第7章 ~記憶の扉が開くとき~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その日の夜——
アジト近くの倉庫にベルモット、バーボン、ラスティー、コルン、キャンティが顔を揃える。皆、ジンの呼び出しによってここに来たらしい。
倉庫の前にポルシェが停まると、5人が待つ倉庫の中にジンとウォッカ、そしてもう一人男が入ってくる。見知らぬ男の登場に、彼らを待っていた者たちの表情が険しくなった。
「昨日はご苦労だった。とんだ邪魔が入ったが、この通りアメリカからの客人を招き入れる事が出来た。今日はお前たち紹介しようと思ってな」
ジンは簡単に昨日の労をねぎらうと、男に視線を移す。
「この男はアロン・モーリス。資産家のネイサン・モーリスの次男だ。今後はコイツと情報共有をしながら仕事を進める」
ボサボサ頭のアロンは、猫背のまま5人を見回す。
「アロンだ。よろしく」
ボソボソと小さな声ではあったが流暢な日本語で挨拶をした。
「なんだい、ずいぶん冴えない男だねぇ」
キャンティが呆れたようにつぶやいた。ベルモットは腕を組んだまま「フッ」と笑っているが、バーボンとラスティーは鋭い視線でアロンを見る。
「ジン、この男性が今後組織に必要だと言う事ですか? 僕の調べによれば、彼は投資の目利きが出来る、ということだけ。組織は投資事業に鞍替えですか?」
バーボンがやや挑発的にジンに問いかけた。ラスティーが心配そうにバーボンを見上げる。
「ははっ! 投資事業か。それも魅力的だが刺激が足りねぇ。今はまだお前達には話す段階にないが、コイツは今後、新しいビジネスの要になる。
実はもう、コイツにはひと働きしてもらったんだ。計画通りさ。良い風が吹いてきている」
「良い風?」
突然何を言い出したのかと、バーボンが怪訝そうにジンを見た。
「ああ、良い風だ。【美しい風】とでも言っておこうか。まあ、時が来たらお前達にも全容を話す。それより、厄介なハイエナが動き出した。そっちの対応が先だ」
ジンの目がギラリと光る。全員の顔が一気に険しくなった。
「オドゥムのヤツらは常に俺たちの動きを監視している。まあ、それはお互い様だが……。
おそらく俺やウォッカの動きを見て、我々(こちら)が新しいビジネスに着手したことを察知したんだろう。
だから外部の人間(アロン)と接触するタイミングを狙った…と、俺は見ている」
ジンはポケットに手を入れたまま、自身の見解を話した。
(ジンも降谷さんと同じことを言ってる……やはり、そう考えるのが自然……か)
ラスティーは表情を変えず、ジッとジンを見つめる。
「ジン達の動きを見て、という話でしたが、それは二人が海外に行っていた事ですか?」
バーボンが不思議そうに訊ねた。組織の人間が日本を出ることは特に珍しい事ではない。
NOCリストの騒ぎの時には、ジンとウォッカはドイツにいたし、コルンはイギリス、キャンティはカナダにいた。
確かにいつもより長期間ではあったが、それだけで新しいビジネスの事をかぎつけたとは思えない。
「まあ、お前たちの知らないところで事が動いていたからな。オドゥムの斥候はよく訓練されている上、自身の命を顧みない。危険な内偵もお手の物だ。こちらがどんなに内密に動いても、その動きを嗅ぎつける。まさにハイエナだな」
「…ハイエナ…」
ジンの言葉を繰り返し、ラスティーの表情は曇る。
「今組織の末端の者たちに、今回の実行部隊のアジトとリーダーが誰なのか探らせている。近いうちに連絡があるはずだ。それまでは各自自分の身を守れ。目立った行動は慎んだ方が良い。今後の事は追って連絡する。以上だ」
ジンは一方的に話すとクルリと体の向きを変え、ポルシェへと向かう。ウォッカもそれに続いた。
アロンは一瞬だけラスティーの方を見ると、急いでウォッカの後を追う。ポルシェのエンジン音が響いて間もなく、車は走り去っていった。
「じゃあウチらも帰るよ!」
「わかった…」
キャンティとコルンも、連れ立って倉庫を出て行く。残ったのはベルモットとバーボン、そしてラスティーの3人となった。
「はぁ……」
ラスティーは小さく息を吐いて、近くにあった剥き出しの鉄骨に腰を下ろす。
「あら、ラスティー。ずいぶんお疲れのようね」
ベルモットがラスティーに声をかけた。数歩歩み寄り、ラスティーの足元にしゃがみ込む。
「顔色良くないわね。ジンと会うのは……少し緊張した?」
「え、ええ。少し……」
ラスティは努めて笑顔を作って見せるが、やはりどことなく儚げで頼りない。ベルモットの表情が曇る。
「そういえば、ベルモット。昨日は私以外、アロンとジンの護衛に出ていたそうね。私だけ仲間外れ?」
ラスティーはやや顔を上げ、不服そうに訊ねた。
「あら、ラスティー。ヘソを曲げているの? あなたとジンとの接触は出来るだけ先延ばしにした方が良いかと思ってね。
ジンからは3名居れば良いって言われてたし、コルンとキャンティ、あとバーボンでちょうどいいでしょ? 私も昨日は別件で出てたから、任務には参加していないわ」
「えっ、そうだったの。ごめんなさい。てっきり使い物にならないから、お払い箱にされたのかと……。気を使ってくれてありがとう、ベルモット」
フッと表情を緩めたラスティーを見てベルモットも微笑む。
「ジンもラムもあなたのスキルは高く買っているわ。お払い箱なんてあり得ない。
それより体調が悪そうね。やっぱり昨日任務に駆り出さなくて正解だったわ。今日はこれで終わりだし、早く帰って寝なさい。バーボン、送ってあげられる?」
「ええ。僕がお送りします」
「頼んだわよ」
ベルモットは立ち上がり、ラスティーの頭をそっと撫でた。後はよろしく、とバーボンに告げてベルモットも倉庫から出て行った。
バーボンに工藤邸へと送ってもらってからは、『甘やかす』と言った宣言通り、昴のお世話が始まった。
消化の良い物をと用意してくれたのは煮込みうどん。
夕食の後すぐに入浴できるように、お風呂の準備もされていた。入浴を終えて脱衣所を出れば、髪まで乾かしてくれるサービス付き。
そのまま寝室に連れられて、ハーブティーを手渡された。
「あ、あの…昴さん…」
「何でしょう?」
「いつから昴さんは私の執事になったの?」
至れり尽くせりで甲斐甲斐しく世話をされ、まるでお姫様のような扱い。さすがに照れくさいやら申し訳ないやらで、りおは限界だった。
「おや、今回は甘やかすと宣言しておいたでしょう? しばらくりおはお姫様ですよ」
しれっと、さも当たり前な事を言っているような口ぶりだが、どう聞いたっておかしい。
百歩譲って甘やかしてもらうのは良い。でも『お姫様』はいただけない。
「いや…あの…お姫様じゃなくて『赤井秀一』の恋人として甘やかしてほしいな~……」
なんてね、と照れくさそうにりおは笑う。
「え…っ…」
突然の提案に今度は昴が、いや赤井が固まった。
なんだそれ。
なんなんだ。
そのカワイイおねだりは。
「私(昴)ではなく…彼(赤井)が良い…と?」
「あ、いや…昴さんも好きよ? でもそれは…中が秀一さんだからで…ああもうっ! ややこしいから早く変装を解いて、私の隣に戻って来て!」
真っ赤になって照れくさそうに話すりおを見て、昴は盛大にため息をついた。
「あ、呆れちゃった?」
「いや…あまりにもカワイイ事を言われて、理性がどこかに行きそうだった…。分かったよ。風呂に行ってくる。変装を解いて、すぐここに戻ってくるから。それまで待っててくれるか?」
ガシガシと自分の首を掻きながら、昴(赤井)はりおに問いかけた。
「うん。待ってるよ。早く戻って来てね」
りおは満面の笑みで風呂に向かう赤井を見送った。
アジト近くの倉庫にベルモット、バーボン、ラスティー、コルン、キャンティが顔を揃える。皆、ジンの呼び出しによってここに来たらしい。
倉庫の前にポルシェが停まると、5人が待つ倉庫の中にジンとウォッカ、そしてもう一人男が入ってくる。見知らぬ男の登場に、彼らを待っていた者たちの表情が険しくなった。
「昨日はご苦労だった。とんだ邪魔が入ったが、この通りアメリカからの客人を招き入れる事が出来た。今日はお前たち紹介しようと思ってな」
ジンは簡単に昨日の労をねぎらうと、男に視線を移す。
「この男はアロン・モーリス。資産家のネイサン・モーリスの次男だ。今後はコイツと情報共有をしながら仕事を進める」
ボサボサ頭のアロンは、猫背のまま5人を見回す。
「アロンだ。よろしく」
ボソボソと小さな声ではあったが流暢な日本語で挨拶をした。
「なんだい、ずいぶん冴えない男だねぇ」
キャンティが呆れたようにつぶやいた。ベルモットは腕を組んだまま「フッ」と笑っているが、バーボンとラスティーは鋭い視線でアロンを見る。
「ジン、この男性が今後組織に必要だと言う事ですか? 僕の調べによれば、彼は投資の目利きが出来る、ということだけ。組織は投資事業に鞍替えですか?」
バーボンがやや挑発的にジンに問いかけた。ラスティーが心配そうにバーボンを見上げる。
「ははっ! 投資事業か。それも魅力的だが刺激が足りねぇ。今はまだお前達には話す段階にないが、コイツは今後、新しいビジネスの要になる。
実はもう、コイツにはひと働きしてもらったんだ。計画通りさ。良い風が吹いてきている」
「良い風?」
突然何を言い出したのかと、バーボンが怪訝そうにジンを見た。
「ああ、良い風だ。【美しい風】とでも言っておこうか。まあ、時が来たらお前達にも全容を話す。それより、厄介なハイエナが動き出した。そっちの対応が先だ」
ジンの目がギラリと光る。全員の顔が一気に険しくなった。
「オドゥムのヤツらは常に俺たちの動きを監視している。まあ、それはお互い様だが……。
おそらく俺やウォッカの動きを見て、我々(こちら)が新しいビジネスに着手したことを察知したんだろう。
だから外部の人間(アロン)と接触するタイミングを狙った…と、俺は見ている」
ジンはポケットに手を入れたまま、自身の見解を話した。
(ジンも降谷さんと同じことを言ってる……やはり、そう考えるのが自然……か)
ラスティーは表情を変えず、ジッとジンを見つめる。
「ジン達の動きを見て、という話でしたが、それは二人が海外に行っていた事ですか?」
バーボンが不思議そうに訊ねた。組織の人間が日本を出ることは特に珍しい事ではない。
NOCリストの騒ぎの時には、ジンとウォッカはドイツにいたし、コルンはイギリス、キャンティはカナダにいた。
確かにいつもより長期間ではあったが、それだけで新しいビジネスの事をかぎつけたとは思えない。
「まあ、お前たちの知らないところで事が動いていたからな。オドゥムの斥候はよく訓練されている上、自身の命を顧みない。危険な内偵もお手の物だ。こちらがどんなに内密に動いても、その動きを嗅ぎつける。まさにハイエナだな」
「…ハイエナ…」
ジンの言葉を繰り返し、ラスティーの表情は曇る。
「今組織の末端の者たちに、今回の実行部隊のアジトとリーダーが誰なのか探らせている。近いうちに連絡があるはずだ。それまでは各自自分の身を守れ。目立った行動は慎んだ方が良い。今後の事は追って連絡する。以上だ」
ジンは一方的に話すとクルリと体の向きを変え、ポルシェへと向かう。ウォッカもそれに続いた。
アロンは一瞬だけラスティーの方を見ると、急いでウォッカの後を追う。ポルシェのエンジン音が響いて間もなく、車は走り去っていった。
「じゃあウチらも帰るよ!」
「わかった…」
キャンティとコルンも、連れ立って倉庫を出て行く。残ったのはベルモットとバーボン、そしてラスティーの3人となった。
「はぁ……」
ラスティーは小さく息を吐いて、近くにあった剥き出しの鉄骨に腰を下ろす。
「あら、ラスティー。ずいぶんお疲れのようね」
ベルモットがラスティーに声をかけた。数歩歩み寄り、ラスティーの足元にしゃがみ込む。
「顔色良くないわね。ジンと会うのは……少し緊張した?」
「え、ええ。少し……」
ラスティは努めて笑顔を作って見せるが、やはりどことなく儚げで頼りない。ベルモットの表情が曇る。
「そういえば、ベルモット。昨日は私以外、アロンとジンの護衛に出ていたそうね。私だけ仲間外れ?」
ラスティーはやや顔を上げ、不服そうに訊ねた。
「あら、ラスティー。ヘソを曲げているの? あなたとジンとの接触は出来るだけ先延ばしにした方が良いかと思ってね。
ジンからは3名居れば良いって言われてたし、コルンとキャンティ、あとバーボンでちょうどいいでしょ? 私も昨日は別件で出てたから、任務には参加していないわ」
「えっ、そうだったの。ごめんなさい。てっきり使い物にならないから、お払い箱にされたのかと……。気を使ってくれてありがとう、ベルモット」
フッと表情を緩めたラスティーを見てベルモットも微笑む。
「ジンもラムもあなたのスキルは高く買っているわ。お払い箱なんてあり得ない。
それより体調が悪そうね。やっぱり昨日任務に駆り出さなくて正解だったわ。今日はこれで終わりだし、早く帰って寝なさい。バーボン、送ってあげられる?」
「ええ。僕がお送りします」
「頼んだわよ」
ベルモットは立ち上がり、ラスティーの頭をそっと撫でた。後はよろしく、とバーボンに告げてベルモットも倉庫から出て行った。
バーボンに工藤邸へと送ってもらってからは、『甘やかす』と言った宣言通り、昴のお世話が始まった。
消化の良い物をと用意してくれたのは煮込みうどん。
夕食の後すぐに入浴できるように、お風呂の準備もされていた。入浴を終えて脱衣所を出れば、髪まで乾かしてくれるサービス付き。
そのまま寝室に連れられて、ハーブティーを手渡された。
「あ、あの…昴さん…」
「何でしょう?」
「いつから昴さんは私の執事になったの?」
至れり尽くせりで甲斐甲斐しく世話をされ、まるでお姫様のような扱い。さすがに照れくさいやら申し訳ないやらで、りおは限界だった。
「おや、今回は甘やかすと宣言しておいたでしょう? しばらくりおはお姫様ですよ」
しれっと、さも当たり前な事を言っているような口ぶりだが、どう聞いたっておかしい。
百歩譲って甘やかしてもらうのは良い。でも『お姫様』はいただけない。
「いや…あの…お姫様じゃなくて『赤井秀一』の恋人として甘やかしてほしいな~……」
なんてね、と照れくさそうにりおは笑う。
「え…っ…」
突然の提案に今度は昴が、いや赤井が固まった。
なんだそれ。
なんなんだ。
そのカワイイおねだりは。
「私(昴)ではなく…彼(赤井)が良い…と?」
「あ、いや…昴さんも好きよ? でもそれは…中が秀一さんだからで…ああもうっ! ややこしいから早く変装を解いて、私の隣に戻って来て!」
真っ赤になって照れくさそうに話すりおを見て、昴は盛大にため息をついた。
「あ、呆れちゃった?」
「いや…あまりにもカワイイ事を言われて、理性がどこかに行きそうだった…。分かったよ。風呂に行ってくる。変装を解いて、すぐここに戻ってくるから。それまで待っててくれるか?」
ガシガシと自分の首を掻きながら、昴(赤井)はりおに問いかけた。
「うん。待ってるよ。早く戻って来てね」
りおは満面の笑みで風呂に向かう赤井を見送った。