第7章 ~記憶の扉が開くとき~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「それで? なぜそんな格好を?」
鼻歌交じりに運転するアロンに、さくらは問いかけた。
「ん~…理由は色々。まあ一番は身の安全のためかな。この姿ならオドゥムは気付かないしね」
アロンは前を見たまま嬉々として答えた。
「ふ~ん。で、なんでわざわざ姿を変えて、しかもこんなハデな車で私の前に?」
さくらは単刀直入に問いかける。アロンとは先日顔合わせをしただけだ。姿を変えているとはいえ、危険をおかしてまで自分に会いに来た理由が分からない。
「ははは。なかなか手厳しいなぁ。この車はね、今日手に入れたんだ。君との予約を取るためにね」
「予約?」
さくらは不思議そうにアロンの言葉を繰り返す。
「君と話がしたかったんだ。その予約を取ろうと思って。とりあえず『家まで送るよ』で、君と二人きりになれるだろ? いい雰囲気でデートに誘えるじゃない。
で、いきなり本題だけど。次の土曜日、僕とお茶をしてくれないかな?」
「えぇっ?」
どうしてこうアメリカ人はすぐにデートに誘いたがるのか——。
ストレートな誘い文句に、さくらはいつぞやのルーク(ノエル)を思い出し、頭を抱えた。
「あ、あのねぇ…。これのどこが『いい雰囲気』なのよ。しかも今だって話しているじゃない。今この場ではダメなの?」
眉間のあたりを指でもみながら、さくらはアロンに問いかける。
「あはは~。僕、女性の扱いに慣れてなくて。かなり長いことオタク生活していたもんだから…。今日この場で話したいのは山々なんだけどさ、実は僕このあと用事があるんだよ。
時間に追われてじゃなく、ちゃんと顔を見てゆっくり話をしたいんだ。色々聞きたいこともあるし……。だから時間を作って欲しくて。そのための予約をしておきたいんだ」
聞きたいこと? さくらはにわかに緊張した。
(私の正体…何か気付いた?)
しかしここで警戒しすぎて断れば、逆に疑われてしまうだろう。さくらは考え込んだ
(でも…上手くごまかせさえすれば…これはチャンスかもしれないわ…)
むこうからわざわざ接触してきたのだ。
上手く取り入れば、先日公安が探れなかったアロンの潜伏先を割り出せるかもしれない。
「分かったわ。場所と時間は?」
さくらの問いかけに、アロンはパッと表情を明るくした。
ポアロの少し手前でさくらは車を降りる。
「そこの喫茶店、知り合いが多いから。ここで良いわ」
「了解。じゃあ、土曜日に」
「ええ」
アロンはニッコリ微笑んでそのまま走り去る。
「それにしても話っていったい……」
さくらは走り去った車をジッと見つめ、唇を噛んだ。
「土曜日にアロン・モーリスと会う?」
夕刊を読んでいた昴は、りおの言葉に眉根を寄せる。
「うん。上手く行けば潜伏先を特定出来るかと思って。ホントはね、先日アロンが来日した際、公安が後を追って潜伏先を突き止める手はずだったの。でもオドゥムの狙撃でそれどころではなくなって……その後は消息不明。
昨日ジンに呼び出された時に初めて顔合わせをしたけど、ジンのポルシェで来てたから私も降谷さんも追跡は諦めてたんだけど……。
そしたら今日、突然大学に来たのよ。凄いイケメンに姿を変えて来たからビックリしちゃった」
りおは詳細を昴に話した。昴は黙ってそれを聞いていたが、イケメンになっていたと聞いてハッとした。
「もしかして…この男でしたか?」
1枚の写真をりおに見せた。
「うん、そうだよ。でもどうしてこの写真を昴さんが?」
写真を確認したりおは不思議そうに昴の顔を見る。
(土曜に会うなら伝えておくべきだろうな……)
相手が直接コンタクトを取ってきた。なぜラスティーと話がしたいのかその理由も分からない。
この状況で《アロン=ダリル》の可能性がある、と知らないことの方がリスクがありはしないか——
ルークの言葉を思い出し、昴は先日知らされた事実をりおに話す決意をした。
「資産家の息子であるアロン・モーリスは数年前に親から勘当されています。
まあ…ろくに働かず、資産運用で儲けた金は全て趣味につぎ込んでいましたからね。で、その後ある人物に運用の目利きを見込まれ、一から経営学やIT知識を叩きこまれました。
やがて頭角を現し、今ではれっきとした会社の社長です。但し、家族などにその存在がバレぬよう、偽名を使っていますが……」
「偽名?」
「ええ。彼の会社社長としての名は『ダリル・ホリンズ』です」
「だ、ダリル・ホリンズですって!?」
ダリルの名を聞いたりおは素っ頓狂な声を上げた。
「おや、知っているのですか?」
「知っているも何も……業界では有名人よ。彼と組めば、どんな仕事も絶対に上手くいくってウワサになるくらい。そういえば、最近ようやく顔出しもOKになったらしいけど…。
今まで出身も経歴も謎に包まれた、ミステリアスな社長って……」
そうか…モーリス家の息子と分からないようにするためだったのか!
りおは納得したように何度もうなずいた。
「じゃ、じゃあ…ジンは彼の技術を必要としているって事? 彼はエンジニアとしてかなり有能だと聞いたわ。今回のビジネス、もしかしてIT関連で動こうとしている?」
りおは考え込む。組織が水面下で動いている【ビジネス】。それがいったい何なのか——。それを探る大きな手掛かりかもしれない。
「ちょっと待って。確かに彼はエンジニアとして有能ですが、もう一つ懸案事項があるんですよ」
「懸案事項?」
他に何が…と、りおの表情が曇る。
「彼が会社社長に就任したのはつい最近です。あそこまで会社を大きくしたのは彼の前の社長。その社長が亡くなったため、ダリルが引き継いだのです」
「つまり?」
言葉を選び慎重に話す昴の姿に、りおがしびれを切らしたように問いかける。
「その前社長が……カーディナルです。彼はカーディナルの後継者ですよ」
「!!」
思いがけない名を聞いてりおは息を飲む。
その時、カーディナルと初めて会った時の事が脳裏をよぎった。お互い自己紹介をした際、本人から聞いた話を思い出す。
『こう見えても会社を経営していてね。爆破担当は派手な分、出番は限られているから。それだけじゃ食べていけないんだよ』
(まさかIT企業だったなんて…)
りおは口元に手を当てた。
「この情報はエヴァン、いえルークからです。ほぼ間違いないそうですが、《 アロン》と《 ダリル》が同一人物であるかどうかは消去法で導かれた答え。つまり確定ではありません。
その為、公安にもFBI本部にも伝えられていないそうです。ただ急を要した場合、私からあなたに伝えてくれ、と言われていました」
「ルークが……」
未確定と聞いて、なるほどとりおは納得した。彼の事だ。しっかり裏が取れなければ絶対に報告はしないだろう。
「つまり彼らが同一人物だと仮定して…ジン達が必要としているアロンの力が、『エンジニアとして』なのか『爆破担当として』なのか、それもまだ分からないということね?」
りおは昴の顔を見上げた。
「ええ。そうです。『両方』の可能性もあります。今後の捜査はそこが焦点です」
「…わかったわ。アロンと会う時、その辺りも探ってみる。つまり《アロン》と《ダリル》が同一人物だと分かれば、それだけでも大収穫ってことね。教えてくれてありがとう」
りおは表情を緩め、昴に微笑みかけた。だがその笑顔もすぐにスッと消えてしまう。
「どうしました? 何か心配事でも?」
りおのわずかな変化にも敏感な昴は、優しく問いかける。
りおは「うん…」と言ったまま黙り込んだ。
「私に言えないこと……ですか?」
警察関係とはいえ組織が違う。立場上言えないことであれば、それ以上踏み込まない。二人の暗黙のルールだった。
「あ、ううん。言えないことではないわ。さっき大学へ顔を出したけど、島谷教授とは会えなかったの。報道陣がたくさんいてとても近付けなかったのよ。でもその時にちょっと気になることを言われて…」
「気になること?」
「ええ。報道陣の中に、《友人が教授と同じ研究をしていた》っていう方がいて…。研究の世界は早い者勝ち。いち早く結果を出し、成果を発表する事で評価が上がる。
だから、今回の島谷教授の発表の影で、同じ研究をしてきた人たちは悔しい思いをしているわ。それは仕方がない事なんだけど…」
そこまで一気にしゃべるとりおは下を向く。少し辛そうな顔をした。
鼻歌交じりに運転するアロンに、さくらは問いかけた。
「ん~…理由は色々。まあ一番は身の安全のためかな。この姿ならオドゥムは気付かないしね」
アロンは前を見たまま嬉々として答えた。
「ふ~ん。で、なんでわざわざ姿を変えて、しかもこんなハデな車で私の前に?」
さくらは単刀直入に問いかける。アロンとは先日顔合わせをしただけだ。姿を変えているとはいえ、危険をおかしてまで自分に会いに来た理由が分からない。
「ははは。なかなか手厳しいなぁ。この車はね、今日手に入れたんだ。君との予約を取るためにね」
「予約?」
さくらは不思議そうにアロンの言葉を繰り返す。
「君と話がしたかったんだ。その予約を取ろうと思って。とりあえず『家まで送るよ』で、君と二人きりになれるだろ? いい雰囲気でデートに誘えるじゃない。
で、いきなり本題だけど。次の土曜日、僕とお茶をしてくれないかな?」
「えぇっ?」
どうしてこうアメリカ人はすぐにデートに誘いたがるのか——。
ストレートな誘い文句に、さくらはいつぞやのルーク(ノエル)を思い出し、頭を抱えた。
「あ、あのねぇ…。これのどこが『いい雰囲気』なのよ。しかも今だって話しているじゃない。今この場ではダメなの?」
眉間のあたりを指でもみながら、さくらはアロンに問いかける。
「あはは~。僕、女性の扱いに慣れてなくて。かなり長いことオタク生活していたもんだから…。今日この場で話したいのは山々なんだけどさ、実は僕このあと用事があるんだよ。
時間に追われてじゃなく、ちゃんと顔を見てゆっくり話をしたいんだ。色々聞きたいこともあるし……。だから時間を作って欲しくて。そのための予約をしておきたいんだ」
聞きたいこと? さくらはにわかに緊張した。
(私の正体…何か気付いた?)
しかしここで警戒しすぎて断れば、逆に疑われてしまうだろう。さくらは考え込んだ
(でも…上手くごまかせさえすれば…これはチャンスかもしれないわ…)
むこうからわざわざ接触してきたのだ。
上手く取り入れば、先日公安が探れなかったアロンの潜伏先を割り出せるかもしれない。
「分かったわ。場所と時間は?」
さくらの問いかけに、アロンはパッと表情を明るくした。
ポアロの少し手前でさくらは車を降りる。
「そこの喫茶店、知り合いが多いから。ここで良いわ」
「了解。じゃあ、土曜日に」
「ええ」
アロンはニッコリ微笑んでそのまま走り去る。
「それにしても話っていったい……」
さくらは走り去った車をジッと見つめ、唇を噛んだ。
「土曜日にアロン・モーリスと会う?」
夕刊を読んでいた昴は、りおの言葉に眉根を寄せる。
「うん。上手く行けば潜伏先を特定出来るかと思って。ホントはね、先日アロンが来日した際、公安が後を追って潜伏先を突き止める手はずだったの。でもオドゥムの狙撃でそれどころではなくなって……その後は消息不明。
昨日ジンに呼び出された時に初めて顔合わせをしたけど、ジンのポルシェで来てたから私も降谷さんも追跡は諦めてたんだけど……。
そしたら今日、突然大学に来たのよ。凄いイケメンに姿を変えて来たからビックリしちゃった」
りおは詳細を昴に話した。昴は黙ってそれを聞いていたが、イケメンになっていたと聞いてハッとした。
「もしかして…この男でしたか?」
1枚の写真をりおに見せた。
「うん、そうだよ。でもどうしてこの写真を昴さんが?」
写真を確認したりおは不思議そうに昴の顔を見る。
(土曜に会うなら伝えておくべきだろうな……)
相手が直接コンタクトを取ってきた。なぜラスティーと話がしたいのかその理由も分からない。
この状況で《アロン=ダリル》の可能性がある、と知らないことの方がリスクがありはしないか——
ルークの言葉を思い出し、昴は先日知らされた事実をりおに話す決意をした。
「資産家の息子であるアロン・モーリスは数年前に親から勘当されています。
まあ…ろくに働かず、資産運用で儲けた金は全て趣味につぎ込んでいましたからね。で、その後ある人物に運用の目利きを見込まれ、一から経営学やIT知識を叩きこまれました。
やがて頭角を現し、今ではれっきとした会社の社長です。但し、家族などにその存在がバレぬよう、偽名を使っていますが……」
「偽名?」
「ええ。彼の会社社長としての名は『ダリル・ホリンズ』です」
「だ、ダリル・ホリンズですって!?」
ダリルの名を聞いたりおは素っ頓狂な声を上げた。
「おや、知っているのですか?」
「知っているも何も……業界では有名人よ。彼と組めば、どんな仕事も絶対に上手くいくってウワサになるくらい。そういえば、最近ようやく顔出しもOKになったらしいけど…。
今まで出身も経歴も謎に包まれた、ミステリアスな社長って……」
そうか…モーリス家の息子と分からないようにするためだったのか!
りおは納得したように何度もうなずいた。
「じゃ、じゃあ…ジンは彼の技術を必要としているって事? 彼はエンジニアとしてかなり有能だと聞いたわ。今回のビジネス、もしかしてIT関連で動こうとしている?」
りおは考え込む。組織が水面下で動いている【ビジネス】。それがいったい何なのか——。それを探る大きな手掛かりかもしれない。
「ちょっと待って。確かに彼はエンジニアとして有能ですが、もう一つ懸案事項があるんですよ」
「懸案事項?」
他に何が…と、りおの表情が曇る。
「彼が会社社長に就任したのはつい最近です。あそこまで会社を大きくしたのは彼の前の社長。その社長が亡くなったため、ダリルが引き継いだのです」
「つまり?」
言葉を選び慎重に話す昴の姿に、りおがしびれを切らしたように問いかける。
「その前社長が……カーディナルです。彼はカーディナルの後継者ですよ」
「!!」
思いがけない名を聞いてりおは息を飲む。
その時、カーディナルと初めて会った時の事が脳裏をよぎった。お互い自己紹介をした際、本人から聞いた話を思い出す。
『こう見えても会社を経営していてね。爆破担当は派手な分、出番は限られているから。それだけじゃ食べていけないんだよ』
(まさかIT企業だったなんて…)
りおは口元に手を当てた。
「この情報はエヴァン、いえルークからです。ほぼ間違いないそうですが、《 アロン》と《 ダリル》が同一人物であるかどうかは消去法で導かれた答え。つまり確定ではありません。
その為、公安にもFBI本部にも伝えられていないそうです。ただ急を要した場合、私からあなたに伝えてくれ、と言われていました」
「ルークが……」
未確定と聞いて、なるほどとりおは納得した。彼の事だ。しっかり裏が取れなければ絶対に報告はしないだろう。
「つまり彼らが同一人物だと仮定して…ジン達が必要としているアロンの力が、『エンジニアとして』なのか『爆破担当として』なのか、それもまだ分からないということね?」
りおは昴の顔を見上げた。
「ええ。そうです。『両方』の可能性もあります。今後の捜査はそこが焦点です」
「…わかったわ。アロンと会う時、その辺りも探ってみる。つまり《アロン》と《ダリル》が同一人物だと分かれば、それだけでも大収穫ってことね。教えてくれてありがとう」
りおは表情を緩め、昴に微笑みかけた。だがその笑顔もすぐにスッと消えてしまう。
「どうしました? 何か心配事でも?」
りおのわずかな変化にも敏感な昴は、優しく問いかける。
りおは「うん…」と言ったまま黙り込んだ。
「私に言えないこと……ですか?」
警察関係とはいえ組織が違う。立場上言えないことであれば、それ以上踏み込まない。二人の暗黙のルールだった。
「あ、ううん。言えないことではないわ。さっき大学へ顔を出したけど、島谷教授とは会えなかったの。報道陣がたくさんいてとても近付けなかったのよ。でもその時にちょっと気になることを言われて…」
「気になること?」
「ええ。報道陣の中に、《友人が教授と同じ研究をしていた》っていう方がいて…。研究の世界は早い者勝ち。いち早く結果を出し、成果を発表する事で評価が上がる。
だから、今回の島谷教授の発表の影で、同じ研究をしてきた人たちは悔しい思いをしているわ。それは仕方がない事なんだけど…」
そこまで一気にしゃべるとりおは下を向く。少し辛そうな顔をした。