第7章 ~記憶の扉が開くとき~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「その方の友人は、研究がかなり進んでいた。発表まであと少しだった。それなのに、最近学会にも出ていなかった島谷教授が突然成果を発表した。
学会での最新情報を共有していない教授が、どうして成果を出せたのか…。情報を盗まれたのではと疑っているの。
尾沼さんのスパイ容疑の事だってハッキリしていない。少し調べてみたくて…」
現在ひっ迫しているのはオドゥムの動きだ。教授の研究については、組織の新たなビジネスと関係あるかどうかは現状では微妙。
尾沼が組織のスパイだったという確証も無い。
本来なら今、首を突っ込むべきではないだろう。だがりおにとっては、ごく身近で日頃から世話になっている人たち。詳細を調べ、真実を知りたい。
もし疑いが事実無根であるならば、それを証明したい。それはりおの優しさに他ならない。
また、小さな疑問が後々大きな意味を成すこともある。それが事件解決のカギとなることもあり得るのだ。
それを十分に理解している昴は、りおの気持ちを否定する気にはなれなかった。
「あなたのそういうところ、私は好きですよ。但し体を壊すほどのめり込まないこと。潜入捜査の方だって切迫した状態です。何事もほどほど…ですよ」
「うん。分かった。ありがとう昴さん!」
りおはパッと表情を明るくして微笑んだ。
***
一時間後。倉庫街——
地下の隠し部屋へと戻ってきた男は「ふぅ」と小さく息を吐く。
一番上まで引き上げていたスポーツウエアのファスナーを下げ、自身のチェアへと身を沈めた。
皮張りの大きな背もたれに背中を預ける。ここで数週間前に行われていた、いくつかのやり取りを思い出していた。
***
数週間前——
倉庫街周辺の安全確認中、ポケットに入れていたスマホが鳴った。
画面に出た名を見て、スンホは倉庫街の細い通路へと身を潜め、電話に出た。
「はい」
『スンホか。私だ。貿易会社の後始末…その後は順調か?』
「はい。問題ありません」
オドゥムの幹部チュ・ソジュンからの電話に、リュ・スンホは緊張しながら応えた。
「作戦に失敗した諜報員の粛清は終わりました。日本に残っているメンバーを再編成し、現在本国からの合流部隊を待っている状況です」
『そうか』
ソジュンが満足げにつぶやく。スンホは次の言葉を静かに待った。
『こちらもようやく将軍様のお怒りが治まり、執行部も胸を撫で下ろしたところだ。少しずつ、あの忌々しい組織への鉄拳制裁を考えねばと思っていたのだが…。どうやら奴らの方が先に動き出したようだ』
「え?」
ソジュンの言葉にスンホは言葉を失った。
自分たちもジンの動向を順次探って入るが、そのすべてを網羅できるわけでは無い。
特に世界中に仲間がいるジン達の組織は、守備範囲も広く、複数の部隊で監視している。
ソジュン達最高幹部はスンホのような実働部隊とは別に、《斥候/せっこう》と呼ばれる隠密の偵察隊を持っている。
どうやらそこから、何か情報がもたらされたようだ。
「じ、ジン達が…ですか? あの男が動き出した…?」
黒の組織に関わった工作員たちは、キム・ウジンを始めとして多くの犠牲者を出している。
しかもジンの配下である《ラスティー》相手に、だ。
それがさらに《ジン》本人、となれば苦戦を強いられることは間違いない。
『ああ。ジンが2週間以上アメリカに滞在していたのは知っているな? 内偵達の情報によれば、その間に複数回《アロン・モーリス》と会っていたようだ。資産家のバカ息子と何を企んでいるのか……!」
ソジュンは吐き捨てるように語気を強くした。
『それから、これはまだ裏が取れてはいないが…。先日殺人事件があったナイトクラブに、組織の幹部らしい男が出没したとの情報もある。
ジンが会っていたというアロン・モーリスはそのナイトクラブのオーナー。
これらのことを鑑みれば、何かしらの悪巧みが進んでいると見て、まず間違いないだろう』
ソジュンの声が一層低くなる。スンホはゴクリと喉を鳴らした。
『おそらく、《アロン・モーリス》が来日する日も近い。その男は間違いなく、組織が計画している【何か】のカギを握る者だ。
何を企んでいるか知らんが、その当事者を消してしまえば奴らへの打撃も大きかろう…。アロンが組織と接触する際にはスナイパーを送り、抹殺しろ』
ソジュンの声は厳しさを増す。明らかにいら立っているようだった。
「御意」
スンホは頭を垂れ、ソジュンの命令に従った。
しかし結果とし狙撃は失敗し、アロンに逃げられ、スナイパーとして送った部下は自爆した。
『今回の失敗は目をつぶろう。お前の実力はこんなものではないだろう?』
狙撃失敗の報告を聞いて、ソジュンは優しい声でささやいた。
てっきり失敗の責任を取らされるであろうと思っていたスンホは拍子抜けした。
だが、ソジュンの話には続きがあった。
『アロンは来日してすぐ、ジンと会ったホテルで《密談》と、何かしらの《情報収集》を行ったことが分かっている。だが巧妙にその事実を隠し、詳細は把握できていない。
そこでだ、スンホよ。組織の奴らが何を企んでいるのか調べよ。
アロンが何を仕掛け、手に入れたものはどこへ流れたのか。それについても詳細を調べるのだ』
「ははっ!!」
スンホは最敬礼をして返事をした。
『良い知らせを待っているぞ』
ソジュンの声は終始柔らかさを失わず、そのまま通話は切れた。
***
それから何日も隠密に動いているが、未だ報告できるような情報は手に入れていない。
今日はスンホ自ら網を張った米花町へと来てみたが、まさかあのラスティーとアロンが接触するとは……。
「こうなったらアロンを拉致し、直接聞き出すか…。ついでにラスティーを葬れば、ソジュン様に良いご報告が出来る。
今日の様子だと、おそらく近いうちにもう一度二人は会うだろう。我々を警戒して…組織の息がかかった場所を使うはず。
二人の潜伏場所は未だ分からないが、先程の車。アレを監視していれば密談の場所くらいは…」
スンホは考えを巡らせながら、スマホを手に取る。
数分後——。
胸元に青いピンバッチを付けた工作員が二人、スンホの前でひざまずいた。
学会での最新情報を共有していない教授が、どうして成果を出せたのか…。情報を盗まれたのではと疑っているの。
尾沼さんのスパイ容疑の事だってハッキリしていない。少し調べてみたくて…」
現在ひっ迫しているのはオドゥムの動きだ。教授の研究については、組織の新たなビジネスと関係あるかどうかは現状では微妙。
尾沼が組織のスパイだったという確証も無い。
本来なら今、首を突っ込むべきではないだろう。だがりおにとっては、ごく身近で日頃から世話になっている人たち。詳細を調べ、真実を知りたい。
もし疑いが事実無根であるならば、それを証明したい。それはりおの優しさに他ならない。
また、小さな疑問が後々大きな意味を成すこともある。それが事件解決のカギとなることもあり得るのだ。
それを十分に理解している昴は、りおの気持ちを否定する気にはなれなかった。
「あなたのそういうところ、私は好きですよ。但し体を壊すほどのめり込まないこと。潜入捜査の方だって切迫した状態です。何事もほどほど…ですよ」
「うん。分かった。ありがとう昴さん!」
りおはパッと表情を明るくして微笑んだ。
***
一時間後。倉庫街——
地下の隠し部屋へと戻ってきた男は「ふぅ」と小さく息を吐く。
一番上まで引き上げていたスポーツウエアのファスナーを下げ、自身のチェアへと身を沈めた。
皮張りの大きな背もたれに背中を預ける。ここで数週間前に行われていた、いくつかのやり取りを思い出していた。
***
数週間前——
倉庫街周辺の安全確認中、ポケットに入れていたスマホが鳴った。
画面に出た名を見て、スンホは倉庫街の細い通路へと身を潜め、電話に出た。
「はい」
『スンホか。私だ。貿易会社の後始末…その後は順調か?』
「はい。問題ありません」
オドゥムの幹部チュ・ソジュンからの電話に、リュ・スンホは緊張しながら応えた。
「作戦に失敗した諜報員の粛清は終わりました。日本に残っているメンバーを再編成し、現在本国からの合流部隊を待っている状況です」
『そうか』
ソジュンが満足げにつぶやく。スンホは次の言葉を静かに待った。
『こちらもようやく将軍様のお怒りが治まり、執行部も胸を撫で下ろしたところだ。少しずつ、あの忌々しい組織への鉄拳制裁を考えねばと思っていたのだが…。どうやら奴らの方が先に動き出したようだ』
「え?」
ソジュンの言葉にスンホは言葉を失った。
自分たちもジンの動向を順次探って入るが、そのすべてを網羅できるわけでは無い。
特に世界中に仲間がいるジン達の組織は、守備範囲も広く、複数の部隊で監視している。
ソジュン達最高幹部はスンホのような実働部隊とは別に、《斥候/せっこう》と呼ばれる隠密の偵察隊を持っている。
どうやらそこから、何か情報がもたらされたようだ。
「じ、ジン達が…ですか? あの男が動き出した…?」
黒の組織に関わった工作員たちは、キム・ウジンを始めとして多くの犠牲者を出している。
しかもジンの配下である《ラスティー》相手に、だ。
それがさらに《ジン》本人、となれば苦戦を強いられることは間違いない。
『ああ。ジンが2週間以上アメリカに滞在していたのは知っているな? 内偵達の情報によれば、その間に複数回《アロン・モーリス》と会っていたようだ。資産家のバカ息子と何を企んでいるのか……!」
ソジュンは吐き捨てるように語気を強くした。
『それから、これはまだ裏が取れてはいないが…。先日殺人事件があったナイトクラブに、組織の幹部らしい男が出没したとの情報もある。
ジンが会っていたというアロン・モーリスはそのナイトクラブのオーナー。
これらのことを鑑みれば、何かしらの悪巧みが進んでいると見て、まず間違いないだろう』
ソジュンの声が一層低くなる。スンホはゴクリと喉を鳴らした。
『おそらく、《アロン・モーリス》が来日する日も近い。その男は間違いなく、組織が計画している【何か】のカギを握る者だ。
何を企んでいるか知らんが、その当事者を消してしまえば奴らへの打撃も大きかろう…。アロンが組織と接触する際にはスナイパーを送り、抹殺しろ』
ソジュンの声は厳しさを増す。明らかにいら立っているようだった。
「御意」
スンホは頭を垂れ、ソジュンの命令に従った。
しかし結果とし狙撃は失敗し、アロンに逃げられ、スナイパーとして送った部下は自爆した。
『今回の失敗は目をつぶろう。お前の実力はこんなものではないだろう?』
狙撃失敗の報告を聞いて、ソジュンは優しい声でささやいた。
てっきり失敗の責任を取らされるであろうと思っていたスンホは拍子抜けした。
だが、ソジュンの話には続きがあった。
『アロンは来日してすぐ、ジンと会ったホテルで《密談》と、何かしらの《情報収集》を行ったことが分かっている。だが巧妙にその事実を隠し、詳細は把握できていない。
そこでだ、スンホよ。組織の奴らが何を企んでいるのか調べよ。
アロンが何を仕掛け、手に入れたものはどこへ流れたのか。それについても詳細を調べるのだ』
「ははっ!!」
スンホは最敬礼をして返事をした。
『良い知らせを待っているぞ』
ソジュンの声は終始柔らかさを失わず、そのまま通話は切れた。
***
それから何日も隠密に動いているが、未だ報告できるような情報は手に入れていない。
今日はスンホ自ら網を張った米花町へと来てみたが、まさかあのラスティーとアロンが接触するとは……。
「こうなったらアロンを拉致し、直接聞き出すか…。ついでにラスティーを葬れば、ソジュン様に良いご報告が出来る。
今日の様子だと、おそらく近いうちにもう一度二人は会うだろう。我々を警戒して…組織の息がかかった場所を使うはず。
二人の潜伏場所は未だ分からないが、先程の車。アレを監視していれば密談の場所くらいは…」
スンホは考えを巡らせながら、スマホを手に取る。
数分後——。
胸元に青いピンバッチを付けた工作員が二人、スンホの前でひざまずいた。