第7章 ~記憶の扉が開くとき~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
翌日——
りおの寝室には二人分の服がベッドの下に散らばっていた。
裸の二人は同じ毛布に包まって眠っている。まるで絡まり合うように抱き合っていた。
ブーッブーッブーッブーッ
二人の眠りを邪魔するように、りおのスマホが着信を知らせている。
んんっ…と気怠そうに手を伸ばし、りおはサイドテーブルのスマホを手に取る。
電話の相手が大学の研究生だと気付き、慌てて着信をタップした。
「はい…ッ! 星川です」
『もしもし? 研究生の清水です。星川さん、朝早くにごめんなさい。森教授からお休みって聞いたので電話しちゃいました。
声、だいぶ掠れてますね。風邪ひどいんですか?』
「え、あ…そ、そうですね。のどの風邪みたいで…。ご、ゴホッゴホッ…。
たいしたことは無いんですが、皆さんにうつすといけないと思ってお休みを頂いたんです…。
ところでどうしたんですか?」
さすがに夕べ赤井と抱き合ったせいで声が枯れているとは言えない。
白々しく咳をして、風邪だと押し通した。
『実は、夕べ島谷教授の研究が成功して…今大学では大騒ぎなんです。学会に発表すれば間違いなく賞が取れるってそれはもう…。
テレビでも速報で報道されているみたいだから、もし見れそうだったら見てください』
「え!? 島谷教授の研究が?」
嬉しい知らせにりおはガバッと跳ね起きる。詳細を聞き電話を切ると、ベッド下に脱ぎ捨ててあったパジャマを羽織ってリビングへ向かった。
テレビをつけると速報でテロップが出ていた。りおは部屋の寒さに身震いして画面を注視しながら、取りあえず暖房のスイッチを入れる。
そのままテレビの前で立ち尽くし、ニュースを見ていると赤井もリビングに入ってきた。
スウェットの下だけ履いた赤井は、あくびをしながらりおに近づいた。
「どうした? 慌ててこんな所に来て」
「あ、うん。島谷教授の研究が成功して、今テレビで速報が……」
そこまで言いかけた時、赤井の手がりおの顔に伸びる。そのまま上を向かされてキスされた。
「それは…俺たちの甘い時間より大事か?」
少々不貞腐れたように、赤井はりおの顔を見た。
「あ、いや…すごいなぁと思って。島谷教授が長年研究してきたことだったから…」
りおが言い分けめいたことを言っている間にも、その肩を掴まれてソファーに押し倒された。
「それはおめでたいことだが…俺はもう少しお前の肌を堪能したい…。俺だけのものだと納得するまで抱きたいんだ」
りおの首筋や鎖骨にキスを落としながら、赤井は甘くささやく。
「ぅッん…夕べだって…散々抱いた…でしょ…んっ…とっくに…私は…あなたの…ものよ…ッ…」
赤井の声に、手に、キスに、甘く溶かされてしまう——
そんなことを考えながら、りおはその身を赤井に委ねた。
気付けば、ソファーで二人は重なり合うように眠っていた。
先に目を覚ました赤井は、自分の体の上で眠っているりおを見る。
(やっぱり体が冷たい。あまり良い状態では無いな…)
それなのに…無理させてすまん。
赤井はりおの体をさすり、優しく抱きしめた。
その日の午後——
東都大学のキャンパス内には帽子に伊達メガネという、簡単な変装をしたさくらが姿を見せる。
理学部の建物の前には報道陣が群がっていた。
それほどまでに今回の研究成功の知らせは大きなニュースだった。
(あ~これは……理学部内に入るのは難しそうだなぁ…)
さくらは島谷教授に研究成功のお祝いを言おうと思って大学に来たのだが、それはまた今度の方が良さそうだと判断する。
総務に顔を出し、伝言だけでも頼もうと理学部の建物に背を向けた。
「?」
報道の腕章を付けた一人の男性が、取り巻きから大分離れて理学部の建物を見ている。
「あの~ぅ…」
さくらはその男性に声をかけた。
「えっ!」
「報道の方ですよね? どうしてこんな離れた所にいらっしゃるのですか?」
相手が警戒しないように笑顔で話しかける。大学のIDカードを見せ、不審者ではないと伝えた。
「あ、ああ。あなたは島谷教授と同期の森教授の助手さん? 失礼しました。へんなところをお見せしてしまいましたね…」
男性は東都出版の小林登(こばやしのぼる)と名乗った。
「取材……行かなくて良いのですか?」
理学部の建物から離れていたことを不審に思い、さくらは小林に訊ねた。
「ええ。本当はあの取材合戦に参戦しなければいけないのですが…なんというか…気が乗らなくて…」
「気が乗らない? それは…なぜ?」
さくらはさらに問いかける。小林はバツが悪そうに一瞬沈黙したものの、意を決して話し出した。
「あなたはこの大学の関係者だし、島谷ゼミの内情もご存じだから言いますが…。実は教授が成功させた研究、僕の友人もやっていたんです。
彼はあと少しで成功する…というところまで来ていた。他の研究者より何歩も先に結果を出していたんです。むしろ…教授の研究は遅れていた。
ところが今朝になって突然、島谷教授が実験成功を発表して…」
小林は苦しげに顔を歪ませ下を向いた。
「それは大変お悔しい思いをされた事でしょう。でもこの世界は先に成果を出した方が勝ち。勝負の世界と一緒です。こればっかりは……」
「分かってます! でも彼は…友人は…『情報を盗まれたんじゃないか』って…。
もちろん証拠はない。でも島谷教授は最近、学会にも出席されていないというじゃないですか。最新の情報を共有していないのに、出す論文は最新の情報を常に入れてくる。疑いたくもなりますよ!」
小林の言葉を聞いて、さくらはつい最近、島谷や森と交わした会話を思い出す。
『最近は学会続きで(ケンチと)会えていないんだよ…』
『おかしいな…最近アイツ実験の方が忙しいらしくて、学会には出てないんじゃなかったかな? 先日も僕の出た学会と会場が同じだったんだけど、会わなかったよ』
(どういうこと…?)
さくらは胸騒ぎを覚えた。
「あ、あの…できればそのお友達のお名前と勤め先を教えて頂いても?」
「え?」
「秘密は守ります。あなたやあなたの友人の名前は決して出しません。調べてみたいんです。お願いします」
さくらの剣幕に押されたのか、小林は一瞬躊躇したものの、《飯崎/いいざき》という友人の名前と、その彼の勤め先《マヌイア研究所》を教えてくれた。
(盗まれた情報……か…)
何とも言えない引っ掛かりを感じ、さくらは唇を噛んだ。
小林と分かれ、さくらは踵を返す。
早く家に帰って調べなければ…。焦る気持ちが余計に歩みを速くした。
コツコツと速足で大学の舗装された道を歩き、正門へと向かう。門の前にはスーツを着た男性が立っていた。
さくらは特に気にすることなく、その男性の横をすり抜ける。
「ラスティー」
「!!」
突然コードネームで呼び止められ、息が止まりそうになった。バッと顔を向け男を睨む。
「そんな怖い顔しないで。僕が誰だか分からない?」
「え?」
男の問いかけにさくらは訝しげに眉を顰める。
男は暗めのブロンドをキレイにセットして、ブランド物のスーツを着ている。
薄いスカイブル―の瞳がこちらを見つめていた。
「…その声どこかで…」
男の姿に見覚えは無い。ただ声だけはどこかで聞いたことがあった。
「ふふふ、そうか。声は変えていないからね。僕はアロンだよ。アロン・モーリス」
「ええっ! ウソ!?」
先日会ったアロンは、ボサボサ頭で無精ひげを生やし、ジーンズとトレーナーを着た猫背のオタク——とてもこんなイケメンではなかった。
「じゃあこれなら分かるかな?」
アロンはセットされた前髪を手でギュッと押しつぶして目元を隠し、やや猫背になるよう背を丸めた。
「ああッ! た、確かに…あなたアロ……」
「し~ッ! 声が大きいよ! ちょっと来て」
思わず叫んでしまったさくらの口をふさいで肩を抱くと、アロンは車道に停めてあった車の元へと連れて行く。
「お互いオドゥムに狙われるかもしれない身。正体がバレたらマズいでしょう。僕はだいぶ外見が変わってるから良いけど、君の変装じゃすぐバレそう……」
呆れたような顔をして、アロンはさくらを見る。
「ま、まあ…確かにちょっと迂闊だったわ。もう少しちゃんと変装してくれば良かった…」
さくらは恥ずかしそうに下を向き、帽子のつばを下げる。
「ふふふ。組織の諜報員《ラスティー》も、意外とカワイイところあるじゃない。いいよ乗って。送っていくよ」
どこに行けばいい? と言われたので、さくらはとりあえず「ポアロまで」と告げた。
「了解」と言ってアロンは助手席のドアを開け、さくらをエスコートする。
バン! とドアを閉めると足早に運転席に回り、スラリと乗り込んだ。
ブロロロ……ォォォ……
車は野太いエンジン音を響かせ、大学を後にした。
「チッ!」
二人が乗った車が走り去った後、大通りの反対側に怪しい影が——。
雑居ビルの隙間から、スポーツウエアを着た男が一人姿を現す。
(あれがアロン…ずいぶん姿を変えたな。まさかラスティーと接触するとは…)
読唇術を使って二人の会話を盗み聞いた男は、ニヤリと笑みを浮かべる。
(ベルモットが頻繁に現れる、この米花町界隈が怪しいと思い、網を張っていたのは正解だったな……)
遠ざかるアロンの車を鋭い目で見る。
その男の手には、青いピンバッチが握られていた。
りおの寝室には二人分の服がベッドの下に散らばっていた。
裸の二人は同じ毛布に包まって眠っている。まるで絡まり合うように抱き合っていた。
ブーッブーッブーッブーッ
二人の眠りを邪魔するように、りおのスマホが着信を知らせている。
んんっ…と気怠そうに手を伸ばし、りおはサイドテーブルのスマホを手に取る。
電話の相手が大学の研究生だと気付き、慌てて着信をタップした。
「はい…ッ! 星川です」
『もしもし? 研究生の清水です。星川さん、朝早くにごめんなさい。森教授からお休みって聞いたので電話しちゃいました。
声、だいぶ掠れてますね。風邪ひどいんですか?』
「え、あ…そ、そうですね。のどの風邪みたいで…。ご、ゴホッゴホッ…。
たいしたことは無いんですが、皆さんにうつすといけないと思ってお休みを頂いたんです…。
ところでどうしたんですか?」
さすがに夕べ赤井と抱き合ったせいで声が枯れているとは言えない。
白々しく咳をして、風邪だと押し通した。
『実は、夕べ島谷教授の研究が成功して…今大学では大騒ぎなんです。学会に発表すれば間違いなく賞が取れるってそれはもう…。
テレビでも速報で報道されているみたいだから、もし見れそうだったら見てください』
「え!? 島谷教授の研究が?」
嬉しい知らせにりおはガバッと跳ね起きる。詳細を聞き電話を切ると、ベッド下に脱ぎ捨ててあったパジャマを羽織ってリビングへ向かった。
テレビをつけると速報でテロップが出ていた。りおは部屋の寒さに身震いして画面を注視しながら、取りあえず暖房のスイッチを入れる。
そのままテレビの前で立ち尽くし、ニュースを見ていると赤井もリビングに入ってきた。
スウェットの下だけ履いた赤井は、あくびをしながらりおに近づいた。
「どうした? 慌ててこんな所に来て」
「あ、うん。島谷教授の研究が成功して、今テレビで速報が……」
そこまで言いかけた時、赤井の手がりおの顔に伸びる。そのまま上を向かされてキスされた。
「それは…俺たちの甘い時間より大事か?」
少々不貞腐れたように、赤井はりおの顔を見た。
「あ、いや…すごいなぁと思って。島谷教授が長年研究してきたことだったから…」
りおが言い分けめいたことを言っている間にも、その肩を掴まれてソファーに押し倒された。
「それはおめでたいことだが…俺はもう少しお前の肌を堪能したい…。俺だけのものだと納得するまで抱きたいんだ」
りおの首筋や鎖骨にキスを落としながら、赤井は甘くささやく。
「ぅッん…夕べだって…散々抱いた…でしょ…んっ…とっくに…私は…あなたの…ものよ…ッ…」
赤井の声に、手に、キスに、甘く溶かされてしまう——
そんなことを考えながら、りおはその身を赤井に委ねた。
気付けば、ソファーで二人は重なり合うように眠っていた。
先に目を覚ました赤井は、自分の体の上で眠っているりおを見る。
(やっぱり体が冷たい。あまり良い状態では無いな…)
それなのに…無理させてすまん。
赤井はりおの体をさすり、優しく抱きしめた。
その日の午後——
東都大学のキャンパス内には帽子に伊達メガネという、簡単な変装をしたさくらが姿を見せる。
理学部の建物の前には報道陣が群がっていた。
それほどまでに今回の研究成功の知らせは大きなニュースだった。
(あ~これは……理学部内に入るのは難しそうだなぁ…)
さくらは島谷教授に研究成功のお祝いを言おうと思って大学に来たのだが、それはまた今度の方が良さそうだと判断する。
総務に顔を出し、伝言だけでも頼もうと理学部の建物に背を向けた。
「?」
報道の腕章を付けた一人の男性が、取り巻きから大分離れて理学部の建物を見ている。
「あの~ぅ…」
さくらはその男性に声をかけた。
「えっ!」
「報道の方ですよね? どうしてこんな離れた所にいらっしゃるのですか?」
相手が警戒しないように笑顔で話しかける。大学のIDカードを見せ、不審者ではないと伝えた。
「あ、ああ。あなたは島谷教授と同期の森教授の助手さん? 失礼しました。へんなところをお見せしてしまいましたね…」
男性は東都出版の小林登(こばやしのぼる)と名乗った。
「取材……行かなくて良いのですか?」
理学部の建物から離れていたことを不審に思い、さくらは小林に訊ねた。
「ええ。本当はあの取材合戦に参戦しなければいけないのですが…なんというか…気が乗らなくて…」
「気が乗らない? それは…なぜ?」
さくらはさらに問いかける。小林はバツが悪そうに一瞬沈黙したものの、意を決して話し出した。
「あなたはこの大学の関係者だし、島谷ゼミの内情もご存じだから言いますが…。実は教授が成功させた研究、僕の友人もやっていたんです。
彼はあと少しで成功する…というところまで来ていた。他の研究者より何歩も先に結果を出していたんです。むしろ…教授の研究は遅れていた。
ところが今朝になって突然、島谷教授が実験成功を発表して…」
小林は苦しげに顔を歪ませ下を向いた。
「それは大変お悔しい思いをされた事でしょう。でもこの世界は先に成果を出した方が勝ち。勝負の世界と一緒です。こればっかりは……」
「分かってます! でも彼は…友人は…『情報を盗まれたんじゃないか』って…。
もちろん証拠はない。でも島谷教授は最近、学会にも出席されていないというじゃないですか。最新の情報を共有していないのに、出す論文は最新の情報を常に入れてくる。疑いたくもなりますよ!」
小林の言葉を聞いて、さくらはつい最近、島谷や森と交わした会話を思い出す。
『最近は学会続きで(ケンチと)会えていないんだよ…』
『おかしいな…最近アイツ実験の方が忙しいらしくて、学会には出てないんじゃなかったかな? 先日も僕の出た学会と会場が同じだったんだけど、会わなかったよ』
(どういうこと…?)
さくらは胸騒ぎを覚えた。
「あ、あの…できればそのお友達のお名前と勤め先を教えて頂いても?」
「え?」
「秘密は守ります。あなたやあなたの友人の名前は決して出しません。調べてみたいんです。お願いします」
さくらの剣幕に押されたのか、小林は一瞬躊躇したものの、《飯崎/いいざき》という友人の名前と、その彼の勤め先《マヌイア研究所》を教えてくれた。
(盗まれた情報……か…)
何とも言えない引っ掛かりを感じ、さくらは唇を噛んだ。
小林と分かれ、さくらは踵を返す。
早く家に帰って調べなければ…。焦る気持ちが余計に歩みを速くした。
コツコツと速足で大学の舗装された道を歩き、正門へと向かう。門の前にはスーツを着た男性が立っていた。
さくらは特に気にすることなく、その男性の横をすり抜ける。
「ラスティー」
「!!」
突然コードネームで呼び止められ、息が止まりそうになった。バッと顔を向け男を睨む。
「そんな怖い顔しないで。僕が誰だか分からない?」
「え?」
男の問いかけにさくらは訝しげに眉を顰める。
男は暗めのブロンドをキレイにセットして、ブランド物のスーツを着ている。
薄いスカイブル―の瞳がこちらを見つめていた。
「…その声どこかで…」
男の姿に見覚えは無い。ただ声だけはどこかで聞いたことがあった。
「ふふふ、そうか。声は変えていないからね。僕はアロンだよ。アロン・モーリス」
「ええっ! ウソ!?」
先日会ったアロンは、ボサボサ頭で無精ひげを生やし、ジーンズとトレーナーを着た猫背のオタク——とてもこんなイケメンではなかった。
「じゃあこれなら分かるかな?」
アロンはセットされた前髪を手でギュッと押しつぶして目元を隠し、やや猫背になるよう背を丸めた。
「ああッ! た、確かに…あなたアロ……」
「し~ッ! 声が大きいよ! ちょっと来て」
思わず叫んでしまったさくらの口をふさいで肩を抱くと、アロンは車道に停めてあった車の元へと連れて行く。
「お互いオドゥムに狙われるかもしれない身。正体がバレたらマズいでしょう。僕はだいぶ外見が変わってるから良いけど、君の変装じゃすぐバレそう……」
呆れたような顔をして、アロンはさくらを見る。
「ま、まあ…確かにちょっと迂闊だったわ。もう少しちゃんと変装してくれば良かった…」
さくらは恥ずかしそうに下を向き、帽子のつばを下げる。
「ふふふ。組織の諜報員《ラスティー》も、意外とカワイイところあるじゃない。いいよ乗って。送っていくよ」
どこに行けばいい? と言われたので、さくらはとりあえず「ポアロまで」と告げた。
「了解」と言ってアロンは助手席のドアを開け、さくらをエスコートする。
バン! とドアを閉めると足早に運転席に回り、スラリと乗り込んだ。
ブロロロ……ォォォ……
車は野太いエンジン音を響かせ、大学を後にした。
「チッ!」
二人が乗った車が走り去った後、大通りの反対側に怪しい影が——。
雑居ビルの隙間から、スポーツウエアを着た男が一人姿を現す。
(あれがアロン…ずいぶん姿を変えたな。まさかラスティーと接触するとは…)
読唇術を使って二人の会話を盗み聞いた男は、ニヤリと笑みを浮かべる。
(ベルモットが頻繁に現れる、この米花町界隈が怪しいと思い、網を張っていたのは正解だったな……)
遠ざかるアロンの車を鋭い目で見る。
その男の手には、青いピンバッチが握られていた。