第7章 ~記憶の扉が開くとき~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
同日昼前——
昴は歓楽街のとある細い路地を歩いていた。
『Sirius/シリウス』と書かれた小さなバーのドアを開けると、カランとドアベルが鳴る。店の中は真っ暗だった。外の光が店内に差し込み、昴の影が床に映る。
「いらっしゃい」
声と共にカウンターの照明がついた。
「コーヒーを一杯いただけますか?」
「インスタントで良ければ」
「ずいぶんと庶民的なバーですね」
「酒ならたくさんあるんだけどね」
軽快なやり取りをしながら、昴は店の中に入るとカウンター席に座った。
「よう、カジノの一件以来だな。元気か?」
店のマスターはTシャツにジーンズ、ジャケットを羽織り、ラフな服装でケトルに水を入れ火にかけた。
「エヴァン、お前変装しなくて良いのか? 『ノエル』が生きてると知られたらマズいんだろ?」
声は昴のまま、赤井の口調で話しかけた。
「外に出る時はキャップとサングラスで変装するから大丈夫だよ。あと今は『ルーク』だから!」
ルークは灰皿を昴の前に置くと、自身もタバコを一本取り出す。使い古したZippoがカシャンと乾いた音を立てた。
「で、今日はなんで俺を呼び出したんだ?」
昴はチョーカーの電源を切り、カウンターの上で手を組むとルークに問いかけた。
「シュウ……、お前…ジンが日本を離れていたことは知っているな?」
何回か煙を吐き出したルークは、長くなった灰を灰皿に落とすと昴の顔を見る。
「ああ。国会議員の三柳が起こそうしたクーデター騒ぎの最中に出国した。滞在はかなり長かったようだ。
公安とFBIとで渡航歴を追ったが、上手く隠されていてアメリカへ行ったことくらいしか分からず、結局何をしに、アメリカのどこへ行ったのかまでは掴んでいない」
ふ~っと煙を吐き出すルークの横顔を見ながら、昴が応える。
「そうか」とだけ言って、ルークはニヤリと口の端を持ち上げた。
「ジンがいたのは……ニューヨークさ。ニューヨークである男と会っていたんだ」
「な!? お前どうしてそれを? FBI本部だってジンの足取りを捉えられなかったんだぞ!?」
ルークの言葉を聞いて昴は驚く。公安とFBIが総力を挙げて調べても分からなかったジンの足取り。それをルークがキャッチしていたとは。
彼の情報屋としての能力を、少々見くびっていたかもしれない。
「ははは。まあ聞け。ジンの居場所を知れたのは偶然だったんだ。俺は別件で《ダリル・ホリンズ》という男をマークしていたんだよ。そしたらそいつがジンと会っていた、というのが種明かしさ」
ルークはイタズラっぽくウインクをするとニカッと笑う。
「なるほど……そういう事か。だがそれだって情報屋としてのアンテナの高さがモノをいう。二人は極秘で会ったはずだ。それをキャッチ出来たのだからたいしたものだ。
で、その《ダリル・ホリンズ》とは何者だ?」
昴は納得した様にうなずくと、ジャケットのポケットからタバコを取り出した。
ケトルがシュッシュッと音を立てたのを確認して、ルークはコーヒーを淹れる。
「ダリルはアメリカのIT企業の社長さ。以前は小さな会社だったんだが、『前社長』がかなりのやり手でね。その業界じゃあそれなりに名の知れた会社だよ」
大きなマグカップに湯を注ぐと白い湯気がふわりとあがる。ルークはケトルを戻すと、カップを昴の前にトンと置いた。コーヒーの香りが鼻腔をくすぐる。
「ほ~ぅ。その社長をどうしてお前が」
昴はタバコに火をつけ煙を吐き出す。タバコを指に挟んだままカップを手に取り、熱いコーヒーを一口飲んだ。
「その会社の『前社長』が《カーディナル》だったからさ。ダリル・ホリンズは《カーディナル》の後継者だよ」
「!?」
予想外の人物名を聞き、昴の目がカッと開いた。
組織の爆破担当だった《カーディナル》。
組織の中では年配の方で、かつてりおの両親暗殺を実行した人物。
末期がんだった彼は、警視庁へ爆発物を仕掛ける任務の際に公安警察に追い詰められ、りおと降谷の前で血を吐いて死んだ。《 第4章より》
「俺はボスの命令を受けてカーディナルの死後、彼の会社をずっと調べていたんだ。ダリルが会社を引き継いだだけの男なのか、それとも爆破担当《カーディナル》の後継者なのかどうか…をね」
ルークはタバコを灰皿に置くと、カウンター下から一枚の写真を取り出した。
「コイツがダリル・ホリンズだ。最近日本でもイケメン社長だっていうんで、テレビで取材も受けてたよ。ここ数年は日本の顧客も多いみたいだから」
「ほう~」
昴は写真を手に取り顔を見る。
やや暗めのブロンドはキレイにセットされ、切れ長の青い目が強い意志を物語る。ブランド物のスーツを着こなし、どこからどう見てもオシャレな会社社長だ。
「この男、実は秘密があるんだ」
「秘密?」
ルークはニヤニヤと昴の顔を見ている。
「ダリル自身は素性を明かしていない。出身も経歴も分からない。ミステリアスな男としてこの界隈でも有名なんだ。それもそのはず。彼には明かせないもう一つの顔がある。それがこれさ」
ルークはもう一枚の写真を取り出すと昴の前に置いた。
「こ、この男!?」
写真に写った男を見て昴が驚く。
「フッ。驚いただろう? 全然雰囲気違うから」
そこに写っている男——
髪はモサモサでヒゲづら。無精ひげと言ったら聞こえは良いかもしれないが、いわゆるオシャレなそれとは程遠い。
度の厚いメガネをかけ、前髪が目元を隠しているため瞳の色も分からない。着古したトレーナーにジーンズ。やや猫背で見るからにネガティブな印象を持つ。家にこもりっぱなしなのか、日焼けをしていない肌は青白い。
言い方は悪いが、俗に言う『コミュ障のオタク男』を絵にかいたような姿だった。だが、昴はこの姿に見覚えがある。
「この男……アロン・モーリスじゃないか? 確か一代で財を成したネイサン・モーリスの息子の」
「ご名答」
さすがだな、とルークはニヤリと笑った。
昴は歓楽街のとある細い路地を歩いていた。
『Sirius/シリウス』と書かれた小さなバーのドアを開けると、カランとドアベルが鳴る。店の中は真っ暗だった。外の光が店内に差し込み、昴の影が床に映る。
「いらっしゃい」
声と共にカウンターの照明がついた。
「コーヒーを一杯いただけますか?」
「インスタントで良ければ」
「ずいぶんと庶民的なバーですね」
「酒ならたくさんあるんだけどね」
軽快なやり取りをしながら、昴は店の中に入るとカウンター席に座った。
「よう、カジノの一件以来だな。元気か?」
店のマスターはTシャツにジーンズ、ジャケットを羽織り、ラフな服装でケトルに水を入れ火にかけた。
「エヴァン、お前変装しなくて良いのか? 『ノエル』が生きてると知られたらマズいんだろ?」
声は昴のまま、赤井の口調で話しかけた。
「外に出る時はキャップとサングラスで変装するから大丈夫だよ。あと今は『ルーク』だから!」
ルークは灰皿を昴の前に置くと、自身もタバコを一本取り出す。使い古したZippoがカシャンと乾いた音を立てた。
「で、今日はなんで俺を呼び出したんだ?」
昴はチョーカーの電源を切り、カウンターの上で手を組むとルークに問いかけた。
「シュウ……、お前…ジンが日本を離れていたことは知っているな?」
何回か煙を吐き出したルークは、長くなった灰を灰皿に落とすと昴の顔を見る。
「ああ。国会議員の三柳が起こそうしたクーデター騒ぎの最中に出国した。滞在はかなり長かったようだ。
公安とFBIとで渡航歴を追ったが、上手く隠されていてアメリカへ行ったことくらいしか分からず、結局何をしに、アメリカのどこへ行ったのかまでは掴んでいない」
ふ~っと煙を吐き出すルークの横顔を見ながら、昴が応える。
「そうか」とだけ言って、ルークはニヤリと口の端を持ち上げた。
「ジンがいたのは……ニューヨークさ。ニューヨークである男と会っていたんだ」
「な!? お前どうしてそれを? FBI本部だってジンの足取りを捉えられなかったんだぞ!?」
ルークの言葉を聞いて昴は驚く。公安とFBIが総力を挙げて調べても分からなかったジンの足取り。それをルークがキャッチしていたとは。
彼の情報屋としての能力を、少々見くびっていたかもしれない。
「ははは。まあ聞け。ジンの居場所を知れたのは偶然だったんだ。俺は別件で《ダリル・ホリンズ》という男をマークしていたんだよ。そしたらそいつがジンと会っていた、というのが種明かしさ」
ルークはイタズラっぽくウインクをするとニカッと笑う。
「なるほど……そういう事か。だがそれだって情報屋としてのアンテナの高さがモノをいう。二人は極秘で会ったはずだ。それをキャッチ出来たのだからたいしたものだ。
で、その《ダリル・ホリンズ》とは何者だ?」
昴は納得した様にうなずくと、ジャケットのポケットからタバコを取り出した。
ケトルがシュッシュッと音を立てたのを確認して、ルークはコーヒーを淹れる。
「ダリルはアメリカのIT企業の社長さ。以前は小さな会社だったんだが、『前社長』がかなりのやり手でね。その業界じゃあそれなりに名の知れた会社だよ」
大きなマグカップに湯を注ぐと白い湯気がふわりとあがる。ルークはケトルを戻すと、カップを昴の前にトンと置いた。コーヒーの香りが鼻腔をくすぐる。
「ほ~ぅ。その社長をどうしてお前が」
昴はタバコに火をつけ煙を吐き出す。タバコを指に挟んだままカップを手に取り、熱いコーヒーを一口飲んだ。
「その会社の『前社長』が《カーディナル》だったからさ。ダリル・ホリンズは《カーディナル》の後継者だよ」
「!?」
予想外の人物名を聞き、昴の目がカッと開いた。
組織の爆破担当だった《カーディナル》。
組織の中では年配の方で、かつてりおの両親暗殺を実行した人物。
末期がんだった彼は、警視庁へ爆発物を仕掛ける任務の際に公安警察に追い詰められ、りおと降谷の前で血を吐いて死んだ。《 第4章より》
「俺はボスの命令を受けてカーディナルの死後、彼の会社をずっと調べていたんだ。ダリルが会社を引き継いだだけの男なのか、それとも爆破担当《カーディナル》の後継者なのかどうか…をね」
ルークはタバコを灰皿に置くと、カウンター下から一枚の写真を取り出した。
「コイツがダリル・ホリンズだ。最近日本でもイケメン社長だっていうんで、テレビで取材も受けてたよ。ここ数年は日本の顧客も多いみたいだから」
「ほう~」
昴は写真を手に取り顔を見る。
やや暗めのブロンドはキレイにセットされ、切れ長の青い目が強い意志を物語る。ブランド物のスーツを着こなし、どこからどう見てもオシャレな会社社長だ。
「この男、実は秘密があるんだ」
「秘密?」
ルークはニヤニヤと昴の顔を見ている。
「ダリル自身は素性を明かしていない。出身も経歴も分からない。ミステリアスな男としてこの界隈でも有名なんだ。それもそのはず。彼には明かせないもう一つの顔がある。それがこれさ」
ルークはもう一枚の写真を取り出すと昴の前に置いた。
「こ、この男!?」
写真に写った男を見て昴が驚く。
「フッ。驚いただろう? 全然雰囲気違うから」
そこに写っている男——
髪はモサモサでヒゲづら。無精ひげと言ったら聞こえは良いかもしれないが、いわゆるオシャレなそれとは程遠い。
度の厚いメガネをかけ、前髪が目元を隠しているため瞳の色も分からない。着古したトレーナーにジーンズ。やや猫背で見るからにネガティブな印象を持つ。家にこもりっぱなしなのか、日焼けをしていない肌は青白い。
言い方は悪いが、俗に言う『コミュ障のオタク男』を絵にかいたような姿だった。だが、昴はこの姿に見覚えがある。
「この男……アロン・モーリスじゃないか? 確か一代で財を成したネイサン・モーリスの息子の」
「ご名答」
さすがだな、とルークはニヤリと笑った。