新しい潜伏場所を用意して、そっちに向かっているそうだ。
ラスティーは爆破の衝撃で右の鼓膜が破れたようだがこっちも軽傷だ。今はバーボンが面倒見ている。連絡もヤツ経由で来た」
「鼓膜が!?」
ケガの状況を聞き、ベルモットの顔がさらに険しくなる。ラスティーほどのスキルの持ち主が爆破の衝撃をモロに受けたというのか。
「おそらくアイツの事だ。とっさにアロンを庇ったんだろう。その為に体の右側が爆心の方へ向いちまったんだろうな」
ジンはフンと鼻を鳴らす。灰皿に持っていたタバコを押し付けた。
「今回の自爆テロで、組織の息がかかったホテルがかなりダメージを受けた。その上、幹部クラスと協力者がケガを負わされた。
おかげでラムから『計画の一時中断』を言い渡された」
忌々しそうにジンは奥歯を噛みしめる。
「まずはオドゥムの奴らを一掃しないと、計画が進まねぇ……。これからは対オドゥムにシフトチェンジだ。今日本に居る実行部隊をぶっ潰す」
ジンの目がギラリと光った。
「ッ!」
いつも以上に鋭い眼光。
こういう時のジンは恐ろしい。元から冷酷な男ではあるが、彼の逆鱗に触れたら最後、場合によっては死体すらも残さず木っ端みじんにしてしまう。
ベルモットはジンの強い殺気に思わず目を背けた。
***
カフェのテロから一夜明け——。
昨日の騒ぎがウソのように、空には太陽が輝き、東都の街を暖かく照らしている。
病院で一夜を過ごしたりおはベッドを起こし、窓の外を見ていた。
ガララ……
「ただいま戻りました」
数本のお茶を手にした昴が病室に戻っても、その視線は外を向いたまま。呼吸はやや速く、肩がせわしなく上下する。
「りお、お茶を買ってきました。病室は乾燥しているので、マメに飲んでくださいね」
昴は優しく声をかけ、ペットボトルをサイドテーブルに置いた。何の反応もしないりおの額に、昴は手を伸ばす。
「ケガのせいでだいぶ熱が高いですね。起きてて辛くないですか?」
表情一つ変わらないりおの頬を撫で、顔を覗き込んだ。
かかりつけの病院で目を覚ましてからも、りおの記憶は消えること無く、何度も何度も取り乱しては泣き叫んだ。
「20年前に泣けなかった分、今たくさん泣かせてあげましょう……その時間が今の彼女には必要です」
赤井にとってドクターの言葉は唯一の救いだ。
「…そうですね…」
泣いて泣いて、泣き疲れて眠って、目が覚めてまた泣く——。
悲しみの涙を20年もの間流せなかったりおにとって、「泣く」という行為で両親の死を受け入れ、悼み、そしてようやく心の整理をつけられるのかもしれない。
今はそれを見守る事しか出来なかった。
涙が枯れるまで泣いて、ようやく目が覚めても涙が出なくなったのは明け方。その後はまるで魂が抜け出てしまったかのように、ボンヤリとしている。
声を掛けても、頬に触れても、その表情は変わらない。まるでその他の感情すらも、涙と一緒に流れ出てしまったようだった。
「ベッド、少し倒しましょうか?」
構わず昴は話しかける。相変わらずりおの反応は無い。キレイなアンバーの瞳は尚も外を見ていて、昴の姿を映そうとはしなかった。
「りお……こっちを向いてくれないか?」
その姿に居たたまれなくなって、昴はりおの頬に手を伸ばし、自分の方へ引き寄せた。近づいたりおの唇にキスを落とす。
熱のある唇はいつもより温かくて、何度も啄むように触れた。
触れれば触れるほど、もっと触れたくなる。昴はりおの口内に舌を差し入れた。
最初は遠慮がちに。抵抗しないことを良いことに、少しずつその動きが大胆になる。
(熱のせいで口の中が熱い…)
絡める舌も、触れる頬も、全てが熱い。
こちらが溶かされそうだと思いながら、昴はさらに深く口付けた。
キスをしながらチョーカー型変声機の電源をOFFにする。
「は…ぁ…りお…俺を…見て、くれ…」
変装を解くことは出来ないが、キスの合間に赤井の声で呼びかけた。
「…ッ」
りおがわずかに息を詰める。
気付けば夢中になってキスをしていた。表情の無かったりおの顔が、少しずつ蕩けていく。昴の手がりおの頬を優しく撫でた。
くちゅ…っ
深い口づけはいつもするように舌を絡め、りおの弱いところを的確になぞる。
「…ッぅん…っ」
ゾクリと身を震わせ、りおの声が合わせた口から漏れる。それだけで昴は自分の体温が上がるのを感じた。
「りお…愛してる」
キスの合間にふと、こぼれ落ちた言葉。
無意識につぶやいた昴(赤井)の言葉は、りおの左の鼓膜を揺らす——。
『りお、愛してるわ』
『りお…パパもお前を愛してるよ』
自分はいつも誰かに愛されていた。
父にも、母にも。
二人が亡くなった後、自分を大切に育ててくれた祖父母にも。
人知れず見守っていた冴島にも。
そして——
今この瞬間も、自分を抱きしめてくれる愛しい人にも。
輝きを失っていたアンバーの瞳がわずかに揺れた。
(病院でこれ以上は……——)
自分の呼吸もままならなくなって、昴は理性を総動員するとりおから唇を離す。銀の糸がつぅ…と二人を繋いだ。
はぁはぁとお互い息を切らす。ドッドッと胸の鼓動も激しくなった。
「りお…? 俺を…見てくれないか?」
悲し気に昴はりおを見た。
ぼんやりと空(くう)を見ていたりおの視線が動く。ペリドットの視線とアンバーの視線がようやく重なった。
「秀一…さ…ん」
輝きの戻った瞳に昴の姿が映り込む。
「りお……?」
りおの変化に気付いた昴が、もう一度名を呼んだ。アンバーの瞳から涙がこぼれた。
「私…父も母も…助けることが出来なかった…。目の前で…二人は…」
溢れる涙を昴はそっと親指で拭きとる。
「お前のせいじゃない。お前のせいじゃないんだ。だから…」
もう泣くな——。
昴は強くりおを抱き締めた。
(ああ、私は…ひとりじゃ……ない……)
昴(赤井)の温かな抱擁は、傷ついたりおの心を優しく包み込む。張り裂ける様な胸の痛みが徐々に和らぐのを感じた。
「秀一さん…もっと…もっと…抱きしめて」
「ああ、お前を離しはしない」
心の痛みを取り払うかのように、ふたりは長いこと抱き合っていた。
***
「やっと落ち着いたようですね。熱はまだ高いですが原因も分かっていますし、一旦退院しておうちでゆっくり静養しましょう」
午後の診察を終え、ドクターが微笑む。
「はい」
ようやく受け答えも出来るようになったりおは、ドクターの言葉に返事をした。
それを聞いてドクターは何度かうなずくと、ほんの一瞬だけ昴を見た。
「しっかり休んで、沖矢さんに甘えて下さい。愛の力はどんな薬よりも効果があるようですから」
ナースたちが羨ましがっていますよ、とニコニコ顔で言われて、昴は昼間のキスを見られたな…とバツが悪そうにゴホンと一つ咳をする。
そんな昴の態度に、隣に居たナースがクスッと肩をすぼめて笑った。
「アロンとラスティーがオドゥムに襲われた!? どういうことなの、ジンッ!」
アジトに居たベルモットはジンから直接報告を受け、声を荒げた。
「落ち着けベルモット。二人とも無事だ。それぞれからケガの状態について連絡も来ている。アロンは投げナイフによる刺し傷が太ももに一つ。爆破によるケガは些細なものらしい。今ウォッカが新しい潜伏場所を用意して、そっちに向かっているそうだ。
ラスティーは爆破の衝撃で右の鼓膜が破れたようだがこっちも軽傷だ。今はバーボンが面倒見ている。連絡もヤツ経由で来た」
「鼓膜が!?」
ケガの状況を聞き、ベルモットの顔がさらに険しくなる。ラスティーほどのスキルの持ち主が爆破の衝撃をモロに受けたというのか。
「おそらくアイツの事だ。とっさにアロンを庇ったんだろう。その為に体の右側が爆心の方へ向いちまったんだろうな」
ジンはフンと鼻を鳴らす。灰皿に持っていたタバコを押し付けた。
「今回の自爆テロで、組織の息がかかったホテルがかなりダメージを受けた。その上、幹部クラスと協力者がケガを負わされた。
おかげでラムから『計画の一時中断』を言い渡された」
忌々しそうにジンは奥歯を噛みしめる。
「まずはオドゥムの奴らを一掃しないと、計画が進まねぇ……。これからは対オドゥムにシフトチェンジだ。今日本に居る実行部隊をぶっ潰す」
ジンの目がギラリと光った。
「ッ!」
いつも以上に鋭い眼光。
こういう時のジンは恐ろしい。元から冷酷な男ではあるが、彼の逆鱗に触れたら最後、場合によっては死体すらも残さず木っ端みじんにしてしまう。
ベルモットはジンの強い殺気に思わず目を背けた。
***
カフェのテロから一夜明け——。
昨日の騒ぎがウソのように、空には太陽が輝き、東都の街を暖かく照らしている。
病院で一夜を過ごしたりおはベッドを起こし、窓の外を見ていた。
ガララ……
「ただいま戻りました」
数本のお茶を手にした昴が病室に戻っても、その視線は外を向いたまま。呼吸はやや速く、肩がせわしなく上下する。
「りお、お茶を買ってきました。病室は乾燥しているので、マメに飲んでくださいね」
昴は優しく声をかけ、ペットボトルをサイドテーブルに置いた。何の反応もしないりおの額に、昴は手を伸ばす。
「ケガのせいでだいぶ熱が高いですね。起きてて辛くないですか?」
表情一つ変わらないりおの頬を撫で、顔を覗き込んだ。
かかりつけの病院で目を覚ましてからも、りおの記憶は消えること無く、何度も何度も取り乱しては泣き叫んだ。
「20年前に泣けなかった分、今たくさん泣かせてあげましょう……その時間が今の彼女には必要です」
赤井にとってドクターの言葉は唯一の救いだ。
「…そうですね…」
泣いて泣いて、泣き疲れて眠って、目が覚めてまた泣く——。
悲しみの涙を20年もの間流せなかったりおにとって、「泣く」という行為で両親の死を受け入れ、悼み、そしてようやく心の整理をつけられるのかもしれない。
今はそれを見守る事しか出来なかった。
涙が枯れるまで泣いて、ようやく目が覚めても涙が出なくなったのは明け方。その後はまるで魂が抜け出てしまったかのように、ボンヤリとしている。
声を掛けても、頬に触れても、その表情は変わらない。まるでその他の感情すらも、涙と一緒に流れ出てしまったようだった。
「ベッド、少し倒しましょうか?」
構わず昴は話しかける。相変わらずりおの反応は無い。キレイなアンバーの瞳は尚も外を見ていて、昴の姿を映そうとはしなかった。
「りお……こっちを向いてくれないか?」
その姿に居たたまれなくなって、昴はりおの頬に手を伸ばし、自分の方へ引き寄せた。近づいたりおの唇にキスを落とす。
熱のある唇はいつもより温かくて、何度も啄むように触れた。
触れれば触れるほど、もっと触れたくなる。昴はりおの口内に舌を差し入れた。
最初は遠慮がちに。抵抗しないことを良いことに、少しずつその動きが大胆になる。
(熱のせいで口の中が熱い…)
絡める舌も、触れる頬も、全てが熱い。
こちらが溶かされそうだと思いながら、昴はさらに深く口付けた。
キスをしながらチョーカー型変声機の電源をOFFにする。
「は…ぁ…りお…俺を…見て、くれ…」
変装を解くことは出来ないが、キスの合間に赤井の声で呼びかけた。
「…ッ」
りおがわずかに息を詰める。
気付けば夢中になってキスをしていた。表情の無かったりおの顔が、少しずつ蕩けていく。昴の手がりおの頬を優しく撫でた。
くちゅ…っ
深い口づけはいつもするように舌を絡め、りおの弱いところを的確になぞる。
「…ッぅん…っ」
ゾクリと身を震わせ、りおの声が合わせた口から漏れる。それだけで昴は自分の体温が上がるのを感じた。
「りお…愛してる」
キスの合間にふと、こぼれ落ちた言葉。
無意識につぶやいた昴(赤井)の言葉は、りおの左の鼓膜を揺らす——。
『りお、愛してるわ』
『りお…パパもお前を愛してるよ』
自分はいつも誰かに愛されていた。
父にも、母にも。
二人が亡くなった後、自分を大切に育ててくれた祖父母にも。
人知れず見守っていた冴島にも。
そして——
今この瞬間も、自分を抱きしめてくれる愛しい人にも。
輝きを失っていたアンバーの瞳がわずかに揺れた。
(病院でこれ以上は……——)
自分の呼吸もままならなくなって、昴は理性を総動員するとりおから唇を離す。銀の糸がつぅ…と二人を繋いだ。
はぁはぁとお互い息を切らす。ドッドッと胸の鼓動も激しくなった。
「りお…? 俺を…見てくれないか?」
悲し気に昴はりおを見た。
ぼんやりと空(くう)を見ていたりおの視線が動く。ペリドットの視線とアンバーの視線がようやく重なった。
「秀一…さ…ん」
輝きの戻った瞳に昴の姿が映り込む。
「りお……?」
りおの変化に気付いた昴が、もう一度名を呼んだ。アンバーの瞳から涙がこぼれた。
「私…父も母も…助けることが出来なかった…。目の前で…二人は…」
溢れる涙を昴はそっと親指で拭きとる。
「お前のせいじゃない。お前のせいじゃないんだ。だから…」
もう泣くな——。
昴は強くりおを抱き締めた。
(ああ、私は…ひとりじゃ……ない……)
昴(赤井)の温かな抱擁は、傷ついたりおの心を優しく包み込む。張り裂ける様な胸の痛みが徐々に和らぐのを感じた。
「秀一さん…もっと…もっと…抱きしめて」
「ああ、お前を離しはしない」
心の痛みを取り払うかのように、ふたりは長いこと抱き合っていた。
***
「やっと落ち着いたようですね。熱はまだ高いですが原因も分かっていますし、一旦退院しておうちでゆっくり静養しましょう」
午後の診察を終え、ドクターが微笑む。
「はい」
ようやく受け答えも出来るようになったりおは、ドクターの言葉に返事をした。
それを聞いてドクターは何度かうなずくと、ほんの一瞬だけ昴を見た。
「しっかり休んで、沖矢さんに甘えて下さい。愛の力はどんな薬よりも効果があるようですから」
ナースたちが羨ましがっていますよ、とニコニコ顔で言われて、昴は昼間のキスを見られたな…とバツが悪そうにゴホンと一つ咳をする。
そんな昴の態度に、隣に居たナースがクスッと肩をすぼめて笑った。