第7章 ~記憶の扉が開くとき~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
***
深夜の聞き込み、現場の見分。バーでルークと話した翌日から、りおはここ数か月に渡る尾沼の生活を事細かに調べ、研究室での仕事ぶりについてもそれとなく研究生たちに訊ね回った。
理学部での聞き込みの他に、工学部などでも世間話をするフリをして、話を聞く。尾沼の遺体を司法解剖した、法医学研究室へも足を運んだ。
現場となったナイトクラブ以外のカジノへ行き、情報収集にも余念がない。不眠不休の捜査が続く。
しかしルークが言った通り、足が付きそうな情報は消されてしまったのか、すべての捜査が徒労に終わった。
キンコーン カンコーン
大学に昼を告げるチャイムが響く。研究生たちが一斉に大きなため息をついた。さっと机周りを片付けると声を掛け合い、それぞれ昼食に向かう。
「おい、深田~! 飯行こうぜ~」
「あ、ああ……」
大石の誘いに曖昧に答えた深田の目は、未だにパソコン仕事をしているさくらに向けられている。
「深田?」
不思議そうに大石が声をかけるが、深田はそれに振り向くことなくイスから立ち上がると、ツカツカとさくらの元へ歩み寄った。
「あの、星川さん……」
「ん? なぁに、深田くん」
パソコン画面から目を離し、さくらは目の前に立つ深田を見上げる。その目元はやや腫れぼったく、明らかに疲れているようだった。
「あの……最近お疲れじゃないですか? 顔色良くないですよ」
険しい顔をして、深田はさくらに問いかけた。
「あ~……ちょっと資料の作成に手間取ってて。色々調べたりしてるとつい、時間が経つの忘れちゃってね。ごめんね。深田くんにまで心配かけて」
さくらは深田に笑顔を向ける。大石くんが待ってるよ、と声をかけた。
「……」
なおもさくらの前に立つ深田は、何か言いたげに唇を噛んでいる。
「ん? どうしたの?」
さくらは再び問いかけた。
「あの……余計なことかもしれないけど……最近ちゃんと昼飯食ってないですよね? いつも手作り弁当持って来てたのに。尾沼さんが亡くなってから、俺、星川さんが昼食食べているところを見ていない」
「ッ!」
深田の鋭い指摘にさくらは息を飲む。
「星川さん、いったい何をしているんですか? もしかして……尾沼さんの事を調べているんですか?」
「まさか警察じゃあるまいし、なんで私が……」
「じゃあなぜ! あなたはそんなに疲れているんだ‼ 食事もとらず、おそらくあまり寝てもいない。いったい……いったい何をしているんですか!?」
一瞬研究室がシン……と静まり返るほど大きな声で深田は叫んだ。突然のことで、その場にいた全員が凍りつく。
「そこまでにしなさい。深田くん」
一部始終を見ていた教授が静かに声をかける。
「尾沼くんは星川くんの教育係だったんだ。まだ彼女がこの大学の助手になったばかりの頃、仕事を一から教えたんだよ。彼女にとっては、一番の相談相手であり良き仲間だった。
その尾沼くんが亡くなったんだ。ショックを受けていても仕方がないだろう。彼のことを思えば、食事がノドを通らないことも、眠れなくなることもある。心配なのは分かるが、彼女を困らせてはいけないよ」
穏やかな表情で森教授は話す。その森の言葉に、深田はバツが悪そうに下を向いた。
「深田くん……心配かけてごめんね。尾沼さんの事はちょっとショックで……私もまだ心の整理が出来ていないの。
だから、もう少し時間をちょうだい。そしたらまた、いつもの私に戻れると思うから」
さくらは立ち上がり、深田に優しく語りかける。
「お、俺の方こそスミマセン。出過ぎたマネを……」
さっきの叫びとは正反対の、小さな小さな声で深田は謝った。
「ううん。心配してくれて本当にありがとう」
「ほら! 話もまるく収まったし、深田~! 飯行こうぜ!」
タイミング良く大石が声をかけ、研究生たちは皆外へと出かけて行った。
「教授、ありがとうございます」
研究生たちが全員昼食に出てしまったので、部屋には教授とさくらだけになった。
「いや、それはいいんだ。だが深田くんが言っていることも正しい。また……ずいぶん無理をしているね」
森はやや険しい顔でさくらに問いかけた。
「……真相がまったく見えて来ないんです……」
さくらは力なく答える。
「そうか。しかし……くれぐれも体は大事にね」
「はい」
森の優しい言葉に、さくらは小さくうなずいた。
夜8時過ぎに大学を出たさくらは、その足で歓楽街へと向かう。
簡単な変装をして小さなバーや、バーと併設されているビリヤードやダーツができる店、ネットカフェなど——ありとあらゆる店で聞き込みをした。
しかしこの日も収穫は何も無かった。重い足を引きずりながら小さなクラブを出る。
地下にある店から階段を昇り、細い通りに出たところで突然「おい」と声をかけられた。さくらは無言のまま振り返る。
そこに立っていたのはパーカーのフードとキャップをかぶり、薄く色の入ったサングラスをしたルークだった。
「お前……俺の忠告を無視して何してる?」
ルークは怖い顔でさくらを見下ろした。
「何って、捜査よ。私達(公安)には時間が無いの。早く真実を突き止めなければ、尾沼さんの死が無駄になるわ」
無表情のままさくらは答える。
「その気持ちは分かるが……おそらく今回の事件は組織に繋がる重要な案件だ。そう易々と証拠なんぞ出てくるはずが無い。危険を顧みず、お前の体力を削ってまで調べることでは無い。
もっと大きなヤマが関わっているはずだ。短期間で勝負しようとせず、もっと長い目で……」
「人の命に大きいも小さいも無いのよッ!」
ルークの言葉を聞いて、さくらが叫んだ。
「組織の【ビジネス】が大きなヤマで、尾沼さんの事件は小さいとでも?」
軽蔑するようにルークを見上げるさくらの顔は、怒りと悲しみが入り混じっている。
「そういうことを言ってるんじゃない。良いか、今のお前は冷静な判断が出来る状態ではない。この事件にのめり込み過ぎだ。周りが見えなくなっている。
組織の事件と彼の事件を、《別物》として見るんじゃないと言っているんだ。必ず二つは繋がる。だから今は、長期戦に備えてお前は自分自身をメンテナンスすべきだ。殺人事件にのめり込み過ぎて、自分の体がどういう状態なのかも分かってないだろう。悪いことは言わない。今日はもう帰るんだ!」
ルークや研究生の深田が指摘する通り、過酷な捜査はさくらの体を限界まで追い込んでいた。ここ数日は特に顔色が優れず、目の下にはクマが浮いていた。
時間を惜しんで捜査している為、昼食も夕食もまったく口にしない日が何日も続いている。近しい人の死が、少なからずさくらの心に負荷をかけているのは明白だった。
「シュウも心配している。言っただろ? お前はアイツと離れてちゃダメだって。一緒に暮らしていれば良いっていうわけじゃないんだよ。お前が倒れれば、シュウだけじゃなくお前の仲間だって心配するんだぞ。もう少し自重してくれ」
「……分かったわ……ごめんなさい、心配かけて」
ルークも深田も、自分を心配しての言葉。これ以上は心配をかけられないと察したさくらは、今夜は工藤邸へ帰ることを決断した。
それから30分後———
りおは静かに玄関のカギを回し、中へと入る。足音を立てずにバスルームに向かっていると、突然廊下の電気がついた。
「りお」
時刻は深夜3時。名を呼ばれて振り向くと、Tシャツにスウェット姿の赤井が廊下に立っていた。
「秀一さん……」
疲れた顔でりおは赤井を見上げる。
「俺が何を言いたいか……もう分かるな?」
赤井は多くを語らず、静かに問いかけた。
「うん……」
りおは視線を落とし、小さくうなずく。
「風見くんからも連絡があったんだ。広瀬がかなり無理をしている、と。彼もずいぶん心配していたぞ。カジノの方は自分が調べるから、もう捜査はするなと言っていた」
「風見…さんが……」
「ああ。あとは彼に任せて、お前は少し休め」
赤井は歩み寄り、りおの肩に手を置く。華奢な体がさらに小さくなった気がした。
「大学の方も…だいぶ休んでたから、教授にも迷惑かかったし…だからそっちの仕事も…ちゃんとやらなきゃって…」
りおは小さな声でぽつり、ぽつりと語り出す。
「ああ、分かってる。例え身分を偽る隠れ蓑(みの)であっても手を抜かない。大学の仕事をこなすりおも、ポアロの新作料理を考える安室くんも……偉いよ」
赤井は労わるようにりおを抱きしめ、肩や背中を撫でた。
「亡くなった尾沼さんには…すごくお世話になったの…。いつも気にかけてくれて…。私が復帰したらご飯行こうって言ってたの…つい最近なのに。それなのに……なんで……」
それまで事件を追うことで堪えていた涙が、ぽろぽろと零れ落ちる。赤井のTシャツがりおの涙で濡れた。
「お前の気持ちは痛いほどわかる。だがここで無理をすれば、また教授たちを心配させてしまうぞ」
「…ん…そう…だね……ごめん…ね…。ルークも、……同じこと…言ってた……」
優しい赤井の声と温もりを感じて、りおの体から力が抜ける。
その体が崩れ落ちないように、赤井はしっかりと抱き留めた。
「頑張ったな…」
完全に力の抜けたりおを抱え、その顔を覗き込む。
すぅ——…
りおは寝息を立てていた。
(やはり限界ギリギリだったか。エヴァンにも頼んでおいたのは正解だったな)
赤井はりおの涙をそっと親指で拭う。
「もう泣くな」
誰に言うでもなくつぶやくと、そのままりおを抱き上げ、部屋へと運んだ。
深夜の聞き込み、現場の見分。バーでルークと話した翌日から、りおはここ数か月に渡る尾沼の生活を事細かに調べ、研究室での仕事ぶりについてもそれとなく研究生たちに訊ね回った。
理学部での聞き込みの他に、工学部などでも世間話をするフリをして、話を聞く。尾沼の遺体を司法解剖した、法医学研究室へも足を運んだ。
現場となったナイトクラブ以外のカジノへ行き、情報収集にも余念がない。不眠不休の捜査が続く。
しかしルークが言った通り、足が付きそうな情報は消されてしまったのか、すべての捜査が徒労に終わった。
キンコーン カンコーン
大学に昼を告げるチャイムが響く。研究生たちが一斉に大きなため息をついた。さっと机周りを片付けると声を掛け合い、それぞれ昼食に向かう。
「おい、深田~! 飯行こうぜ~」
「あ、ああ……」
大石の誘いに曖昧に答えた深田の目は、未だにパソコン仕事をしているさくらに向けられている。
「深田?」
不思議そうに大石が声をかけるが、深田はそれに振り向くことなくイスから立ち上がると、ツカツカとさくらの元へ歩み寄った。
「あの、星川さん……」
「ん? なぁに、深田くん」
パソコン画面から目を離し、さくらは目の前に立つ深田を見上げる。その目元はやや腫れぼったく、明らかに疲れているようだった。
「あの……最近お疲れじゃないですか? 顔色良くないですよ」
険しい顔をして、深田はさくらに問いかけた。
「あ~……ちょっと資料の作成に手間取ってて。色々調べたりしてるとつい、時間が経つの忘れちゃってね。ごめんね。深田くんにまで心配かけて」
さくらは深田に笑顔を向ける。大石くんが待ってるよ、と声をかけた。
「……」
なおもさくらの前に立つ深田は、何か言いたげに唇を噛んでいる。
「ん? どうしたの?」
さくらは再び問いかけた。
「あの……余計なことかもしれないけど……最近ちゃんと昼飯食ってないですよね? いつも手作り弁当持って来てたのに。尾沼さんが亡くなってから、俺、星川さんが昼食食べているところを見ていない」
「ッ!」
深田の鋭い指摘にさくらは息を飲む。
「星川さん、いったい何をしているんですか? もしかして……尾沼さんの事を調べているんですか?」
「まさか警察じゃあるまいし、なんで私が……」
「じゃあなぜ! あなたはそんなに疲れているんだ‼ 食事もとらず、おそらくあまり寝てもいない。いったい……いったい何をしているんですか!?」
一瞬研究室がシン……と静まり返るほど大きな声で深田は叫んだ。突然のことで、その場にいた全員が凍りつく。
「そこまでにしなさい。深田くん」
一部始終を見ていた教授が静かに声をかける。
「尾沼くんは星川くんの教育係だったんだ。まだ彼女がこの大学の助手になったばかりの頃、仕事を一から教えたんだよ。彼女にとっては、一番の相談相手であり良き仲間だった。
その尾沼くんが亡くなったんだ。ショックを受けていても仕方がないだろう。彼のことを思えば、食事がノドを通らないことも、眠れなくなることもある。心配なのは分かるが、彼女を困らせてはいけないよ」
穏やかな表情で森教授は話す。その森の言葉に、深田はバツが悪そうに下を向いた。
「深田くん……心配かけてごめんね。尾沼さんの事はちょっとショックで……私もまだ心の整理が出来ていないの。
だから、もう少し時間をちょうだい。そしたらまた、いつもの私に戻れると思うから」
さくらは立ち上がり、深田に優しく語りかける。
「お、俺の方こそスミマセン。出過ぎたマネを……」
さっきの叫びとは正反対の、小さな小さな声で深田は謝った。
「ううん。心配してくれて本当にありがとう」
「ほら! 話もまるく収まったし、深田~! 飯行こうぜ!」
タイミング良く大石が声をかけ、研究生たちは皆外へと出かけて行った。
「教授、ありがとうございます」
研究生たちが全員昼食に出てしまったので、部屋には教授とさくらだけになった。
「いや、それはいいんだ。だが深田くんが言っていることも正しい。また……ずいぶん無理をしているね」
森はやや険しい顔でさくらに問いかけた。
「……真相がまったく見えて来ないんです……」
さくらは力なく答える。
「そうか。しかし……くれぐれも体は大事にね」
「はい」
森の優しい言葉に、さくらは小さくうなずいた。
夜8時過ぎに大学を出たさくらは、その足で歓楽街へと向かう。
簡単な変装をして小さなバーや、バーと併設されているビリヤードやダーツができる店、ネットカフェなど——ありとあらゆる店で聞き込みをした。
しかしこの日も収穫は何も無かった。重い足を引きずりながら小さなクラブを出る。
地下にある店から階段を昇り、細い通りに出たところで突然「おい」と声をかけられた。さくらは無言のまま振り返る。
そこに立っていたのはパーカーのフードとキャップをかぶり、薄く色の入ったサングラスをしたルークだった。
「お前……俺の忠告を無視して何してる?」
ルークは怖い顔でさくらを見下ろした。
「何って、捜査よ。私達(公安)には時間が無いの。早く真実を突き止めなければ、尾沼さんの死が無駄になるわ」
無表情のままさくらは答える。
「その気持ちは分かるが……おそらく今回の事件は組織に繋がる重要な案件だ。そう易々と証拠なんぞ出てくるはずが無い。危険を顧みず、お前の体力を削ってまで調べることでは無い。
もっと大きなヤマが関わっているはずだ。短期間で勝負しようとせず、もっと長い目で……」
「人の命に大きいも小さいも無いのよッ!」
ルークの言葉を聞いて、さくらが叫んだ。
「組織の【ビジネス】が大きなヤマで、尾沼さんの事件は小さいとでも?」
軽蔑するようにルークを見上げるさくらの顔は、怒りと悲しみが入り混じっている。
「そういうことを言ってるんじゃない。良いか、今のお前は冷静な判断が出来る状態ではない。この事件にのめり込み過ぎだ。周りが見えなくなっている。
組織の事件と彼の事件を、《別物》として見るんじゃないと言っているんだ。必ず二つは繋がる。だから今は、長期戦に備えてお前は自分自身をメンテナンスすべきだ。殺人事件にのめり込み過ぎて、自分の体がどういう状態なのかも分かってないだろう。悪いことは言わない。今日はもう帰るんだ!」
ルークや研究生の深田が指摘する通り、過酷な捜査はさくらの体を限界まで追い込んでいた。ここ数日は特に顔色が優れず、目の下にはクマが浮いていた。
時間を惜しんで捜査している為、昼食も夕食もまったく口にしない日が何日も続いている。近しい人の死が、少なからずさくらの心に負荷をかけているのは明白だった。
「シュウも心配している。言っただろ? お前はアイツと離れてちゃダメだって。一緒に暮らしていれば良いっていうわけじゃないんだよ。お前が倒れれば、シュウだけじゃなくお前の仲間だって心配するんだぞ。もう少し自重してくれ」
「……分かったわ……ごめんなさい、心配かけて」
ルークも深田も、自分を心配しての言葉。これ以上は心配をかけられないと察したさくらは、今夜は工藤邸へ帰ることを決断した。
それから30分後———
りおは静かに玄関のカギを回し、中へと入る。足音を立てずにバスルームに向かっていると、突然廊下の電気がついた。
「りお」
時刻は深夜3時。名を呼ばれて振り向くと、Tシャツにスウェット姿の赤井が廊下に立っていた。
「秀一さん……」
疲れた顔でりおは赤井を見上げる。
「俺が何を言いたいか……もう分かるな?」
赤井は多くを語らず、静かに問いかけた。
「うん……」
りおは視線を落とし、小さくうなずく。
「風見くんからも連絡があったんだ。広瀬がかなり無理をしている、と。彼もずいぶん心配していたぞ。カジノの方は自分が調べるから、もう捜査はするなと言っていた」
「風見…さんが……」
「ああ。あとは彼に任せて、お前は少し休め」
赤井は歩み寄り、りおの肩に手を置く。華奢な体がさらに小さくなった気がした。
「大学の方も…だいぶ休んでたから、教授にも迷惑かかったし…だからそっちの仕事も…ちゃんとやらなきゃって…」
りおは小さな声でぽつり、ぽつりと語り出す。
「ああ、分かってる。例え身分を偽る隠れ蓑(みの)であっても手を抜かない。大学の仕事をこなすりおも、ポアロの新作料理を考える安室くんも……偉いよ」
赤井は労わるようにりおを抱きしめ、肩や背中を撫でた。
「亡くなった尾沼さんには…すごくお世話になったの…。いつも気にかけてくれて…。私が復帰したらご飯行こうって言ってたの…つい最近なのに。それなのに……なんで……」
それまで事件を追うことで堪えていた涙が、ぽろぽろと零れ落ちる。赤井のTシャツがりおの涙で濡れた。
「お前の気持ちは痛いほどわかる。だがここで無理をすれば、また教授たちを心配させてしまうぞ」
「…ん…そう…だね……ごめん…ね…。ルークも、……同じこと…言ってた……」
優しい赤井の声と温もりを感じて、りおの体から力が抜ける。
その体が崩れ落ちないように、赤井はしっかりと抱き留めた。
「頑張ったな…」
完全に力の抜けたりおを抱え、その顔を覗き込む。
すぅ——…
りおは寝息を立てていた。
(やはり限界ギリギリだったか。エヴァンにも頼んでおいたのは正解だったな)
赤井はりおの涙をそっと親指で拭う。
「もう泣くな」
誰に言うでもなくつぶやくと、そのままりおを抱き上げ、部屋へと運んだ。