第7章 ~記憶の扉が開くとき~
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***
ピーポーピーポー……
ウ——ウ——ウ——…
買い物に来ていた蘭とコナンが店を出ると、辺りはけたたましいサイレンの音が響いていた。
「なあに? 事故でもあったのかしら?」
蘭が心配そうに音のする方へ顔を向けた。
「ッ! ちがうよ! 蘭姉ちゃん見て! あそこに煙が……!」
「ほ、ホントだ! こんな街中で火事かな…って…ちょ、ちょっとコナンくん! どこ行くの!?」
蘭の言葉は耳に入らないまま、コナンは現場に向かって走り出した。
「ちょっとスミマセン…あ、ごめんなさい…」
コナンは集まった野次馬達をかき分け、現場が見える所まで進む。
ホテルに併設するカフェのガラスは粉々に割れ、救急車と消防車が何台も停まっていた。
けが人が続々と運び出される。
(いったい何があったんだ…)
現場は一見するとガス爆発があったような惨劇だった。しかしガス特有の匂いはしない。
「なんか、爆弾が爆発したみたいだよ」
「え~! 爆弾!? 無差別テロとか?」
「ああ、自爆だったって誰か言ってたぜ」
野次馬達があちらこちらで話す声が聞こえる。
(自爆!?)
コナンの顔色がサッと変わった。
「もう! やっと見つけた! ダメじゃないコナンくん。勝手に来ちゃ……」
蘭は慌てて追いかけて来たのか、ハァハァと息を切らしてコナンに声をかけた。
「あ…ご、ごめんなさい…」
眉を吊り上げた蘭の顔を見て、コナンは下を向く。
「……」
「?」
もっと蘭からお小言が飛んでくると思っていたコナンは、それ以上彼女が何も言わないことを不審に思う。そ~っと顔を上げ蘭を見た。
「蘭姉ちゃん、どうしたの?」
「ね、ねえ…コナンくん…あれ…。今救急車に運ばれる女性…さくらさんじゃ…」
「え!?」
コナンは蘭が指さす方を見る。慌てて規制線をくぐり、救急車へとダッシュした。
ピピーッ!!
「き、君! だめだよ、勝手に…」
「さくらさんっ!!」
近くに居た警察官が笛を鳴らし、コナンを制止しようとしたため、コナンは大声でさくらの名を呼んだ。
「えっ!? 君はこの女性の知り合いかい?」
「うんッ! 近所に住んでるお姉さんだよ。ボク、いつもお世話になってるんだ!」
警察官は膝をつき、コナンと目線を合わせた。
「そうか、良かった…。実は彼女の身元が分かるものが無くて……。あそこに、とりあえず事件に関係なさそうな荷物だけ回収したんだけど、誰のものか分からないんだ。この女性の持ち物が分かるかい?」
「うん。ボク見てくる」
コナンは急いで客の荷物が並べられたブルーシートを見た。
「これだ。いつもこのバッグ持ってるよ」
中には公安支給のスマホと財布などが入っていた。
「そうか、お手柄だよぼうや。じゃあ一緒に救急車に乗って病院に行ってもらえるかな?
あ、そこのお嬢さん。ぼうやの連れの方ですね。この女性のご家族と連絡取れますか?」
警察官は顔を上げ蘭に話しかけた。
「え、ええ…。ご家族の連絡先は分かりませんが、さくらさんがお付き合いされている方になら……」
蘭は真っ青な顔で震えながら応える。
「じゃあ、あなたも一緒に乗ってもらって、到着した病院をその彼氏さんにお知らせしてもらっても良いですか?」
「わ…分かりました…」
救急隊員にも促され、さくらが運び込まれた救急車に蘭とコナンが乗り込んだ。
ストレッチャーに乗せられたさくらの顔は青白く、意識は無いようだった。口元には酸素マスク、血の付いたガーゼが右側頭部に当てられている。
「じゃあ閉めますよ」
外に居た隊員が車のハッチを閉める。
3人を乗せた救急車は、サイレンを鳴らして現場を離れた。
***
工藤邸のテレビをつけた昴は、画面を見て眉根を寄せる。多くの死傷者を出したカフェの自爆テロ。放送局は特別番組を組んで大きく報道していた。
画面の左上には《白昼のカフェで自爆テロ? 死傷者多数》とテロップが出ている。
(今日は確か…りおも『カフェ』でアロンと会うと言っていたが)
昴は胸騒ぎを覚える。
本人に確認しようとスマホに手を伸ばした時、ブルリとそれが震えた。画面には『毛利蘭』の名が表示されている。
「もしもし?」
『あ、昴さん?! 蘭です! さくらさんが…さくらさんが…ッ!』
「ッ!」
切羽詰まった蘭の声を聞いて、昴は予感が的中した事を悟った。動揺する蘭をどうにかなだめ、収容された病院の名を聞く。
電話を切ると車のキーを掴んで、すぐに工藤邸を飛び出した。
「あ! 昴さん! こっちだよ!!」
病院の玄関に駆け込むと、コナンが昴の到着を待っていた。コナンに案内され、救命救急センターへと向かう。
センター入口の自動ドアを抜けると、通路に置かれた長椅子に座る蘭が見えた。
「す、昴さん…」
昴の到着に気付いた蘭が立ち上がる。目に涙を浮かべていた。
「それで……さくらは?」
蘭の両肩を掴み、昴は訊ねる。だが蘭は首を横に振った。
「まだ…分かりません…。一緒に救急車に乗ってきましたけど、ずっと意識は無くて…右の頭部から出血があったみたいで、ガーゼで押さえられていました」
「そう…ですか…」
昴は蘭の肩から手を離すと、脱力したように長椅子に座り込む。蘭もその隣にゆっくりと座った。
今はここで待つよりほかに手はない。昴は両手を組み、深いため息をついた。
「これ…さくらさんの荷物。警察の人に言われて、ボクが探してきたの」
コナンがバッグを昴に差し出した。
「お店の中はね、テーブルを囲む様に大人の腰の高さ位の仕切りがいくつかあったみたいで、それが盾になったのか中身は無事だったよ」
コナンは視線を落とし、警察から聞いた現場の状況を話す。
いつも肩にかけているさくらのお気に入りのバッグ。やや煤けたものの、ほとんど傷みもない。
昴はコナンからバッグを受け取ると、それをジッと見つめた。
「さくら……ッ」
バッグをぎゅっと握った昴は、苦しげに下を向いた。
ガチャ…
昴が到着して10分程した頃、目の前のドアが開いた。
ベッドに寝かされたさくらが処置室から出てくる。立ち上がった昴にドクターが話しかけた。
「星川さんのケガですが幸い軽傷です。ただ爆破の衝撃を体の右側で受けたようで。右耳の鼓膜に損傷が見られました。
また爆発の際の煙や圧のせいか、やや呼吸が苦しそうでしたので今は酸素吸入をしています。
CTも撮りましたが内耳に影響は無く、肺にもダメージはありませんでした。意識が完全に戻り本人も辛くなければ、おうちに帰ることも可能でしょう」
このまま目が覚めるまで病室へどうぞと言われ、昴達は移動するベッドについていく。
ナースステーションに近い部屋に入ると、ナースがイスを三客用意してくれた。
緑色の酸素マスクをつけられたさくらは、穏やかな表情で眠っている。呼吸をするたびにマスクが白く曇った。
「蘭さんから連絡を貰った時は目の前が真っ暗になりました…」
緊張が解け、昴の顔が少し穏やかになる。正直なところ工藤邸から病院までどの道を通って来たのかよく覚えていない。
冷静に対処していたつもりだったが、それくらいには動揺していたようだ。
「さくらさん…ホント…よかった…」
蘭は目に涙をためて小さくつぶやく。張り詰めていた空気が和らいだのを感じ、コナンもホッと息をついた。
数十分後——
博士に迎えを頼み、蘭とコナンは帰路についた。なかなか目を覚まさないさくらの隣で、昴はその寝顔を見つめている。
軽傷とは言え、頬に貼られた白い絆創膏や耳のガーゼが痛々しい。
「…ッ」
覚醒が近いのか、さくらの表情がわずかに変わる。
「さくら?」
やや苦しそうに眉根を寄せるのを見て、昴が声をかけた。
点滴が刺さっている方の手に力が入り、ギュッと布団を握り閉めていた。
覚醒直前——
さくらは夢を見ていた。
それはただの夢ではなく…20年前の、あの悪夢の日の記憶だった——
ピーポーピーポー……
ウ——ウ——ウ——…
買い物に来ていた蘭とコナンが店を出ると、辺りはけたたましいサイレンの音が響いていた。
「なあに? 事故でもあったのかしら?」
蘭が心配そうに音のする方へ顔を向けた。
「ッ! ちがうよ! 蘭姉ちゃん見て! あそこに煙が……!」
「ほ、ホントだ! こんな街中で火事かな…って…ちょ、ちょっとコナンくん! どこ行くの!?」
蘭の言葉は耳に入らないまま、コナンは現場に向かって走り出した。
「ちょっとスミマセン…あ、ごめんなさい…」
コナンは集まった野次馬達をかき分け、現場が見える所まで進む。
ホテルに併設するカフェのガラスは粉々に割れ、救急車と消防車が何台も停まっていた。
けが人が続々と運び出される。
(いったい何があったんだ…)
現場は一見するとガス爆発があったような惨劇だった。しかしガス特有の匂いはしない。
「なんか、爆弾が爆発したみたいだよ」
「え~! 爆弾!? 無差別テロとか?」
「ああ、自爆だったって誰か言ってたぜ」
野次馬達があちらこちらで話す声が聞こえる。
(自爆!?)
コナンの顔色がサッと変わった。
「もう! やっと見つけた! ダメじゃないコナンくん。勝手に来ちゃ……」
蘭は慌てて追いかけて来たのか、ハァハァと息を切らしてコナンに声をかけた。
「あ…ご、ごめんなさい…」
眉を吊り上げた蘭の顔を見て、コナンは下を向く。
「……」
「?」
もっと蘭からお小言が飛んでくると思っていたコナンは、それ以上彼女が何も言わないことを不審に思う。そ~っと顔を上げ蘭を見た。
「蘭姉ちゃん、どうしたの?」
「ね、ねえ…コナンくん…あれ…。今救急車に運ばれる女性…さくらさんじゃ…」
「え!?」
コナンは蘭が指さす方を見る。慌てて規制線をくぐり、救急車へとダッシュした。
ピピーッ!!
「き、君! だめだよ、勝手に…」
「さくらさんっ!!」
近くに居た警察官が笛を鳴らし、コナンを制止しようとしたため、コナンは大声でさくらの名を呼んだ。
「えっ!? 君はこの女性の知り合いかい?」
「うんッ! 近所に住んでるお姉さんだよ。ボク、いつもお世話になってるんだ!」
警察官は膝をつき、コナンと目線を合わせた。
「そうか、良かった…。実は彼女の身元が分かるものが無くて……。あそこに、とりあえず事件に関係なさそうな荷物だけ回収したんだけど、誰のものか分からないんだ。この女性の持ち物が分かるかい?」
「うん。ボク見てくる」
コナンは急いで客の荷物が並べられたブルーシートを見た。
「これだ。いつもこのバッグ持ってるよ」
中には公安支給のスマホと財布などが入っていた。
「そうか、お手柄だよぼうや。じゃあ一緒に救急車に乗って病院に行ってもらえるかな?
あ、そこのお嬢さん。ぼうやの連れの方ですね。この女性のご家族と連絡取れますか?」
警察官は顔を上げ蘭に話しかけた。
「え、ええ…。ご家族の連絡先は分かりませんが、さくらさんがお付き合いされている方になら……」
蘭は真っ青な顔で震えながら応える。
「じゃあ、あなたも一緒に乗ってもらって、到着した病院をその彼氏さんにお知らせしてもらっても良いですか?」
「わ…分かりました…」
救急隊員にも促され、さくらが運び込まれた救急車に蘭とコナンが乗り込んだ。
ストレッチャーに乗せられたさくらの顔は青白く、意識は無いようだった。口元には酸素マスク、血の付いたガーゼが右側頭部に当てられている。
「じゃあ閉めますよ」
外に居た隊員が車のハッチを閉める。
3人を乗せた救急車は、サイレンを鳴らして現場を離れた。
***
工藤邸のテレビをつけた昴は、画面を見て眉根を寄せる。多くの死傷者を出したカフェの自爆テロ。放送局は特別番組を組んで大きく報道していた。
画面の左上には《白昼のカフェで自爆テロ? 死傷者多数》とテロップが出ている。
(今日は確か…りおも『カフェ』でアロンと会うと言っていたが)
昴は胸騒ぎを覚える。
本人に確認しようとスマホに手を伸ばした時、ブルリとそれが震えた。画面には『毛利蘭』の名が表示されている。
「もしもし?」
『あ、昴さん?! 蘭です! さくらさんが…さくらさんが…ッ!』
「ッ!」
切羽詰まった蘭の声を聞いて、昴は予感が的中した事を悟った。動揺する蘭をどうにかなだめ、収容された病院の名を聞く。
電話を切ると車のキーを掴んで、すぐに工藤邸を飛び出した。
「あ! 昴さん! こっちだよ!!」
病院の玄関に駆け込むと、コナンが昴の到着を待っていた。コナンに案内され、救命救急センターへと向かう。
センター入口の自動ドアを抜けると、通路に置かれた長椅子に座る蘭が見えた。
「す、昴さん…」
昴の到着に気付いた蘭が立ち上がる。目に涙を浮かべていた。
「それで……さくらは?」
蘭の両肩を掴み、昴は訊ねる。だが蘭は首を横に振った。
「まだ…分かりません…。一緒に救急車に乗ってきましたけど、ずっと意識は無くて…右の頭部から出血があったみたいで、ガーゼで押さえられていました」
「そう…ですか…」
昴は蘭の肩から手を離すと、脱力したように長椅子に座り込む。蘭もその隣にゆっくりと座った。
今はここで待つよりほかに手はない。昴は両手を組み、深いため息をついた。
「これ…さくらさんの荷物。警察の人に言われて、ボクが探してきたの」
コナンがバッグを昴に差し出した。
「お店の中はね、テーブルを囲む様に大人の腰の高さ位の仕切りがいくつかあったみたいで、それが盾になったのか中身は無事だったよ」
コナンは視線を落とし、警察から聞いた現場の状況を話す。
いつも肩にかけているさくらのお気に入りのバッグ。やや煤けたものの、ほとんど傷みもない。
昴はコナンからバッグを受け取ると、それをジッと見つめた。
「さくら……ッ」
バッグをぎゅっと握った昴は、苦しげに下を向いた。
ガチャ…
昴が到着して10分程した頃、目の前のドアが開いた。
ベッドに寝かされたさくらが処置室から出てくる。立ち上がった昴にドクターが話しかけた。
「星川さんのケガですが幸い軽傷です。ただ爆破の衝撃を体の右側で受けたようで。右耳の鼓膜に損傷が見られました。
また爆発の際の煙や圧のせいか、やや呼吸が苦しそうでしたので今は酸素吸入をしています。
CTも撮りましたが内耳に影響は無く、肺にもダメージはありませんでした。意識が完全に戻り本人も辛くなければ、おうちに帰ることも可能でしょう」
このまま目が覚めるまで病室へどうぞと言われ、昴達は移動するベッドについていく。
ナースステーションに近い部屋に入ると、ナースがイスを三客用意してくれた。
緑色の酸素マスクをつけられたさくらは、穏やかな表情で眠っている。呼吸をするたびにマスクが白く曇った。
「蘭さんから連絡を貰った時は目の前が真っ暗になりました…」
緊張が解け、昴の顔が少し穏やかになる。正直なところ工藤邸から病院までどの道を通って来たのかよく覚えていない。
冷静に対処していたつもりだったが、それくらいには動揺していたようだ。
「さくらさん…ホント…よかった…」
蘭は目に涙をためて小さくつぶやく。張り詰めていた空気が和らいだのを感じ、コナンもホッと息をついた。
数十分後——
博士に迎えを頼み、蘭とコナンは帰路についた。なかなか目を覚まさないさくらの隣で、昴はその寝顔を見つめている。
軽傷とは言え、頬に貼られた白い絆創膏や耳のガーゼが痛々しい。
「…ッ」
覚醒が近いのか、さくらの表情がわずかに変わる。
「さくら?」
やや苦しそうに眉根を寄せるのを見て、昴が声をかけた。
点滴が刺さっている方の手に力が入り、ギュッと布団を握り閉めていた。
覚醒直前——
さくらは夢を見ていた。
それはただの夢ではなく…20年前の、あの悪夢の日の記憶だった——