第7章 ~記憶の扉が開くとき~
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ようやく駐車場にたどり着き、二人は砂を払って車に乗り込む。
このまま帰るのはもったいないな、と最初に言い出したのは昴だった。もちろん、さくらも同じ気持ちだったため、二人はもうしばらくドライブを楽しむことに。
「この先のビーチラインを通って海を満喫しながら、そのあと高速に乗って都内へ帰りましょう」
「うん!」
昴はギアを入れるとゆっくりアクセルを踏み込む。海沿いのビーチラインへと車を走らせた。
「わ~…海キレイだね…」
日の光を受けた海面はキラキラと宝石を散りばめたように輝いている。空には飛行機が飛んでいた。
「また明日から頑張れそう!」
桜の言葉に昴がすぐ反応した。
「捜査の方はもう頑張らないでくださいね。風見さんの雷が落ちますよ」
「ぅわぁ…それはイヤだな…。じゃあ…少し情報を精査する方にシフトチェンジします」
「ソレ、家でやってくださいね。なんなら私も手伝いますから!」
笑顔ではあるものの、今日の昴は少々威圧的だ。
「はぁい……」
理由は百も承知。さくらは肩を窄めると、くすりと笑って素直に返事をした。
ビーチラインを南下し、あと一つサービスエリアを過ぎたら都内へ戻る高速に乗ろうと思っていた時だった。
ブォォォンッ!! ブオン…ブォォン!!
突然大きなエンジン音が後方から聞こえてきた。
「ッ? なに?」
さくらが振り向き、後ろを確認する。
改造したスポーツカーが猛スピードで追い上げて来るのが見えた。
どうやら『走り屋』と呼ばれる若者たちのようだ。
キキキ~ッと、時々タイヤを鳴らしながら右に左に忙しなく車線を変え、次々と車を追い抜いている。
危険極まりない運転を繰り返していた。
「ちょっと…アレ危ないわ。この先は結構カーブだってあるのに……」
さくらは眉根を寄せ険しい表情になる。
「奴らにとっては危険なコースは度胸試し。ドリフトをしてテクニックを競い、いかに速く目的地に着くか、ですからね」
昴はチッと舌打ちをして車を左に寄せる。ここは安全に追い越させる方が得策だ。
ブォォォンッ!!
瞬く間に走り屋の車が昴の車を追い抜いて行った。
「何なのアレ! ホント危ない行為だわ。自分達だけではなく周りも巻き込む可能性だってあるのに」
さくらは怒り心頭だ。
「この車に緊急車両用のライトは積んでないし、ここで警察手帳を出すわけにもいくまい。後は彼らが事故らない事を祈るだけだ」
どんどん遠ざかる爆音を聞きながら、昴が小さくつぶやいた。
それから10分後——
二人は前方の異変に気付く。狼煙(のろし)のような白く細い煙が、ゆらゆらと立ち上るのが見えた。
「ね、ねえ……昴さん! 前!」
「煙!? まさか!」
悪い予感がして、昴はアクセルを踏み込んだ。
やがて数百メートル先で車数台が停まっているのが見えた。その向こうで白い煙が揺れている。
昴はブレーキを強く踏み込んだ。
キキキキーッ!!
スバル360は、すでに停まっていた車のすぐ手前で停車する。二人は慌てて車外に出た。
「やっぱりさっきの……」
「奴ら、カーブを曲がり切れずに突っ込んだか」
先程の走り屋の車が急カーブを曲がり切れず、有料道路(ビーチライン)の外壁に突っ込んでいた。
幸い他に巻き込まれた車は無いが、彼らの自慢の車はボンネットが歪んだ状態で開き、エンジンルームから白い煙が立ちのぼっている。車内にはぐったりしている人影が見えた。
「誰か救急車を!」
昴が叫んだ。
事故を目撃して呆然としていた人が、ハッとしてポケットからスマホを取り出した。
「昴さん、ガソリンが漏れてる……。早く救助しないと」
「ああ!」
昴とさくらは動揺して動けなくなっている人々に声をかけ、警察への連絡と万が一に備えて近くの店などから消火器を持ってくるよう指示を出した。
「ッ! ダメだ…ドアが歪んで開かない! だがレスキューを待ってる時間は無いぞ!」
昴が何度かドアを開けようとしたが、ひしゃげたドアはびくともしない。
さくらはキョロキョロと周りを見回す。
近くに子どもの頭くらいの大きさのブロック片を見つけた。それを手に取る。
「昴さん! ちょっとどいて。窓ガラスを割るわ! そこから引っ張り出すしかない!」
「分かった! さくら、頼む!」
さくらは運転席のドアに近づき、すでに亀裂の入った窓ガラスにブロックを打ち付ける。
ヒビの入った窓ガラスをたたき割った。
脱出口を確保する為、割れ残ったガラス片も粉々に砕き、運転手に声を掛ける。
「大丈夫ですか? しっかりしてください!」
「…ッん…ぅ…」
運転席の男はうめき声を上げた。どうやら生きているようだ。
さくらは車内に顔を突っ込み、運転手の足元を見る。車のフロント部分は半分ほどひしゃげているが、男の足元はわずかな空間が確保されており、体は挟まってはいない。
「助手席の人! 大丈夫ですか?」
「…ッ…」
さくらは助手席に座る男にも声をかける。そちらもわずかに体が動いた。
「昴さん、二人共生きているわ!」
「ああ、あとは二人を引っ張り出す——」
そこまで言った時、昴は思い出した。この車が改造車であることを。
装飾や馬力を上げるために電気系統まで改造した車。事故の衝撃で漏電を起こしている可能性が有る。
慌てて車の下を覗き込んだ。
「ッ!」
ジジッ…ジジジ……
案の定、車の下では剥き出しになった基板が接触不良を起こしていた。細く白い煙が立ち、今にも火がつきそうだった。
漏れ出たガソリンが流れ、基板のすぐそばまで来ている。
「さくらッ! 車から離れろッ!」
運転席の男に声をかけていたさくらに向かって昴が叫んだ。
「え?」
状況が飲み込めないさくらは、パッと昴の方へ顔を向けた。
昴は一気にさくらに駆け寄ると、その体を抱いて車から出来るだけ距離を取る。
ジジジ…ジジ…ジジ……バチッ…
ドオオオォォォォンンッ!!!
ショートした際に飛んだ火花が気化したガソリンに引火し、大爆発を起こした。
「きゃぁぁ!」
「うわぁぁっ!」
事故車の近くに居た人々が悲鳴を上げた。
「ッくぅぁッ!!」
「昴さ…ッぁ!」
一番近くに居た昴とさくらはもろに爆発の衝撃を受け、道路の端まで転がった。が、直前で体を低くしていたおかげで二人にケガはない。
昴は体を起こし、反対側の外壁に背中を預けてさくらを抱き起した。
「さくら、大丈夫か?!」
「…ッう…だ、だいじょう…ぶ」
さくらは顔を上げて振り返った。
事故を起こした車は炎を噴き上げ、黒煙がモクモクと上がっている。ガソリンタンクを中心に燃えていた炎が、今度はエンジンルームへと迫っていた。
「ッ! さくら、危ない!」
ドォォン!!
二回目の爆発が起き、熱風が二人を襲う。昴は車に背を向けるようにして、その風からさくらを守る。
「昴さん、大丈夫?」
「ああ、平気だ」
熱風は一瞬だけ。厚手のジャケットを着ていた為、やけどはしていない。
「…あ…、さ、さっきの人…は?」
さくらが昴の体越しに車を見る。爆発はおさまったが、車は尚も轟々と音を立てて燃えていた。
「ッ……」
さくらの問いかけに昴は何も言えなかった。
車のドアは開かず、二人共自力では動けない状態だった。仮に動けたとしても、這い出る時間は無かったに等しい。間違いなく、二人はあの炎の中だ。
「ねぇ…昴さん……何とか…言って…。ふ、二人は?」
さくらは昴を見上げ、震える声で問いかけた。
「……車の…中…だ…」
「ッ!」
さくらは再び車の方へ向き、立ち上がろうとする。
「待てッ! さくら! どうする気だ!?」
「ま、まだ間に合うかも…! 早く、早く助けなくちゃ…」
「無茶だ! 爆発を起こしたんだぞ! 車内まで炎が回っている! もう間に合わん!」
昴は車の方へ行こうとするさくらを抱きしめ、なんとか止めた。
しかし、さくらは昴の腕を振りほどこうと暴れる。
「早く、早く助けないと! 死んじゃうわ!」
「だから! もう間に合わ…」
「パパ‼ ママ‼」
「ッ!」
さくらが叫んだ言葉に、昴が凍り付いた。
「お前、今なんて…」
「え…なんで……私?」
さくら自身も自分が発した言葉に驚いている。
私は今何を言ったの?
なんで「パパママ」って叫んだ?
さくらは再び轟々と燃える車を見た。
「ッ!」
20年前のあの日——
夜が明ける直前の峠道
ガソリンの匂い
炎が噴き出す父の車
そこに近づく自分——
「あ……あぁ…あ、ああ……」
「さくら? ……ッ! さくら!? おい! お前、まさか」
激しく燃える車を凝視し、ガタガタと震えるさくらの目からは、とめどなく涙が溢れている。
「だ、ダメだ! 見るなッ!」
昴は覆いかぶさるようにさくらを抱きしめた。
事故車が見えないように。
辛い記憶を思い出さないように。
「は…はぁはぁはぁ…はッ…ふ…はッ、く…」
(過呼吸発作か…! まずいな…)
さくらは昴にしがみ付き、苦しそうに息をしていた。
どんなに昴が背中をさすっても、声をかけても、発作は治まる気配が無い。
相当苦しいのだろう。力のこもるさくらの指が、昴の背中に食い込む。しかしその痛みすら、昴は全く感じなかった。
「は…はぁはぁ…は、は、はぅ…ふ…ひぅ…」
「りお、慌てるな!…ゆっくり、ゆっくり息を吐け……頼む…ッ! りお…!」
何もできない自分が歯がゆくて、情けなくて、昴は懇願するように声をかけ続けた。
やがて過剰に取り込む空気がさくらの意識を刈り取る。
呼吸の音が小さく不規則になり、その動きも散漫になった。
「……冴…島のおじ…ちゃん……スウィー…トの…おじちゃ…ん……でたら…め…」
小さな声でさくらが何か言っている。もう目は閉じたまま。うわごとのようにつぶやいた。
「りお?」
昴は自分の耳をさくらの口元に近付ける。
「ッ!…い、やだ……見たく…な…い……思い…出したく…な…」
苦しそうにつぶやいて、涙が頬を伝って落ちた。
記憶の扉が開こうとしている。さくらの心は、それを必死に閉じようとしていた。
「ッ!! くそッ!」
昴はさくらを抱きしめたまま吐き捨てるように叫んだ。
このまま帰るのはもったいないな、と最初に言い出したのは昴だった。もちろん、さくらも同じ気持ちだったため、二人はもうしばらくドライブを楽しむことに。
「この先のビーチラインを通って海を満喫しながら、そのあと高速に乗って都内へ帰りましょう」
「うん!」
昴はギアを入れるとゆっくりアクセルを踏み込む。海沿いのビーチラインへと車を走らせた。
「わ~…海キレイだね…」
日の光を受けた海面はキラキラと宝石を散りばめたように輝いている。空には飛行機が飛んでいた。
「また明日から頑張れそう!」
桜の言葉に昴がすぐ反応した。
「捜査の方はもう頑張らないでくださいね。風見さんの雷が落ちますよ」
「ぅわぁ…それはイヤだな…。じゃあ…少し情報を精査する方にシフトチェンジします」
「ソレ、家でやってくださいね。なんなら私も手伝いますから!」
笑顔ではあるものの、今日の昴は少々威圧的だ。
「はぁい……」
理由は百も承知。さくらは肩を窄めると、くすりと笑って素直に返事をした。
ビーチラインを南下し、あと一つサービスエリアを過ぎたら都内へ戻る高速に乗ろうと思っていた時だった。
ブォォォンッ!! ブオン…ブォォン!!
突然大きなエンジン音が後方から聞こえてきた。
「ッ? なに?」
さくらが振り向き、後ろを確認する。
改造したスポーツカーが猛スピードで追い上げて来るのが見えた。
どうやら『走り屋』と呼ばれる若者たちのようだ。
キキキ~ッと、時々タイヤを鳴らしながら右に左に忙しなく車線を変え、次々と車を追い抜いている。
危険極まりない運転を繰り返していた。
「ちょっと…アレ危ないわ。この先は結構カーブだってあるのに……」
さくらは眉根を寄せ険しい表情になる。
「奴らにとっては危険なコースは度胸試し。ドリフトをしてテクニックを競い、いかに速く目的地に着くか、ですからね」
昴はチッと舌打ちをして車を左に寄せる。ここは安全に追い越させる方が得策だ。
ブォォォンッ!!
瞬く間に走り屋の車が昴の車を追い抜いて行った。
「何なのアレ! ホント危ない行為だわ。自分達だけではなく周りも巻き込む可能性だってあるのに」
さくらは怒り心頭だ。
「この車に緊急車両用のライトは積んでないし、ここで警察手帳を出すわけにもいくまい。後は彼らが事故らない事を祈るだけだ」
どんどん遠ざかる爆音を聞きながら、昴が小さくつぶやいた。
それから10分後——
二人は前方の異変に気付く。狼煙(のろし)のような白く細い煙が、ゆらゆらと立ち上るのが見えた。
「ね、ねえ……昴さん! 前!」
「煙!? まさか!」
悪い予感がして、昴はアクセルを踏み込んだ。
やがて数百メートル先で車数台が停まっているのが見えた。その向こうで白い煙が揺れている。
昴はブレーキを強く踏み込んだ。
キキキキーッ!!
スバル360は、すでに停まっていた車のすぐ手前で停車する。二人は慌てて車外に出た。
「やっぱりさっきの……」
「奴ら、カーブを曲がり切れずに突っ込んだか」
先程の走り屋の車が急カーブを曲がり切れず、有料道路(ビーチライン)の外壁に突っ込んでいた。
幸い他に巻き込まれた車は無いが、彼らの自慢の車はボンネットが歪んだ状態で開き、エンジンルームから白い煙が立ちのぼっている。車内にはぐったりしている人影が見えた。
「誰か救急車を!」
昴が叫んだ。
事故を目撃して呆然としていた人が、ハッとしてポケットからスマホを取り出した。
「昴さん、ガソリンが漏れてる……。早く救助しないと」
「ああ!」
昴とさくらは動揺して動けなくなっている人々に声をかけ、警察への連絡と万が一に備えて近くの店などから消火器を持ってくるよう指示を出した。
「ッ! ダメだ…ドアが歪んで開かない! だがレスキューを待ってる時間は無いぞ!」
昴が何度かドアを開けようとしたが、ひしゃげたドアはびくともしない。
さくらはキョロキョロと周りを見回す。
近くに子どもの頭くらいの大きさのブロック片を見つけた。それを手に取る。
「昴さん! ちょっとどいて。窓ガラスを割るわ! そこから引っ張り出すしかない!」
「分かった! さくら、頼む!」
さくらは運転席のドアに近づき、すでに亀裂の入った窓ガラスにブロックを打ち付ける。
ヒビの入った窓ガラスをたたき割った。
脱出口を確保する為、割れ残ったガラス片も粉々に砕き、運転手に声を掛ける。
「大丈夫ですか? しっかりしてください!」
「…ッん…ぅ…」
運転席の男はうめき声を上げた。どうやら生きているようだ。
さくらは車内に顔を突っ込み、運転手の足元を見る。車のフロント部分は半分ほどひしゃげているが、男の足元はわずかな空間が確保されており、体は挟まってはいない。
「助手席の人! 大丈夫ですか?」
「…ッ…」
さくらは助手席に座る男にも声をかける。そちらもわずかに体が動いた。
「昴さん、二人共生きているわ!」
「ああ、あとは二人を引っ張り出す——」
そこまで言った時、昴は思い出した。この車が改造車であることを。
装飾や馬力を上げるために電気系統まで改造した車。事故の衝撃で漏電を起こしている可能性が有る。
慌てて車の下を覗き込んだ。
「ッ!」
ジジッ…ジジジ……
案の定、車の下では剥き出しになった基板が接触不良を起こしていた。細く白い煙が立ち、今にも火がつきそうだった。
漏れ出たガソリンが流れ、基板のすぐそばまで来ている。
「さくらッ! 車から離れろッ!」
運転席の男に声をかけていたさくらに向かって昴が叫んだ。
「え?」
状況が飲み込めないさくらは、パッと昴の方へ顔を向けた。
昴は一気にさくらに駆け寄ると、その体を抱いて車から出来るだけ距離を取る。
ジジジ…ジジ…ジジ……バチッ…
ドオオオォォォォンンッ!!!
ショートした際に飛んだ火花が気化したガソリンに引火し、大爆発を起こした。
「きゃぁぁ!」
「うわぁぁっ!」
事故車の近くに居た人々が悲鳴を上げた。
「ッくぅぁッ!!」
「昴さ…ッぁ!」
一番近くに居た昴とさくらはもろに爆発の衝撃を受け、道路の端まで転がった。が、直前で体を低くしていたおかげで二人にケガはない。
昴は体を起こし、反対側の外壁に背中を預けてさくらを抱き起した。
「さくら、大丈夫か?!」
「…ッう…だ、だいじょう…ぶ」
さくらは顔を上げて振り返った。
事故を起こした車は炎を噴き上げ、黒煙がモクモクと上がっている。ガソリンタンクを中心に燃えていた炎が、今度はエンジンルームへと迫っていた。
「ッ! さくら、危ない!」
ドォォン!!
二回目の爆発が起き、熱風が二人を襲う。昴は車に背を向けるようにして、その風からさくらを守る。
「昴さん、大丈夫?」
「ああ、平気だ」
熱風は一瞬だけ。厚手のジャケットを着ていた為、やけどはしていない。
「…あ…、さ、さっきの人…は?」
さくらが昴の体越しに車を見る。爆発はおさまったが、車は尚も轟々と音を立てて燃えていた。
「ッ……」
さくらの問いかけに昴は何も言えなかった。
車のドアは開かず、二人共自力では動けない状態だった。仮に動けたとしても、這い出る時間は無かったに等しい。間違いなく、二人はあの炎の中だ。
「ねぇ…昴さん……何とか…言って…。ふ、二人は?」
さくらは昴を見上げ、震える声で問いかけた。
「……車の…中…だ…」
「ッ!」
さくらは再び車の方へ向き、立ち上がろうとする。
「待てッ! さくら! どうする気だ!?」
「ま、まだ間に合うかも…! 早く、早く助けなくちゃ…」
「無茶だ! 爆発を起こしたんだぞ! 車内まで炎が回っている! もう間に合わん!」
昴は車の方へ行こうとするさくらを抱きしめ、なんとか止めた。
しかし、さくらは昴の腕を振りほどこうと暴れる。
「早く、早く助けないと! 死んじゃうわ!」
「だから! もう間に合わ…」
「パパ‼ ママ‼」
「ッ!」
さくらが叫んだ言葉に、昴が凍り付いた。
「お前、今なんて…」
「え…なんで……私?」
さくら自身も自分が発した言葉に驚いている。
私は今何を言ったの?
なんで「パパママ」って叫んだ?
さくらは再び轟々と燃える車を見た。
「ッ!」
20年前のあの日——
夜が明ける直前の峠道
ガソリンの匂い
炎が噴き出す父の車
そこに近づく自分——
「あ……あぁ…あ、ああ……」
「さくら? ……ッ! さくら!? おい! お前、まさか」
激しく燃える車を凝視し、ガタガタと震えるさくらの目からは、とめどなく涙が溢れている。
「だ、ダメだ! 見るなッ!」
昴は覆いかぶさるようにさくらを抱きしめた。
事故車が見えないように。
辛い記憶を思い出さないように。
「は…はぁはぁはぁ…はッ…ふ…はッ、く…」
(過呼吸発作か…! まずいな…)
さくらは昴にしがみ付き、苦しそうに息をしていた。
どんなに昴が背中をさすっても、声をかけても、発作は治まる気配が無い。
相当苦しいのだろう。力のこもるさくらの指が、昴の背中に食い込む。しかしその痛みすら、昴は全く感じなかった。
「は…はぁはぁ…は、は、はぅ…ふ…ひぅ…」
「りお、慌てるな!…ゆっくり、ゆっくり息を吐け……頼む…ッ! りお…!」
何もできない自分が歯がゆくて、情けなくて、昴は懇願するように声をかけ続けた。
やがて過剰に取り込む空気がさくらの意識を刈り取る。
呼吸の音が小さく不規則になり、その動きも散漫になった。
「……冴…島のおじ…ちゃん……スウィー…トの…おじちゃ…ん……でたら…め…」
小さな声でさくらが何か言っている。もう目は閉じたまま。うわごとのようにつぶやいた。
「りお?」
昴は自分の耳をさくらの口元に近付ける。
「ッ!…い、やだ……見たく…な…い……思い…出したく…な…」
苦しそうにつぶやいて、涙が頬を伝って落ちた。
記憶の扉が開こうとしている。さくらの心は、それを必死に閉じようとしていた。
「ッ!! くそッ!」
昴はさくらを抱きしめたまま吐き捨てるように叫んだ。